Budo
2023年9月の浜離宮朝日ホールにつづき、2024年2月の紀尾井ホールとフェニックス・ホールの初ツアーも完売した、今大注目のYouTuberピアニスト・Budo。8月にはサントリーホールにてソロ・リサイタルを開催することを発表し、1月20日(土)からいよいよチケットの一般発売がスタートした。
Budoは、YouTube急上昇クリエイターに選出されるなど、今最も勢いのあるストリートピアノ系YouTuberのひとり。ショパンの「英雄ポロネーズ」やリスト「ラ・カンパネラ」、ベートーヴェンの「熱情」など、人生のどこかで一度は聴いたことあるクラシック音楽の超絶技巧曲をストリートピアノで演奏する動画は高い人気を博している。サントリーホールへの意気込みやプログラムについて、などなど神秘のヴェールに包まれた彼の実像に迫るインタビューをした。
――新しい年を迎えました、最近のBudoさんは日々どんな風に過ごされているのでしょうか?
朝起きるとカフェへ行くんですが、そこでコーヒーを飲みながら、最近は解剖学の本を読んだりすることが多いですね。実は、ピアノがもっとうまく弾ける方法が自分の体の機能の中に隠されているような気がして、朝のうちに頭の体操をかねて読書でいろいろと研究して、午後からはピアノに向かって実践してみたりしたりしています。
――よりよい音楽を届けるために日々努力されているわけですね。紀尾井ホールも近づいていますが、昨年末発表された初のサントリーホールはどんなコンサートにしたいと思ってらっしゃるのでしょうか?
YouTubeチャンネルをご覧いただいている皆さんはご存知のことだと思いますが、5年前の2018年12月4日にカナダから何も持たない何者でもない状態で日本に戻りYouTubeチャンネルを始めて、夢だったサントリーホールでのリサイタルに挑戦できるチャンスをもらえることになりました。YouTube を見て、僕のコンサートに来ていただいている皆さんのおかげだと思い、心から感謝しています。そんな思いの全てをぶるけられるものとしたいという気持ちで何を弾こうか考えました。これまでの自分の得意なものやカラーも大事にしながら、新しい楽曲にもトライしてみたいと思っています。
――新しい楽曲は何を聴かせていただけるのでしょうか?
たとえば。ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」。まさに100年前の1月に初演されたこの曲ですが、実はこれまでガーシュインは自分にとって少し遠い存在だったのですよ。昨年秋の「貴公子たちの音楽会」で彼のプレリュードを弾く機会があって、急速に身近に感じるようになって。今の自分の活動の原点となった、カナダで感じた音楽に対する自由な考え方やスピリットが「ラプソディ」の中にはたっぷりあるような気がして、この機会にやってみたいと思いました。音楽の楽しさが詰まった曲なので。
――なるほど、他にも初挑戦のものがいくつかありますよね。
これまでベートーヴェンのさまざまソナタの有名楽章とリストの有名曲「ラ・カンパネラ」や「愛の夢」などもいろいろな曲を演奏してきましたが、ベートーヴェンの「運命」のリスト編曲版は、この2人が邂逅した作品と言えます。僕がこれまで弾いてきた得意な世界同志がぶつかり会うようなものになるのではないかと思います。
それと、ベートーヴェンの悲愴ソナタの全楽章。この曲は今までは、バラバラに弾いて来ましたが、初めて全楽章通して演奏することにしました。実は、この曲は最初に自分から好きになったクラシックの曲なんです。
――いつのことですか?
小学生の低学年ぐらいだったかなあ。初めて自分から前のめりにやりたくなった曲でした。サントリー・ホールもそのころからの目標の場所ですから、サントリー・ホールで、自分のクラシック音楽への情熱の原点となった曲をやりたくなりました。第2楽章は、去年「のだめカンタービレ」のミュージカルの中で弾かせていただきましたが、今回は改めて全楽章通して聴いていただいて、ベートーヴェンが200年の時を隔てて放つストーリーの強さを感じて欲しいと思います。
――サン・サーンスの「白鳥」のゴドフスキー編曲版は?
バレエ「瀕死の白鳥」で見て、もともといい曲だなあと思っていました。
羽生結弦さんをはじめ、フィギュアスケートの世界でよく取り上げられる、本当に有名なメロディーです。ゴドフスキー版は初めてだけど自分にもサントリーホールにも、どっちにも合う編曲なのではないかと感じました。この曲は今まであまり見たことのない「ぶどう」を体験してもらえるのではないかと思います。
――2023年はぶどうさんにとって飛躍の年になったように見えますが、今振り返っていかがですか?
音大卒業したところから考えると7年たって、人との出会いの中でいろんな自分の音楽の世界が広がって来たのですが、人とつながってできることが増えた一年だったと思います。改めてこんなにたくさんの人が僕の演奏を聴いてくれて、それが僕にも力をくれ影響を与えていただいていますが、同時に皆さんにも何かしら影響していることに驚いたのが、大きな発見となった年でした。
――2024年はどんな年にしたいですか?
音楽でいろんなことに挑戦する姿を見せたいし、よりクラシック音楽を多くの人に届けられる一年にしたいと思います。
物語のような曲、映画のようにドラマティックな感情を紡いでくれる曲が僕は好きなのですが、皆さんともコンサートで物語や映画を一緒に見ているような気持ちを共有できたら素晴らしいなあと日々感じています。
僕のコンサートって普通のクラシック・コンサートとちがっているところがありますが、狙ったわけではなく、自然とそうなっているんですよね。曲間のMCや曲への思いも含めて。そんな僕の演奏やおしゃべりに反応して、客席から歓声や言葉が返ってきたりして、「ぶどう」にしかできないクラシック・コンサートの空気や空間ができつつあるかなあと思っています。これはとても大事なことで、J-POPや歌舞伎みたいに、「よっ!!ぶどう!いいぞ」って声を掛けてもらいたいし、そういうお客さんに見守られている気持ち良さがあるように感じています。コンサートって僕の演奏と皆さんの思いがどちらも揃った時に初めて完成するように思うんですよね。
ワインヤード(ワイン用のぶどう畑)型のサントリーホールで、皆さんとたわわに実った素晴らしい「葡萄」を収穫して、是非「音楽」というおいしいワインを心行くまでお互いに楽しめれば最高ですよね。8月はたまたま葡萄の収穫期でもあります。是非サントリーホールで一緒に葡萄狩りして、ワインを熟成させましょう!!
取材・文=神山