今、大注目のバンド・新東京の描く理想郷とはーー「誰しもが表現を厭わない世界へ」1stフルアルバム『NEO TOKYO METRO』に込めた想い

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新東京 杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)

新東京 杉田春音(Vo)、田中利幸(Key) 撮影=ハヤシマコ

都会的な新時代J-POPを鳴らす、新東京の1stフルアルバム『NEO TOKYO METRO』がすこぶるかっこいい。杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、大蔵倫太郎(Ba)、保田優真(Dr)からなるギターレス4人組バンドで、2021年の結成以来、怒涛の勢いという表現がふさわしいペースでシングルのリリースを重ねてきた一方で、精力的にライブも行い、自身のツアーに加え、国内外の大型フェスにも出演するなど急成長を遂げている。全世界累計で1,000件を超えるプレイリスト採用実績を誇り、『関ジャム 完全燃SHOW』や『バズリズム02』などの人気音楽番組でもピックアップされ注目を集める。そんな彼らが満を持してリリースした『NEO TOKYO METRO』はいまどき珍しい全10曲が書き下ろしの新曲という意欲作となった。バンドを法人化するなど、既存のやり方に与しない活動を追求する彼ららしいと言えば、実に彼ららしい。

そもそもギターレスという編成が大きな流れに対するカウンターでありたいという意思を持っていることを想像させるのだが、『NEO TOKYO METRO』の何が一番かっこいいかと言うと、ジャジーでファンキーで、かつアーバンなスタイリッシュでモダンなポップスを装いながら、反骨精神がそこかしこに感じられるところだ。作詞・作曲、アレンジ、レコーディングはもちろん、ミックス以降のポストプロダクションも自ら手掛け、セルフプロデュースをとことん貫いた1stフルアルバムについて、バンドを代表して杉田と田中が語ってくれた。

杉田春音(Vo)

杉田春音(Vo)

マクロとミクロの2つのアプローチで作詞
振り幅の広さが際立つ1枚に

ーー全10曲が書き下ろしの新曲というのもたまたまではなくて、反骨精神や独自性の発露という意味合いもあるんじゃないかと想像したのですが、今回のアルバムがそういう作品になった経緯や意図を教えてください。

田中:元々、僕らはシングルを4曲カットしたら、それをEPにまとめるということを繰り返してきたんですけど(※EPは現時点で第4弾までリリース)、もちろんアルバムも作ってみたいとずっと思っていて。実際、アルバムを作ろうとなったとき、アルバムとしてリリースする意義のあるものにするべきだと思ったこととプラス、1曲1曲ちゃんとアルバムのために作りたいと考えたんです。そうじゃない、たとえばタイアップを含め、別に書き下ろした曲が入っているとか、アルバムリリースの数か月前にシングルカットした曲が入っているとか、そういう作り方もあると思うんですけど、それは今回、僕らは違うと思ったので、全10曲、新曲としてこのアルバムのために書き下ろしました。

ーー全10曲、作曲からマスタリングまでほぼ同時進行だったそうですが、アルバムの全体像をまず思い描いてから曲を書き始めたんでしょうか?

田中:歌詞に関しては、最初にこういうコンセプトで、こういうアルバムにしようと決めてから書いていきました。その後、その歌詞に合わせて曲を組み立てていったんです。

ーーコンセプトを含め、今回はどんなアルバムを作りたいとか、新東京の、どんな姿を見せたいとか、あらかじめ考えていたのでしょうか?

杉田:『NEO TOKYO METRO』というアルバムタイトルは、新東京というバンド名を英語に変えた造語なんですけど、タイトルにふさわしい、僕達の代名詞となるような作品を作りたいと思いました。コンセプトについて話し合った時に「NEO TOKYO METRO」を1つの理想郷として捉えようというアイデアが出てきたんです。その理想郷というのを誰しもが表現を厭わない世界だと定義して、それを1つの大きな軸として、僕は作詞を始めました。目線の高さが違う曲がごちゃ混ぜになっていると思うんですけど、マクロとミクロの2つのアプローチで作詞を進めていったんです。

ーー今回、マクロの視点で書いた歌詞は現代社会に対する辛辣な批評になっていると感じたのですが、辛辣な批評の中から、だったら理想郷はどうあるべきなのかと導き出していったのでしょうか?

