世界を舞台に活躍するコロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子とカウンターテナー藤木大地の夢の競演が、大和高田さざんかホールで実現

アーティスト

SPICE

コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子、カウンターテナー藤木大地

コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子、カウンターテナー藤木大地 (c)H.Isojima

世界を舞台に活躍するコロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子とカウンターテナー藤木大地の夢の競演が、4月21日(日)に奈良県大和高田市のさざんかホールで実現する。この時期に二人のコンサートが他のホールで行われる予定は無いという。何故、大和高田のさざんかホールだけなのか? どんなコンサートになるのか? そもそも二人の出会いはいつ、どこで? 二人に色々と聞きたいと思い問い合わせたところ、さざんかホールの本番までで二人が揃うのが2023年10月29日(日)の『まいづる市民第九演奏会』だけだと判明。「第九」の本番後なら、現地で取材は可能という事で、急遽、舞鶴に駆け付けた。
この日の「第九」は、舞鶴市総合文化会館大ホールで指揮が園田隆一郎、オーケストラが京都市交響楽団。ソリストは、舞鶴出身で市文化親善大使を務めるソプラノ田中彩子のセレクトで、カウンターテナー藤木大地、テノール谷浩一郎、バリトン加耒徹という豪華版。合唱は地元の8歳から90代の方まで300人の市民合唱団。全員が暗譜で歌っていてびっくり。
大いに盛り上がった『まいづる市民第九演奏会』を終えた田中彩子と藤木大地に話を聞いた。

●二人の出会いは、名古屋の御園座での「第九」でした。

――2024年4月に大和高田さざんかホールで藤木さんと田中さんのコンサートがあります。全国的に見てもここだけで行われるようですが、このコンサートが決まった経緯を教えてください。

藤木大地:2023年5月に大和高田さざんかホールで、僕がプロデューサーを務めていた横浜みなとみらいホールと、全国のホールとの連携プロジェクトで、みなとみらいクインテットと一緒のコンサートをやりました。そのプロモーションのためにホールを訪れた際、大和高田市の堀内大造市長を表敬訪問しました。市長が「クラシックはあまり詳しくはないのですが、YouTubeで田中彩子さんの歌われているモーツァルト「魔笛」の「夜の女王のアリア」はお気に入りで、よく観ています」と話されたのです。それを聞いてすかさず「田中さんは友達です。僕と田中さんのスペシャルコンサートをさざんかホールで出来ればいいですね」と市長とホール側に提案しました。

大和高田さざんかホールで行われた「藤木大地 & みなとみらいクインテット」(2023.5.21 さざんかホール)  写真提供:大和高田さざんかホール

大和高田さざんかホールで行われた「藤木大地 & みなとみらいクインテット」(2023.5.21 さざんかホール)  写真提供:大和高田さざんかホール

――凄い展開ですね。その時の会話が即カタチになるあたりは、さすが藤木さんです。

藤木:その日のうちに、田中さんに連絡を取りました。「市長とホールスタッフの皆さんが、田中さんに来て欲しいそうなので、スケジュールが合えば、大和高田に来てくれるかな?」、「いいとも!」みたいな感じで、日程を擦り合わせて、2024年4月で計画することになりました。

カウンターテナー 藤木大地 (c)hiromasa

カウンターテナー 藤木大地 (c)hiromasa

――田中さんにとっても楽しみなコンサートになりそうですね。

田中彩子:はい。実はこのコンサートが奈良デビューになります。さざんかホールで歌えることが楽しみですし、ホールにお集まりのお客様ともお会いしたいです。

コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子    ©Yoshinori_Kurosawa

コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子   ©Yoshinori_Kurosawa

――田中さんと藤木さんの出会いを教えてください。

田中:私が生まれて初めて歌った、名古屋での「第九」でした。今から5年前になります。実は私が「第九」を歌う機会は多くなく、今日が人生3度目の「第九」でした。その名古屋が初めてで、歌うために立つタイミングが来たら教えてくださいと、アルトのパートを歌う藤木さんにお願いしたのが最初でした。

