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ビリー・ジョエル、16年振り一夜限りの来日公演レポートが到着 セトリのプレイリスト公開も

アーティスト

撮影:Masanori Doi

1970年代末から90年代前半にかけて「素顔のままで」「ストレンジャー」「オネスティ」「アップタウン・ガール」など、数々のヒット曲を放ち、日本でも絶大な人気を誇ったビリー・ジョエル。1993年発表のアルバム「リヴァー・オブ・ドリームス」を最後にレコーディング・アーティストとしての第一線を退き、自身のルーツであるクラシック音楽へ回帰してから、早や30年の年月が流れた。ただ、生粋のエンターテイナーであるビリーは、ライヴ・パフォーマーとしては今日に至るまで現役であり続けており、豊富なレパートリーの中から編まれる変幻自在のセットリストで世界中のファンを魅了し続けている。2014年1月にスタートした、エンターテインメント界で最も有名な会場、マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)でのレジデンシー公演(月1回開催の定期コンサート)は、現在のビリーのライヴ活動を象徴するロングラン公演だ。そのMSGでの公演の合間に組み込まれた、久々の日本公演が昨夜(1月24日水曜日)、東京ドームで実現した。

One Night Only(一夜限り)と銘打たれた今回の日本公演は、実に16年振りの開催(12度目の来日/通算55公演目)。たった一夜のチケットは即座にソールドアウトとなり、プラチナ・チケットを手にしたビリー・ファンが日本全国から集結、東京ドームを埋め尽くした。ビリー全盛期からのファンはもちろん、10代や20代のファンの姿もあり、幅広い世代から愛されているビリーの音楽の普遍性を垣間見る客層だった。

17:30、開場。席に着き開演を待ち受ける観客は、1月23日に突如発表された新曲「Turn The Lights Back On」への関心が高かったようだ。日本公演前日のタイミングで、このような驚きのアナウンスをするとは、ビリーも心憎いことをしてくれるではないか。

「(新曲を)演奏してくれるのでは?」と期待を寄せるのはファンであれば当然であろう。

19:03、ほぼ定刻通りにショーの始まりを告げる映画『ナチュラル』のテーマ曲が流れ、その厳かで優しい調べに会場が包まれる中、客電が落ち、いよいよショーがスタート。ステージのど真ん中に配置されたピアノに黒のスーツ姿のビリーが向かうとオーディエンスのボルテージは一気に高まり、アリーナは総立ち状態に。スマホでの撮影が許可されたドーム内は、久々のビリーの姿を記録しようとレンズが一斉にステージに向けられた。

注目の1曲目は1978年秋のヒット曲「マイ・ライフ」。ベートーベンの「第九」を交えたイントロに続き、久々のビリーの歌声が会場内に響き渡ると歓声が沸いた。74歳になるビリーだが、独特のパワフルな声は今も健在。そして、間奏前にシャウトする日本語「バカヤロウ!」も健在だった。これは1978年の初来日時に覚えた日本語で、その年の秋に始まった「ニューヨーク52番街」のツアーから披露されている46年物の伝統芸である。1曲目が終わり、拍手喝采が巻き起こる中、間髪入れずにアップテンポの「ムーヴィン・アウト」へ突入。こちらも1978年春のヒット曲。トニー賞に輝いたブロードウェイ・ミュージカルのタイトル曲でもある。途中、ピアノが回転し始め、全方向の観客がビリーの顔を拝めるよう配慮されていた(この演出はコンサートの終わりまで続き、右回転、左回転と360度、メリーゴーランドの如く、ビリーは回転していた)。

オープニングの2曲を終えるとビリーは「ミナサン、コンバンハ。ヒサシ、ブリデス。ドウモ、アリガトウ」と日本語で挨拶。他にも「サイゴマデ、タノシンデ、クダサイ」と、長めの日本語も披露するなど、久々の日本公演を特別な一夜にしたいとのビリーの意気込みが感じられた。

セットリストも日本のファンを意識した特別感溢れるものだった。4曲目には日本では特に人気の高いバラード「オネスティ」を披露。ここ10年間でわずか6回しか演奏されていないレアな選曲だ。曲が始まると、あちらこちらでスマホのライトが灯され、ドーム内に幻想的な光景が広がった。また、日本だけで1978年に大ヒットした「ストレンジャー」も演奏。日本公演では必ずプレイしてくれるので、聴けるのが当たり前と思われがちだが、世界的にはこちらもここ10年の223公演でわずか18回しか演奏されていない、中々のレア・ナンバーだ。その「ストレンジャー」に続いてお披露目された「さよならハリウッド」も日本では初来日公演以来、久々に演奏されたちょっと意表をつく選曲だった。

観客を喜ばせるビリーのショーマンシップも相変わらずで、かつてはブルース・スプリングスティーンやポール・マッカートニーそっくりの歌声でモノマネを披露していたが、昨夜は形態模写をお披露目する場面があった。

