『POLYPLUS LIVE TOUR 2023“R.T.B.”』 写真=オフィシャル提供(撮影:黒木治(Mellow))
『POLYPLUS LIVE TOUR 2023“R.T.B.”』2023.12.11(MON)東京・月見ル君想フ
結成10年目を迎えた今年2023年、インスト・ジャズ界のオールスター・チームと謳われるPOLYPLUSは5年後に日本武道館公演を開催することを目標に掲げ、活動のギアをぐっと上げた。そんな5か年計画の1年目を締めくくる、2023年下半期4都市ワンマンツアー『POLYPLUS LIVE TOUR 2023“R.T.B.”』。その初日となる東京公演のチケットは、バンドの新たな門出を祝福するように見事、完売となった。
「これが“5年で武道館”を掲げたバンドです!」
TSUUJII(Sax)の第一声にも自然と力が入る。そして、メンバー全員が呼吸を合わせるように渾身の音を鳴らして、演奏になだれこむと、TSUUJIIとMELTEN(Key)が掛け合いながら奏でるノスタルジックなメロディが、スピーディーな演奏とともに駆け抜ける「showtime」へ。そこからアップテンポの曲をたたみかけるように繋げ、スタンディングのフロアをタテに揺らしていく。
ファンキーな「ratz」ではステージセンターに躍り出たGotti(Gt)が長尺のブルージーなソロを披露。観客の気持ちをぐっと掴む。ジャジーでムーディーな曲と思わせ、どんどん熱を帯びていったMELTENのピアノが観客に声を上げさせた「tokyo class」では、MELTENとTSUUJIIが繰り広げたスリリングなソロの応酬も見どころだった。
ソロ回しも含め、メンバーそれぞれに見せ場を作りながら、曲のクライマックスでは全員が1つになる熱演の連続にフロアは序盤から白熱という言葉がふさわしい大きな盛り上がりを見せる。観客達はこの日を心待ちにしていたようだ。満面に笑みを浮かべ、ステージを食い入るように見つめる姿からは、そんなことが窺えた。
この日、POLYPLUSが1時間50分にわたって演奏したのは、人気占い師、ゲッターズ飯田のベストセラー『ゲッターズ飯田の五星三心占い2024』のサントラ『GOOD LUCK SOUND TRACKS』に提供した「showtime」「liberation」「ranki」を含む全13曲(因みに「showtime」「liberation」はこの日、ライブ初披露だった)。サックス、あるいはキーボードで奏でる主旋律を軸にしたメインテーマをセッションで自由に展開させていく曲の数々は、テクニックに裏打ちされながらも極めて奔放なプレイはもちろんのこと、ジャズ/フュージョンだけに囚われないジャンルレスな曲調の振り幅も聴きどころ。たとえば、YUKI(Ba)が5弦ベースをバキバキと鳴らしたリフから始まった「m’ n’ dass」は頭を上下に振った観客の反応も含め、メタルなんて言葉も使ってみたい魅力がPOLYPLUSのユニークさを際立たせていたと思う。
「見せたい未来に近づくためのツアーです。ここから始まります!」と改めてこの日のライブにかける意気込みを語ってからの中盤は、レパートリーの中からムーディーな曲の数々を披露。Gottiがスウィープとチョーキングを織りまぜ、フレーズを泣かせたバラード調の「sugar」をはじめ、POLYPLUSがバックラウンドに持つR&Bのエッセンスとともに観客の体をヨコに揺らす。
しかし、そもそもはそれぞれに活動歴のあるメンバー達が“フロアを踊らせるセッション”をコンセプトに始めたバンドだ。ことライブにおいてはやはり観客を存分に踊らせてこそ、自分達がステージに立つ意味があるとメンバー達も考えているに違いない。
自分達が楽しむために始めたセッションが徐々に多くの人に認められていったこと。自分達が求められているなら、その声に応えていってもいいんじゃないかと考えるようになったこと。そして、2022年にテレビドラマ『クロステイル 〜探偵教室〜』の音楽を担当したことが転機となって、もっと大きな存在になろうと決意したことーー。日本武道館を目標に掲げた理由を、TSUUJIIが改めて語ってからの後半戦は、「バキバキのPOLYPLUSを見たくないですか? R.T.B.! 揺らします!」というTSUUJIIの宣言通り、ラテンやスカのリズムも織りまぜながら、POLYPLUSが持つダンサブルな魅力をアピールする曲の数々をたたみかけるように繋げ、前半戦以上の熱狂を作り出す。その盛り上がりは“フロアを踊らせるセッション”をコンセプトに掲げたバンドの、まさに面目躍如と言えるものだった。
ピアノが奏でる哀愁のメロディとともに打ち鳴らす4つ打ちのキックドラムが観客をジャンプさせたAviciiの「wake me up」のカバーから、「More! More!」とTSUUJIIがフロアを煽りながら繋げた本編ラストはキラーチューンの「limiter」だ。一際アッパーな演奏には、リミッターを解除したいという思いが込められているようだ。
曲の後半、ショルダーキーボードを抱え、ステージセンターに躍り出たMELTENとTSUUJIIが再びソロの応酬を繰り広げる。いや、2人だけじゃない。その裏ではダイナミックなグリッサンドを差し込むYUKIはもちろん、Gotti、サポート・ドラマーの横田誓哉の演奏も大暴れしている。
クライマックスにふさわしい5人の熱演に興奮を抑えきれなくなった観客が上げた歓声を聴きながら、メンバー全員が主役だと訴えかけるエネルギッシュかつフリーキーなセッションこそが、ライブにおけるPOLYPLUSの一番の魅力なんだと知る。
「R.T.B.!」
「イェー!」
「R.T.B.!」
「イェー!」
誰が指示したわけでもないのに自然に始まった観客によるコール&レスポンスに迎えられ、ステージに戻ってきたバンドを代表して、TSUUJIIは「すでに来年2024年の動き、我々、すでにじっくりコトコトと煮込み始めていてですね」と5か年計画の2年目に向けて、すでに動き出していることを印象づけると、年明けの情報解禁まで他言無用と念押しした上でマル秘情報をフライングで発表する。そんなふうにライブ会場に足を運ぶという行為をさらに特別なものにしたのは、自分達は生粋のライブバンドだという自負があるからだろう。
アンコールに応え、最後の最後に披露したのは、いや、この後、名古屋、大阪、福岡公演が控えているから、ネタバレを避け、ここではバンドにとって大きな転機となった曲とだけ記しておこう。ジャズファンクな演奏に乗せ、メンバー全員でソロ回しを繰り広げると、大きくフロアを揺らして、ライブハウスで鍛え上げてきた生粋のライブバンドの底力をダメ押しで見せつけたのだった。
取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供(撮影:黒木治(Mellow))