NEE x Mr.ふぉるて『GREENS presents BaysideShakedown』
『GREENS presents BaysideShakedown』2023.11.22(WED)オリックス劇場
11月22日(水)、大阪・オリックス劇場にて『GREENS presents BaysideShakedown』が行われ、NEEとMr.ふぉるて(以下、ふぉるて)が初のツーマンライブで競演した。共に2017年に結成、2021年にGetting Betterからメジャーデビューしたレーベルメイトで、ほぼ同期バンド。デビュー前から付き合いがあり、ライブハウスを主戦場に交流を深めてきた。そんな2組だが、意外にもツーマンは今回が初めて。お互いにこの日を楽しみだと話していたが、それぞれバンドとしての成長をまざまざと提示し、愛の交換を行なった本当に素晴らしい夜となった。そんな愛に溢れた日の模様をレポートしよう。
半分ずつ、それぞれのバンドを象徴する、こだわりのステージセット
秋も深まる祝前日のこの日、オリックス劇場にはNEEとMr.ふぉるてのタオルを持ったファンが大集合していた。本イベントは関西のイベンター・GREENSの企画によるもので、昨年春に『Bayside Shakedown TOUR』として、ドミコ、the dadadadys、w.o.d.、ナードマグネット、CRYAMY、PK Shampooというラインナップで、東名阪でイベントツアーを行ったが、今回はその第2弾。タイトルは企画したS氏がドラマ『踊る大捜査線』が好きなことに由来する。ロビーには、同作品をオマージュしたビジュアルフラッグが吊るされていた。
客席に入り、目に飛び込んできたステージセットを見て思わず感嘆の声が出た。ステージに垂らされた赤と青の幕。向かって右側の上手には、NEEが今年7月に大阪城音楽堂で行なったワンマンライブ『大阪城、夏のサイレン』でくぅ(Vo.Gt)が書いた「一揆」のフラッグが堂々と鎮座。対して下手には、Mr.ふぉるてが昨年12月にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で行ったツアーファイナルのセットとなる、欠けた月とビル群のシルエット、そして革張りの椅子、丸テーブル、小さなライトスタンドが置かれていた。NEEサイドが赤、ふぉるてサイドが青。さながら城と街のよう。半分に分かれたステージセットは、ツーマンであることをしっかり表明するとともに、それぞれのバンドのカラーが可視化されているようで面白かった。当然のようにファンはタオルなどを掲げ、記念撮影を行っていた。ちなみにこの素敵なセットのアイデアを出したのも、前述のGREENSのS氏。個人的には影の功労者はS氏だと思っている。このツーマンライブを実現させてくれてありがとうございます!
Mr.ふぉるて「また音が鳴る場所で会えるように。それまで皆生きててね」
Mr.ふぉるて
先攻はMr.ふぉるて。会場が暗転してSEが流れると、真っ暗な空間に月が浮かび上がる。メンバーが登場し、稲生司(Vo.Gt)がNEEのタオルを広げてお立ち台に立つと大歓声が上がり、早くも客席は総立ちに。「オリックス劇場初めまして! 東京から来ました、Mr.ふぉるてです!」と稲生が叫び、「なぁ、マイフレンド」から軽快にライブをスタート。阿坂亮平(Gt)と福岡樹(Ba)が前に躍り出てクラップを煽ると、それに応えた客席は一体感で包まれる。昨年は稲生が喉の不調のため活動を制限され、今年2月から9月までは吉河はのん(Dr)が療養のために一時休養していた。バンドにとっての最大の試練を乗り越え、完全復活を遂げた4人の気合いとグルーヴが伝わってくるような幕開けに、喉の奥がじんとなる。なお、吉河はこの日が復帰後初の大阪ライブ。そんな背景もあり、<僕らは無敵さ>という歌詞がより力強く響いてきた。
「マールム-malum-」に続いては「君守歌」を演奏。ミディアムテンポで優しい歌詞の楽曲ながら照明は激しく、赤い照明に照らされて月も真っ赤に染まる。抒情的な歌声を響かせた後は、最新曲「克己心」を披露。「ステージ上では強くありたい」と話す稲生自身の経験や葛藤を元に書かれたこの曲は、複雑な人間の感情や思考を肯定し、背中を押して寄り添ってくれる。