藤木さんとの出会いは名古屋の「第九」でした

藤木さんとの出会いは名古屋の「第九」でした

藤木:2018年の12月26日、名古屋の御園座でした。指揮は齋藤一郎さんで、オーケストラはセントラル愛知交響楽団。前半が「第九」で後半が布施明さんという、企業の関係者限定のコンサートでした。田中さんの事は以前から存じ上げていました。CDも発売されていましたし、『情熱大陸』でも採り上げられて話題になっていたので。ただ、私の周りの音楽家は誰も田中さんと会ったことが無かったのです。普段はウィーンにお住まいだとお聞きしていましたが、ウィーン在住の音楽家に聞いても知らないということでした。田中彩子というのはAIで、実在しないのではないかなどと噂をしていたのですが、名古屋でご本人にお会いした訳です。

仲間内で「田中彩子というのはAIで、実在しないのではないか」などと噂をしていたのです

仲間内で「田中彩子というのはAIで、実在しないのではないか」などと噂をしていたのです

 田中:ウィーンに限らずヨーロッパ内や南米等とても移動が多いので、あまり人と一緒に過ごすことはないかもしれません。基本家にいたら引きこもりです。日本でもウィーンでも個人の活動が多いので、藤木さんのご友人の音楽家の方たちと会わないというのも、ウィーンでの行動範囲が違ったのかもしれませんね。人に会うのは貴重なので、名古屋の「第九」でお世話になったソリストの皆さまとも、その後もたまに連絡を取り合ったりするようになりました。私が2019年に、SDGsや音楽を通した青少年育成を目的とした一般社団法人Japan MEPを立ち上げ際、その一環で何か公演を打とうとなった時に、コロラトゥーラ・ソプラノとカウンターテナーのコラボレーションを思い付き、藤木さんにお願いして、私のプロデュースで12月に京都でコンサートを開催しました。大和高田でのコンサートは、この時のものがベースになると思います。

さざんかホールのコンサートは、2019年12月の京都でのコンサートがベースになると思います (c)Tadayuki Minamoto

さざんかホールのコンサートは、2019年12月の京都でのコンサートがベースになると思います (c)Tadayuki Minamoto

――声質的に珍しい組み合わせなので、話題になったようですね。この公演が12月に終わり、年が変わるとすぐにコロナで大変になる訳ですが、田中さんはウィーンにお住まいだったのでしょうか。コロナ禍はどうされていましたか。

田中:コロナの時は、私自身はうまくウィーンと日本のロックダウン時期を逃れて活動できていたのですが、もともとアルゼンチン青少年オーケストラ日本招致プロジェクトの予定だったのができなくなってしまったので、次にやりたいと思っていた企画であったモノオペラ『ガラシャ』を創作していました。これは、構想から作品委嘱、出演者交渉からスポンサー営業まですべて自分自身で手掛けた新しいプロジェクトでした。2020年の11月に京都世界文化遺産の上賀茂神社重要文化財「橋殿」にて世界初演されましたが、芸術 × SDGs をメインに、新たな文化芸術作品として日本やイタリアのメディアにも取り上げて頂けました。

モノオペラ『ガラシャ』(2020.11.20 上賀茂神社)

モノオペラ『ガラシャ』(2020.11.20 上賀茂神社)

――モノオペラ『ガラシャ』はコロナ禍の中、制作されていたのですか。エステバン・ベンゼクリの音楽に、日本の伝統芸能である「能」とのコラボレーションで、田中さんご自身が主演のガラシャを演じられ、話題になりました。

藤木:2020年11月の上賀茂神社での『ガラシャ』初演は拝見しました。素晴らしかったです。田中さんは2021年以降も毎年、日本全国をツアーで廻っておられます。リサイタルツアーで廻られた先に、偶然私が仕事で居合わせたこともあって、コンサートを聴いて、打ち上げにも呼んで頂いたりで、仲良くさせて頂いています。

カウンターテナー 藤木大地 (c)hiromasa

カウンターテナー 藤木大地 (c)hiromasa

――大和高田のコンサートについてお聞かせください。藤木さんのプロデュース企画という事ですね。

藤木:前回の京都でのコンサートは、田中さんのプロデュースだったので、今回は私が田中彩子さんをお迎えする形でお届けします。田中さんとウィーンで話し合ったのは、西洋の曲から日本の曲まで、音楽史を俯瞰するような内容はどうかと話しています。ソロの曲とデュオの曲で半々になるといいなぁと思っています。

