AJICO、約2年の沈黙を経て再始動 ライブへの想いと「社会にちょっと物を言わせてもらいたい」と語る新作EP『ラヴの元型』の手応えをUAと浅井健一に訊く

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AJICOが再び動き出した。
UA(Vo)、浅井健一(Gt,Vo)を中心にTOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)という経験豊かなプレイヤーが2000年に顔を揃えた4人組。
1stアルバム『深緑』のリリースとそのツアーを含む1年に満たない活動が伝説化していたが、2021年、20年ぶりに復活。「地平線 Ma」他全4曲を収録したEP『接続』をリリース。その後、リリースツアーに加え、フェスやイベントにも出演した。
それから約2年の沈黙を経て、昨年11月、2024年3月17日から『TOUR 2024「アジコの元型」』を開催することを発表。ツアーするということは、新作も出すに違いないと多くのファンが期待する中、今年に入ってから、UA自らSNSで新作をレコーディングしていることを報告してファンを歓ばせた。
すると、レコーディングを終えたばかりのUAと浅井がツアーの意気込みを語ってくれるという。手元には新曲のラフミックスしかないが、せっかくのチャンスだ。新作の手応えも訊いてみよう。
ファンキーで、ポップで、ジャジーで、もちろんロックでバラードもあって、ボサノバのリズムの飛び出す新曲6曲は、『ラヴの元型』というタイトルでリリースされる。

――『接続』のリリースのタイミングでお話を訊いた時は、その後のツアーとフェス出演の予定しか決まっていないとおっしゃっていたと思うのですが、今回、新作をリリースしてツアーをしようと決まったのはいつだったんですか?

UA:いつかなぁ。すみません、まったく憶えてないや(笑)。1年ぐらい前じゃないかしら。

――どんなきっかけでAJICO再々始動ということになったんでしょう?

UA:いえいえ。2021年の再始動以降は“再始動”したままなんです。ただ、浅井さんも私もソロ活動があるので、AJICOとソロどっちも一緒にはできないというだけで。

――2021年の活動がいったん終わった後も“終わった”という意識はなく、おふたりの中ではずっと続いていた、と。

UA:そうですね。ツアーからの帰り道、車の中で“これからもやろうぜ”って話をしたのは憶えてますね。ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツがその頃に亡くなったんですよ。もちろん、自分たちはそんなに高齢ではないけども、ずっと続けていてもやむなく終わる時はどうしたって来るわけだから、みたいなことをちょっと話していて。“やれなくなるまではやりたいね”って意思表示をお互いにしたことを今思い出しました。

浅井:そうだったかもしれない。

UA:椎野さんってちょっと似てるじゃない? チャーリー・ワッツに。おしゃれでかっこいい感じが。

――それぞれに忙しいメンバーがどんなきっかけでと言うか、誰が言い出しっぺになって、また集まって、曲を作るとか、ツアーの計画を立てるとか、動き出すのか、僕らファンとしては気になるところなんですけど。

UA:いやぁ、期待してくださるほどおもしろい話はないんですよ。

浅井:言い出しっぺが知りたいんだね(笑)。誰だったんだろ?

――再始動の時はUAさんだったんですよね?

UA:そうですね。みなさん、家庭を含め、プライベートのいろいろがあるじゃないですか。恐らくその中でも私が一番時間に余裕がない……のかな。まだ小さい子供もいるし、住んでいるところも遠いし。だから、個人的な事情なんだけど、物理的に私ができる時が来ないと、できないのかなっていうのは思ってます。だから、私が言ったのかどうかは憶えてないけど、私がAJICOをできるのはいつだろうって探したっていうのはあるかもしれない。

――あぁ、なるほど。

浅井:代々木上原の蕎麦屋で決めたんじゃなかったかな。

UA:ああ、あれね! あれでいいんだ。

浅井:蕎麦屋で作戦会議と言うか、やるかやらんか会議があって、やろうぜって話になったんだ。

――『接続』のツアーが終わってからも続けたいと思ったのは、ツアーの手応えが大きかったからということもあるんじゃないでしょうか?

UA:確かに。

浅井:すごくよかったよ。仙台でThe Birthdayと一緒にやって。思い出深くなっちゃったけどね。

UA:ねえ、AJICOとしてやれてよかった。

――発想の順序としては、ツアーが先に決まって、ツアーするなら新作を作ろうとなったのですか?

