MOROHA
1月13日(土)に、東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催された、MOROHAの『日程確定、開催確定TOUR』×『MOROHA V RELEASE TOUR』ツアーファイナルのレポートが到着した。
『日程確定、開催確定TOUR』×『MOROHA V RELEASE TOUR』2024.1.13(SAT)東京・LINE CUBE SHIBUYA
MOROHAの全国ツアー『日程未定、開催確定 TOUR』が発表されたのは、2020年4月のこと。このツアーは新型コロナウィルスの影響でイベントの延期や中止が続出する中、資金に困窮するライブハウスに会場費を先払いして、事態が収束してから公演日程を組むというものだった。2023年の夏、ようやくフルキャパでの開催が可能となり、ニューアルバム『MOROHA V』のレコ発ツアーも兼ねて『日程確定、開催確定TOUR』×『MOROHA V RELEASE TOUR』として動き出した。しかしツアーの途中で予期せぬ事態が発生。UKが疲労によるパニック発作を発病したため、9月9日以降のライブを延期することに。11月からツアーを再開して、今もまだ振替公演を残した状況ではあるが、1月13日(土)に東京・LINE CUBE SHIBUYAでツアーファイナルを迎えた。
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開演時間になり、まずはUKがステージに姿を見せた。用意された台の上に座り、両手をブラブラと振ってギュッと拳を作ってから、ギターを手にした。続いてアフロが登場し、ペットボトルの水を一口飲み、パンパンと自分の体を叩いて、UKと同じように両手をブラブラさせて強く握りしめた。アフロが遠くを見ながら腕を上げて合図を出すと、SEが止まって客席全体が暗くなり、ステージが青く染まった。ドンっ。今度はUKがギターを叩いたのを合図に、スポットライトは青から白に変わり「チャンプロード」で幕を開けた。とあるライブのリハーサルから本番を迎えるまでの様子を劇中劇のように描いたその歌は、まさに最初の一手にピッタリだった。アフロが「よろしくお願いします!」と挨拶をすると、強く打ちつける雨音のようなギターの音が鳴り、「スコールアンドレスポンス」へ。アフロが正面の客席に向かって腕を伸ばす。「乾杯! 誕生日おめでとう! いやぁ、しかしあっという間だよな。俺たちもう今年36だぜ」と言って3曲目は「革命」。楽曲がリリースされた時、2人は26歳。あれから10年が経った。声や演奏には切迫感と同時に、成熟した大人の深みが感じられた。
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立て続けに3曲を歌ったところで、アフロが観客に言葉を飛ばした。「まずは一言、伝えておかなければならないことがあります! ……明けましておめでとうございます!」。客席から大きな拍手が起きた。「「革命」の最後のところで、勝手にやってくる新年のどこがめでたいのか教えてくれよと言い続けてきたんですけど、それに対して、いつもカウンターのように、一旦ここで区切って心新たに頑張り直そうとしている人の気持ちに水を差すのってどうなの?っていう、自分に対してのアンサーがあって。いつも、その気持ちのあっちとこっちでブレブレしながら、ステージに立っております。そんな我々MOROHAの演奏、今日もきっと最後の最後までブレて、思いがあっちに行ったりこっちに行ったりする忙しいライブになるかと思いますが、俺たち一生懸命演奏しますので。どうか皆さん、自分のペース……ではなくて、俺たちのペースに付き合ってもらって、一生懸命向き合っていただけたらと思います」。そして今日は着席でのライブのため、お客さんが体調を崩す心配が少ないということで、18曲を披露すると宣言。前日の夜、アフロが家でセットリストを書いていたら、彼女がそれを見て「長っ!」と言ったそうだ。それから彼女とは口を聞いていない、と笑い話を添えた。
「次の曲は「長め(のライブ)でやろうぜ」と言ったら、珍しく相方が「じゃあ、コレをやろうよ」と言ってきた曲です。ざっくり言うと昔の彼女の曲なんですけど、決して(今の彼女への)当て付けという意味ではなくて」と言って、会場の空気を少し緩めてから、2015年にリリースされた「バラ色の日々」を演奏。次曲は、プロ野球選手を目指していた少年時代のこと、その夢を叶えられずに底知れぬ闇を抱える大人になったこと、それを支えてくれた彼女への思いを描いた「tomorrow」。続いて、11歳と36歳と51歳の自分が対話する「俺が俺で俺だ」。こうして“いつかの自分”と“現在の自分”がクロスオーバーする曲が紡がれていく。眩いスポットライトが後ろから注がれて、アフロの前には大きい影ができていた。<どれだ?これか?これが俺か?>。アフロは俯きながら自分の影をじっと見つめて、こぼすように言った。<そっか。これか、これが俺か……>。
