舞台『千と千尋の神隠し』新たに千尋役に加わる川栄李奈&福地桃子にインタビュー オーディションで掴んだ役、作品への想いとは

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宮﨑駿監督による傑作映画にして、スタジオジブリが誇る不朽の名作『千と千尋の神隠し』が世界で初めて舞台化されたのは2022年3月のこと。英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイト・ディレクターであり『レ・ミゼラブル』オリジナル演出を手掛けたことでも知られる世界的巨匠、ジョン・ケアードが翻案・演出した舞台は大きな注目を集め、チケットは即完売、観たくても観られない人が続出するほどの話題作となった。

2023年8月には名古屋・御園座で再演。コロナ禍のためそれまでかなわなかった英米のクリエイティブスタッフの来日も実現、作品のさらなるアップデートが行われた。その名古屋公演を経て、いよいよ2024年は3月の帝国劇場を皮切りに、4月から6月にかけ名古屋、福岡、大阪、北海道と全国での公演が予定されている。しかも並行して4月から8月にかけてはロンドン・コロシアムでの公演も決定。アニメ映画同様、舞台版も世界へ羽ばたいていく。

主役の千尋は、初演で好演を見せたオリジナルキャストの橋本環奈と上白石萌音に加え、川栄李奈、福地桃子が加わり4人体制に。川栄、福地は、橋本、上白石とともに、帝国公演だけでなくロンドン公演にも出演することが発表された。オーディションで役を掴んだ“新・千尋”の川栄、福地に話を聞いた。

――お二人はこの役をオーディションで掴んだとのこと。どんな点に惹かれ、オーディションにチャレンジしてみようと思ったのでしょうか。

川栄:原作が大好きなんです。ジブリ作品の中で一番『千と千尋の神隠し』が好きで、小さい頃から何度も観ていて、とにかくこの作品が好きだというところが、チャレンジした理由です。最初にが舞台化されると聞いた時も「絶対観たい!」と思ったんです。ちょうどその頃、上白石さんと朝ドラ(『カムカムエヴリバディ』2021-22年/NHK)で一緒だったことが縁で観る機会をいただきました。

福地:私も原作が大好きで、公開時は3歳だったのですが、観た記憶もちゃんと残っています。これは後から母から聞いた話ですが、3歳の私は、4歳の兄と二人で「初日に行きたい」と強く母に訴えたそうです。母は、子どもの映画で初めて券を買うために並んだと言ってました。また、舞台版もとても拝見したかったのですが機会がなくて、映像で拝見しました。本当に肉眼で観たかった! 想像を遥かに超えていていました。映像でも、観ていて体が震える感覚がありますし、そこまでのものを作るには凄まじい努力があったんだろうなとリスペクトの気持ちもわきました。

――ちなみに川栄さんが「ジブリ映画で一番好き」とおっしゃいましたが、福地さんが好きなジブリ映画は?

福地:一番……を決めるのは難しいです。でも『千と千尋の神隠し』は本当に大好きな作品です!

川栄:上位?

福地:上位です!

――お二人ともお好きだという『千と千尋の神隠し』ですが、中でもこの舞台版は、どんなところに魅力を感じますか。

川栄:本当に再現度が高いんですよ。映画のままのキャラクターが出てきます。しかも、パペットで表現するものも、手で動かし、動かしている人が視界に入るのに、技術がすごくてパペットにしか目がいかない。そういった細部までこだわった演出がすごいです。

福地:私は、生の聞こえてくる音や空気感、演じられる方によって個性の異なる千尋の動き、その二つが合わさることで生まれる魅力があるなと感じました。しかもワンシーンごとに可愛らしさや魅力が詰まっている。それを肉眼で見られる贅沢さが舞台にはあるなと思っています。

――千尋という女の子にはどんな魅力を感じていますか。

川栄:映画を観た時は私も幼かったので、10歳の千尋を「小さな子」だと思わずに観ていました。今改めて作品を見返すと「こんなに小さい子が、こんなに頑張っているんだ」と親目線で見ている自分がいます(笑)。異世界で必死に生きている千尋の懸命さが素敵だなと思います。

福地:『千と千尋の神隠し』の世界って、とても奇妙な雰囲気がずっとありますよね。怖いけど、目が離せないというか。幼心にも「千尋は、よくこんな怖い世界に飛び込んでいくな」と感じていました。非現実的なところもまっすぐに信じる、そういうところでしょうか。