UA:そういうことかもしれないですね。大人っぽく言うと(笑)。前回のひとしきりの活動の中で、“300曲ぐらいストックがある”って浅井さんがおっしゃっていて。だから、安心感があったと言うか、曲作りに困るなんてことはないんじゃないかなって勝手に思っちゃってたかもしれない。

――曲のストックが300曲も!?

UA:ちょっと大袈裟に言ったのかもしれないけど(笑)。

浅井:俺、300曲って言っとった?(笑)

UA:“コンピューターの中に何百曲もあるんだわ”って。

浅井:それはさ、昔と違ってさ。昔は曲の破片ができると、テープか、よくてMDに録ってたじゃん。そういうのってなくなったりとか、捨てたりとかしてたんだけど、今はコンピューターの中にずっと残っとるからね。だから、増え続けるんだよね、破片が。このフレーズ、すごくかっこいいからいつか使おうと思って取っとくじゃん。それがずっとファイルの中に残ってるから、そんなの入れたらめちゃくちゃいっぱいあるよ。そういうのをたまに聴き返して、すごくいいなと思ったやつをまとめて曲にしようってことをいつもやってるんだよ。そう考えると、めちゃめちゃいっぱいあるんだよね。もう数えられるわけがないって(笑)。

――いつ動き出しても曲はある、と。

浅井:だけど、曲はそうなんだけど、結局、大事なのは歌詞も含めて、どんだけ人の心をさ、胸を打つかっていうさ。そのフレーズを取り出してきて、そこから曲を作って、どういうものにするかっていうのは、その時から始まるからね。そこからそういうレベルまで行けるかどうかっていうのはわからんよ。曲のストックはいっぱいあるけど、それを取り出して、本物と言うか、すごいものにするのは、また違う努力とか才能とか偶然とかが必要なんだよね。

AJICOはロックバンドなんだからメッセージがあってもいいのかなって。不安になることを恥ずかしがらなくてもいい。(UA)

――今回のツアーは全国11ヵ所を回ります(※取材後、東京・日比谷野外大音楽堂公演が即日完売したため、さらに東京・Zepp Shinjku公演が追加された)。前回は追加を含め、計7公演でした。1本1本は充実していたと思いますが、地域も限られていたことも考えると、できるだけ多くの人に届けるという意味では、ちょっと物足りさも残ったんじゃないでしょうか?

UA:コロナ禍がなければ、もっとやるはずだったんです。ただ、私としては回数に物足りなさはなかったです。本当に毎回100%出し切ってやるってことしか私はできないので、物足りないとは思わなかったですけど。今回、観てくれる方が増えるのは間違いないので、ありがたいですよね。やっぱり、いつまでもできることではないと思うから。

浅井:うん、俺もすごい楽しかったよ。2001年の時よりも楽しかった。こんなに楽しいんだったらまたやりたいなと思ったよ。だから、今回、やるんだけど。もっとお客さんが盛り上がるようにしたいなと思って、ブランキー(BLANKEY JET CITY)の曲をUAに歌ってもらおうって思っとる。

――えっ。「ペピン」以外にですか!?

浅井:「ペピン」以外だね。“うっそー!?”みたいな曲を歌ってもらおうと思っとる。

――……すごいことをさらっと言われて、一瞬、言葉を失ってしまいました。

浅井:UA、そういうの好きだからさ。自分の歌を唄うのは嫌がるけど、人の歌を唄うのは嫌がらないのかなっていうのを発見したんだよ。

――曲はもう決まっているんですか?

浅井:決まってはいないけど。

UA:候補はいくつかあって、4曲あるんですけど、3曲は行けるって思ってます。

浅井:わ~お。3曲あるならいいじゃん。

――その3曲は全曲やる、と?

浅井:いやぁ、どうかな。

UA:バンドでやってみて、いいと思ったらですけど、たぶん大丈夫だと思いますけどね。ただ、あんまりやりすぎても。だから、あそこではこれやった、ここではこれやった、っていうのがいいのかな。

――そうですね。ところで、ツアータイトルは『TOUR 2024 「アジコの元型」』ということなんですけど、これは新しいEPのタイトルナンバー「ラヴの元型」からの派生ですよね?