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その後「スペシャル」「花向」で、再び感動的な情景を作り上げていく。ただ、ここで空気が一変。「精一杯のラブソング、虚しく、執着は消せず、憎しみは取り消せず。ただ、愛だけが無様に死んでいく……」。そう言って歌った9曲目「命の不始末」は、この日のハイライトの1つだった。積み重ねた幸せのジェンガが、己の欲望のせいで崩れ落ち、大切な人すらも不幸にしてしまう懺悔から始まり、救いがないままもがいていく、そんな歌。この曲の演奏中、ステージは真っ赤に染まっていて、アフロの顔は返り血を浴びたように見えるほどの凄みを感じさせた。後悔、裏切り、無念、暗闇、慚愧を孕んだ言葉がUKのギターと共に繰り出される。生きることに悶えているようだった。自己に対する怨念のような雰囲気の中、アフロが口を開く。「……じゃあ、その命、どう使おうか?」と発して「四文銭」を歌唱した。
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アフロは宙を見てマイクを握り直した。「歌の中で、胸の中で、今も生きを続けているあなたへ……ネクター」。いつの間にかほつれてしまった “家族”という名の糸で編んだ「ネクター」は、精一杯の温かみと願いを感じた。僕は不思議だった。これまでMOROHAのライブを観てきて、過去の曲でも今この瞬間にアフロが思っていることが歌になっているように聴こえていたが、この日はそうじゃなかった。(「tomorrow」を披露した辺りから)過去の自分の曲と対峙し、今のアフロが“あの頃の自分”を許そうとしているように感じた。どうしてだろう? この感覚は、ライブの終盤に自分の中で紐解けることとなる。
MCになり、2月16日からエリザベス宮地が撮影・編集・監督を務めた、東出昌大の狩猟ドキュメンタリー映画『WILL』が公開することや、作中でMOROHAの音楽が使われていること。他にもアフロが主演を務めた映画『さよなら ほやマン』で「第78回毎日映画コンクール」のスポニチグランプリ新人賞にノミネートされたことを報告(1月18日に新人賞を獲得した)。後半戦は「0G」、さだまさしの「償い」を元に書き下ろしたトリビュートアルバム『みんなのさだ』の収録曲「新訳『償い』」、「主題歌」、「六文銭」、「エリザベス」と間髪入れずに次々と演奏。
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アフロは呼吸を整えて、静かに口を開いた。「(音楽を)辞めようと思ったことはありますか?と、この前聞かれたんですけど、何度もあります、と答えました。パッと思いつくのはエゴサーチをしていて、声の入っていないギターだけのCDが欲しい、という書き込みを見た時に、もう解散だなと思いました」。アフロが笑みを浮かべたため、思わず観客も笑った。「あとは、フェスで右に大人気のバンド、左に大人気のバンドが物販を売っていて。そこに挟まれて俺も物販を売っていたんだけど、(右も左も)大行列で、自分のところだけスッカスカの状況で。MOROHAのお客さんが走って、俺らの物販を買いに来ようとするんだけど、モーゼみたいになってるの。俺はいいんだけど、お客さんがすごく恥ずかしそうな顔をしていて。あぁ……申し訳ないなと思って。それが苦しくて辛くて、もう辞めようかなと思ったことがありました。でも、その時に思ったのは“この目の前のお客さん”のために下を向いちゃいけないと。グッとお腹に力を入れて絶対に前を見続ける、という試練を自分に与えて、それを全うしたことを強く覚えております」。
ここでアフロの目にグッと力が入った。「まあ、そうですね……辞めたいなと思ったことは、UKが体調不良を起こした時に「アレ? 俺は何のためにやっていたんだっけ?」と考えて。別に音楽はあくまで手段であって、俺と俺の大事な人たちが幸せになれるなら、それを一番大切にするべきで。ラップはあくまで手段であり方法でしかないのに、それを目的にしてきたんじゃないか、と考えて。その時に「あぁ、この辺が潮時かもな」と一瞬だけ思ったりもしました。言い出したらキリがないんですけど、いつだってどんな状況でも、俺の辞めない理由としてそこにいてくれたのは、お客さんが待っている……ではなくて。新曲がまだあるんだよな、ということでした。俺の大事な、俺とあいつの汗と涙の結晶があるんだよなって。それを歌うまでは辞められないなって。じゃあ、次のライブまではやってみるかって。そんなことの繰り返しで、ここまでやってきました」。
