ReoNa 『ふあんぷらぐど2023』レポート 歌う意味、ファンとの距離、向かう未来

アーティスト

SPICE

ReoNa

ReoNa 撮影:平野タカシ

2023.1.19(Fri)『ReoNa Acoustic Live Tour“ふあんぷらぐど2023”』追加公演@KT Zepp Yokohama

『ReoNa Acoustic Live Tour“ふあんぷらぐど2023”』追加公演が19日、KT Zepp Yokohamaにて開催された。

約二年ぶりとなるFCツアー、昨年10月から始まり4都市を巡ったこのツアーも年を超え、ボーナストラックとなる横浜公演は、どこか去年の忘れ物を取りに戻るような感覚。やり残しの無いように、会場はファンで埋め尽くされていた。

ステージには長く細い白糸を束ねたカーテンが半円状に設置されている。今回はキーボードの荒幡亮平、アコースティックギターに山口隆を迎え、ボーカルのReoNaとのスリーピースのミニマムなスタイル。ReoNaの楽曲はアンプラグドと相性がいいのはすでに周知の事実だが、今回のツアーの一曲目は『月姫-A piece of blue glass moon-』EDテーマである「Believer」。単音から始まり、次第に衝動を鍵盤に叩きつけるような荒幡のピアノの音から始まったロックチューンは、アコースティック編成とは思えない熱量で届けられた。

続けての「怪物の詩」は情感たっぷり、メジャーデビュー前から歌い続けてきたからこそ、ReoNaの進化が垣間見れる一曲、MCを挟んで更に歌われたのはヴァネッサ・カールトンが2002年にリリースした大ヒット曲「A Thousand  Miles」。ふあんくらぶもReoNaと共に5周年を迎え、ファンと共に歩いてきた道のりをどこか感じさせるような感覚になる。カバーを楽しめるのもふあんくらぶの面白いところだ。オリジナル楽曲にない世界観を自身の歌唱でReoNaの色に染めていくのはここでしか楽しめないものになっている。

次に披露された「Lotus」では過去感じたことのないくらいの柔らかさを感じた。キャリアを重ねることでReoNaの歌は日々レンジも広がっているとは思っているのだが、特にこの日のライブでは高音の安定感が過去一に感じた。ReoNaのお歌は感情を感じさせる吐息の多い発声や、切なさを内包したビブラートが魅力だが、そこに対する厚みと共にどこか優しい印象を受ける角の取れたパフォーマンスがステージにはあった。それは100%自身を受け入れてくれる、ファンクラブイベントだからこその心的距離の近さもあったのかもしれない。

ステージ後方から伸びるいくつもの光、誰かとの繋がりのようにきらめいて、会場の暗闇に線を描く。それはどこか蜘蛛の糸のように、明るい場所への道標のように。光はReoNaの頭上で交差する、ReoNa楽曲の中でも屈指のスケール感をもつ「まっさら」だ。

歌が空間を埋め尽くす瞬間、拡大した音楽世界は次の「テディ」で一瞬で収束する。小さな部屋の中で完結するような寄り添いの曲。だれかと一緒にいるということは距離や時間に束縛されるものではないのだと、ReoNaのお歌を通じて再実感する。

「カナリア」はデビューシングルのカップリングとして収録されているが、ファンの間ではかなり人気の楽曲。今音源を聴くとかなり今のReoNaとの歌い方の違いを感じることができるかもしれない。少女が大人の女性になったんだなと思えるくらい、同じ曲でも色が違う。根底に流れるテーマはそのままに、今だからこその「カナリア」を堪能した後は、今回のツアーの目玉の一つ、さだまさし作詞・作曲の楽曲「不良少女白書」のカバーだ。

元々この曲はさだからダ・カーポの榊原まさとしに提供された楽曲。1981年発売という時代背景が色濃く反映されており、当時はいわゆる「不良」「つっぱり」というような、親子の関係不和を描いた作品が多く発表されていた。この楽曲でも内包したエネルギーのぶつけ場所がわからない少女の行き場のなさが描かれているが、どこか日本的な同調社会に馴染めない若者の姿は、ReoNaという絶望の語り部を依り代として令和の今凄くリアルに僕たちの眼の前に現れた。

アレンジが非常に今を感じるものになっているというのもあるが、根底としてさだの歌詞、メロディが持つ普遍性が今の時代にも通じているのだと思った。良いメロディはいつ聞いても良いものなのだ。ReoNaが歌い紡ぐ行き場のなさ、絶望は今の世の中で「不良」というワードを連想させるかと言えばクエスチョンが浮かぶかもしれないが、一度曲と世界に触れれば、それはイコールで繋がっているとすぐに分かる解像度を持っている。

中盤のMCでは横浜出身のバンマス、荒幡から中華街の老舗、華正樓のしゅうまいが差し入れられたなどの楽屋トークも。そこからの「猫失格」、糸状のカーテンスクリーンには猫のスライドが映し出される演出も。