稲生が亡くなった大切な友人と自分が前に進むために書いたという「49」では、稲生の周りを丸い円が囲む。<もう夜が明けるよ>では浮かんでいた月が一瞬消え、ステージに光が溢れて4人が明るい円で包まれた。歌詞に合わせた演出は見事で、懸命に声を響かせる稲生の姿も胸を打つ。続く「エンジェルラダー」では、福岡はシンセベースを操り、よりメロディアスに、少しダークな雰囲気も感じさせつつ会場を引き込み、秘めたものを感じさせるパワーで圧倒した。
MCでは稲生が「NEEとはバンド組みたての頃にライブハウスで自分たちの企画に出てもらったり、逆にNEEの企画に出たりして。今日は大阪でお世話になってるGREENSさんが企画を打ってくれて、初めて大好きなNEEとツーマンできてます」と感謝を述べる。そして、最初にNEEと対バンしたのは2018年の新宿Head Powerで、福岡はまだ高校生だったと回顧する。阿坂は「古参自慢みたいなの、やだけど、していい?」と、夕日(Gt)への愛を語り始める。「NEEに加入する前から追いかけてる。めちゃくちゃリスペクトしてるの。見て後ろ。こっちがNEEの舞台演出で、あっちがふぉるてなの。俺、そっち側(下手)から写真撮られたら、ほぼ夕日さんなのよ。おこがましいけど」と嬉しそう。「なれるか!」と稲生に突っ込まれるも、「頑張ってなりたいんだよ!」と彼にとってのギターヒーローと同じ舞台に立てることを喜んだ。吉河はちょうど2色の幕の中央にいることから、「こっちからこっち(顔の半分)大樹(Dr)さんだから」と笑わせ、会場を和ませた。
稲生は真剣な眼差しで「人と人が関わると、幸せなことだけじゃなくて、必ず何かが生まれるもので。いないですか?自分の意見が言えない人。思うことがあるのにグっと堪えてる人。気付いたら身体も心もボロボロな人。自分よりも誰かを優先しちゃう人。嘘でも「いいよ」と言っちゃう人。自分ばっか損してる人。誰かを想うことも、誰かに向けたラブソングを歌うのも聴くのも、とてもラブリーでキュートで素敵だと思いますが、誰かを想うみたいに、たまには自分のことを想ってあげられたら。これは結局ラブソングですが、この曲を聴いてる時だけは、普段自分のことを疎かにしちゃう人も、自分のことを想ってほしい」と切々と想いを伝え「I Love me」を披露。稲生の言葉は、彼自身から出てくるリアルなもの。だから心のひだにスッと届くのだと思う。「I Love me」は自己愛を歌うが、「人間は自己愛だけでは生きられない」とも稲生は言う。だからふぉるては愛を与える。「I Love meでいられなくなったら、僕らがずっとI Love youでいます!」と宣言をして「あの頃のラヴソングは捨てて」へ。またひとつ力と愛を込めて音楽を放つ。「そんなに難しいことじゃないんだ! 届いてるかーい!」と叫ぶ稲生はお立ち台に乗り、笑顔で3階席までくまなく手を振る。愚直なまでに愛を伝え、それをしかと受け取る客席。愛に溢れたこの瞬間は、間違いなくこの日のハイライトシーンのひとつだった。
2度目のMCでは吉河が「私復活してから、大阪初で」と言うと「おかえりー!」の声が飛ぶ。年明けには2ndアルバム『音生 -onsei-』がリリースされること、全国ツアーの開催もアナウンス。自信作だという今作のタイトルからは、「これからの人生も音楽と共に生きる」という決意が感じられる。一体どんな音が鳴っているのだろう。聴くのが楽しみだ。
本編に戻り、阿坂が初めて作曲を手掛けた「promenade」をプレイ。ギターの聴きどころが満載のダンサブルなナンバーで、阿坂のギターソロと福岡のスラップが光るアウトロは最高にカッコ良かった。そのままシームレスに「シリウス」へ。同期も使ってキャッチーかつ壮大に響かせると、最後に稲生は地声で「ありがとう!」と叫んだのだった。
