Photo by Tetsuya Yamakawa
シンガーソングライター・八木海莉の12月23日(土)に東京・shibuya WWW Xにて行われた、キャリア初となる東名阪ライブツアー「八木海莉 One Man Live Tour 2023 -know me…-」のファイナル公演のオフィシャルレポートが到着した。以下オフィシャルレポート原文のまま掲載する。
ワンマンライブとしては9月に東京・duo Music EXCHANGEで開催されたバースデーライブ「八木海莉 Birthday Live -21-」から3ヶ月という短いタームで開催された本ツアーは、彼女が「自分がこんなに純粋に愛を歌えるなんて思ってなかった。この曲を作れてよかった」と胸を張る自信作で、TVアニメ『アンデッドアンラック』のEDテーマとして書き下ろした「know me…」を表題にした2枚目のシングルを携えて東名阪を回り、穏やかだけど確かに存在する愛を感じさせるステージを繰り広げた。
Photo by Tetsuya Yamakawa
開演時間になると客電が暗転し、場内に寄せては返す波の音が流れる中で、西野恵未(Key)、カワノアキ(Ba)、岡本啓佑(Ds)というバンドメンバーが登場した。続いて、八木海莉が真っ赤な月が浮かぶステージに上がり、正面を向いてゆっくりとお辞儀をすると、観客からは期待感を表すかのような大きな拍手が上がった。オープニングを飾ったのは、TVアニメ『魔法科高校の劣等生 追憶編』の主題歌で自身の記念すべきメジャーデビュー曲「Ripe Aster」。身体をゆったりと揺らしながら、<心触れる/愛に揺れる>というフレーズを確かなエモーションとともに届けると、他界した祖父に向けた手紙がモチーフになっている「海が乾く頃」ではバンドアンサンブルとともに水の音とカセットデッキを回す音、心音のようなビートが重なり、温かく豊かなグルーヴが生み出されていった。
Photo by Tetsuya Yamakawa
「会えてとっても嬉しいです。今日は最後まで一緒に楽しんでいきましょう」という挨拶の後は、今年2月にリリースしたデジタルEPのリード曲「健やかDE居たい」では開き直ったような弾む歌声に自然とクラップが湧き上がり、NAOTO(ORANGE RANGE)とコラボしたアグレッシブなダンスチューン「刺激による彼ら」ではリズムに合わせて頭を左右に激しく振ってフロアのテンションを引き上げ、ボカロP・ふるーり作曲による「ダダリラ」ではジャンプしながらクラップを煽り、集まった満員のフロアをしっかりと楽しませていた。
MCでは、自身初のツアーを振り返り、「ツアーと言っても3箇所なので一瞬でした」と語り、「でも、普段、複数人とご飯に行くことが少ない人生の中で、大阪公演の後にバンドメンバーとスタッフさんとご飯に行ったんです。普通にご飯を食べたことが温かくて幸せな時間でしたね」と明かし、「このツアーはそうやって、人とご飯を食べる幸せや皆さんと直接会って歌を唄う、そういう愛で溢れるツアーになったらいいなと思ってます」続けると、場内からは拍手が送られ、まさに愛に満ちた優しく和やかなムードで満たされた。
“私”がこの世を去る時に思い出すのは“君”だろうと、命の火を燃やすように歌った「ゾートロープ」(回転覗き絵、生命の輪、走馬灯の意味)からは、八木海莉の慎ましやかだけど強い芯を持つ、胸の奥底に激情を潜めたような奥深いヴォーカルをじっくりと味わえる時間が続いた。ホリエアツシ(ストレイテナー)作曲の「僕らの永夜」ではエモーショナルなロックチューンが八木海莉の熱を帯びたボーカルによって勢いを増す中、続くポップバラードの「セレナーデ」では愁いを帯びながらも力強く凛とした彼女の歌声が印象的だった。嫌なことがあった翌日の朝をテーマにした「Sugar morning」は、後のMCで「今までは甘ったるくてくどくて憂鬱な朝だったんですけど、今回はその憂鬱から晴れた爽やかな朝に仕上げました」と解説した通り、新たなアレンジによって観客の身体を心地よく揺らし、惑う夜から冬の暮夜、最低な夜明けを経て、清々しい朝を迎えるという、本ツアー限りのストーリーとなっていた。
Photo by Tetsuya Yamakawa
そして、ライブ中盤は八木海莉のパフォーマーとしてのポテンシャルを存分に発揮してみせた。新進気鋭のアーティスト・WurtSの提供曲「メタモルフォーゼ」や眠った時に見る夢を舞台にした「脳内シネマ」ではエレキギターをかき鳴らしながら凛とした感情豊かな歌声を響かせると、目覚ましのアラーム音を止め、ボサノヴァギターから始まる「のうのうた」では鍵盤ハーモニカを吹き、ラップに挑戦した「君への戦」ではダンスを披露。楽しさと遊び心を感じるパフォーマンスに再びクラップが鳴らされると、八木は観客に向かって笑顔で手を振り、ステージとフロアの距離を一気に縮めてみせた。
「普段、人と気持ちの温度差で寂しくなる時があるんです。自分だけ熱くて悲しくなることがあるんですけど、(自宅で飼っている)熱帯魚の水槽の水を換えてるときに、水は外から見ると冷たそうなのに、触ってみると実は温かくて。自分が見えてる世界と実際の世界はやっぱり違うよなって改めて感じたときにできた曲です。ネガティヴな僕と君の歌です」
Photo by Tetsuya Yamakawa
そんなMCを経て、本編の最後は21歳になった現在の八木海莉だからこそ歌える様々な形の愛の歌を3曲並べた。初披露の新曲であるエレポップ「color」では<ネガティヴだけど愛してくれよ/どうしようもない僕を>という切実な思いを素直に届け、自分自身と真摯に向き合いながら、納得いくまで何度も書き直したという「さらば、私の星」ではミラーボールが回るフロアで地元を離れ、自分の居場所を見つける旅に出る期待を高らかに歌いあげたあと、「自分の中で大きな存在になっている」というツアーのタイトル曲「know me…」をアカペラで歌い出し、観客一人一人の顔を見ながらまっすぐに心に届け、<You know me>という呟きとともに、本編はエンディグを迎えた。全てを分かり合えないとしてもあなたにだけは私を知ってほしいと願う。それが愛なんじゃないかと問う八木の姿は、孤独でありながらも力強く、そこには彼女が「know me…」を作ることで得た表現者としての自信や成長の実感が滲み出ているようにも見えた。
アンコールではデビュー前に歌唱担当に抜擢されたTVアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song』の主人公ヴィヴィの「Sing My Pleasure」をパワフルかつドラマチックに歌唱。「楽しかったです。また会える日まで元気でいてください」と語り、自身初のオリジナルソング「お茶でも飲んで」で観客の心と身体を優しく解し、最後に「曲をたくさん聴いてください!」と呼びかけて手を振りながらステージを後にした。2月、9月、12月とワンマンライブを開催し、FUJI ROCK FESTIVAL '23などのフェスにも初参戦するなど、数多くのステージを経験した2023年を締め括るに相応しく、メジャーデビュー2年目にして、ライブパフォーマーとしてのステップアップを明確に示したツアーであった。
Text/Atsuo Nagahori Photo by Tetsuya Yamakawa