この後のMCでは、「大事な日は雨が降るんです」とReoNa。先日は雨どころか雪を降らせた…と言われると「あれは高垣(彩陽)さんがフロストノヴァのアーツを使ったから」と先日開催され、ReoNaも出演した『アークナイツ 4th Anniversary Fes.「For you」』の話を展開する。実はこの後の曲は当日の天気によって演奏される曲が違うという趣向が凝らされていた。この日の横浜は晴れということで、演奏されたのは「step,step」。雨の日に何が演奏されたのかは、ここではあえて記さないでおこうと思う。

「朝が来るのがたまらなく怖かった日があります」

「死にたいわけじゃなかったけど、生きていることがなんだか申し訳ない日があります」

そんなMCを挟んで披露された新曲は「オムライス」。どこか可愛さを感じるタイトルとは裏腹のヘビーな一曲。ほんの小さな心のほころびから生まれたすれ違いの絶望の物語。

悲しませたいわけでも、苦しくなりたいわけでもなかった「のに」生まれる辛さが擦過傷のように心に刻まれていく、サビ前のCメロでその傷から流れ出る血のような悲しみに会場からはすすり泣きが聞こえだす。歌い終わるとそこには水を打ったような静寂。絶望系アニソンシンガーの本領と凄みが見えた瞬間、暗転明けのMCでやっと拍手が巻き起こるのはReoNaでしか見られないシーンだった。

「つらい時つらいと言えたらいいのにね」

どんなに長くとも夜は必ず明ける、と書いたのはシェクスピアだが、僕らが地球に居る限り、星の最後の日までそれは変わらず訪れる営みなのだろう。Aqua Timezのカバーである「決意の朝に」が“ReoNa ZERO”プロジェクトとしてリリースされたサードシングル「Null」に収録されてからもう4年半がたった。自分の言葉としてこのメロディを歌い上げるReoNaの成長は前よりも多くの明日を照らしている。全編を通して荒幡亮平の鍵盤と山口隆のギターの音色がとても気持ちよく響き渡りつづけるこの場所は、どこまで行ってもReoNaと僕たちの一対一の時間だ。

ライブも終盤、「いろんな出会いと別れが落ちている道を私たちは歩いています」と語ったあと披露された、2ndアルバムのタイトル曲でもある「HUMAN」。完全なアカペラで始まった“出会い 別れ それでも生きていく”というお歌、カーテンスクリーンには抜けるような青の光が投影され、流れる雲の照明がそれを景色としている。青空の下、生きることを歌うReoNaの世界はどこまでも広がっている。歌いきったReoNaはMCで、哀悼の言葉をぽつりぽつりと語り始める。

“何一つ後悔しない“別れ“なんて、きっと、それはとても、難しいことで。

もう逢えなくなった大切な人に、伝えそびれた言葉はありますか?もう逢えなくなった誰かへの、心残りはありますか?

もう会えないのはわかってるけど、それでもやっぱり会いたいよ“

きっとこの言葉を届けようと思う相手がいるというのがわかる。まっすぐに客席を見つめるReoNaが、この日初めて一対一の向こうを見た気がした。そんな強い“想い”とともに、この日、ライブ初披露として新曲「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」が初披露された。

自身も作詞に参加したこの楽曲はReoNa自身が体験した“別れ”が描かれているが、そんな一曲が初めて客席に届けられた。全編アンプラグドで展開されていたこのライブもこれだけは初披露ということでオリジナル音源に近い形に、この一曲のためにマニピュレーターの篠﨑恭一も参加しており、弦の調べも悠然と、新しいお歌の世界が展開されていく。

「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」はReoNaの楽曲の中でもかなりストレートなバラード、TVアニメ『シャングリラ・フロンティア』第2クール エンディングテーマである同楽曲が、今後のライブの中でどういう立ち位置を得るのか楽しみだと思わせるスケール感を感じさせる歌唱だった。

支えてくれるファンとの最後の時間はデビュー曲「SWEET HURT」で終わりを迎えた。デビューの頃より軽やかに、かつ強く歌い上げるReoNaはステージから降りる時、ほんの少しだけ背筋が伸びているように思えた。

今のReoNaが真っ直ぐ歩けているのは、誰あろう支え続けるファンの存在があるからなんだろう。10月20日に東京ガーデンシアターで『“ReoNa One-man Concert BIRTH 2024”』を開催することを発表した彼女の正邪の行進は続く。喜びも悲しみも怒りも慈しみも、そしてもちろん絶望も全部抱きしめて歩くその後ろには、きっとその後には沢山のファンがついていくのだろうが、きっとReoNaははにかみながら「一緒に歩こうよ」と少し歩みを遅めて、横並びで明日に向かうのだ。

テキスト・文=加東岳史

関連タグ

関連タグはありません