CRYAMY 撮影=サトウミズキ
2023年3月に渋谷クアトロで開催したワンマン、7月にLIQUIDROOMで開催した自主企画のチケットがソールドアウト。着々と活動の場を広げているCRYAMYが、2ndフルアルバム『世界 / WORLD』を12月13日にリリースした。シカゴでのレコーディングでエンジニアとして迎えたのは、ニルヴァーナ『In Utero』、ピクシーズ『Surfer Rosa』など、数々の名盤を手掛けてきたスティーヴ・アルビニ。アナログテープ一発録音、クリックなし、オーバーダビングなし、補正なしによる各曲は、血の通ったサウンドをまざまざと伝えてくれる。この作品を引っ提げて各地を巡る全国ツアー『人、々、々、々』、2024年6月16日(日)に日比谷野外大音楽堂で開催されるワンマンライブ『CRYAMY とわたし』への意気込みなどを、カワノ(Vo/Gt)に語ってもらった。
――今回のアルバムのレコーディングエンジニアは、スティーヴ・アルビニですね。
はい。僕は彼が手掛けたPJハーヴェイとかの作品が大好きなで、ほぼだめもとでホームページのコンタクトフォームを通じて連絡をしたらOKしてくれたんです。そこから大急ぎで金をかき集めました(笑)。決まっちゃったからにはやるしかないと思ったので。
――CRYAMYの曲のデータも送ったんですか?
送りました。直近で出したシングルの音源とかもメールに添付して、「これで何か感じるものがあったら一緒にレコードを作りたいです。何も感じるものがなかったらこのメールは無視してください」と。それに対して「グレイトだ。これくらいの予算があったらいけるから、アメリカに来てくれたら嬉しい。最高のレコードを作ろう」という返事が来ました。
――3月にリリースしたシングル『FCKE』のレコーディングの時、スティーヴ・アルビニのレコーディング手法を取り入れて、マイクを100本立てて音を録ったりしたんですよね?
はい。機械で作るような音ではなくて、生々しい音に近づけたくて。バンドを続けていくにしたがって音の脚色を削ぎ落していく方向になっていたんです。
――実際に目にしたスティーヴのやり方は、いかがでした?
「そこにマイクを置くんだ?」とか、逆に「そこにはマイクを置かないんだ?」みたいなことがありました。彼はエレクトリカル・オーディオ(スティーヴ・アルビニが所有しているスタジオの名称)を手に入れてからあまりマイクを立てなくなったそうです。「自分のスタジオを持ってるからノウハウはわかってる。これでいいんだ」と言っていました。
――彼には、どのようなサウンドのイメージを伝えていましたか?
一番言っていたのはPJハーヴェイの『Rid of Me』です。ああいう乾いていて重たい音にしたくて。
――全曲がオーバーダビングなし、アナログテープ一発録音というのは、今の時代になかなかないことです。
そうですよね。単純にさくさく進められる方がストレスがないというのもあったし、そういう方法で録ろうというのを僕らも最初から決めていたんです。一番大事にしたのは臨場感と緊張感でしたね。練習をたくさんしてからアメリカに行きました。
――エレクトリカル・オーディオでレコーディングしていた時に、デイヴ・グロールが来たんですよね?
はい。ちょうど『In Utero』の30周年記念盤のインタビューの収録が、まさに僕らのレコーディングの期間だったんです。我々はそのことを聞いていなくて。翌日のレコーディングの仕込みをしている最中に突然スタジオのドアが開いて、“Hello!”ってデイヴが入ってきて驚きました。クリスもいましたね。スティーヴが「日本から良いバンドが来てるから会ってやってくれ」と言ってくれていたみたいです。2人とも良い人でした。スティーヴも雑誌の記事とかではかなりの偏屈者みたいに書かれているんですけど、全然そんなことなかったです。初めて会って、いろいろな機材とかの説明が終わった後に「コーヒー飲める?」って全員分のコーヒーを淹れてくれたのが印象的でした。それから毎日、レコーディングの前にいつも全員分のコーヒーを持ってきてから卓に座るのが習慣になっていましたね。ものすごく気配りをしてくれる人でした。
――音楽面でみなさんに敬意持ってくれていたということなんでしょうね。
そうなんだと思います。びっくりしたのは、彼が今までに手掛けた作品がスタジオに1つも飾られていなかったんです。普通のエンジニアだったら、手掛けた有名な盤を飾っていそうなものですけど。本人に伝えたら、「お前らもニルヴァーナも変わらないんだ。目の前に来た仕事を俺はやっているだけだよ」と。その言葉を聞いて嬉しかったです。
CRYAMY 撮影=村井香
――USインディー、オルタナティヴロックに関しては、サウンドだけでなく、スピリット的な部分でも影響は受けていますか?