コンサートはバラエティに富んだ曲をお届けできると思います

コンサートはバラエティに富んだ曲をお届けできると思います

●コロラトゥーラ・ソプラノとカウンターテナーの組み合わせは、「夢の共演!」と呼ぶに相応しいと思います。

田中:よく二人の声を、奇跡のコロラトゥーラとか、天使の歌声などと言われるので、キャッチフレーズを足して、ミラクル・エンジェルはどう? などと話していました(笑)。コロラトゥーラ・ソプラノとカウンターテナーの組み合わせは珍しいので、「夢の共演!」と呼ぶに相応しいと思います。藤木さんの男っぽい雰囲気から発せられる妖艶な声にやられるファンは多いと思いますよ。

コロラトゥーラ・ソプラノとカウンターテナーの組み合わせは「夢の共演!」と呼ぶに相応しいと思います

コロラトゥーラ・ソプラノとカウンターテナーの組み合わせは「夢の共演!」と呼ぶに相応しいと思います

――カウンターテナーという声質が、クラシック音楽ファンには改めて「男性が女性の声で……」といった説明が必要無く、ソプラノ、アルト、テノール、バリトンと並んで使われるようになったのは、藤木さんの頑張りの結果ではないでしょうか。

藤木:ありがとうございます。そうだとしたら、この10年と少し、頑張って来て良かったと思います。本日の「第九」、四声のソロ終わりはかなり高いキーで本当なら苦しいはずですが、田中さんは余裕で歌われていました。京都のコンサートでも選曲で苦労しましたが、想像以上に田中さんの声は高いので、二人の良さが引き立つ曲を選ぶのは難しいです。

2019年の12月にやった京都でのデュオリサイタルがベースになると思います

2019年の12月にやった京都でのデュオリサイタルがベースになると思います

――二人に歌ってほしい曲、聴きたい曲のリクエストを募られるそうですね。

藤木:僕はコンサートの後、5月、6月にアウトリーチで市内の小学校をまわる予定です。そんなこともあり、ホール側から、お子さんが興味を持つような曲も入れて欲しいと要望があり、じゃあ今の子どもたちがどんな曲を聴きたいのか、実際にリクエストを募ろうという話になったんです。

「やまとたかだの第九」前半の喜歌劇「こうもり」抜粋より、寺岡清高マエストロと(2023.12.10 さざんかホール)  写真提供:大和高田さざんかホール

「やまとたかだの第九」前半の喜歌劇「こうもり」抜粋より、寺岡清高マエストロと(2023.12.10 さざんかホール)  写真提供:大和高田さざんかホール

田中:二人に何を歌って欲しいと思われているのか、大変興味があります。あらかじめリクエストの結果をもとに、しっかり準備して当日に臨みたいです。と同時に、私もお聴き頂きたい曲があるのも確か。ヨハン・シュトラウス二世「春の声」は、季節に関係なく幸せが来るような感じで、良いんじゃないでしょうか。リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」から、“最後の二重唱” やアンドリュー・ロイド=ウェバーの「ピエ・イエズ」、武満徹「小さな空」なんかはデュオでお聴きいただきたいですし。

ヨハン・シュトラウス二世「春の声」やロイド=ウェバー「ピエ・イエズ」、武満徹「小さな空」などをお楽しみいただきます

ヨハン・シュトラウス二世「春の声」やロイド=ウェバー「ピエ・イエズ」、武満徹「小さな空」などをお楽しみいただきます

●大和高田のさざんかホールでしかやらないコンサート。必見です!

藤木:とにかく、2024年4月のタイミングで二人のコンサートは、大和高田さざんかホール以外では予定されていません。この時だけのスペシャルなコンサートにご期待ください。ピアノは矢野雄太さんにお願いしています。

ピアノ矢野雄太

ピアノ矢野雄太

――最後にお二人からメッセージをお願いします。

藤木:さざんかホールは大好きなホールで、オープンから28年経っていますが、地域の方に大切に育てられて来たと感じる良い演奏が出来るホールです。必ず喜んで頂けるコンサートに致しますので、ご期待ください。

田中:初めての奈良でのコンサート、楽しみです。レアなプログラムでお届けする二人のコンサートは、私もとても楽しみにしています。皆さまとお会い出来ることを楽しみにしています。ぜひ大和高田さざんかホールにお越しください。お待ちしています。

大和高田のさざんかホールでお会いしましょう!

大和高田のさざんかホールでお会いしましょう!

取材・文 = 磯島浩彰

関連タグ

関連タグはありません