『DECEMBER’S CHILDREN』 撮影=キラ
2023年12月18日(月)に東京・恵比寿リキッドルームで『DECEMBER’S CHILDREN』が開催された。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
『DECEMBER’S CHILDREN』2023.12.18(MON)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
音楽事務所・moving onが主催する年末恒例のライブイベント『DECEMBER’S CHILDREN』が、12月18日(月)に恵比寿リキッドルームで開催された。このイベントのタイトルはローリング・ストーンズのアルバムのタイトルでもあり、奇しくもキース・リチャーズ80歳の誕生日でもあるこの夜、スペシャルDJによるストーンズのナンバーが開場からも転換の間も流れ続けた。毎回、ニューカマーを交えながらジャンルを超えた刺激的なアーティストが集うイベントだが、今年も特異な個性がぶつかり合う異種格闘技戦さながらの熱を帯びた夜となった。
瑞々しさがまぶしいSundae May Club
オープニングアクトで登場したのは長崎からやってきた3人組のSundae May Club (この夜は4人でのバンドセット)。2022年にリリースしたミニアルバム『少女漫画』が耳ざとい音楽好きの間で評判を呼んでいるが、ステージでも持ち前の瑞々しい疾走感を存分に披露。浦小雪の伸びやかで気持ちのいい歌声を軸に、弾むようなパワーポップで会場をあたためていく。
青春感にあふれたバンドアンサンブルや弾むようなリズムはまるで心の鼓動のよう。US/UKインディーロックの匂いも漂わせるノイジーでありながら甘酸っぱさを備えたギターもキュンとくる。
終盤の「春」でのコーラスの入り方もセンス抜群。最後は往年のロッカバラードのようにロマンチックな「夜を延ばして」でステージをきっちりと締めた。20分のステージで持ち味であるポップネスをしっかりと発揮したSundae May Club。近い将来、バケそうな予感を余韻に残して去っていった。
不敵な面構えがヒリヒリするブランデー戦記
切っ先鋭いナイフ、あるいはカミソリのようなキレキレのオーラをまとって3ピースロックバンドのブランデー戦記が登場。20歳そこそこで、このムードというか、ヒリヒリ感はなかなか出せない。ステージに現れた瞬間、不敵な面構えで早速、観客の視線を釘づけにさせる。2022年8月に結成、12月に公開した「Musica」のMVがYouTubeで100万回再生突破、2023年のツアーは全公演ソールドアウトと評判は伝わっていたが、その勢いも納得の佇まいだ。
突如、現れたロックシーンの新星は3ピースのかっこよさを凝縮したソリッドなサウンドでグイグイとステージを進めていく。性急でタイトでスリリング。心のささくれをかきむしるようなノイジーさ。苛立ちを振り払うような蓮月の声と言葉。フロアの皆が息を飲み、3人を見つめている。
明るくさわやか、とは対極の場所に立つブランデー戦記のステージは陰っている。そして観る者の心をえぐり、口先ばかりの世間への違和感を突きつけてくる。「黒い帽子」での「ストロークスを聴いて涙を堪える」という歌詞が聴こえた時はハッとした。
2024年1月には東名阪クアトロツアーを敢行。これから勢いがどう加速していくのか楽しみだ。
ステージで生命の物語を描いたDNA GAINZ
2023年には配信シングル「Sound Check Baby」、輪廻転成をテーマとしたアルバム『私たちいい子で信じる力を散々使って生きている』をリリース。「DNAから響く歌の鼓動 体の底から踊り出す」をコンセプトに作品でも、ライブでも過剰なエネルギーを発散しているDNA GAINZ。3番手として登場したこの夜は、生のサンプリングボイスなども駆使して、曲の切れ目はなし。全曲が渾然一体となったかのような展開で、「生命の営みの物語」とでもいうような世界観を激しいパフォーマンスで見せた。それは、太古よりの人々の営みを大作映画のように描こうとしている挑戦ように見えた。
体が踊り出す骨太なビートはD.N.A.に宿る心拍数のようにたくましく、絡み合う2本のギターフレーズはダイナミックでドラマチック。また、ボーカル・ながたなをやの向こうっ気の強い表情からは「俺たちが変えてやる!」という気概がビシビシと伝わってくる。序盤が終わり、3曲目の「Sound Check Baby」で稀なる高揚感でフロアを包んでからはラストの「GOLD HUMAN」までグイグイと多幸感を高めて行った。その間、ながたは「あの世とこの世を一直線につなぐ歌!」「龍のように登っていくんだ!」と叫んだ。
彼らが音楽で描こうとしている、ビートで表現しようとしている「生命」。それは無謀な挑戦かもしれないが、それをよしとする大それた心意気が、とても楽しい。