影響を受けた部分もありますけど、僕らはどちらにしてもそうするしか道がなかったというのもあって。実際のところどこのメジャーレーベルとかの力も借りられなくて、自分たちでいろいろ進めるしか方法がなかったんです。LOSTAGE、GEZANとかは僕がバンドを始める前からそういう活動をしていて、彼らが道を切り拓いてくれたから、今僕らがこうしてやれているんですよね。
――シカゴでのレコーディングを経て完成した今回のアルバムに収録されているのは11曲。「世界 / WORLD」は10代の頃に作った曲が原型ですよね?
はい。僕が初めてギターを手にしたのが19歳の時なんです。それまではベースとかを弾いていたので。ギターを手にして作って、初めて歌詞を書いたのがあの曲です。歌詞はその時のものではなくて書き直していますけど。
――他の曲は、アルバムのために書き下ろしたんですか?
「待月」は、去年リリースしたEPに入れた曲で、それを再録しました。その他は全部新曲です。
――アルバムの全体像に関しては、何かイメージしていたものはありましたか?
音楽的な部分で考えていたのは、「開き直って好きなことをやっちゃおう」っていうことでした。パンクとかエモとか今までよく言われていて、「メロディがしっかりある曲をやるのがCRYAMYだ」というのもあったんですけど、そこにとらわれないようにしたくて。だから今回は激しいシャウトも入っているし、邪悪な感じのコード進行があったり、レゲエをちょっと齧ったようなリズムが入っていたりもします。多様性を出そうということでもなくて、意識的に好きなものを素直に出した結果、そうなりました。
――一発録りで作ったのは、今のCRYAMYのサウンドへの手応えを感じているからなのかなとも想像しているんですけど。
そんなことは意外とないかもしれないです。自信があるなしは関係なく、「その瞬間を克明に残そう」ということだったので。逆に一発録りで作ると決めたから準備をじっくり重ねて、自信が後からついてくる感じでした。
――「世界 / WORLD」や「葬唱 / Ceremony」とかを聴いて改めて感じたんですけど、尺が長い曲ならではの醍醐味ってありますよね?
そうですよね。「世界 / WORLD」の下敷きにしたのは、ドアーズの「The End」です。あとワイパーズのインプロヴィゼーションが入っている「Youth Of America」とか。こういう即興の要素が入っているからこその良さってあると思います。
――プログレ的なものも感じる2曲です。
プログレっぽくしようという発想ではなかったんです。僕は曲を歌詞から書くので、文章量に応じて展開がどんどん増えていっちゃうんですよね。「展開はプログレだけど、演奏が粗いからパンクみたいだな」とスティーヴに言われました。「世界 / WORLD」とかはライブでもこの長い尺でやったりするし、日によってはさらに長くなったりもします。
はい。インプロも含めてこの2曲で30分くらいのライブでした。でも、長い曲にしようということでもなくて、作りたいものを作った結果、こうなっているんですよね。
CRYAMY 撮影=村井香
――アルバムの構成に関しては、前半の5曲が緊張感、苛立ち、殺気が漂っていて、後半の6曲が温かなトーンがあるという印象だったんですけど。
歌詞ありきでサウンドを組み立てていくので、結果的に音がそうなりました。歌詞に関して現実的な部分、醜い部分をちゃんと提示した上で、僕が理想とすること、綺麗事に近いものを並べないと伝わらないと思っています。ただ綺麗なことをつらつらと並べていくと本心の吐露ではなくて脚色、演出されたものになってしまう気がするんです。本心の吐露にするのならば自分の中にある暗い感情、世の中の醜い側面を全部並べた上で、「こういうことがある。それでも僕は綺麗なことを言いたいんだ」という風にしなくてはいけないと思っています。そういう考えがあるので、結果的にこういう歌詞の並びになって、音もそうなっていきました。
――前半の5曲、「THE WORLD / The WORLD」「光倶楽部 / Bomber Is Here!」「注射じゃ治せない」「Anyone Canʼ t Pray (with) Guitar」「豚 / Ugly God In The Church」「葬唱 / Ceremony」は、様々なことに対する苛立ち、怒りがかなり反映されていますよね?