杉田:いえ、理想郷を意識したことによって、翻って現代社会を見つめてみるという流れでした。日々生きていると、やっぱり思うことがいろいろあるんですよ。これまではそういう社会批判みたいなものを題材にすることはなかったんですけど、ずっとやりたいと思っていたんです。だから、ようやくそのテーマで書けたと言うか、そういうテーマで書いていったら、日々思っていることを発散できるんじゃないかってところで、さまざまな思いをぶつけていきました。

田中利幸(Key)

田中利幸(Key)

ーー歌詞を書いてから、歌詞に合わせて曲を組み立てていったそうですが、どんなところを取っ掛かりに曲を作っていったのですか?

田中:曲調やアレンジは、歌詞と同じ元々あるテーマからイメージしていくんですけど、メロディや、その譜割に関しては、そこに載る言葉に合っているかとか、歌った時に気持ちがいいかとか、そういうところですよね。

ーーなるほど。言葉が重要なわけですね。作詞を担当している杉田さんの語彙感がけっこう今っぽくないと言うか。

杉田:(笑)。

ーー前時代的と言ってしまうと、言い過ぎかもしれませんが、敢えてなのかどうなのか、今、あまり使わないような言葉を使っているところが個人的には好みでした。

杉田:ありがとうございます(笑)。言葉遣いに関しては、そんなに意図的に考えたことはなくて。ただ同じ意味でも表現のしかたによって、味わいとか、醸し出す空気感とかって違うじゃないですか。それを割と自然に、自分にとって心地いいものを選んでいった感じなんだと思います。

ーー普段、ご自分が使っている言葉ではあるんですか?

杉田:そうですね。割と変な言葉で会話するのが好きなんですよ(笑)。

田中:変な言葉、使ってますね。たとえば、“げに”とか(笑)。でも、春音だけじゃなくて、大蔵も保田も変な言葉を使ってます。

杉田:一般的に日常で使わない言葉の響きってすごくわくわくするんですよ。それをどう日常会話に落とし込むかみたいな、ある種のゲームみたいなことをみんなでやってます。

田中:ずーっとやってるんですよ(笑)。

杉田:歌詞はその賜物かもしれないです(笑)。

ーータワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE!」のポスターに使われていましたが、1曲目の「NTM」の<農民の詩が万葉集で生き続ける限り>という歌詞はキャッチーでもあるし、強烈でもあるし、すごくいいですよね。

杉田:それこそ、さっきお話した「誰しもが表現を厭わない世界」というテーマと一番マッチする歌詞だと僕は思っていて。僕はこのバンドを始めるまで、作詞の経験ってまったくなかったんですけど、恥ずかしがったり、躊躇したり、日本の社会においては一般の人が表現することはあまり歓迎されないことだとされていると感じることが多くて。でも、諸説ありますけど、『万葉集』には農民とか、防人とかの歌も入っていたじゃないかとふと思い出して、そんなに昔の書物にさえ、名もなき人達の歌が記録されているくらいなんだから、僕達もその精神を見習うべきじゃないかという思いを込めて、その歌詞は書きました。

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)

ーー今のお話、めちゃめちゃ共感できます。時の天皇の命令で作られたという説もあるんですけど、天皇や貴族による歌に混じって、名もなき庶民の歌が収録されているってすごいことですよね。奈良時代にも杉田さんのように誰しもが表現することを厭わない世界を求めていた人がいたんじゃないかと想像が膨らんでしまうのですが……ところで、『NEO TOKYO METRO』の全10曲の中から先行配信として、2曲目の「Escape」と5曲目の「さんざめく」の2曲を選らんだのは、どんな理由からだったのですか?

田中:「Escape」が一番尖っていて、「さんざめく」が一番キャッチーだったからです。

ーーなるほど!

