マツナガツヨシ(para de casa)
AFRO PARKER、西恵利香の所属レーベルで、YONA YONA WEEKENDERSのインディーズ時代の作品をリリースしていた「para de casa」。その10周年を記念して昨年の2月に開催された『ESSLECTION 2023』は、同レーベルの所属アーティストの他、多彩なラインナップが出演して大盛況となった。第2回となる『ESSLECTION 2024』は、2月17日(土)に東京・渋谷 WWW / WWW Xで開催される。出演するのは、AFRO PARKER、西恵利香 band set、YONA YONA WEEKENDERS、DÉ DÉ MOUSE + drum + drum、eill、tricot、さとうもか、離婚伝説、jo0ji。極上の音楽に浸れるこのイベントについて「para de casa」のレーベルヘッドであるマツナガツヨシ氏に語ってもらった。
――マツナガさんは、もともとバンドをやっていたんですよね?
そうなんです。中学を卒業した頃に幼馴染とバンドを始めて、大学の時に小さな事務所に拾ってもらいました。その事務所を出た後に音源をどうやってリリースするのか考えたんです。当時はまだCDが主流で、配信はiTunesくらいしかなくて。仲の良かったレコード会社の人に相談したら、「レーベルって名乗ったらレーベルだから」と(笑)。それで始めたのがpara de casaです。去年、10周年を迎えました。
――大学は、服飾系だったとお聞きしています。
目黒にある杉野服飾大学です。音楽は完全に趣味にしようと思っていました。勉強ができるタイプではなかったんですけど、親からは「4年制大学に行っておきなさい。大学は人生の夏休みだから」と言われていたんです。中高と家から近い学校だったので、大学も近いところで探そうとしたら「普通の大学だったらやめるに決まってるでしょ。高校も碌に行ってないのに、なんか手に職がつく大学にしなさい」と言われて、探した末に見つけたのが杉野です。バイヤー、VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)とかの方面の学科に進みました。家庭科・被服の授業は苦手だったので、服を作る方には行かなかったです。
――勉強したことは、今のお仕事にも役に立っているんじゃないですか?
大学を卒業してからちょっと経ったくらいの頃は、そういうのが活きてるのかなと思っていたんですけど、今はどうなんだろう?(笑)。でも、杉野から音楽業界に進んだ人は、結構いて今も一緒に仕事をする先輩後輩はいたりするのでそういう面でも行って良かったなと思っています。
――プロのミュージシャンになりたいという気持ちは、なかったんですか?
僕と一緒にバンドをやっていたメンバーの2人は昔から真面目で頭も良くて、彼らの人生に迷惑はかけられないと思っていたんです。だから高校を卒業した時点で、音楽は趣味にするつもりでした。でも、地元の埼玉から東京に活動拠点を移してから、いろいろなバンドと対バンをするようになってきた中で、自分たちがめちゃくちゃ売れるバンドになれるとも思っていなかったので、「続けられればいいよね?」っていうくらいでした。
――音楽業界で働くことを考え始めたのは、いつ頃でした?
大学を卒業する直前に所属していた事務所をやめたんですけど、レーベルを始めた頃も音楽は趣味という感覚でした。でも、「レーベルを始めた」ということに対するなんかかっこいいみたいな多少の優越感はあったんですよね(笑)。レーベル関係のことであれこれ忙しくしているのは楽しかったです。
――バンド活動は、いつ頃まで続いていたんですか?
大学を卒業してから1年くらいはやっていました。バンドをやめてからはずっとレーベルの仕事をやるようになりましたね。地元のスタジオで再会した友だちが新しいバンドを始めるという話を聞いたのが、所属アーティストのマネージメントレーベルをやるようになったきっかけです。自分自身話を聞くのが昔から嫌いじゃなかったので、「じゃあ、こうしてみたら?」とかアドバイスをしながらいろいろなバンドとかと知り合って、para de casaからリリースするアーティストが徐々に広がっていきました。
――レーベルのカラー、方向性などに関しては、どのようなことを考えていましたか?
