ヒップホップは常に更新されていくものだ。この50年で次々と姿を変えていった。特にインターネットの発展により、既存のジャンルにサブジャンルが生まれ、サブジャンルのサブジャンルも登場し、また国、地域、ヒップホップ以外の音楽との接続も可能となった今日、シーンは無限に細分化し続けている。あらゆる変化を許容するのがヒップホップのおもしろいところではあるけど、同時に難解なところでもあり、気づくと見知ったアーティストばかり聴いてしまっている自分もいる。
フェスの良いところは知らない文化に触れられることだ。例えばイヤホンでトラップを聴いてもピンと来なかったのに、現場で爆音のサブベースとアーティストのエネルギーに触れると、固定観念が打ち崩されて身体が自然と動いてしまう。すると同じ音源なのに、ライブ以前と以後で聴こえ方が変わってくる。そういう体験ができる。
4月6、7日に千葉・幕張メッセ国際展示場 9-11ホールで開催されるフェス『GO-Aheadz(#ゴーアヘッズ)』は、まさにそんな気づきの連続になりそうだ。“国・ジャンル・カルチャーを越え時代を象徴するアーティスト”をテーマに、バラエティ豊かなアーティストが集う。1日目のヘッドライナーは日韓はもちろんアジアにも活躍の幅を広げ、アーティストとしてどんどん自信を増しているように見えるちゃんみな。iKONのBOBBYにフィーチャーされた「무중력(harmless)」のMVも大きな話題になっている。
2日目のヘッドライナーは¥ellow Bucks。脈々と続く名古屋のヒップホップシーンをレペゼンするラッパーで、この2月に先輩であるAK-69と地元・日本ガイシホールでツーマン公演『AK¥B』を大成功させたばかり。両日のヘッドライナーはともにライブパフォーマンスに定評があるアーティストだ。
Wez AtlasやSKRYUという注目の新人からスタートするDAY1には、(sic)boy、釈迦坊主、CVLTEというレフトフィールドなアクトが並ぶ。この流れの中でWatsonがどのようなパフォーマンスで会場をぶち上げてくれるのかは注目ポイントと言えるだろう。
続くPaul BlancoはYo-Seaを好きな人に聴いてもらい韓国のアーティストだ。ご存知の方も多いと思うが、彼はRM(BTS)のソロアルバム『Indigo』に参加したほか、Jack Harlowの楽曲もプロデュースしている。この時間帯を楽しみにしている人も少なくないはずだ。
沖縄からOZworld、さらに同じく沖縄出身の唾奇×CHICO CARLITOのステージも注目したい。特に唾奇は2024年になってGeG(変態紳士クラブ)のアルバムに2曲参加し、OZworldのアルバムにAwichとともに客演するなど精力的に活動している。今回は盟友・CHICO CARLITOとともに沖縄ヒップホップのバイブスを届けてくれるだろう。
Gottz & MUDは個性派が揃ったKANDYTOWNの中でも一際エネルギッシュなふたり。変幻自在のグルーヴをあやつる彼らが幕張メッセの大舞台でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。
おなじくK-TOWN(東京・喜多見)から孤高の存在感を放つIOは作品を出す度にアーティストとしてのスケール感を増している印象だ。KANDYTOWNのメンバーであるGottz & MUD、IOのコラボはあるのだろうか? ファンとしては期待してしまう。
BIG Naughtyは21歳のスターラッパー。韓国の国民的大人気番組『Show Me the Money(通称:ショミド)』で才能を見出された。またimaseの出世曲「NIGHT DANCER」のリミックスに参加したラッパーとして知っている人も多いかもしれない。
単独武道館公演も成功させたSIRUPはバンドセットでパフォーマンスする。「GO-Aheadz」のテーマを地で行く彼は、音楽の文化的多様性を証明するかのようなスタンスで活動している。今回は特に熱のこもったステージを見せてくれるだろう。
