甲田まひる 撮影=大橋祐希
16歳でジャズピアニストとしてメジャーデビューした異才。ファッションアイコン、俳優としても活躍するシンガーソングライター、甲田まひるが、TVアニメ『ぶっちぎり?!』のエンディングテーマ曲「らぶじゅてーむ」を書き下ろした。「ヤンキー×千夜一夜物語」というアニメの世界観に寄せたアラビア風のユニークな楽曲で、パワーパフボーイズの振付にも挑戦。23歳の誕生日である5月24日には、初のワンマンライブも決定し、2024年をスタートダッシュで駆け抜ける彼女に話を訊いた。
――新曲「らぶじゅてーむ」は、TVアニメ『ぶっちぎり?!』 のエンディング テーマということですが、アニメのヒロインのまほろちゃんって、甲田さんに似ていますよね。
そうなんですよ。お話をいただいた時、スタッフさんにも「性格も顔も名前も似てる」と言われました。似ているからなのか、ヤンキー×千夜一夜物語というあまりない題材だからなのか、作品にすごく惹かれました。私のためのアニメかも(笑)。今年のハロウィンはまほろちゃんのコスプレをしようかなと思っています。
――オリジナルアニメということですが、曲を作る段階ではどこまで作品について分かっていたのですか?
最初の段階では、アニメの映像はまだなくて。台本とキャラクターの相関図を見てイメージしていきました。女の子の登場人物がまほろちゃんくらいなので、まほろちゃんの視点で書いてみると新しいことが生まれそうだし、私がやる意味があるのかなと思いました。
――制作サイドからは、どんなリクエストがあったのでしょうか。
まず、“曲調はアラビアな感じで”というのがあったので、音階やキーの感じは、がっつりアラビアに寄せました。参考資料として渡されたものには、アラビアの現地の録音から、日本の2000年代の感じのゆるくラップしている曲なども入っていましたね。内容についてはわりと自由だったので、歌詞のテーマは私の想像の世界。でも、出てくるワードや細かいニュアンスはアニメとリンクさせようと思って、台本を読み込んで書きました。
――アラビアンな曲なんて、書く機会ないですよね。
そうですね、でも楽しかったですよ。子どものころに、ヤマハ音楽教室の作曲発表会やコンクールで、ジプシーやさまざまな国の要素を用いて曲を作るという課題があったので、世界観に基づいてトラックを作るのにも慣れていました。
――歌詞はどうやって書いていったのでしょう。
普段から歌詞は、カフェに行って書くことが多いかな。私にとっては、ちょっと運気が上がる場所なんです。外で書くときは、リリック帳……、紙に書きます。家で曲作りと同時に歌詞を進める時は、制作ソフトの中にトラックと一緒に歌詞を書けるノート機能があるので、それを使ったり。「らぶじゅてーむ」は、リリック帳に書いていました。でも、スタジオで“歌を録るぞ”という直前にガラッと全部変えちゃったので、最初に書いていたものとはほぼ違うものになっちゃいました(笑)。
――なぜ、そんなことに?
う~ん、納得できなかったというか、何か違う感じがしていたので。歌詞がハマる瞬間があって、それが事前に書いていたものにはなかったんですよね。だからずっとモヤモヤしていて。
――スタジオに来て、大きい音でトラックを聴くと、ピピっと来ることってありますよね。
そうですね、環境が変わると聞こえ方も全然違いますから。それに、プロデューサーさんが私が歌詞を考えてる間にほかの作業を進めてくれている安心感もあって、スタジオに行くとできることが多くなるという側面もありました。
ダンスをしながら歌にも集中するのが難しくて。後からモニターで確認すると、やっぱり細かいところで手が曲がっていたりして、難しいです。
――プロデューサーさんとの作業ということですが、自分でトラックはどの程度まで仕上げているんですか?
曲によるんですけれど、今回はお話が来た段階から一緒に先方のリクエストも聞いてもらって、一緒にトラックも作ってもらって。お互いアイデアを出し合って作った感じです。でも、サビの後半のジャズセクションは家で弾き語りしながら思いついて、ピアノやベース、ドラムを打ち込んでスタジオに持ってったんですよ。
――リズムネタっぽいイントロが頭から離れないのですが……(笑)。
“始まりはやっぱりキャッチーなのがいいよね”という話からの、アレです(笑)。掴みという点では、アウトロのラップ部分をTikTokを意識して作っていたり、サビも振りがつくことを想定して、振付しやすいワードを入れてみたり。そういう楽しめる要素を考えながら作っていったら、イントロがアレになりました。
――そんなキャッチーなところもあり、ゴリゴリのラップもあり、ジャズもありという、いろいろな要素がてんこ盛りな曲ですよね。
最初のデモを提出した時に、“サビも1展開あると嬉しいです”と言われて、ジャズセクションを思いついたんです。元々私の曲って展開が多いと言われていたので、自分がやってきてたことが求められていると感じて、すごく嬉しくなって、やる気が爆上がっててんこ盛りになっちゃいました(笑)。
――YouTubeチャンネルに、「らぶじゅてーむ」のピアノの弾き語りが上がっていましたが、もしや最初のベースはこのジャズバージョンだったのでは……と思ったんです。
普段は弾き語りがベースになることが多いのですが、今回はトラック優先でした。でも、できてきたトラックのコードを家で弾き語りしながらがっつり違う進行に替えたりも。だから、弾き語り要素もあることはあるのかも。
――“サビも1展開あると嬉しいです”という戻しがあったそうですが、アニメの制作サイドからリクエストがあったんですね。
そうですね。でもリクエスト通りにサビを1ヵ所直すというのは難しくて、結局ガラッと変えて、結果すごく良くなりました。最初に自分で考えたコード進行とメロには、エモさがもうちょっとあったんです。でも『ぶっちぎり?!』にはエモさよりも、おちゃらけた雰囲気の方が合っているなと、リクエストされて気付きました。
――アニメのニュアンスを掴むためにしたことはありますか。
まだ絵ができあがっていなかったので、YouTubeですでに公開されていた『ぶっちぎり?!』のティザー映像に音をはめながら作って盛り上がっていました(笑)。
――“振付のことも考えて”というお話もありましたが、作る時から踊ることは決まっていたのですか?
