TRUE 写真=江藤はんな
2024.3.2(Sat)「TRUE 10th Anniversary Live Sound! vol.8〜ANISON COLLECTION〜」@ 神奈川県民ホール
アニソンシンガーTRUEが世に出てから10年になる。時の流れの速さを痛感するが、その10年を記念して行われたこのライブは、TRUE初の全編アニソン楽曲オンリーライブとなった。
会場となった神奈川県民ホールは完全ソールドアウトの状態、アニソン縛りということで客席の準備も万端だ。
定刻、バンドメンバーによるインスト演奏が響き渡る、その後ステージ後方上部に登場したTRUE、一瞬の静寂。そこから繰り出されたのはデビュー曲「UNISONIA」だ。
純白の衣装に裸足のTRUEはまるで女神のようだ。その突き抜けるような歌声一撃で会場は爆発。続いて披露されたのは「TWIN BIRD」と、TVアニメ『バディ・コンプレックス』二連発で幕を開けた。今回のバンド編成にはサックス、トランペット、トロンボーンというホーンセクションも参加しているため、音のスケール感がとても大きく感じた。だが凄いのはそのスケール感を超えるようなTRUEの歌声だ。声の伸びが恐ろしくいい、この日のためにコンディションを整えてきたのがよく分かる。
「今日は思い切り楽しんでね!」語りかけながら前奏が始まった「BUTTERFLY EFFECTOR」。これだけ自由に叫び、踊り、跳ねながら歌う客席を久しぶりに見た気がする、曲と曲の間も声援が止まらない。素晴らしく自由で、恐ろしく熱がある。
「今日は10年分の感謝を込めてお届けします」
飾らない言葉から「alies」。サックスの音色もつややかに始まったTVアニメ『純潔のマリア』ED主題歌のこの曲が、開幕からの勢いで火照った身体に染み込んでくるようだ。2番からリズム帯も増えて盛り上がってくる中、脈動のように歌の温度が変わっていく。その流れのまま「Story of Lucifer」、そして「黎明」へと続ける。印象的にレーザーの演出がTRUEを包む、レーザーは全体通して世界観を表現するのに素晴らしい効果を発揮していた。その光も相まってTRUEはまるで祈りを捧げる巫女のように歌を紡ぎあげる。
続いては「唐沢美帆」として作詞を担当した楽曲のセルフカバー、一曲目はevery♥ing!の「ケサランパサラン」。響きを変えて、まるで別人のように可愛く歌いながら客席とともにタオルを思い切り振り回す。上昇気流のようにまた会場の温度が上がっていく。そして「スタートライン!」。『アイカツスターズ!』の中でも象徴的に使われていたこの曲はイントロが流れた瞬間叫び声のような歓声が上がる。「夢は見るものはじゃない 叶えるものだよ」という歌詞を、10年を迎えたTRUEが歌うことの意味に涙腺も緩みそうになる。
セルフカバーの時間はまだ終わらない。YURiKAの「眠れる本能」ではそのジャジーな雰囲気をたっぷりと味わえ、南里侑香の「閃光のPRISONER」ではバンド紹介も交えながらも歌い上げる。2014年の楽曲だが、スケール感のある楽曲は少し懐かしさも感じつつ、これぞアニソン! という気持ちにもさせてくれる。
MCでは「この十年間を振り返った時、TRUEとしての活動は勿論、唐沢美帆として沢山のアーティストさんと出会って、歩んできた軌跡は、どちらもなくてはならないものだと思っています」と語り、「今日一番のこだわりは「黎明」から『レーカン!』(ケサランパサラン)への流れなんです、レーメイからレーカン…みんなをズコーっ! ってさせたくて!」と笑いながら語る。客席も勿論爆笑。シリアスで熱量のある歌だけじゃない、暖かな空気を作るMCも達者なTRUEは本物のエンターテイナーだ。
喜怒哀楽が詰まっているからこそライブは面白い、次のコーナーはアコースティックと告げると客席は空気を読んだように座っていく。思わず礼を述べるTRUE。意思疎通が完璧だ。
「あったかくて優しい時間になりますように」その言葉から奏でられるメロディー。TVアニメ『終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?』EDテーマ「フロム」だ。優しい声。今日はどこか全体的に可愛らしさを感じるのは、このライブの空気がそう思わせてくれるからなのだろうか。そこからの「アンサンブル」。聞き入る観客からのシンガロングは感動的でもあった。
ここからが後半戦だ、噛みしめるように「ここからは『マクロスΔ』の世界です」と言った瞬間から今日一番の大歓声。
「愛する人のために、愛する星のために、命をかけて戦ったフレイアのために歌います」
その言葉から「りんごのうた/フレイアΔ鈴木みのり」「ALIVE ~祈りの唄~/ワルキューレ」、アカペラ部分でも勿論ピッチが崩れることはない。音楽が心に染み入りきったその時、カウントと共に展開されたのが「ワルキューレはあきらめない/ワルキューレ」だ。
「あきらめない あきらめない あきらめない」の歌声とともに総立ちの客席、ここにいないはずの戦術音楽ユニットの五人が目に浮かぶような気がする、まるでTRUEはその六人目のようだ。
歌い終わりステージを後にしたTRUEの帰りを待つ間、バンドメンバーによって演奏されたのは「Another colony(Band Inst Ver.)」。少しずつ音が増えていき、ボルテージが上がっていく、まるで青い空に太陽が登っていくようにステージが彩られていく。そして帰ってきたTRUEは青いシャツに黒いスカートに衣装チェンジ。歌い出すのはフルサイズ初披露となる新曲「ブルーデイズ」。