――では舞台版・千尋の印象は。

川栄:私は舞台では上白石さん版を拝見し、DVDではお二人両方のバージョンを見て勉強しているのですが、同じセリフをしゃべっていても、全然違う千尋になっているんです。上白石さんは最初から芯の強さがあって、橋本さんは10歳らしい明るい無邪気さが強く出ている。それぞれの千尋がとても素敵で、さらに周りのキャストもダブルキャストで演じていますので、それによってもきっとまた変わってきますよね。何通り見てもそれぞれ違う魅力が出てくるんだろうなと感じています。

福地:千尋はどのシーンにも登場するので、まず体力をつけて頑張らなきゃと思うのですが、最初に千尋が不安を抱えながら登場する姿から、風のように空気が流れて景色が変わっていく。その中で次第に千尋がたくましく成長していく……。橋本さんと上白石さんが千尋を作り上げていく姿をドキュメンタリーでも拝見しましたが、そこから感じられる熱量もすごくて、一緒に素敵な作品に携わらせてもらえることに感動しています。初演で作り上げてくださった千尋に敬意を払いつつ、“繋ぐ”という気持ちを持って演じていけたらと考えています。

 

――心に残る名場面がたくさんある作品です。印象深いシーンや、演じるのが楽しみなシーンは?

川栄:ハクからおにぎりをもらって号泣するシーンはとても印象的ですし、いいシーンだなと思っているのですが……オーディションでこの場面をやらせてもらったんです。いざ舞台で一連の流れを通すと、めちゃくちゃ走り回ったあとで、“極限状態の千尋”みたいな感じでした(笑)。見る分にはいいのですが、やるとなると心身ともに大変そうだなと思っています。

福地:私はハクを助けるところ……釜爺に電車の切符をもらうシーンが映画でも印象的だったのですが、オーディションでも心に残りました。演じていく中で様々な千尋の顔や、千尋の色々な魅力が出てくる、引き出していただくことになるのだと思いますが、オーディションでこの場面を演じた時に、「似せよう」とする感覚ではなく、自分の中から湧き出た感覚を大事にしようと思えたんです。演じるのが楽しみですし、どう変化していくのかもとても楽しみです。

――ほかにオーディションで印象的だったことを教えてください。

川栄:オーディションは言われたことをやる形ではなく、稽古のように演出をつけていただくタイプのものだったのですが、私のやることも否定せず、正しい方へ導いてくださるんです。「それもいいね、じゃあもっとみんなに問いかけるようにやってみたらどうなるかな」みたいな。なので、とても納得しながら進めることができました。またジョン・ケアードさんに言われて印象的だったのは千尋は10歳であり「大人じゃないんだ」と言われたことです。私は実際はまもなく29歳なので、そうか、そこは一番気を付けなければいけないなと思ったところです。

福地:まず印象的だったのは、ジョン・ケアードさんのお人柄です。一瞬で場が和むような雰囲気をお持ちだなと、お会いした瞬間に思いました。そしてジョンさんとお話する中で集中して強く意識させられたのは、「10歳の女の子の動き」ということです。いざ台本をいただいて動いてみようとなった時も、10歳の身体から作る、みたいなところから始まりました。セリフを話す私の姿を見るというより、10歳になった千尋を投影させている姿を見てくださっているような感じでした。その後、おにぎりのシーンなど、千尋の心の動きがみえるような場面をやりました。この時に千尋という役を通して、ジョンさんと会話できた感覚だったので、お稽古に入るのがますます楽しみだなと思っています。

――千尋役は4人います。自分以外に3人、同じ役を演じる人がいるというのはどういう感覚ですか?

川栄:4人でワンチーム、ではないかもしれませんが、一緒に作っていけたらいいなと思っています。また、橋本さん、上白石さんが……もちろん他の役の方も含めてですが、お二人が作り上げてくれた千尋なので、そこに敬意を払いつつ、私たちが入ることでプラスに働いたね、4人になってパワーが増したねと思ってもらえたらいいですね。

福地:こんなに強い味方がいるという経験もなかなかないと思っています。同時に、映像で見た様々な千尋のあの表情の裏にはこんなことがあったのかということが知れるワクワクがあります。川栄さんがワンチームとおっしゃってくださったように、私も皆さんの背中を見ながら、自分も発信できるよう、プラスになれるようにいられたらと思います。

――4人、千尋がいる中で、ご自身の千尋はどんなふうになりそうですか?