そこからはラストスパート。ハンドマイクで稲生がステージを動き回り、客席と距離を縮めた「暗い部屋の中、明るいテレビ」で会場の一体感をさらに高め、いよいよ最後の曲へ。稲生は改めて感謝を述べ、一生ステージに立って皆を救いたいと熱く語る。そして「どうしても拭いきれない真っ暗なものが自分の中に溜まった時、最後の力を振り絞って向かうのが音が鳴る場所で、握りしめるものがライブのチケットで、そこで鳴ってる音がNEEやMr.ふぉるての音楽だったらいいなと思ってます。また音が鳴る場所で会えるように。それまで皆生きててね。嘘じゃないです。ほんとです。また出会えたら嬉しいです」と深々とお辞儀し、目一杯の想いを込めて「幸せでいてくれよ」を披露した。「大阪に、オリックス劇場に、今日という日に、NEEに、皆さんに歌ってるんです! 届いてますかー!」と叫ぶと見事なシンガロング。メンバーは皆嬉しそうに客席を見つめていた。とても温かく、一切嘘のない、生のライブ。割れんばかりの拍手と歓声に包まれた会場からは愛が溢れていた。そしてあちこちから「めっちゃ良いわあ」という声が聞かれたのだった。
NEE「ありがとう! 革命起こったぞ!!」
そして後攻はNEE。背景や照明も効果的に使い、独自の世界観を作り上げて見事なライブを見せたふぉるてに対し、NEEはシンプルにバンドが持つパワーをこれでもかとぶつける攻めのセットリストで、渾身のライブを行った。SEなしでステージに登場したメンバーを大歓声で迎える客席。今度はくぅがMr.ふぉるてのタオルを掲げる。
1曲目は「アウトバーン」。夕日のギターが唸り、くぅの歌声が響くと同時に、客席からはみ出す熱狂。サビではくぅの「飛べ!」を合図に、オリックス劇場が感情的にも物理的にも揺れた(本当に)。そんな様子を見たくぅは、1番を歌い終えて「最高!」と満足そうに叫ぶ。大きいホールは初めてというNEEだが、これまで見てきた彼らとは段違いの堂々とした姿からは、バンドとしての明確な進化を感じて舌を巻いた。
続けて「ボキは最強」を勢いよく投下。イントロから手を挙げたままの客席は熱を帯び、ボキポーズのシンクロ率もパーフェクト。NEE得意の変拍子やクセになるフレーズに一心不乱に身体を揺らす。そして「2階も3階も見えてますよー!」と叫んで上手の花道へ移動したくぅは、最前にいたファンの手をがしっと掴んでステージに引き上げ、そのまま肩を組んで歌唱! 序盤からこんな展開に!?と驚いたが、これにより客席にはさらに火が点き、そこに9月にリリースした新曲「ばっどくらい」を投下して興奮の渦に巻き込んだ。
ここまでほんの数曲、既に驚きの連続だが、1番の変化を感じたのはくぅの存在感だ。「今夏を経てライブの質が上がった」と本人も話しており、もちろんバンド全体のスキルや経験値による成長も感じたが、「フロントマン・くぅ」としてのオーラが格段にレベルアップした。よく伸びる歌声やどっしりとした佇まい、キレのあるプレイからはある種の潔さを感じて目が離せなかった。場の空気を牽引する力が備わり、魅力が増した。
MCでくぅは「オリックス劇場楽しんでますかー! じゃあその証明を確認させてもらおうかな」と「1階の人、イエーイ!」「2階の人、イエーイ!」「3階の人、イエーイ!」とコールアンドレスポンス。それに応えたNEEは情熱たっぷりの声量で返事を返す。「初めてのホールですけど、このホールを皆で最強の空間にしましょう」と述べて「おもちゃ帝国」でまたひとつ熱を上げる。やがて大樹の方を向いたくぅと夕日がギターを軽快にかき鳴らすと、「ぱくちー」を披露。少しノスタルジックなメロディラインが気持ち良い。後半では夕日の極上ギターソロがわななき、空間に大きく広がるくぅの歌声とかほのコーラスが余韻を残す。
ほぼ1曲暗転した状態で披露された「病の魔法」は、ホールならではの照明ワークが寂しげなサウンドを引き立て、強烈な印象を残した。続く「九鬼」のイントロでは、ダイナミックな大樹のビートに夕日のギターが絡みつき、かほとくぅのバッキングがノイジーに重なり、夕日のギターリフから爆発するようにバーン! と音が前に放たれた時、鳥肌が立つと同時に脳内で銀テープが飛んだ(ぜひいつかお願いしたいところだ)。NEE節炸裂の転調祭り、夕日のテクニカルなギター、予測不能な曲展開、これぞNEEの真骨頂! と言わんばかりのプレイを見せつけた。