UA:その通りです。

――元型というのは、ユングが提唱した人類に共通する心の動きのパターンを意味する心理学の概念だそうですね。だから、『アジコの元型』というタイトルには、AJICOの本質や根源的なものを見つめ直そうという思いが込められているのかなと想像したのですが。

UA:AJICOはロックバンドだから、そんなに意味が云々みたいなことを言いたいわけではないけれども、元々は浅井さんが「今回はかつてのAJICOの感じをもっと取り戻すと言うか、最初の感じに近づけたらいいよね」と言っていたんです。だから、それを念頭に置きつつ、私がやったことというのは――。前回、再始動ってなった時は、けっこう気合を入れて、歌詞もものすごく見つめ直して、歌い方も見つめ直して、というふうにものすごく練り上げたんですね。でも、現実、練り上げたところで、さらっとやったところで、仕上がりは同じなんじゃないかと思うようになっちゃって。なので、今回は、浅井さんが言っていた最初の感じということも踏まえて、ものすごくフラットに、あまり気合を入れないで、練り上げすぎずに日常の延長で取り組もうと決めたんです。元型から話がちょっとずれちゃってますけど、だから今回は練り上げてないんです。意識とか、意図とか、頭では。むしろ心からバーンと出るファーストインプレッションを極力ずらしていかないような感じでやっていたっていう。

――なんとなく『アジコの元型』というタイトルにも繋がるお話ですね。

UA:元型という言葉に関してもうちょっと言うと、「ラヴの元型」で《野生ならではの不安を 遠吠えしなさい イザイヤホー イザイヤホー》と歌うところがあるんですけど、今って不安があるじゃないですか。コロナ禍があって、あんなことになった後だし、戦争も起きたし。それなのに、みんな意外とその話をしない。不安を持ち帰っていると言うか。でも、自分で消化しきれず、結局、蓋をするみたいなところがあるのかなと思っていて。それなら、AJICOはロックバンドなんだからメッセージがあってもいいのかなって。「ラヴの元型」のメッセージってけっこう直球だと思っているんですけど、その不安になることを恥ずかしがらなくてもいい。元々、私たちが縄文人だった頃って、常に不安ってあったわけですよね。いつやられるかわからないという。だから、不安を感じるって、本能として持っているものなんだから、堂々と表に出してもいいんじゃないかということで、その歌詞は書いていて。それは人類が元々持つ共通意識じゃないか、という意味で“元型”としたんです。

――浅井さんが今回、かつてのAJICOの感じを取り戻したかったというのは?

浅井:曲を作る時にプロデューサーを立てるか立てないかってところで、昔は立てずにメンバー4人でああでもこうでもないと言いながら作ってたんだけど、この間の『接続』の時は、それとはまったく違うやり方でやったから、今回は自分たち4人で作るのがいいんじゃないか……って言ったっけ?

UA:ごめん、そういう意味だとは思ってなかった(笑)。

浅井:ハハハ。

UA:作品の感触がそうなれば、というふうに捉えちゃった。そこはごめんなさい。私の考えはちょっと違っていて、メンバーそれぞれにすごく個性的で、音楽を長くやってきているから完全な信頼があるんですよ。ただ、録音物っていうのはライブとはまた別だと思っているから。私はロックっていうものが自分たちと同世代だけに聴かれるだけではもったいないと思っていて。ティーンエイジャーと言ったら欲張りすぎかもしれないけど、せめて20代にも聴いてもらいたいと思うから、それなりのプロダクションは必要だと思っているんです。『深緑』を作った時は私たちも若くて、その世代の中にいたからそのままでもよかったんだけども、若い世代に聴いてもらいたいと思うのであれば、ちゃんと意識的にそれを落とし込まないといけないと考えたんです。熟成したロックみたいなものを演奏すると言うよりは、プロダクションをちゃんとやりたかったから、プロデューサーを選ばせてもらって、アレンジメントにもこだわらせてもらったところが今回もあります。

――それで『接続』の時の鈴木正人さんに加え、荒木正比呂さんにもお願いした、と。

UA:全曲、鈴木君ではなく、荒木君もいたほうが曲のニュアンスとしてはおもしろくなるかなって考えました。

――浅井さんは鈴木さんと荒木さんを迎えることについてはいかがでしたか?

浅井:それも全然よくて。やっぱり歌う人の気持ちが一番大事なんで。だから、UAがそう考えてるんだったら全然いいよっていう。それはそれで楽しみでもあったしね。

――漠然とした質問になっちゃうんですけど、今現在の“AJICOの元型”って言葉にするとどうなりますか?