シンプルに見えて奥深いyonige
牛丸ありさ、ごっきんの2人からなるガールズロックバンド、yonigeがあたたまったステージに登場(この夜は4人でのバンドセット)。踏んできた場数を活かした達者なステージを展開する。
聴き応えのいいシンプルで疾走感のあるサウンドに盛り上がるが、絶妙にフックの効いたアレンジが施されていて、観ていて飽きがこないのも大きな魅力だ。そして、緩急のつけかたの絶妙だ。
たとえば「顔で虫が死ぬ」では平坦に聴こえるもののユニークなパターンで進むメロディーラインとバンドアンサンブルの絡みが独特なグルーブ感を生み、体が自然とリズムを刻む。「2月の水槽」では、深いリバーブがかかった牛丸ありさの声から始まり、そこにトリッキーなギターフレーズが絡んでくると、イマジネーションが膨らみ、歌の世界観をあれこれと想像し始める。まるで水槽のなかにいるように。
レコーディング音源だけではなく、ステージからも、シンプルというフォーマットゆえに表現できる奥深さ、味わい深さ、クセのある妙味を生で堪能できるのはライブならではの楽しみ。これは実力があっての賜物だ。この夜は、ところどころ「おっ」と思って聴いているうちに9曲があっと言う間に終わった。
2024年1月には3年8カ月ぶりとなる待望のニューアルバム『Empire』のリリースを控えている。2024年の活躍も期待したい。
一気通貫で圧倒のPOLYSICS
結成25周年イヤーの2022年〜2023年に1年かけて新曲25曲を披露するツアーの大団円を迎えたPOLYSICS。この夜はメモリアルな年を締めくくる2023年最後のライブとなった。ライブハウスシーンの前線に立ち続け、今や日本のテクノ/ニューウェーブを守る存在となったPOLYSICSは、彼らのバンドTシャツを着た多くのファンの歓声に迎えられてステージに上がった。
1曲目の「Everybody Say No」から息つく間もなくハイテンションで怒涛のステージを展開。テクノポップとニューウェーブ/パンク/ハードコアが融合したサウンドでグイグイと押しまくる。笑いが出るほどポップでえぐみの強いフレーズを隠し味、いやキラーフレーズとして織り込んだナンバーをバンドサウンドのカタルシスたっぷりに再現するパワフルな演奏がとにかく気持ちいい。この生身感と記号的モチーフが一体となった持ち味はPOLYSICSならではの武器だ。
そして、4曲目が終わった後のMCでは、ハヤシがさすがのトーク達者ぶりを発揮。このイベントではMCをしない出演者も多かったのだが、それもあって、ハヤシのトークはいい感じに効いていた。
MC後はさらに勢いをまして、「go ahead now!」から「Buggie Techinica」までの5曲を一気通貫と言いたくなる、渾然一体となったカオスなエネルギー全開で突っ走った。
求道者の突き進む姿を体いっぱい示したギターウルフ
この夜のトリで登場したのはロックンロール道を突き進むギターウルフ。革ジャン、革パン、サングラスの出で立ちのギターウルフことセイジ、ベースウルフことGOTZがステージに現れた途端、一瞬にして場の空気が変わった。「ヤバいことが起きそう……」。そんな心拍数の高まりをフロアから感じた。
ケンカ上等とばかりに荒れ狂う爆音ロックンロールがステージから殴り込んでくる。危険だ、でも、ギターウルフが叫ぶロックンロールには我々と地続きの人間味がある。信じた道をトゥーマッチに求めるならば、時には異端と見られるかもしれない。時には滑稽と笑われるかもしれない。でも、そうでなければ進めぬ道がある。そんな事実であり、真実を目の前で、むき出しのハートと体で全身全霊、示してくれるのだ。そして、そこには荒ぶる暴力性とは裏腹に胸いっぱいのラブとロマンが横たわっている。
この夜のステージのクライマックスは、セイジが同郷の後輩、DNA GAINZのボーカル、ながたなをやをステージに上げ、殴るようにギターを肩にかけさせ、3つしかない楽器のひとつを任せたシーン。それも長い間。セイジは身振り手振りで彼とコミュニケーションを取り、途中、ギターのネックをつかんで音を止めさせ、演奏のメリハリを共有した。一緒に何回もジャンプした。ステージに上がった彼はとてもいい顔をしていた。GOTZ、彼、そしてセイジ、結局はみんなステージに飛び込み、モッシュ。フロアがやんちゃな笑顔でうねっていた。
求める道を進むなら必死、その姿は滑稽かもしれないがカッコいい。ギターウルフを見て元気が出た。
イベントが終焉して観客が少なくなったなか、明るくなった会場にひとり現れたセイジは「アイ・ラブ・ユー,OK」を爆音で弾き語った。まだまだ満足できないとばかりに。この夜は他にない“個”がぶつかりあったこのイベントとなった。同じ個性でまとまるのは安心だけど、“個”を共通点に、“違う個”が集うことから生まれることは多い。そんなことを考えた夜だった。
取材・文=山本貴政(ヤマモトカウンシル) 撮影=キラ