TVアニメ『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』OP主題歌となるこの曲は、どこか一歩前に進ませてくれるような楽曲。初めて歌う曲だがファンは心からこれを受け入れているのがとても印象的だった。それは歌唱後に作品の面白さを熱弁するTRUEの「本物感」があるのかもしれないが、その中でも彼女が語ったことが心に今も残っている。
それは「大人になると自分と向き合わなきゃいけない時間がたくさんある。そんなときに、自分自身の良いところや、素敵なところをもっと見つけてあげたい」という言葉。
歳を重ねれば重ねるほど諦めることも、折り合いをつけなければいけないことは増えてくる。変わっていく環境や生き方に順応するには自分との対話しか方法はないのかもしれないが、TRUEはそのキャリアの中で「自分らしく歌い続けること」をまっすぐに進んできたような気がする。そんな彼女はデビューから一貫して担当する作品に全力で寄り添い続けてきた。その信頼がこの熱さを生んでいる。
「ここからは情緒が壊れる時間となります、神奈川県の治安を少し悪くしていきましょうか? 情緒ぶっ壊れる準備出来てますか!?」
腹から湧き上がるような声でその問いかけに答える神奈川県民ホール。ラストスパートは「Storyteller」からだ。爆音の歓声とコール、跳ねる姿、光回るペンライト達。お世辞や比喩ではなく、本当にこの曲の間神奈川県民ホールは揺れていた。
どこまでも自由でいつまでも続くような熱狂の時間。歌い終わりの瞬間一気に空気が変わる。「飛竜の騎士」の推参だ。腕よちぎれろとばかりに拳を突き上げ、応えるようにTRUEの歌声もどこまでも伸びていく。青い世界から赤い世界へと移り変わったステージ、間髪入れず「Divine Spell」が響き渡る。一曲目の「UNISONIA」を合わせて、これにて「TRUE三種の神器」の完全披露だ。
客席とステージの真剣勝負の様相を呈してきたが、まだまだTRUEには余裕がありそう。歌体力がどれだけあるのかと思ったが、客席が盛り上がれば盛り上がるだけTRUEは高く飛び立つ。アニソンによるエネルギーの永久機関のようなライブは「サウンドスケープ」へと昇華していく。この日のライブの完成形の一つと言っても過言ではない空間。喜びも興奮も切なさも、全てTRUEという存在の中にある。
「この十年色々なことがありました。その全部をちゃんと受け入れて、止まることなく、逃げることなく、離すことなく、全部を音楽に変えてきた。私の言葉に耳を傾けてくれて、私の歌に心を向けてくれてありがとうございます」
奏でられる本編最後の曲は「Sincerely」。熱く、強く、静かに歌い上げる。みんなあなたに会いたくて横浜まで来たんだよ、そう心の中で語りかける。今ここにいる人間は、自分という殻を抜け出して、TRUEという存在を同じように感じている。理由もなくそう信じながらただ歌を聴く。涙を浮かべながら深く長く頭を下げるTRUE。
そうして退場したTRUEを呼ぶ「お鶴」のコール。アンコールでは「Happy encount」からだ。ステージ狭しと走り回り、客席に手をふる姿を見て、本当にこの人は客席との距離が近い人だと感じる。
お知らせコーナーでは10周年テーマソングを制作していることを発表。『UNISONIA』『飛竜の騎士』『Divine Spell』を作ったArte Refactが担当していることを明かすと「なんと四種目の神器作ってます!」と叫び、また歓声が上がる。
また、6年ぶりのツアー【TRUE 10th Anniversary Live Tour Sound! vol.9~TRUE×FALSE~」ではBillboard Liveで行う正統派なライブと、ライブハウスで行う異端なライブの2スタイルを「同じセットリストで行う」ということも発表。一体どんなライブになるのかまだ見当もつかないが、恐ろしく楽しみな告知だった。TRUEならどんなスタイルでも、熱と愛を持って客席に届けてくれるという信頼がある。
「この曲を掲げてみんなと一緒に歩んでいきたいと思います。」TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』のOP主題歌「ReCoda」を披露。勿論その流れなら、最後は「みんなで一緒に音楽しようぜー!!」と「DREAM SOLISTER」だ。汗だくの客席もみんな笑顔だ。
「やめない勇気こそ強さ。私は絶対に諦めないでずっとここにいるから、何度でも続いていく道の先で再会しましょう!」
コーラスがリフレインしていく、みんな歌っている。でもただそこに居て、手をたたき、楽しんでいるだけでも、声を合わせていても、それは全て「音楽」なのだ。TRUEが奏でる音楽は軽やかで自由のもとに成り立っている。
ステージからバンドメンバーもTRUE本人も去っていったあと、どこか放心してしまった。まるでアニメをワンクール一気見したかのような充足感。メモ帳を閉じ、ふとステージの上をみたら、中央の上空にはベツレヘムの星を模したモニュメントがあった。
キリストの誕生を示し、東方の三賢者をベツレヘム(新約聖書ではイエス・キリストの生誕地とされている場所)に導いた予言の星。人々は星のように輝くTRUEに導かれるように、これからも集っていくのだろう。それは奇跡でも何でもなく、彼女が紡いできた10年の軌跡なのだと思う。きっとこれからも、音楽とアニメの間には、いつもTRUEがいるはずだ。
レポート・文=加東岳史 写真=江藤はんな