レトロリロン
RETRORIRON 2nd EP「ロンリーパラドックス」 RELEASE ONEMAN TOUR 2024
2024.2.12 SHIBUYA CLUB QUATTRO
春の芽吹きのように勢いよく伸びてゆく、若い才能に触れることほど嬉しいことはない。2月12日、渋谷クラブクアトロ、レトロリロンのセカンドEP『ロンリーパラドックス』のリリースワンマンツアー2024の初日、東京公演。昨年6月にSpotify O-nestで初めてのワンマンライブを開催してから、半年ちょっとでクアトロをソールドアウトさせた実力は本物だ。男女比はほぼ半々、初めて見る人も多いはず。開演前からすごい熱気だ。
「楽しそうだね。大丈夫そうだ。みんな今日一日楽しんで行こう」
観客へというよりは自分に言い聞かせるような、涼音(Vo&A.Gt)の呼びかけが初々しい。レトロリロンは2020年結成、コロナ禍のせいでライブ経験はそれほど多くない。そのぶん見るたびに進化の度合いに驚かされるが、この日も「DND」で涼音がハンドマイクを握って観客を煽ったり、「Don’t stop」で涼音のアコギと飯沼一暁(Ba)のベースが向き合ってバトルを繰り広げたり、1曲ごとに見せ場が増えた。全員が音楽大学出身の演奏力の高さに加え、ライブバンドとしての迫力がどんどん身についている。それに全力の手振り、手拍子、歓声で応える満員の観客。素敵な雰囲気だ。
レトロリロン
どうやら今日はレトロリロンのファンしかいないらしいですーー。誇らしそうで照れくさそうな、涼音のMCをニコニコ見守るメンバー。miri(Key)と涼音の掛け合いが最高にかっこいい「Restart?」で、ラテンっぽい踊れるリズムと変拍子のブレイクもばっちり決める飯沼と永山タイキ(Dr)のリズム隊。レトロリロンの楽曲はすべて涼音が手掛け、アレンジの方向性も涼音が決める。ワンマンバンドと思われるかもしれないが、決してそうではないのは全員のプレイヤビリティの高さと柔軟性、そして人間性が絶妙なバランスで保たれているから。涼音を除く3人でのセッションでは、miriのピアノがリードするジャズ/フュージョン系のグルーヴィーな演奏で楽しませる。バンドは足し算ではない、掛け算で大きくなる。
涼音
飯沼一暁
永山タイキ
miri
中盤のハイライトは、涼音がハンドマイクを握り、観客にコーラスを任せて盛り上がる「Document」。メンバーの見せ場もたっぷりあり、永山が主役を張るパートがあったり、miriが叙情味溢れる美しいソロプレーを披露してそのまま「独歩」に繋げたり。音源だけ聴いて来た観客は、その柔軟な多様性に心地よく驚かされたはずだ。『ロンリーパラドックス』の核心となる曲の一つ「たださよなら、命燃え尽きるまで」の、miriがアレンジを手掛けた華麗なストリングスのメロディも、生演奏と同期させて抜群の効果を発揮する。ここまで8曲をノンストップで駆け抜け、歌い終えた涼音が「止まらなすぎる(笑)。長くなかった?大丈夫?」と笑う。いやいや、長いどころかもっと聴いていたかった。
レトロリロン
「いざステージに出れば楽しいってなるんだけど、この日を迎えるためにできることを全部やったのだろうか?って、ずっと考えてました。みんなはそんなことないよと言ってくれるから、それを糧に頑張っているけど、うまくいかないことはいっぱいあるんだよ」
文字に起こすと重く見えるかもしれないが、独り言のような涼音のMCには不思議な軽みがある。同世代、年下のリスナーに語り掛けるような飾らない親しみやすさがある。そして素晴らしく伸びやかで説得力溢れる歌がある。「ここで歌うことができて幸せです」と言って歌った「深夜6時」は、レトロリロンの過去曲の中で最も聴かれている代表曲。レトロリロンにあってほかのバンドにないもの、エレクトリックではなくアコースティックギター中心のグルーヴにピアノとリズム隊が寄り添うサウンドはとても風通しがよく、激しくてもうるさくない。だから歌詞がしっかり耳に届く。
レトロリロン
『ロンリーパラドックス』収録の、おそらく涼音が最も自身の本音をさらけ出した「TOMODACHI」の歌詞は特に心に響く。「あの時あの人にああ言えばよかった」と、個人的な後悔や不安が、誰にも覚えのある「みんなのうた」に変わる。本編ラストを締めくくる珠玉のバラード「ひとつ」の、魂を削り取るような涼音の歌にはしびれた。この日唯一の特殊効果と言っていい、とっておきのミラーボールの美しさが目に沁みた。
涼音
飯沼一暁
永山タイキ
miri
そしてアンコール。観客の多さに圧倒されて1曲目「ヘッドライナー」にピアノが入り損ねたとmiriが言うと、涼音が「反省は楽屋でやろう(笑)」とまぜっかえして観客がどっと笑う。このゆるさもまたレトロリロンのライブの楽しさ。軽快な「カウントダウン・ラグ」から、ラストは『ロンリーパラドックス』収録の「夢を見る」で締めくくり、笑顔で手を振る4人におくられる拍手の温かさ。この日のライブを経験した観客は、次のツアーも必ず来るだろう。1曲ずつ1ライブずつ、信頼を積み重ねてバンドとファンは共に大きくなる、レトロリロンは幸福な上昇スパイラルの中にいる。体験するのは今だ。
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文=宮本英夫
撮影=スエヨシリョウタ