決まってはいませんでした。でも振付があった方が覚えやすいから、踊れた方がいいなということは考えていて。《ダメダメ!》という言葉を入れたら振りをつけやすいだろうなと考えたり、自分で勝手に振付しながら曲を作ったり。そんな作り方をしたのは、初めてでした。
――で、最終的に振付もついて、MVやテレビで甲田まひるも踊る……と(笑)。ダンスはやっていたのですか?
習ってはいなかったのですが、昔から好きでした。子どものころに『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』にドはまりして。ショッピングモールに行くと、男の子は『ムシキング』で女の子は『ラブベリ』のカードで遊んでいた時代です。『ラブベリ』がきっかけでファッションも好きになりました。歌もダンスも全曲覚えていたので、私のダンスの原点と言えますね。
――SEKAI NO OWARI「Habit」や、ano「ちゅ、多様性。」などを手掛けるパワーパフボーイズの振付なんですね。
そうなんです。お会いした時から曲をすごく気に入ってくださっていたのがめっちゃ嬉しかったです。曲を聴いた瞬間に“あ、もうできそう”と言ってくださって、数日でフルの振付が上がってきて。必死に覚えました。ゆっくり再生しながら(笑)。
―― ダンスの一番の見どころは?
とにかくサビのピースが可愛いし、キャッチーだし、真似しやすいかな。MVだけだとダンスがあまり見せられないので、ダンスプラクティスも撮影しました(笑)。しっかり振付の可愛さを見てほしいです。
――パワーパフボーイズには“SNSのチャレンジ動画がやりやすいものに”というリクエストを出していたり?
そこはなかったのですが、「らぶじゅてーむ」なので“ハートが欲しい”というお願いはしていました。パワーパフボーイズさんは、担当するアーティストさんの曲でハートを取り入れることが多いみたいで、本人たちもそこで気づいて驚いてました(笑)。
――“ダンスが好き”ということでしたが、振付は苦戦しませんでしたか。
しました(笑)。テレビでパフォーマンスするときには、マイクを持つのですが、ダンスをしながら歌にも集中するのが難しくて。後からモニターで確認すると、やっぱり細かいところで手が曲がっていたりして、難しいです。
――ピアノを弾きながら歌う方が楽?
はい。何も考えずにできるので、全然楽ですね。
――衣装もアラビアンな感じで、すごく可愛いですね!
衣装のイメージは、ディズニープリンセスのジャスミン。スタイリストの市野沢祐大さんに細かくリクエストして、相談しながら作ってもらいました。市野沢さんは、私のインスタを昔からフォローしてくださっていたみたいで、私がファッションの仕事をしていた時期からずっと知っていてくださった方。私の好みをわかってくれているので、最初に衣装を見せてもらった時可愛すぎて、“ばっちりです!”となりました(笑)。
――MVには男の子が出てきたりして、今までとまた違うテイストになりましたね。
はい。他にキャストがいるMVは、2回目。新鮮だったし、楽しかったです。アニメと同じように、MVでも男の子が強くなるという物語になっています。
やっぱり曲のかっこよさはぶっちぎりたい。それが一番ですね。曲がいい感じにできたり、評判が良かったりすると、精神衛生にいい。
――アニメ『ぶっちぎり?!』では、魔人が願いを叶えてくれますが、甲田さんだったらどんなお願いをしますか?