5曲を終えたところでピアノを離れたビリーは、センター・マイクに向かい「俺はミック・ジャガーじゃないぜ」と一言。観客の笑いを誘ったかと思うと、ローリング・ストーンズのヒット曲「Start Me Up」のイントロが場内に轟き、ミックの特徴的な動きを巧みに真似て見せ、観客は大ウケ。そのままサビまで歌い切り、大いに盛り上がった。

センター・マイクでは、大ヒット・アルバム「イノセント・マン」からタイトル曲と「ロンゲスト・タイム」の2曲が披露された。後者では、バンド・メンバーも各自の楽器を離れ、ビリーと横並びでマイクに向かい、アカペラ・スタイルの素晴らしいコーラス・ワークでビリーのリード・ボーカルに華を添えた。

その光景からも明らかな通り、昨夜もビリーを支えたバック・バンドの面々は実に多才な顔ぶれが集まっている。1982年からの最古参メンバーのマーク・リヴェラは「ニューヨークの想い」で圧巻のサックス・ソロや「ストレンジャー」の口笛で観客を魅了。2006年に加入したカール・フィッシャーは「ニューヨーク52番街」の隠れた名曲「ザンジバル」での迫真のトランペット・ソロで喝采を浴びた。中でも観客の目を引いたのは、唯一の女性メンバー、クリスタル・ タリエフェロ(1989年加入)とサイド・ギターのマイク・デルジュディスによるボーカル・ワークだろう。クリスタルは「ザ・リヴァー・オブ・ドリームス」のブレイクで演奏されたアイク&ティナ・ターナーの「River Deep – Mountain High」でマイクを握り、ステージ上を縦横無尽に動き回り、観客を煽りに煽りまくった。マイクは、ビリーのピアノ演奏をバックに、ルチアーノ・パヴァロッティの歌唱で有名な「誰も寝てはならぬ」を伸びのある艶やかな歌声でオペラチックに歌い上げ、感動を呼んだ。2013年にビリー・バンドに加入した彼は、ビリーのトリビュート・バンドでフロント・マンを務めていたところ、本物のビリー・バンドに誘われた異色の経歴の持ち主だ。

ショーの終盤、「真夜中のラブコール」や「若死にするのは善人だけ」などのノリの良いナンバー、そしてアルバム「ストレンジャー」収録の人気曲「イタリアン・レストランで」を繰り出し、ひとしきり場内のオーディエンスを盛り上げたビリーは、おもむろにハーモニカ・ホルダーを首にかける。その動作だけで、あの曲が演奏されることを観客はすぐに察知し、「ウォ~」と歓声が沸いた。「Why?」とその反応に不思議そうな表情を見せたビリーは少し間をとり、観客の期待をはぐらかすかのようにハーモニカをふた吹きし、演奏に突入。

もちろん「ピアノ・マン」だ。この夜、幾度となくあった盛り上がりの場面だが、やはりこの曲の破壊力は群を抜いていた。この曲が書かれたのは今からちょうど51年前の1973年1月~2月。当時のビリーは、ロサンゼルスにあったピアノ・バー、エグゼクティヴ・ルームで酔っ払い相手の“ピアノ・マン” に甘んじていた。そこで目にした光景を忘れまいと歌に刻んだのが、今やビリーの代名詞となったこの曲だ。半世紀の時を経て、小さなバーに週6日レギュラー出演のピアノ弾きから、世界一有名な会場(MSG)に毎月レギュラー出演するスーパースターになった今のビリーは「この曲無しでは俺のライヴは成り立たない」と語るほど、ショーの重要な局面でこの曲を披露している。昨夜も、ビリーが紡ぎだした数々のメロディに散々酔いしれたオーディエンスにとどめを刺すかのように、ワルツ調のリズムでオーディエンスの身体をスイングさせ、さらに心地よい気分にさせてくれた。

最後のサビでは全世界共通の’お約束’、大合唱が巻き起こった。オーディエンスひとりひとりが「ピアノ・マン」の詞世界に登場するキャラクターになり、ステージ上のピアノ弾きに願いを乞う。

Sing us a song you’re the piano man(歌ってよ、ピアノ・マン)
Sing us a song tonight(今宵、歌って欲しいんだ)
Well we’re all in the mood for a melody(みんなメロディに酔いしれたい気分なのさ)
And you’ve got us feeling alright(心地よくさせてよ、その調べで)

「ヘイ・ジュード」(ビートルズ)など、コンサートで大合唱が巻き起こる名曲は数あれど、これほどまでに演者と観客の関係がその場の状況にピッタリとシンクロするシンガロング・ソングも珍しいだろう。