UA:うーん、私としてはすごくフレッシュな気持ちで取り組んだ結果、自分の方法論は合っていたと思っていて。とにかくギリギリまでやらない。前もって、ものすごく練り上げて持っていくとかはやめようと思って、ギリギリまで書かずに本当に最新の自分の状態で、言葉と歌を乗せていくってことでやっていたんですね。だから、本当に全部、ギリギリで上げていったんですけど、それが結果、自分にとって思っている以上に新鮮なものに仕上がっていったんです。ただ、サウンドに関しては、鈴木君も荒木君も普段から仕事している2人だから、信頼関係が成立していることもあって、言葉で何かオーダーしてということはないけれども、デモは作っていたので、私の態度だったりとか、書いてきた歌詞だったりとか、歌い方だったりとかから汲んでくれて。もちろん、彼らが提案してきたものに対する浅井さんの反応っていうのも、彼らはすごく慎重に見ていたから、すごくいいところに落とし込めたと思っています。プロデュースされているAJICOのサウンドがすごく新鮮なんです。だから、本来、4人でって言っていた意味でのバンドらしいスタイルとは結果違っているんですけど、現場ではTOKIEさんも椎野さんもすごく楽しんでくれている様子が目に見えてわかったし、それはきっとツアーにも還元されると思っていて。だから、ツアーにこそ“元型”っていうのは醍醐味が出てくるのかな。

ライブをやっていると、お客さんが歓んで感動しているのがわかる。それが自分としても嬉しいし、自分にそういう能力があるんだったらやっていくのが人の生きる道かなとも思う。(浅井)

――今回のツアーはファンの期待に応えつつ、ファンの想像を超えるものになったらおもしろいし、きっとそうなるんじゃないかと思っているんですけど。ファンはどんなことを楽しみに足を運んだらいいですか?

UA:グッズとか?

――いや、グッズももちろんですけど(笑)。

UA:MCとか、ダジャレとか? ダジャレ大王なんで(笑)。

――そう言えば、鈴木さんがインタビューで、『接続』のツアーを振り返っていたんですけど、その中でUAさんはMCでも……。

浅井:長い(笑)。

――お客さんを笑わせないといけないと思っている節があって、逆に浅井さんは曲をどんどんやりたいタイプで。

浅井:そうでもないよ。

――そんな2人を見ているのがおもしろかったと鈴木さんがおっしゃっていました。

UA:なるほど。そこか。いや、喋らないなら喋らないほうが私はありがたいです。

浅井:喋らんかったら、喋らんかったで心配になるし、喋ったら喋ったで長くなりすぎると、もうそろそろいいんじゃないと思うし(笑)。今度のツアーは、ちょうどいいのがいいかな。

UA:そのちょうどいいも個人差がありますからね。

――UAさんはやっぱり……。

浅井:いつまででも喋っとるよ(笑)。

UA:誰か1人と喋ってるわけじゃないじゃないですか。(お客さんは)ものすごくいるじゃないですか。感じてしまうんですよ、何かそこに。無関心にエンターテイナーとして喋れたらいいと思うけど、全然、そういうプロではないから、つい何かね、いろいろ勘繰っちゃって(笑)。

浅井:みんな私の話を聞きたがってる、みたいな?(笑)

UA:いやいやいや、日本の方々は普通の話をものすごく期待しているイメージが近年特にあって。前回はみんなマスクをしていて、声を出せなかったじゃないですか。拍手でしか反応できなかったから、ほぼコミュニケーションレスだったわけですよね。そこでできることと言ったら、こっちが喋る。こっちが心を開く。そうやってどれだけ人として対峙できるのかなと思い込んでいたので、なんとか緊張をほぐしたいと思ってたかな。

――今度のツアーはマスクなしで、お客さんも声を出せるわけじゃないですか。UAさんのトークにお客さんが笑うことも含めレスポンスすることで、トークがよけいに弾みそうですね。

浅井:ハハハ。心配してくれとんの?(笑)

――いやいや、心配はしてないですけど、その時、浅井さんがどんな顔しているのか楽しみだなと思って。

浅井:別に、俺はフーンと思いながら見とるよ(笑)。

――長すぎると思った時は、浅井さんが合図するというのも一つの手ですね。

浅井:何回もしとるよ(笑)。いいんじゃない? みんなが楽しければ。お客さんが歓んでくれてるからいいと思うよ。みんな、話が聞きたいんだわ。

――浅井さんの話も聞きたいと思っていると思いますよ。

浅井:俺も喋るよ、ちゃんと。

UA:質問箱でも置いておこうかな。

浅井:そんなことやったらよけい長なるわ(笑)。

UA:だって、みなさんが聞きたい話をしたほうがいいでしょ。

――今回のツアーはもしかしたら質問箱もあるかもしれない、と(笑)。演奏面の見どころは、どうでしょう?