そうですね。
――「光倶楽部 / Bomber Is Here!」は、世の中をひっくり返したいくらいの激しい気持ちが伝わってきます。
これは、三島由紀夫の小説から来ています。『青の時代』が、光クラブの事件を題材にしているので。
――戦後間もない時期の東大生の高利貸しを描いた小説ですよね?
そうです。あそこからの引用です。主人公は戦争で徴兵された時に上官から理不尽な扱いを受けたり、生い立ちや環境によって歪んでいって、人を信じられなくなっていくんです。
――「注射じゃ治せない / Anyone Canʼ t Pray (with) Guitar」は、徹底的な人間不信、他者を見下していることの告白の歌として受け止めました。
見下してもいるし、見下している人間のことは嫌いだということです。僕はずるく生きている人が嫌いというよりも、ずるいことをしながら開き直っている人が嫌いなんです。自分の中にずるさがあると認めるのを露悪的だと受け止められてもいいので、「そういう部分が自分の中にもある」という告白もこの曲の込めたつもりです。
――この曲は、緩急を利かせた展開も刺激的です。
この曲も含めて、今作はリズムにも凝りました。レゲエ、ダブ、ヒップホップとかを聴いて引っ張ってきたリズムも入れているので。
――「豚 / Ugly God In The Church」は、宗教を題材にしていますよね?
はい。去年、統一教会の暗部を告発した女性が会見を開いて、その途中で信者であるご両親からの連絡があったじゃないですか? それをスタジオのロビーで観たんです。告発をした女性が会見中に届いた書面を読むのを聞いて、「親にそういうことを言われるのはとても悲しいことだな」と思いました。「搾取をして人を操り、そういうことを言わせる組織は神様でもなんでもないよね」ということも思います。この歌詞は宗教にだけ当てはまることでもなくて、宗教に近いことをやって気持ちよくなっている連中のことですかね。バンドをやっている僕自身もそういうものに近づいているのかもしれない。そういう自分自身に対する嫌悪感もあります。
――具体的には、どのような嫌悪感、危機感ですか?
人前に立って何かをやるのは、注目を集めるということじゃないですか? 僕が黒いものを白と言ったら、それを見た人も白と言いかねない危うさがあるんじゃないかなと。そういうことを思っているんです。
――演者としてステージに立ちながら抱く想いに関しては、「待月 / True Dub」と「街月 / Dukkha」からも感じます。この2曲は、連作みたいな感じになっていますよね?
そうですね。コード進行は統一して、リズムは変えつつリンクさせる構造になっています。「自分の無力さを実感した上で、それでも力を尽くす」ということを歌いたくて。
――「無力かもしれない」と自覚した上で表現するのと、自覚しないまま表現するのとでは、大きな違いがあるように思います。
無力だと自覚しているからこそ、何かを埋めようと人は努めますからね。そう努める自分を作り上げるという点では、意味があるんでしょうね。無力を自覚するのは苦しいけど、それは大事なことだと思っています。
――“Dukkha”は、仏教用語ですか?
はい。「苦しみ」「痛み」という意味です。「空洞」という意味もあるのかな? 車輪の具合が良くない状態が語源だったと思います。ここに至るまでの曲で苦しみを描いてきたので、一区切りをつけて総括をする意味でこういう曲を置いています。
CRYAMY 撮影=村井香
――カワノさんは、様々なことに対して関心があるようですね。
小さい頃から本が大好きで、小説に限らずいろんなものを読んできたんです。
――先ほどお話に出た三島由紀夫もそうですけど、CRYAMYの音楽は、リスナーが様々なものへの興味を広げられるきっかけにもなると思います。
いろんなものに触れる上でのチャンネルにもなりたいです。僕らのライブに来るお客さんはものすごい音楽好きだったり、ライブハウスやフェスが大好きというような層とも違っていて。いろんなものを受け入れられる空白がある人たちが多いからこそ、「こういうものがあるよ」と伝えられたらいいなと最近感じるようになりました。
――「人々よ / Human」とかもそうですが、「多くは期待していないし、それほど希望はないながらも、とにかく生きる」という姿勢も、様々な曲から感じることです。ご自身ではどのように思いますか?