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17曲目に歌ったのは、今回のツアーで何度か披露している新曲「やめるならいまだ」。次々と周囲の人間が音楽を辞めて日常の幸せを手にするたびに、次々と淘汰されていく同業者を見るたびに、Zepp Tokyoを経てついに武道館まで辿り着いてステージを降りた時にも、解散の言葉が脳裏に浮かび「やめるならいまだ」ともう1人の自分が肩を叩いた。<やめるならいまだ やめるならいまだ やめるならいまだ>。その手を振り払うように、アフロは叫んだ。<やめるなよまだ! やめるなよまだ! やめるなよまだ! この声変えるまでは叫ぶんだ!>。その演奏を聴いて、この日、過去の曲が今のアフロの心の叫びとは違って聴こえた理由がわかった気がした。田舎でくすぶっていた頃の閉塞感ではなく、インディーズ時代に抱いた孤独や劣等感とも違う。30代でメジャーへ行って6年、その間に数々の経験したからこそ現れた壁に、今向かい合っているのだ。
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「たくさんの出会いがあって、映画もやったし、CMの仕事もしたし、いろんなことをやって。“一生懸命”という名のパスポートがあれば、どこへだって行けるんだって実感する、そんな最近でございました。そこに行くと、同じく一生懸命にやっている人がいて。70を超えても舞台に命を懸けている人とか。狂ったように文章を書いてる人とか。売れるかどうか分からない映画にひたすら向き合っている人とか。お笑いをやっている人を見ると、人を笑わすために泣いている人もいるなとか。そういうのを見ると、俺はめちゃめちゃ頑張ろうと思えたんです。だけど、それ以上に嬉しかったのは、俺はその人たちに“頑張れ”って思いました。頑張ろう、よりも頑張れって思えたことの方が、俺は嬉しかった」。
「俺は自分の出ていないフェスなんか全部大雨で飛べ、とか、あのバンドが売れてきたからメンバーが大麻で捕まらないかな、とか。そういうことを考えちゃう人間で。人を押し除けてでも、蹴散らしてでも、どうにか自分の居場所を作らないといけないって。そう思ってずっと音楽をやってきて、それはそれで間違っていなかったと。だからこそ、ここにいるんだと。俺はそう思っているんだけど、でもそんなことばかり考えていると、ちょっとずつ心が荒んで、自分が嫌な顔になっていくような気がして。それが怖くて、どうしようって思っていたところに「ああ、俺には本気でやってる人のことを“頑張れ”って思う気持ちがあったんだ」と思えて。それがすごく嬉しかった」。
アフロは真っ暗な客席を見ながら、手汗を拭くように膝を何度もさすった。「そんな人たちにラブレターを書くような気持ちで、そんな風に思えた自分にラブレターを書くような気持ちで……そして、これはきっと何かに向き合っているすべての人に、あなたに、君に、お前に届くラブレターだと思って。すごく自分宛て(の曲)なんだけど、それこそがあなた宛てになると信じて。最後の曲を──」。そう言って届けたのは初披露の新曲「愛してる」。UKの奏でる温かいメロディーに乗せて歌う。<雨の日も風の日も ひたすらに書いたんだ><鉛筆で走り抜いた道が財産だ だけど消しゴムが這いずり回る その道も等しく愛しく思う>。それはリリックを書いているアフロの姿そのものを歌にした内容だった。<白い紙は2次元 ペンが降りて3次元 過去の記憶書き綴れば4次元 その曲が人に届き歌い継がれたら 遥か先 俺のいない未来にだって行ける>。ステージの2人を囲むように、柔らかい光のライトが1つ、また1つと灯った。その光はまるで、これまでMOROHAの曲に登場した人々に思えた。その中には、かつてのアフロやUKもいて、同じように今の2人を見守っていた。みんなが楽しんでいるのを横目に、アフロとUKはひたむきに曲を作ってきた。自分や誰かの“何か”になると信じて。その瞬間瞬間の結晶が「愛してる」に集約されていた。
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計18曲を歌い終えて、アフロはこんな言葉で締め括った。「MOROHAはこれから、もっと本気になって、もがいて、あがいて。また皆さんの前に立てるように、一生懸命頑張っていきます。どうか健康で、笑顔で。もしそれが無理だとしても、どうか命からがらで生きていてください」。
取材・文=真貝聡 撮影=MAYUMI -kiss it bitter-