その点に関しては正直結構雑でした。服飾系の大学に行っていたというのもあって、ファッション的なことは好きで「センスのいいもの」「おしゃれ」というのは、ずっと思っていたところだったのかな? ミーハー心が強いっていうことなんですかね?(笑)。
――(笑)。「おしゃれ」の基準は、何だと思いますか?
何でしょうね? 僕がやっていたバンドはおしゃれとは言い難い感じだったんですけど。僕個人的な大学の頃のおしゃれ基準は、ボサノヴァ、JAZZ、アンビエントあたりのジャンルだったりもして。今、一緒に仕事をしているDÉ DÉ MOUSEは当時の僕のおしゃれミュージックでした。アンビエントとかエレクトロは、ギター少年からすると「こんな音が鳴るんだ⁉」というのがあって。もともとJ-POP育ちなので、そういうストレートな歌ものとはまた別の感じが、おしゃれなんですかね?
――ポイントとなっているのは、コード感ですかね? ストレートなギターロックのパワーコードとかにはない複雑な音の響きというか。
そうかもしれないですね。僕が音楽を本気でやりたいと思ったきっかけは、木村カエラさんとASPARAGUSの渡邊忍さんの存在で。木村カエラさんの「You」という楽曲を作ったのが忍さん。ASPARAGUSはメランコリックなコード感があったりして、「こんなにおしゃれなメロコアをやる人がいるんだ」って思ったんです。だから僕個人的なおしゃれということに関して、コード感というのはすごくあると思います。
マツナガツヨシ(para de casa)
――新しいアーティストは、どのように探していますか?
最近はわりと知り合いづてという感じです。昔はSoundCloud、Audioleaf、Myspaceとかを漁っていろいろ探していたんですけど。でも、毎週の水曜0時にSpotifyを漁ることは続けています。
――昔はレーベルにデモテープを送ったりするのが定番でしたけど、最近はそういう感じでもないでしょうね。
そうですね。誰でもリリースできるようになったと言ったら言い過ぎかもしれないですけど、Tunecore Japanを筆頭に各所のサービスから出せますからね。正直なところ、僕も「レーベルって必要なのかな?」と思うくらいなので。para de casaは、制作周りとかのクリエイティブな面で僕が口を出すことはあまりないので、所属しているアーティストが持っていないアイデアやライブブッキング、トータルの活動をプランニングする役割になっています。
――リスナーにとってのレーベルの魅力は、昔から変わっていない面もあるのかなと思います。「このレーベルのバンドは、好きなものが多い」とか、新しい音楽と出会うための指針になりますから。
レーベルカラーってありますよね。うちのレーベルに関しても「para de casaのアーティスト、全部好きです」と言ってくれる人がいるんです。それはすごくありがたいです。シンプルに僕と「趣味が合うね」とも思います(笑)。
――昨年、第1回が開催された『ESSLECTION』は、どのような経緯で開催されることになったんですか?
会社のスタッフと「para de casa の10年の節目で何かやろう」というのは話していたんです。それで開催したのが、去年の『ESSLECTION 2023』でした。
――どのようなイベントにしたいと思っていましたか?
音楽の聴き方が変わってきた時代の中、「ライブが良い!」方々を集めたいというのは思っていました。去年は10周年というのもあったので、お世話になっているアーティストを中心としたブッキングではあったんですけど。
――ドミコも出演しましたね。
はい。ドミコは昨年の出演者の中で唯一para de casaと接点のないアーティストでただただ僕が大好きだからという理由でした。僕がバンドをやっていた時にドミコのひかるくん(さかしたひかる)とは地元のライブハウスでよく会っていたんです。それ以来だったので「覚えてるのかな?」という感じでオファーしました。当日、ひかるくんに「久しぶり」って言われて、ちょっと感動しました(笑)。
――(笑)。昨年の『ESSLECTION』で感じた手応えは、どのようなものでしたか?