浅井:トッキー(TOKIE)のチョッパーなんて盛り上がるんじゃない?

UA:美女ベースはねぇ。

浅井:結婚したからお祝いもしなきゃ。UAがケーキを持って出てくるかもしれないよ(笑)。

――どんどんトークが長くなりそうですね(笑)。ところで、大きな質問をさせてください。なぜ、おふたりはライブをやるのでしょうか?

浅井:そんなの、なんで生きてるんですか? って聞くようなもんじゃない?

――でも、音源制作だけじゃ得られないものがライブにはあるからこそなんじゃないかと思うのですが、それをぜひ聞かせていただきたいと思って。

浅井:それはやっぱりライブをやっていると、お客さんが歓んでいると言うか、感動しているのがわかるんだわ。それが自分としても嬉しいし、自分にそういう能力があるんだったら、やっていくのが人の生きる道かなとも思うし。

――UAさんはいかがですか?

UA:そんなに難しいことではないと思うんですけど、敢えて今の時代にという意味で言うなら、制作ってどうとでもできちゃうようになっちゃったじゃないですか。以前にも増して。何でも直せちゃうし、何でもうまくできちゃうし。でも、ライブでは嘘をつけないと思うんですよ。中には本当に歌っていない人や演奏していない人がいるって話も聞くし、パソコンの音を掛けてやっている人もいるし。そういうジャンルのライブを観に行くのは、正直、好きなんです。ただ、それが胸を打つかと言ったら打たない。音源はあんなにかっこいいけど、ライブは、あら、こんななんだってがっかりすることもある。でも、AJICOは特にちゃんとライブをやるので。もちろんUAの時もそうだけど、それは絶対なくなってはいけないことだと思うんですよ。たまたま今世の自分の人生はライブ活動をずっと続けてきて、もう30年近く歓んでもらえているわけだから、この先何があるかわからないと言えば、わからないかもだけど、これからもライブはやり続けると思います。

浅井:みんな自由でいいと思うよ。DJパーティーとかでも感動するならそれでもいいと思う。そういうのもいいんだろうけど、俺は温かみのあることをやりたいかな。いや、わからんな。ただ、自分がライブやっとって、本当にこれいいなって自分で思ったりもするんだよ(笑)。そういう時を体験しているから、それを繰り返したいかな。

J-POPとは言いませんけど、ポップであろうとは思っていました。若い世代も手が伸びるようにしたかったんです。(UA)

――新しいEP『ラヴの元型』についても訊かせてださい。ラフミックスだったので、出来上がりの印象は変わるのかもしれませんが、前作の延長上にありつつ、またさらに新しい音像や魅力が感じられる作品だと思いました。UAさんがこだわったというサウンドプロダクションやサウンドメイキングには、どんなテーマがありましたか?

UA:J-POPとは言いませんけど、ポップであろうとは思っていました。さっきも言ったように若い世代も手が伸びるようにしたかったんです。リスナーという意味では、普段、自分が表現するエリアとはだいぶ範囲が違うと思うんですけど、アンノウン・モータル・オーケストラというオレゴン州ポートランドのバンドがすごく好きで。バンドって言ったら、今は彼らが本当にかっこいいと思うから、最初に浅井さんはもちろん、サウンドプロデューサーの2人にも聴いてもらいました。もちろん、それを目指すわけではないんだけど、ニュアンスとしてはヒリヒリとしていて、ちょっとプログレ感もあって、今の音っていう。しかも、アメリカはアメリカでも東海岸ではなく、西の、それも北のほうで、独特だとは思うけど……みたいに考えてたんですね。結果、サウンドプロデューサー陣が、それをどこまで意識したか、私はわからないんですけど、浅井さんからは“いや、売れなきゃね”って一言返ってきたから、あんまり興味ないんだなって思いながら(笑)。