田中:特にその2曲にこだわりがあったわけではないんです。どの曲でもよかったんですけど。

ーーそれは全曲が自信作だから。

田中:でも、その2曲を聴いたら、どんなアルバムなのかイメージできるだろうと思って、最初に出すならこの2曲がふさわしいと思いました。

ーー新東京が持っている振り幅の広さを対照的に象徴している2曲ということですよね。

田中:それで残りの8曲が同じタイミングで出たとき、その2曲がどう繋がるのか楽しみにしてもらえるんじゃないかとも思いました。

ーー<さんざめく>って賑やかに騒ぎ立てるという意味ですが、これも今、ほとんど使わない言葉ですよね。そういう言葉をサビに持ってきて、キャッチーなメロディに載せるという発想が振るっていると思います。<さんざめく>ってこういうふうに歌うと、こんなにキャッチーに聴こえるんだという新たな発見もありました。どんなところから思いついた言葉なんですか?

杉田:僕が昔、ノートに書いたらしいです(笑)。

ーーらしいというのは?(笑)

杉田:書いた憶えがないんですよ。それをトシ(=田中)がたまたま共有しているフォルダーから探し当ててきて、<さんざめく>って言葉を、この曲のサビに絶対使うぞって。それがアルバムで一番最初に決まったことじゃない?

田中:そうだね。曲作りのかなり早い段階にリード曲のサビに使えるようなメロディと、<さんざめく>というワードが出てきて、アルバムがんばろう。いいアルバムができそうって思いました。

過酷な制作スケジュールを経て完成した渾身の10曲
生々しい音像が、ライブでさらに熱を帯びる

田中利幸(Key)

田中利幸(Key)

ーーさて、作曲、アレンジ、レコーディングまでは淡々と正解を選んでいったものの、その後のミックス、マスタリングでは、ずいぶんと悩んだそうですね。どんなところで悩んだのですか?

田中:全10曲を連続して聴いてもらうために、その10曲を統一感のあるものにしないといけないと考えたんですけど、その一方では、曲ごとにふさわしいミックスというのがあって、そのバランスの塩梅が難しかったです。だから、1つの曲として完成させた後に便宜上、2つに切るみたいなこともやったりしました。

ーー確かに全体的に曲間が短いという印象で。しかも2曲目の「Escape」から7曲目の「Waste」までと、8曲目の「7275」と9曲目の「刹那」が一続きになっている。そういうところも興味深かったところなのですが、それはおっしゃったように1つの作品として聴いてもらうという狙いがあってのことだったんですね。

田中:せっかく10曲、同時に出すわけだから、やっぱりアルバムとして聴いてもらいたかったんです。だから、曲が一続きになっているところでは、前の曲のアウトロを、次の曲のイントロにどう繋げるかこだわったりもして。

杉田:なぜ全10曲書き下ろしたのかという話に戻っちゃうんですけど、やっぱり曲単体のストーリー性だけじゃなくて、曲と曲のストーリー性も作り込みたかったんです。それは作詞においても、メロディにおいても、構成においても、あらゆる点において、作り込むことが全10曲書き下ろす意味でもあるし、それぐらいのことをしないと、アルバムを出す意味がないんじゃないかというのが最初に起こった議論で、このアルバムはそこから始まったと言ってもいい。

ーー新たな挑戦も含め、今回の作曲、アレンジにおけるポイントはどんなところでしょうか?

田中:アレンジにおいては、これまでエレクトロをやってみたり、オルガンやシンセを入れたりしたこともあったんですけど、今回は10曲すべて4人だけで奏でられるものにしました。たとえば、僕はエレピかピアノしか弾いてないし、ドラムも全部、生ドラムだし、ベースもベースしか弾いてない。だからこそ統一感も出たと思うし、全曲、4人の音しか鳴ってないので、ライブでも音源通りの音を楽しめるものになっています。

ーー統一感を出すのであれば、たとえば全曲にシンセを入れれば、シンセサウンドという統一感が出ると思うのですが、なぜ今回は4人の音だけだったのでしょうか?

