L’Arc~en~Ciel、アリーナツアー「UNDERGROUND」開幕 これまでライヴで披露する機会が少なかったレア曲を一挙解禁
L’Arc~en~Cielにとって約2年ぶり、念願の声出し解禁となる全国ツアー「ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND」が開幕した。2月8日のファンクラブ会員限定公演を皮切りに、2月10日・11日まで、東京・国立代々木競技場 第一体育館3Daysを開催。周年記念公演ではシングルヒット曲を連打するのと対照的に、今回のツアーでは、これまでライヴで披露する機会の少なかった楽曲群を掘り起こし、スポットを当てるというコンセプトを掲げている。事実上の初日となった一般公演10日、11日両日を取材したが、次々と繰り出されるレア曲にファンは歓喜、会場は絶え間なくどよめいていた。これまで欠かさず披露されていた代表曲を外した大胆不敵なツアーであり、L’Arc~en~Cielのアグレッシヴな変化を感じ取れる、間違いなく魅力的なツアーでもある。ネタバレを回避するため具体的な表現は最小限に留めつつ、以下、見どころをレポートしていく。
2021年のアリーナツアー「30th L’Anniversary TOUR」で好評を博した、メンバーとの圧倒的近さを体感できるセンターステージを本ツアーでも採用。メリーゴーランドを想起させる回転式円形ステージを中心に、十字型に東西南北へと花道が伸びていた。ライヴが始まる前から会場には雨音や雷鳴が響き渡り、LEDモニターに投影される映像がムードを高め、暗い森の奥へと迷い込んだような心地になっていく。ヨーロッパの古城や地下室を思わせるモチーフのオープニング映像は、壮大なダークファンタジー映画のワンシーンのようで、“UNDERGROUND”というタイトルにふさわしい。ライヴはいくつかのチャプターから成る壮大な物語のように、一連のテーマを感じさせる映像を織り込みながら、MCで多くを語ることなく進んでいく。ミステリアスで不穏な暗黒世界から、光に満ちた平和な未来へと向かう“再生”のストーリーを読み取ったが、映像中にも解説は皆無。あくまでも観客一人ひとりのイマジネーションに働き掛け、読解を委ねているように感じられた。
セットリストは予想以上に攻めたチャレンジングな内容で、20数年、10数年ぶりの曲がひしめき、とにかく驚きの連続。10日と11日とで数曲の入れ替えがあり、幕開けの曲も異なるため、両日狂喜のどよめきの中ライヴはスタートした。3Daysのうち3日目だけ披露したレア中のレア曲もあり、今後ツアーの中で新たな隠し玉があるのだろうか?と期待が高まる。MCでhyde(Vo)は「思い出すのが大変でした。28年ぶり(に披露する曲)とか。びっくりしちゃった」とコメントしたが、「今歌うと逆に新鮮だったりしますね」とも語った。声色の表現領域を拡大し続け、19年振りとなる「Ophelia」ではサックス演奏も披露したhyde。懐かしい楽曲に時には新たなアプローチを取り入れ、より多彩さを増したギターサウンドで空間を色付けていくken(Gt)。メロディアスなベースフレーズを華麗に紡ぎ、コーラスでの活躍も飛躍的に増しているtetsuya(Ba)。要塞のようなドラムセットを定位置に、360度どの方位から見ても隙のないプレイを繰り広げるyukihiro(Dr)。4人のテクニックと表現は2024年の今なお向上と深化を続けており、久しぶりの披露となる曲たちは、最新鋭のヴァージョンに磨き上げられていた。
忘れ難いのは、天体の自転を思わせるゆっくりとした速度でステージが回転する中披露した、6分30秒超のメランコリックなバラード「a silent letter」。2000年にリリースされたオリジナルアルバム「REAL」収録曲で、24年ぶりの披露となる。LEDモニターの映像、会場全体を美しく構築する照明演出に加えて、ファンの手元ではオフィシャルグッズのL’ライトが無線制御で瞬いていた。それらの放つ光はむしろ暗闇を際立たせ、ステージはまるで銀河に輝く巨星のように幻想的に浮かび上がった。音楽、演出が融合して結実するそのような美しい場面を、このツアーでは幾つも目撃することになるだろう。