鳴り止まない拍手の中、ビリーは一旦ステージを後に。

盛大な拍手に応えるべく、再びステージに現れたビリーはギターを抱えて登場。まずは「ハートにファイア」。ビリーが誕生した1949年からこの曲が発表された1989年までに起こった出来事を並べた斬新な歌詞で全米1位に輝いたロック・チューンだ。ステージの背後とサイドに配置された正方形の4つのスクリーンには、歌詞で歌われる人物や出来事が次々に映し出された。続いては「アップタウン・ガール」。スタンドマイクを手にコミカルな動きを交えつつ、二人目の妻クリスティ・ブリンクリーに捧げた全米3位のポップ・チューンを歌い上げた。引き続き、スタンドマイクを操りながら全米1位の「ロックンロールが最高さ」を熱唱。スクリーンには1980年発表の同曲のミュージック・ビデオが映し出され、全盛期の若々しいビリーと74歳のビリーが時空を超えて共演。続いてはピアノに戻り、全米14位の「ビッグ・ショット」、そしてこの日のラスト・ナンバーになった全米7位の「ガラスのニューヨーク」を披露。「ピアノ・マン」で最高潮に達したかと思われた盛り上がりだったが、この大ヒット曲の怒涛の5連発も流石に圧巻の威力。超一流のエンターテイナーによる凄まじいまでのパフォーマンスをまざまざと見せつける、見事なアンコールの数々だった。

笑顔でスタンディング・オベーションを贈る大観衆の様子を隅々まで見渡すビリー。「アリガトウ、トウキョウ!」の言葉を残し、ファンに別れを告げた。21:25、終了。

夢のような2時間22分を堪能し、我に返ると、「あれ、新曲やらなかったね?」と気付くファン。前日の衝撃のニュースを完全に忘れさせてしまうような充実のパフォーマンスだった(ビリーもその件には一切触れなかった)。その新曲は、1週間後の2月1日に全世界同時にベールを脱ぐ。

さて、冒頭で触れたMSGでのレジデンシー公演だが、需要はあるものの、同会場での通算150回目の公演にあたる今年7月25日の公演を以って終了することが決定している。その時点で75歳のビリーが遂にライヴ・パフォーマーとしての活動を終えるのではなないかと危惧されたが、現在ビリーの地元ロングアイランドで開催中の回顧展「Billy Joel:My Life」のお披露目会でビリーは「ツアーは止めないよ。仕事は続ける。ただ、同じ場所でやるのはもうお仕舞だ。これからは色んな場所でやるのさ」と語り、今後もライヴ・パフォーマーとして活動する意向を示した。

昨2023年7月21日に昨夜の来日公演を発表、コンサート前日の23日には新曲のリリースを発表。1年前であれば、ほぼ全てのビリー・ファンがあきらめかけていた日本公演と新曲のリリースがわずか6ヶ月で現実のものになった。先の発言の通り、次の日本公演も大いに可能性はあるのではないだろうか!

(TEXT:ソリアーノ・タナカ)

セットリスト

01. MY LIFE|マイ・ライフ
02. MOVIN’ OUT|ムーヴィン・アウト
03. THE ENTERTAINER|エンターテイナー
04. HONESTY|オネスティ
05. ZANZIBAR|ザンジバル(冒頭に「さくらさくら」の一節)
06. INNOCENT MAN|イノセント・マン(冒頭にザ・ローリングストーンズ「Start Me Up」をビリーがモノマネ歌唱)
07. THE LONGEST TIME|ロンゲスト・タイム
08. DON’T ASK ME WHY|ドント・アスク・ミー・ホワイ
09. VIENNA|ウィーン
10. KEEPING THE FAITH|キーピン・ザ・フェイス
11. ALLENTOWN|アレンタウン
12. NEW YORK STATE OF MIND|ニューヨークの想い
13. THE STRANGER|ストレンジャー
14. SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD|さよならハリウッド
15. SOMETIMES A FANTASY|真夜中のラブコール
16. ONLY THE GOOD DIE YOUNG|若死にするのは善人だけ
17. THE RIVER OF DREAMS|リヴァー・オブ・ドリームス(ブレイクにバンド・メンバーのクリスタル・ タリエフェロがアイク&ティナ・ターナーの「River Deep, Mountain High」を歌唱)
18. NESSUN DORMA|誰も寝てはならぬ(バンド・メンバーのマイク・デルジュディスが歌唱)
19. SCENES FROM AN ITALIAN RESTAURANT|イタリアン・レストランで
20. PIANO MAN|ピアノ・マン

ENCORE

21. WE DIDN’T START THE FIRE|ハートにファイア
22. UPTOWN GIRL|アップタウン・ガール
23. IT’S STILL ROCK N ROLL TO ME|ロックンロールが最高さ
24. BIG SHOT|ビッグ・ショット
25. YOU MAY BE RIGHT|ガラスのニューヨーク