2度目のMCでは客席とコミュニケーションを取りつつ、ふぉるてとの思い出話に花を咲かせる。しかしかほが「ふぉるての「口癖」が出る日に対バンしたんだよね」と言うと、「その前だよ」「違う違う」「卒業してからだ」「する前だよ」と4人の記憶が交錯して、わちゃわちゃ状態に(笑)。くぅは「そんな時からのお付き合いでした。今日はふぉるての愛と皆の愛とNEEの愛で作り上げていきましょう」と述べ、ふぉるてが「口癖」を出した頃にリリースした「歩く花」へ。夕日は曲にいく前に「亮平くん(阿坂)めっちゃギター上手くなってたけど、俺1個上だからさ、ちょっともう見してやろうと思って」と宣戦布告! 後半のギターソロでは、お立ち台に乗って全身全霊で痺れるプレイをかます夕日の横で、くぅが「亮平くん愛してるよー!」「司くんも愛してるよ! 樹くんも愛してるよ! はのんちゃんも愛してるよ! 大好き! ふぉるてI Love you!」と愛を叫んだ。
ここからさらに加速してラストスパート。「本日の正体」をど級のパワーで叩き込み、「大阪革命起こそうぜ! 全部出しきれ! 行くぞ大阪! 革命は起こりません」とお決まりのフリから「不革命前夜」へ。夕日の超絶テクと大樹の雷のようなビートが炸裂し、くぅが「歌ってー!」と煽ると客席はシンガロング。かほはとびきりの笑顔を見せ、くぅは崩れ落ちて床に寝転んでギターを弾く。ものすごい興奮と熱狂の中で曲を終えると、くぅが「ありがとう! 革命起こったぞ!!」と叫んだ。個人的に革命が起きたライブに居合わせたのは初めてだったので、いたく感動してしまった。
そのまま勢いを緩めることなく、かほのベースが火を吹いた「第一次世界」をハンドマイクで歌い上げて、くぅは「ありがとう。そして憂鬱な明日が来ます。今日という楽しい時間はあっと言う間に過ぎて、また現実に戻されます。僕たちはそういう生き物ですけども、一緒に乗り越えていきませんか! どんな日常でも、俺たち肯定しますから! 好きに踊って暴れて帰ってください。それしに来たんだろ!」と煽り、本編最後の「月曜日の歌」を投下。かほと夕日はお立ち台で全力プレイ、くぅは感情をあらわに叫ぶように歌う。「アー!」と何度も咆哮するくぅ。4人で音を楽しむように一気に駆け抜け、圧巻のステージを終えた。なお、NEEのライブに来た人だけが見ることのできるスペシャルな風景もたっぷり味わうことができた。大樹は手応えを感じたのか両手でガッツポーズ。鳴り止まぬ歓声とメンバーを呼ぶ声が会場にこだました。
アンコールに応えて再び登場すると「アンコールありがとう。結構時間がギリギリだよね。何曲聴きたいとかあります?100曲やります! んなわけないだろ! 1曲しかできんわ!」とセルフツッコミをするくぅ。今日中に車で帰らないといけないらしく、「大阪はなかなか遠い」とこぼす(来てくれてありがとう)。「俺らの帰りを最高にしてもらうために、皆さん最後までよろしくお願いします」と述べて「万事思通」を披露。爆弾のようなイントロからゆらめくリフ、中毒性のあるメロディライン、ストップモーション、キメ、鋭いコーラス、転調が耳を喜ばせる。終盤、かほのベースソロがバッチリキマると大樹の激しいビートが加わり、夕日のギターが呻り声を上げ、くぅもステージを暴れまわる。最後は轟音と共に最高のフィニッシュ。ピースサインを見せたくぅは「最高の気持ちで帰れます! また会おうぜ。I Love you! I Love me! ありがとう!」と稲生の言葉を受けて、最後まで愛を伝えてステージを後にした。
今のNEEは何てドキドキするライブを見せてくれるんだろう。正直何度鳥肌が立ったかわからない。会場が小さく感じるほどに4人の存在は大きく、すさまじいものがあった。
こうしてNEEとMr.ふぉるての初のツーマンライブは大団円で幕を閉じた。見せ方が違う2つのバンドだが、共通していたのはとにかく愛が溢れていたこと。そして、命を燃やして自分たちの美学を貫き、全力で音楽を伝えていたこと。お互いの相思相愛ぶりにも胸が温かくなった。これからもこの2バンドで、切磋琢磨しつつシーンを盛り上げていってほしい。NEEふぉるて、永遠なれ。
取材・文=久保田瑛理 写真=オフィシャル提供(撮影:キョートタナカ)