福地:……私は、(まだ見たことない)川栄さんの千尋が楽しみです。

川栄:え~(笑)。

福地:舞台ならではの動きが沢山あって、それをやってみたら川栄さんでも難しかったという話を聞いてドキドキしています。

川栄:座っている状態からいきなりパッと立ったり、服を引っ張られて動くとか。映像を見ながら家でやってみたのですが、全然できなくて、結構不安です(苦笑)。(初演キャストの)お二人がめちゃくちゃ上手くて、DVDを一時停止してやってみてもどうしても同じ形にならないんです。そこは教えてもらいながらやりたいし、先輩がいるってめちゃくちゃ“得”だなと思っています。

福地:わかります! あの千尋の動きは訓練だなと思います。

川栄:いいところを吸収するっていうのは大切だなと思います。……自分の千尋がどうなるのかは、自分でもまだよく分からないですが(笑)。

――体力は自信ありますか?

福地:あり……ますか?

川栄:私は結構あります。ありますか?

福地:どうだろう……(笑)。

川栄:お話するのは今日が初めてなのですが、すごいふわふわしていますよね(笑)。

福地:していますか(笑)?

川栄:なんか、フワンって空気が流れている。稽古場でめちゃくちゃ鋭かったらどうしよう(笑)。でも一緒に稽古できるのが、楽しみ!

福地:よろしくお願いします! 私がふわふわという感じなのだとしたら……川栄さんはチャキチャキですよね。

川栄:そうそう、時間軸が逆、みたいな(笑)。私はせっかちなのですが、一緒にいるといっそうせっかちに思える(笑)。でもそんなふわふわ感が素敵だなと思います!

福地:川栄さんは、以前別の作品でも一度ご一緒しているのですが、その時はワンシーンだけの接点でしたので、長い時間ご一緒するのは初めて。でも共演以前から、尊敬する俳優さんのお一人でしたので、とても嬉しいです。お稽古を共にさせていただく時間全てが学びだなと思っています。すごくコミュニケーションをとってくださるんですよ、川栄さんが。

川栄:普段は人見知りなんですけど、年下の子が好きなんです。

福地:嬉しいです。年下だから(気を遣っているの)かなと思ったのですが、誰に対してもフェアな方なんだなと感じています。

――舞台に立つということについても教えてください。川栄さんは舞台経験豊富ですが、久しぶりの舞台出演。福地さんは先日初舞台を踏み、これが2作目ですね。お二人にとって舞台はどういう存在ですか。

川栄:いつも舞台はとても緊張してしまうのですが、でもその緊張感もいい意味で皆さんにダイレクトに伝わる。セリフを噛んでしまったとか、ものすごく調子がいいとか、そういうのも全部感じ取れるのが舞台のいいところだと思います。程よい緊張感をもって、お客さまと一緒にその空気感も味わうような余裕をもって頑張れたらと思います。

福地:『橋からの眺め』(※編集注:2023年9月~10月に上演された福地の出演作)では、幕が開いてからも朝に集まり稽古を重ねていたのでほとんどの時間を一緒に過ごしました。舞台の上で言葉を繋ぐ緊張感も一緒に作っている感覚、過ごしている時間全てが今改めて思い出してもとても貴重な経験でした。これからまた素晴らしいチームの皆さんと共に時間を作っていけること、私も千尋という役を、大切に生の緊張感も楽しみながら作っていけたらいいなと思います。

――最後に、帝劇とロンドンでも千尋を演じる意気込みをお願いします。

福地:世界中で愛されている千尋を、たくさんの方に見ていただけるのがとても素晴らしいエネルギーだなと思います。走り抜けた時に見える景色は、宝物のように感じるんだろうなと楽しみにしています。一生懸命頑張ります。

川栄:再演(今年の名古屋公演)でもチケットが取れず、観に行けない方もたくさんいたと思います。来年はより多くの方にこの作品を観てもらえるのが嬉しいです。緊張もありますが、海外の方にも観ていただけることを嬉しく思います。

川栄李奈=ヘアメイク KUMI(LODGE Corp.)、スタイリスト 武久真理江
福地桃子=ヘアメイク Moe Hikida、スタイリスト 武久真理江

取材・文=平野祥恵 撮影=荒川潤

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