おっしゃる通りだと思います。希望が叶わなくても自分の生き方は自分で決めていいし、誰に寄りかかる必要もないというか。これは持論なんですけど、僕はロックミュージックは敗北の歴史だと思っていて。理想を唱えた上で先人たちは敗北していって、そういう美しい敗北の結晶がロックミュージックなのかなと。僕が大事にしたのは「負けても何も手放さなくていい」ということなんです。それは一種の希望なんですよね。「負けても続く人生」「負けても綺麗だと言ってもらえる人生」「負けても手放さなくていい大切なもの」とかはあるんです。「負けても何かは残る」というのを、僕はこのアルバムで断言しているつもりです。ささやかでもいいので、その断言が聴いた人の希望になればいいなと思っているところがありますね。
CRYAMY 撮影=サトウミズキ
――このアルバムを引っ提げたツアーは、かなり長期に亘りますね。
はい。各地で対バンを迎えます。
――対バンは、もともと親交が深い方々なんですか?
基本的にはもともと親交があるバンドが多いです。すごく良いラインナップになったので、どこの場所のライブに来てもらっても楽しいと思います。
――ツアーファイナルは、日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブですね。
はい。野音は建て替えが決まっているんですよね。建て替え前にCRYAMYがやるのは、多分これが最後だろうなと思っています。ライブを重ねることによって曲が進化していくだろうし、ツアーを回りながら仕上げていくことになるでしょうね。
――日比谷野音でのライブは初めてですか?
初めてです。会場を使えるかどうかはくじ引きで決まるんですけど、会社の名義を持っている友達とかにも協力してもらって3口くらい応募したのかな? すごい倍率だったみたいですけど、引き当てることができました。
――建て替え前にライブをやりたかった会場なんですか?
はい。上京前に憧れていた会場で、今でも残っているのは野音くらいしかないんですよね。中野サンプラザもなくなっちゃいましたから。憧れていた会場でやらせていただけるのは、とても光栄なことです。
――野音でのライブは、どのようなものになりそうですか?
長いライブになると思います。この前、渋谷クラブクアトロでワンマンをやって、あの時は3時間くらいやったんです。今回は椅子がある会場なので、「疲れたら座ってね」と。椅子のある会場は、初めてじゃないかな? 基本的にずっと小さいライブハウスでやってきたバンドなので。
――CRYAMYの今までの活動が濃密に詰まったライブにもなるでしょうね。
そうだと思います。今回のアルバムの資料とかを友達のバンドの元マネージャーさんが作ってくれたり、他にもいろんな知り合いが助けてくれています。仲間はそんなに多くはないのかもしれないですけど、地道に活動しながら繋がっていった人たちがいるので、そういう人たちにとっても特別な日になったらいいなあと思っています。野音の周りには官公庁がたくさんあって、言ってしまえば日本を動かしている中枢の場所じゃないですか? そういう場所で「どう生きていってもいいんだ」という希望を込めた歌をたくさん歌えるのは僕にとっても意義がすごくあるし、お客さんにとってもそうであったらいいですね。
――アクティブな活動が続いていますね。
今回のアルバムの制作でお金をたくさん使ってしまったので稼がないと(笑)。CRYAMYは全部自分たちでやっているので、そういう部分も大事なんです。
――機材車のガソリン代とか、いろいろありますからね。
稼がなきゃとか言いながら、野音のチケット代は2,500円なんですけど(笑)。いろいろな値段が上がってきている中、ワンマンくらいは少しでも価格を下げたくて。みんなへのありがとうじゃないですけど、感謝祭的なことにもなればいいなと思っています。
取材・文=田中大
CRYAMY 撮影=サトウミズキ