メンバーが花道に歩み出るとファンは熱狂的に名前を呼んで迎え、その一帯が遠景でもパッと明るくなっているのが分かるほど、晴れやかな笑顔で溢れていた。「声を出せるようになって初めてのツアーだもんね。4人揃ってる姿はどうですか? これが観たいんでしょ?」と語り掛けるhyde。L’Arc~en~Cielとしては約4年掛かって辿り着いた、待ち兼ねた声出し解禁ライヴである。「マニアックなメニューになってますが、ドエル(※ファンの総称)の皆さんはお好みでしょうか?」との問い掛けに客席から大きなリアクションがあり、「良かった」と安堵したhydeは、演出を手掛けたのはtetsuyaであることを明かして讃えた。2021年、コロナ禍の真っ只中にリリースした「ミライ」は本来、結成30周年を祝し、ファンとライヴで合唱するイメージで生み出された曲だったが、当時は叶わなかった。暗闇の中でピンスポットに照らされてhydeが独唱するパートの後、kenのギター、tetsuyaのベース、yukihiroのドラムが加わるごとに光が強くなっていき、やがて会場は虹色に染められていく。ファンによる合唱が今回ついに実現したラストはエモーショナルで、心を激しく揺さぶるものだった。
“UNDERGROUND”という響きからダークな世界観をイメージするかもしれないが、ツアーが始まって判明したのは、暗い曲をピックアップするという意味では全くない、ということである。例えばアルバムリリース時のツアー以降披露していないなど、ライヴで陽の目を見ることが少なかった、という点で共通する多種多様な楽曲たちで編み上げたセットリストには、L’Arc~en~Cielというバンドが元々持っている多面的な魅力が反映され、むしろ自然な姿を取り戻した、とも言える。ヘヴィーロック、退廃的なゴシック、ニューウェーヴ、ポップ、エレクロトなど挙げればきりがないほどレパートリーは幅広く独創的。曲中に一瞬スリリングなジャズアンサンブルを織り交ぜるなど、1曲の中にも豊かなグラデーションを持つ、美しき楽曲たち。その素晴らしさを浴びるように次々と体感できるツアーとなるだろう。MCでは、歓声が鳴り止まない客席を見渡して「すごい元気だよね。うれしいな。そんなに好き?」とhydeはいたずらっぽく笑い掛け、結成33年を迎えてなお熱烈に応援し続けてくれるファンに対し、tetsuyaも「うれしいね。幸せ。ありがとう」と感謝を述べた。35周年が視野に入ってくるこのタイミングで、これまでに生み出してきた名曲群と向き合ったツアーを開催するのは、バンドにとって意義深いことである。MCではメンバー間のクロストークが何度も生まれ、yukihiroは無言を貫いたがhydeにそのキャラクターをいじられて笑顔も見せ、4人の醸し出す空気感は温かく、会場を和ませていた。
開演前の体験型テーマパーク風アナウンスメントに始まり、次の展開への興味を惹かれる映像、L’ライトの色を観客自ら切り替えて回答するクイズコーナーTHE L’ArQuizも含め、ライヴの構成としては、小さな子どもから大人まで楽しむことができる、間口の広い設計となっていた。コアファンを満足させると同時に、エンターテインメント性を保持した枠組みを用意することで、たとえ聴き馴染みはない曲であっても、圧倒的なクオリティーと“今”の4人の実力によるパフォーマンスで魅了していく。広く愛されるポップさと深遠な芸術性とを併せ持つL’Arc~en~Cielの強みが最大限に活かされた、実験的かつ発明品のようなツアーがいよいよ始まった。次なる開催地は、2月28日、29日の大阪城ホール2Days。4月13日、14日の横浜アリーナでのファンクラブ会員限定公演でファイナルを迎えるまで12公演を行ない、L’Arc~en~Cielは全国のファンに会いに行く。
(文:大前多恵)
(撮影:Takayuki Okada、Kazutoshi Oguruma、Hiroaki Ishikawa)