「成功した」という感触よりも、「もっとこのイベントを良くしたい」という気持ちの方が大きかったです。だから「来年は何しよう?」っていうことだけでしたね。『ESSLECTION』を1つのフェスとして確立したいという気持ちも芽生えました。それが今年の第2回目に踏み切ることに繋がっていったんです。
――来年以降の開催も視野に入れていますか?
はい。僕は野外フェスの制作に携わることもあってそこで得た経験からいずれは野外フェスにもできたらなんて。まだ想像の段階ではあるんですけど。
――イベントタイトルの『ESSLECTION』は、“essence”と“selection”を組み合わせた造語ですよね?
そうです。“essence”という言葉が昔から好きなんですよ。字面も意味も惹かれるものがあって。でも、イベントタイトルが『ESSENCE』だとWEB検索で引っかからないですからね(笑)。それもあって“selection”と組み合わせた造語で『ESSLECTION』と名付けました。
『ESSLECTION 2024』
――会場は昨年に引き続き、今年も渋谷WWWとWWW Xですね。
はい。うちのレーベルと仲が良い会場で。でも、なんで2会場での開催にしたんだろう? ……多分、フェスとしての規模感ということを考えると、1会場のみでこぢんまりとし過ぎるのも違うのかなということだったと思います。ただ、あの2会場になった結果、階段の上り下りがつらくなったんですけど(笑)。
――(笑)。今年の出演者も素晴らしいです。AFRO PARKER、西恵利香さん、YONA YONA WEEKENDERSは、2年連続の出演ですね。
はい。para de casaの3組です。
――AFRO PARKERとの出会いは、どのようなものでしたか?
いろいろなレーベルにデモテープを送ったけどどこからも返信がないという相談を彼らから受けて、「うちでやろう!」ということになったんです。捨て猫みたいでしたね(笑)。彼らとは2ndアルバムから一緒にやっています。『ヒプノシスマイク』の楽曲提供を手掛けてからは、メンバーは作家とサポートの仕事が増えてきていますね。サラリーマンをやりながら活動するアーティストの理想の動き方になっていると思います。
――今回、バンドセットでの出演となる西恵利香さんの魅力は、どのようなところにあると感じていますか?
彼女はシンガーだけでなくナレーター、MCなどもできる本当にマルチなアーティストです。音楽に対しての感度も高くて最近の話だと韓国のインディーのR&Bとかに対するリサーチもすごいです。3rdアルバム「flower(s)」に入っている曲を提供してもらった韓国のトラックメーカーbemyfrndなど実際に国を越えたコラボも実現できました。今や韓国のR&Bやヒップホップは本当にクオリティが高くて、彼女はそういった新しい才能を見つける感度もありますね。
――YONA YONA WEEKENDERSは、インディーズ時代の作品をpara de casaからリリースしていましたよね?
そうです。今もマネジメント自体は変わらずなので、基本的には一緒に動いています。彼らの存在を知った週に埼玉でのライブがあって、たまたま僕の家から近かったので観に行きました。個人的に思う彼らの魅力としてはボーカルの磯野くんの声ですね。「目をつむって聴いたらイケメンが歌ってる」ってよく言うんですけど(笑)。
――ひどい(笑)。
惚れ惚れしちゃう声なんですよね。声の魅力は、初めて観たライブでも思いました。彼らのJ-POP的なメロディ感も、シンプルに感動できますし。僕は現在彼らのライブ制作と舞台監督のポジションなんですけど、舞台袖で聴きながら「いい歌を歌うなあ」っていつも感じています。出始めはシティポップっていうカテゴライズをよくされていましたが、今は「YONA YONA WEEKENDERS」の音楽でしかないかなと思います。
――初出演のみなさんのライブも、とても楽しみです。DÉ DÉ MOUSEに関しては「DÉ DÉ MOUSE + drum + drum」名義ですから、ツインドラム編成ですよね?