田中:エレクトロをやったとき、ライブで100%楽しめなかったんです。ドラマーはクリックを聴かなきゃいけないし、その時のテンション感でテンポを変えることもできないしということがあって、生に対するこだわりが最近どんどん増えてきて、なおかつメンバー全員が場慣れして、ライブを楽しんでやりたいという気持ちが強くなっているんです。それで今回はそういうシンプルなアレンジになりました。

ーー生という意味では、ボーカルの音像もすごく生々しいですね。

田中:そうですね。基本的にボーカルは真ん中にいるものなんですけど、ボーカルのハイだけ切り取ってステレオにしてみたりとか、息遣いだけ耳に近いところで、左右で聴こえるような音像にしてみたりとか。あとはレコーディングの時に息遣いを積極的に録って、それをミックスで入れ込むということもやりました。

ーー生々しさを際立たせるギミックも駆使しているわけですね。レコーディングは4人が「せーの」で演奏しているんですか?

田中:いえ、それぞれにレコーディングしたデータをやり取りするというやり方です。アルバムが完成したタイミングでは、まだ1曲も4人で合わせていないんです。だからこれからライブまでがんばって練習しないと(笑)。

ーー全10曲中1曲、「7275」だけ、作詞が杉田さんではなくて、大蔵さんなのですが、大蔵さんが歌詞を書くことはこれまでもあったのですか?

田中:なかったです。

ーーどんなきっかけから大蔵さんが歌詞を書くことに? 歌詞と言うか、スポークワードだから詩ですよね。

杉田:この曲は語りの曲にしようということで、僕も一応書いたんですけど、小説のような歌詞になってしまって。それと詩の中間点と言えるものが欲しいよねって話になったとき、大蔵に書いてもらったら、ジャストのものができたので、そのまま使いました。大蔵は元々、グッズで小説を売っているので、文章を書く習慣はあったんですよ。

杉田春音(Vo)

杉田春音(Vo)

ーー杉田さんが書いたものをベースに書いてもらったんですか?

杉田:いえ、何も見せずに一から作ってもらいました。

ーー「7275」というタイトルについては、リスナーそれぞれに想像すればいいと思うのですが、一応、どんな意味なんですかと訊いてみます。

田中:1秒間は75刹那だそうです。刹那っていうのは時間の長さの単位で、1回指を弾いた時の時間が1刹那らしくて、それが75回あると1秒になるそうです。この曲の長さがちょうど7275刹那だったのでタイトルにしました。

杉田:刹那の秒数の数え方には諸説あるらしいので、完璧な正解とは言えないんですけど、一番有力な1秒75刹那を基準にしました。

ーーでは、その次の曲のタイトルが「刹那」というのは偶然ではないんですね?

田中:もちろん。そこに繋げるように大蔵に歌詞を書いてもらいました。

ーー歌詞の話をもうちょっと聞かせてください。歌詞にはマクロとミクロの視点があってミクロの視点では、人と人との関係性や感情の揺らぎを歌っているそうですが、たとえば、どんなことをモチーフにしているのでしょうか?

杉田:割と自分の実体験に根差した部分も大きくて。人間関係の発芽から、その蕾が成長していって、枯れるまでの一連の流れに儚さや切なさを感じることが多いんですよ。その中で小さい決断とか迷いとか、突き放しとかがさまざまなものに与える影響の大きさを痛感した時に、それを言葉にしたいというのがあって。たとえば序盤で連続している「Perrier」「踊」「さんざめく」は、そういうことを等身大に綴った感覚があります。

ーー歌詞の中には男女2人が出てくるものもあると思うのですが、恋愛関係もモチーフになっているのでしょうか?

杉田:そんなに意識しているわけではないですけどね。いろいろな関係性について言えるよなと思いつつも、1つのモチーフとしてそれはあると思います。

ーーポップスにはそれがふさわしいと考えているところもあるのですか?