世界平和もいいけれど、個人的なことだったら、60年分のアフタヌーンティー無料券がほしい。カフェ好きとしては(笑)。アフタヌーンティーって、幸せな空間に幸せが詰まっているものですから。
――では、アニメのタイトル『ぶっちぎり?!』にかけて、ぶっちぎりたいことなんですか。
仕事だと、やっぱり曲のかっこよさはぶっちぎりたい。それが一番ですね。曲がいい感じにできたり、評判が良かったりすると、精神衛生にいい。逆に曲ができない、歌詞が書けないっていう時は、完全にネガティブになるので。自信を持てるということが、一番のモチベーションになります。
――ネガティブになってどん底まで行ってしまったら、どうやって浮上するのですか。
立ち向かいますね。無理やり自分でスタジオを予約する。時間が決まっているので、その時間内で何かしらやる。
――曲作りのためのモチベーションを維持するって、すごく大変じゃないですか。そういう時はどんなことを心がけるんですか。
実家暮らしなので、お母さんと話をします。人の言葉に救われることってすごい多い。母は、悩んでることが馬鹿らしくなるようなことを言ってくれるので、気持ちが軽くなります。仲いいですよ。カフェも一緒に行きますし。
舞台を経験して、わかったことがたくさんありました。歌っているだけだとわからない、身体を使った見せ方みたいなものは、学びでした。
――新曲以外のお話も伺っていきましょう。昨年秋には、『チェンソーマン』ザ・ステージという音楽以外のお仕事もありましたね。
面白かったし、めっちゃ楽しかったです。演劇界でもかなり衝撃的な舞台だったらしいのですが、私にはそれが初だったので、その衝撃具合がよくわからないのですが(笑)。とにかく新しい経験でした。
――舞台って毎日公演があるし、大変ですよね。
1公演が3時間半。それが28公演。1日2公演の日もあるから、大変でした。でも、私は大変だったことは忘れちゃうタイプだから、今は楽しいことしか思い出せないんですよ。それでも、アクションは大変でしたね。運動神経が悪くて、体育祭で盛り上がってる人たちの横でできるだけ目立たないようにしてたタイプなので(笑)。原作マンガを読んで、アクションがあるのはわかっていたけれど、男の人2人の頭の上まで持ち上げられたり、2本の剣でゾンビを10人くらい倒したりというシーンもあって、お稽古から毎日キズだらけでした。受け身に慣れていないので、いちいち転んで全部受けちゃう。それが大変でした。
――舞台もライブも生でお客さんの前でやるものですが、感覚的にはどんな違いがあるのでしょう。
ライブだとお客さんを意識して目を合わせに行くんだけれど、『チェンソーマン』は、歌がなかったので、また別の感覚でした。自分を見てもらうというより、舞台の上の世界を見てもらうことに意識を向けるというか。でも、表現という意味では一緒だったかな。
――舞台をやって、音楽活動のプラスになった感じはありますか。
あります。繋がっていると思います。ピアノを弾く時は、ずっと目をつぶって下を向いていたり、ずっと上を向いていたりするタイプで、お母さんに“見ていてつまらない”と言われていたんです。でも舞台で大きな身振り手振りの表現を経験して、表現豊かなことに対する楽しさに気づいたところはあります。「らぶじゅてーむ」のテレビでのパフォーマンス収録の時には、どのくらい動いたら見ていて楽しいかということをすごく考えました。それは、舞台をやって得たものですね。舞台を経験して、わかったことがたくさんありました。自分はこう思って動いているけれど、そう見えていないとか。歌っているだけだとわからない、身体を使った見せ方みたいなものは、学びでした。
マイメロちゃんのいるサンリオピューロランドでライブをするのが夢です。
――最近は、どんな音楽に刺激を受けているのでしょう。
相変わらず、ラップばかり聴いてます(笑)。最近、ラジオの企画で「いつでもあの頃に戻れる思い出の曲」というプレイリストを作ったのですが、それを作るのに、キャロル・キング、Nas、ジャズなど昔好きだった曲を聴き直したり。あまり流行りのものを聴くと、同じような曲を作っちゃいそうで怖いんですよ。何が自分なのかわからなくなっちゃう。自分の中にインプットされてきたものしか作品には活かせないと思っているので、何を取り入れるかは意識しています。
――音楽の情報源って何なんですか?
YouTubeで出てくる好きなアーティストの関連動画とか、好きなラッパーのインスタに一緒に写っている人を聴いてみたり。最近は、90年代のヒップホップのレコードをよく買っているので、家でレコードを広げてクレジットを見るのが楽しいですね。今って何でもインターネットでわかってしまうから、情報が多すぎて全部抜けちゃう気がしていて。クレジットからリスニング体験が拡がるレコードやCDが手元にある価値に、改めて気付きました。
――音楽とカフェ以外に、ハマっていることはありますか。
うわっ、それを聞かれるのが一番に困る……。ないんですよ(笑)。(まわりのスタッフに“ハマっていることあります?”ときいて、「大谷翔平」と答えられ)あ~、こういうのですよね……。あ、マイメロ! 私の推しです(笑)。今日のイヤーマフにもマイメロがいますが、どこかしらに必ずマイメログッズを身につけています。なので、マイメロちゃんのいるサンリオピューロランドでライブをするのが夢です。
――ライブといえば、ワンマンライブが決まったそうですね!
そうなんです。初ワンマンを5月24日、私の誕生日に開催します! なので皆さん、遊びに来てください。今回は、初の試みとして、バンド編成で生楽器を入れる予定です。とっておきの大好きなミュージシャンの皆さんを3年前くらいから予約していたので、自分でもすごく楽しみです。これ以降も、東京以外でもライブができたら嬉しいな!
取材・文=坂本ゆかり 撮影=大橋祐希