そうです。今回の出演にあたって、「どの編成でやります?」と訊いたら、「ツインドラムでやろうかな」と言っていました。数年前はDÉ DÉ MOUSEの現場スタッフとしてライブについていたんですが最近はご無沙汰していたので、久しぶりにデデさんに会えるのが楽しみですね。
――ものすごい昂揚感、トランス状態を味わえるライブになりそうです。
DÉ DÉ MOUSEは、どんな現場でも盛り上がらないことがないというか。現場に出て音を鳴らして5秒とかでその日のお客さんのテンション感を掴んじゃう。ツインドラムはそんなに頻繁にやる編成じゃないので、デデさんのライブによく行っているみなさんも楽しみにしていると思います。
――eillさんは、ライブサポートをしているご縁での出演ですね。
はい。僕は彼女の最初の作品が出た時からファンだったんですよね。たまたまライブ制作をやってほしいという声がかかった時は、とても嬉しかったです。彼女の楽曲は、とにかく素晴らしくて、誰にも真似のできないアレンジ、唯一無二のものがあると思います。日本人ライクなメロディにトレンドの海外要素も取り入れているトラックメイクなどとてもクレバーな楽曲って印象で、どの曲も本当にかっこいいですよ。
マツナガツヨシ(para de casa)
――今回の出演者の布陣の中にtricotがいるのは、とても面白いです。
tricotは、僕の青春です。大学時代にずーっと聴いてました。去年、下北沢シェルターの周年のイベントでYONA YONA WEEKENDERSとtricotが一緒にやった時、僕は行けなったんです。だから今回観たくてオファーさせてもらったところもあります(笑)。昨今これだけいろいろなイベントが増えている中で、どこかにギミックのようなものがほしいなと。イベント全体でジャンルの幅を楽しんでもらいたい気持ちもあって今回の『ESSLECTION』は、tricotにお願いしました。
――さとうもかさんの出演も、楽しみにしているお客さんがたくさんいると思います。TikTokで広がった「melt bitter」やドラマ主題歌だった「魔法」でお馴染みですからね。
さとうもかさんは、僕が制作をやっている外部のイベントで何度かご一緒しているんです。アーティストからも「この人、知ってますか? すごく良いんですよ」って言われることがすごく多かったんですよ。それで自分のイベントにも出ていただきたいと思って、今回お願いしました。
――離婚伝説は、『関ジャム』で先日紹介されていましたね。
『ESSLECTION』は開催時期が年の初めに近い2月なので「今年来るぞ」っていう風が欲しいというのもあったんです。離婚伝説は、今年の終わりくらいにはこのキャパ感の会場では観られなくなるかもしれないですね。
――jo0ji さんが出演するというのも要注目です。
jo0ji は、うちのアーティストから教えてもらいました。Spotifyの2024年のEarly Noiseに離婚伝説と一緒に選出されていましたね。Early Noiseが発表される前に『ESSLECTION』への出演を発表したかったなあと思っています(笑)。
――(笑)。どのアーティストのライブも見逃せないイベントになっていると思います。
フルで観られるようにタイムテーブルを作ってあります。あとはWWWとWWW Xの間を行き来するみなさんの体力次第です(笑)。
――頑張って階段の上り下りをしたくなるラインナップです。
そう言っていただけたら嬉しいです。2月というタイミングは、イベントがあまり多くない時期なので、「2月といえば」という感じのイベントにもなっていけたらいいなとおもいます。渋谷のサーキットフェスって既に定着しているところはあるんですが、そこに新参者として仲間に入れてもらえたらと。主催者としてはビジネス抜きに好きなアーティストに出てもらう感じでもあるので、趣味の合うお客さんたちが集まって一緒に楽しみたいですね。『ESSLECTION』に来る人は感度が高い人だと言われるようになるのが理想です。フェスの中での伊勢丹みたいな感じというか(笑)。
――(笑)。素敵なセレクトショップみたいな感じですか?
そうですね。まさにそういうイメージです。
取材・文=田中大 撮影=ヨシモリユウナ
マツナガツヨシ(para de casa)