Chevon
Chevon 対バンツアー『大行侵』
2023.12.9 duo MUSIC EXCHANGE
大阪、東京、札幌を巡るChevon(シェボン)の対バンツアー『大行侵』(ダイコウシン)、その2公演目。チケットは早々にソールドアウト、フロアを埋めたバンドTシャツとタオルの数を見るだけで、この若いバンドへの注目度の高さがよくわかる。先攻を取った大阪発のスリーピース、ブランデー戦記が「一緒に東京を侵略しよう」とエールを送る。気迫のこもったロックンロールで会場内がすっかり温まると、満を持してChevon登場。いきなり沸騰するフロア。すごい歓声だ。
「Chevonと申します。よろしくお願いします」
1曲目は「ノックブーツ」。ギター・Ktjmのワウギター、ベース・オオノタツヤのスラップ、サポートドラムの打ち出すディスコファンクのビートに乗り、R&Bスタイルの奔放なボーカルを聴かせる谷絹茉優。「プノペタリラ」はさらにヘヴィにグルーヴィーに、ドスの効いたラップでオーディエンスに挑みかかると、「ですとらくしょん!」は一気にスピードを上げて強烈なシャウトを響かせる。多様なジャンルをものにするバンドの表現力はもちろん、緑色のツインテールをなびかせて目を剥いて歌いまくる谷絹の存在感がすごい。コンパクトなボディに大排気量エンジンを積んだスーパーマシン。エネルギッシュにぶっとばす姿に釘付けだ。
足をドカドカ踏み鳴らしながら前進する「大行侵」は、シアトリカルなヘヴィメタルチューン。さっきまでR&Bのファルセットやラップを器用に聴かせていた谷絹が、メタルクイーンと化して完璧なハイトーンシャウトを決める。とんでもないボーカリストだ。そのままビートを途切れさせずに「Banquet」へ。あれっ?と思った一瞬に歌が途切れ、観客が湧いた理由はあとで明らかになるが、とにかく音楽は続く。本能で踊れ、行動を起こせ。すべての歌詞を歌い、掛け声に反応するオーディエンスのChevon愛がすごい。
ここで少し空気が変わる。みずみずしい青春ラブストーリー「サクラループ」の、Ktjmの感情ほとばしる饒舌なギターソロ。オオノの「まだ行けんだろ!」という煽りを受け、「セメテモノダンス」ではフロアが一体となってダンスタイム。せつなくセンチメンタルなラブソング「占っていたんです。」の、ちょっと弱みも見せるような純朴な乙女心がいい。こういう曲を歌う時の谷絹はとても愛らしく、そしてソウルフル。変幻自在、いくつもの顔を持つボーカリスト。
「まだやれんのかトーキョー!」
真っ赤な照明とサイレンでまた空気が変わる。谷絹が渾身のシャウトで煽る。イントロの手拍子からサビの大合唱を経てアウトロまで、誰もが完璧に予習済みの「クローン」から、タオル回しでぐいぐい飛ばす「アイシティ」へ。間髪入れずにアップテンポのディスコファンクチューン「antlion」へ。「何にもないけどさ、歌だけ歌えたから」。早口ラップの攻撃が、いつのまにかフリースタイルめいた谷絹の心の叫びに発展する。ここまで来るとジャンル無用、Chevonミュージックとしか言えない。Ktjmとオオノが弾いて谷絹が歌えば、それがChevon。
「普段こんなこと恥ずかしくて言わないけどさ、うちのスーパーベース、オオノタツヤ」。谷絹の煽りに応え、オオノが強烈なスラップソロで大喝采を浴びると、それがラスト1曲の合図。「光ってろ正義」のうねるファンクビートに詰め込む言葉、「まだまだ行けるか!」と煽りながら飛び跳ね続ける谷絹。「歌える?」とマイクを向けられ、もちろん全部歌えるオーディエンス。すごい一体感だ。
アンコールでは嬉しい発表があった。大阪で発表した「初アルバムリリース」の吉報に続き、今日の朗報は「2024年のワンマンツアー『冥冥』開催」。東京公演は恵比寿リキッドルーム、着実に大きくなるキャパシティ。本編ではほぼMCゼロなのに、いきなり親しみやすく饒舌になる谷絹が、「「Banquet」で「大行侵」を歌ってしまいました!」と、さっきのミスを自白する。すかさずオオノが「歌詞を間違えるのはわかるけど、歌を間違えるってある?」と突っ込む。曲もパフォーマンスもハードで攻撃的、しかしその内面は温かく繊細。ライブを体験して初めてわかる、これがChevonというバンドの人格。
2曲やって帰ります。曲は「No.4」と「革命的ステップの夜」の2曲、のはずが、1曲終わったところで突如バンドを止める谷絹。「私のワガママでもう一度「大行侵」をやらせてください」。突然のハプニングに苦笑いしつつも、完璧な演奏で応えるメンバー間の結束は完璧だ。「革命的ステップの夜」を歌いながら、「私が歌ってんのは歌詞じゃねぇんだよ!」と叫び続ける谷絹。はっきりした意味はわからないが、感情はなんとなくわかる気がする。これは歌詞という定型じゃない。Chevonの歌はただの歌じゃない。
モンスターボーカリスト・谷絹茉優の才能と、バンドの持つ底知れぬポテンシャルを知らしめた全15曲、75分。これは、あっという間にとんでもないバンドになってしまう可能性がある。Chevonを観るなら今だ。
取材・文=宮本英夫 撮影=大坪 侑雅