ASH ISLANDはエモーショナルなラップスタイルがトレードマークの韓国の若きスターラッパーだ。昨年リリースしたアルバムではPaul Blancoとも共演している。しかし今回のラインナップでいえば、やはりちゃんみながフィーチャーした「Don’t go (feat. ASH ISLAND)」だ。現時点で同曲をプレイするかは定かでないが、どうしても期待してしまう。
DAY2はYouTubeの人気番組『Small Room』でおなじみ、韓国のラッパー・Kik5oから。午前中は、前日に登場したWez Atlasとも関係が深いVivaOla、インターナショナルなスタンスの若手クルー・Bleecker Chromeがステージに立つ。
お昼帯は日韓のヒップホップシーンでそれぞれワン&オンリーの個性で活躍するHIYADAMとZene The Zillaが登場する。さらに昨年末に傑作アルバム『LOYALTY』を発表した秋田の才人・Lunv Loyal、どこでもぶちかます横浜のOnly U、Tokyo Young VisionのHideyoshi、そしてヒップホップシーンとクロスオーバーするバンド・Paledusk、Kヒップホップシーンの重鎮・CHANGMOと続く。それぞれ共演曲が多いので(HIYADAM「Come! feat. Only U」、Only U「当たり前 (feat. LEX & Hideyoshi) [Remix]」、Paledusk「SLAY!! feat. Hideyoshi」)、息つく暇がなさそうな時間帯になりそうだ。
後半戦はDJ CHARI & FRIENDSからスタート。日本のヒップホップに欠かせないDJ/プロデューサーだけにどんな“友達”が駆けつけるかも楽しみなところ。また実直な人柄とストイックなラップ、大胆不敵なパフォーマンスでスターダムの階段を着実に登っているralphにも期待が集まる。このバラエティ豊かな日本のヒップホップシーンを、韓国のミュージシャンたちがどのように見るのかも興味深い。
TSUBAKILLは韓国の人気ダンス番組『Street Woman Fighter(通称:スウパ)』に出演した日本人女性のダンスチーム。DAY1でも触れた『ショミド』にしろ、この『スウパ』にしろ、内容的には日本でいうところの『ラップスタア誕生!』をイメージしてくれればいい。だが明確に違うのは、若者だけでなく、年輩のリスナーまでもが観てるということ。ゆえにKヒップホップシーンには『ショミド』出身者が多く、メジャー感があるし、『スウパ』に出演したダンサーたちも大きな影響力を持っている。
Lee young Jiは『ショミド』の学生版『高等ラッパー』出身で、『ショミド』でも優勝経験がある。実力は折り紙つきな上、彼女には最高にチャーミングなキャラクターも備わっている。昨年韓国で大ブレイクして、今年1月には初の来日公演も開催された。今回はpH-1との「NOT SORRY」を生で聴けるのかも楽しみだ。
Dynamicduoは韓国でヒップホップがメインストリームになる前から活動しているレジェンドだ。韓国の音楽シーンはUSのメインストリームから強い影響を受けているが、Dynamicduoはどちらかというとコンシャスなサウンド感のヒップホップを続けている。
そんな彼らの後に舐達麻が登場するのも興味深い。刺青だらけの3人組がUKのトリップホップやLAのビートミュージックからの影響下にあるトラックで、散文詩のようなリリックをラップする。世界中を見回してもこんなグループはなかなかお目にかかれない。
日本と韓国は(政治ではなく)現場レベルの自主的な文化交流を通じて、良好な関係を築き上げてきた。正直自分が韓国カルチャーをウォッチしはじめた頃、「GO-Aheadz」規模のフェスなんて考えられなかった。本当に時代は変わったと思う。これは当たり前のことではない。だからこういう文化が交差する瞬間を現場で体感してもらいたい。好きな誰かだけを観に行くのももちろん良い。でも、どうせなら知らない何かとの出会いも体験してほしい。アイドルやアニメ/マンガだけでなく、インディペンデントな音楽シーンもつながったら、日本も韓国も絶対にもっと面白くなる。「GO-Aheadz」にはそんな貴重なつながりの始まりになってほしい。なお、チケットは現在絶賛販売中だ。
文=宮崎敬太