――『接続』でもクラビネットを含め、キーボード類をけっこう使っていましたが、今回は生のピアノの音がけっこう鳴っているという印象でした。

浅井:生ピは「キティ」だな。

――はい。「キティ」ももちろん、「8分前の太陽光線」ではジャジーなピアノが鳴っています。

UA:ああ、なるほど。

――ピアノの音色を取り入れることがテーマの一つだったのかなと想像したのですが。

UA:いやいや、そこはテーマとしていたわけではなくて、鈴木君の役割が彼は元々ベーシストですけど、AJICOでは鍵盤で、荒木君もシンセが主だけど、プレイヤーとしてはやはり鍵盤でっていうのがあるかな。

――なるほど。それともう一つ、『接続』では今現在のポップなサウンドをアグレッシブに追求していたと思うんですけど。今回はそこも踏襲しつつ、70年代のソウルとか、ジャズとか、レトロなニュアンスが加わっているようにも聴こえました。「言葉が主役にならない」のリズムもボサノバっぽくて。

浅井:「あったかいね」がスティーヴィー・ワンダーの70年代の曲に似てるって俺は心配してたんだけど、一応、スタッフに訊いたら、全然似てませんよって言われて、ほっとした(笑)。

――「あったかいね」は、それこそピアノの感じから僕はシュガー・ベイブを連想したんですけど、かなりポップですよね。

浅井:めちゃめちゃポップだよ。ポップな曲が要るなと思って、先月、急に作りました。クリスマスぐらいに“これも入れようよ”ってUAにLINEしたんだよ。

UA:そうだったね。

――歌詞も印象的に残るフレーズが多くて。「微生物」の《丁寧なテキストより馬鹿な声を聞きたい》とか、「言葉が主役にならない」の《純粋無垢な怪物が音頭をとって 愛の存在を目撃していたい》とか。

UA:いいでしょ?(笑)

――はい。今の時代を反映しているようにも思えて。

UA:そのへんの私の言葉の感覚って、UAの時にはやらないことなんですけど、AJICOはロックだっていうのが大前提にあるから、すっごい楽に書けるんですよ。ちょっとシニカルで、社会に向ける感じっていうのは得意だと思うんですけど、やっぱりUAの時にそれをやると、何て言うのかな……。言ってもね、51歳のお母さんだから、なんかイタいじゃないですか(笑)。でも、AJICOでやるとちょうどやりやすいから、すごく楽しいですね。元々、そういう感覚を持ち合わせているところがあるので。

――UAさんの歌詞がシニカルである一方で、浅井さんの歌詞はけっこう……。

UA:ね(笑)。アットホームで。

――おちゃめな感じで。「キティ」なんて、《今朝起きた時に飼ってる仔猫が顔に乗ってきたよ あたたかくて可愛いね そのままいてくれていいぜ》という歌い出しから堪らないですけど。おふたりの歌詞のバランスもいいですよね。

UA:女性性と男性性が反転している感じがおもしろいですよね。でも、そもそもAJICOっていうバンド名は、浅井さんには全然相談せずに付けちゃったんですけど、野溝七生子っていう大正時代の女流作家から付けたんですよ。フェミニストなんて言葉がまだない時代に小説家になられた方で、女性だっていうことでいろいろ権利が与えられずにいたんです。誰もが知っているような作品ではないんですけど、『山梔』っていう代表作があって、その主人公が観阿弥・世阿弥の“阿”に、文字の“字”、子供の“子”で“阿字子”というんです。AJICOを始めた当時はそんなことを言っても全然ウケないと思って、一切言わなかったんですけど、再始動以降は訊かれたら答えるようにしているんです。その感じが今更、自分の中に宿ってきたと言うか。元々なかったわけではないけど、よりクリアになってきたと言うか。女だからってところは被ってませんけど、社会にちょっと物を言わせてもらいたいというところは、実は今回の作品の潮流になっていますね。

――なるほど。まだまだ訊きたいことはありますが、完成したタイミングで改めてお話を訊かせていただけたらと思います。最後に、『ラヴの元型』の手応えを訊かせてください。

UA:レコーディングが終わったばかりで、まだラフミックスの状態だから、リスナーが聴くような形で聴いてないんですよね。実は曲順も決まっていないから、全6曲を部屋の中で流してみたということはまだやってないんだけれども、たぶん最後まで聴いても、もう1回、頭に戻って、また流したいと思えるんじゃないかな。最後まで聴いたら、止めたいアルバムなのか、もう1回聴きたいアルバムなのかと言ったら、もう1回聴きたいと思ってもらえるんじゃないかと思います。

――浅井さんはいかがですか?

浅井:もちろん聴き応えのある、すげえいい作品になったと思っとるけどね。

取材・文=山口智男

 

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