杉田:それはどうかな。自分が書く歌詞はポップスと言うには生々しいという自負はあるんですよ。ポップスにするには、もうちょっとわかりやすく、悲しがったり、寂しがったりしないとダメじゃないですか。「さんざめく」の<あの狭い部屋にまた戻される>というイメージなんですよ。自分の中にいろいろな感情が渦巻いていて、それに支配されている時の感情のアウトプットとして言葉になったものが多いと思うので、いわゆるポップスとはちょっと違うのかなと思います。

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)

ーーさて、1stフルアルバムを完成させて、どんな手応えがありますか?

田中:メンバーに完成品を聴かせた時の反応を見て、感動して、いや、感動してと言うか、武者震いして、いいものが本当にできたと思いました。けっこうメンバーにも無理をさせて、レコーディングさせたり、歌詞を書かせたりしたので、いいものができてよかったです。

杉田:全曲を通して聴いてみて、アルバムとしてちゃんと意義があるものを作りたいという最初の目標の設定が正しかったと確信しました。流れの美しさや、そこに対する意義、ストーリー性は楽しんでもらえるはずだと思います。

ーーメンバーに無理をさせたとおっしゃいましたが、制作期間はどれくらいだったのですか?

田中: 11月とか12月とかに始めて。

ーーえっ、去年のですか!?

田中:そうです。だからマスタリングまで入れて1か月半ぐらいでした。

杉田:過酷だったね。

田中:過酷でした。

ーー1年ぐらいかけたと思っていたんですけど、1か月半ってすごい。

田中:これまでは曲を作ったらすぐに出してきたんですけど、今回は敢えて曲を貯めて、10曲まとめて出すっていう初の試みだったので。

ーー貯めてって、1か月半じゃ全然貯めてない(笑)。

杉田:さすがにちょっと懲りましたけどね。曲を作って、レコーディングしたら終わりってわけではなくて、ミックス、マスタリングという細かい作業まですべて自分達だけでやっているので、最後まで全員で見届けないといけないってところで、やっぱり過酷でしたね。

田中:好きなことをやっているから徹夜しても楽しかったですけどね(笑)。

ーー今日、ここにいない2人が楽しかったと思っていることを祈ります(笑)。

田中:ハハハ。

ーーそんなアルバムをひっさげた、全国6都市を回るツアー『全国6都市ツアー 2024 “NEOCRACY”』というツアータイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか?

田中:NEOと“~による支配、~による社会”という意味の-CRACYという接尾辞を繋げて「NEOCRACY」としたんですけど、アルバムタイトルともリンクしていて、誰しもが表現することを厭わない理想郷を『NEO TOKYO METRO』として打ち出した中で、新しい支配、新しい社会としての自分の表現が自由にできる場所という意味でツアータイトルにしました。

ーーステージから見て、新東京のライブではお客さんはどんなふうに楽しんでいますか?

田中:人それぞれだと思います。全員で手を上げてというのもあんまりないし、それぞれの世界で楽しんでいるという印象が僕はあります。

杉田:決まった乗り方があるわけではなくて、音楽そのものを楽しみに来ている方が多いと思います。僕達、ライブではソロ回しも含め、即興に重きを置いているところもあって、メンバーそれぞれにリハーサルでは出したことがないフレーズをいきなり繰り出すこともあるんです。それがお互いに刺激になって、演奏が盛り上がることがあるんですけど、その熱がお客さんにも伝わって、客席が熱を帯びることもありますね。

ーー単純に音源の再現だけにとどまらない、と。アルバムの曲が中心になるとは思うのですが、どんなツアーにしたいと考えていますか?

田中:ライブで一番大事なのは、僕ら自身が楽しめることだと思っているんです。お客さんの表情を見ていると、僕らが自信を持って楽しそうにやっている時が一番、お客さんも乗っているという印象があるので、新曲をやりたい気持ちはもちろんあるんですけど、まぁ難しくて(笑)。ライブ全体のクオリティを担保する上で、どうしようかなという塩梅を今、悩んでいるところです。

ーー繋がっている曲はアルバムの曲順通りに演奏するのか、それとも敢えてバラバラにするのか? そこも考えているところだとは思うのですが。

田中:そうですね。ある程度は考えているんですけど、ライブに来てみてのお楽しみということにさせてください(笑)。

取材・文=山口智男 撮影=ハヤシマコ

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