佐々木新平
2024年3月24日(日)東京・NHKホールを皮切りに(札幌・大阪・福岡・兵庫公演あり)、『ディズニー ファンタジア』ライブオーケストラ・コンサートが開催される。この度、指揮者の佐々木新平のインタビューが届いたので紹介する。
『ディズニー ファンタジア』 ライブオーケストラ・コンサート
再び、ライブオーケストラ・コンサート『ディズニー ファンタジア』を体験できる日が近づいてきた。1940年に公開されたアニメーション映画『ファンタジア』、そして続編となる2000年の『ファンタジア2000』に収められた映像と音楽とで構成された極上のライブ・エンターテインメントだ。
1920年代、ディズニー社を興したウォルト・ディズニーはアニメと音楽を融合させた表現を追求し、いくつかの短編を経て1937年に傑作「白雪姫」を完成させた。そこから更に音楽に焦点を当てた創作へと邁進し、『ファンタジア』の象徴とも言える“魔法使いの弟子”スタイルに身を包んだミッキー・マウスが活躍する『魔法使いの弟子』が生まれた。クラシックの名曲コンサートのように途中に休憩を挟みつつ、かつ全ての音楽に異なるコンセプトの映像を組み合わせるという前代未聞の総合芸術作品『ファンタジア』はこうして出来上がった。タイトルは、本作における重要なパートナーであるアメリカのトップ・マエストロ、ストコフスキーが命名した。
60年の時を経て公開された『ファンタジア2000』、こちらは1990年代のディズニー・ルネサンスを支えたスタッフたちが集結した、ウォルト・ディズニーの精神が今尚スクリーンに息づいていることを示した一作となった。ストーリー性の高い映像が特徴で、中でもこのコンサートで上演される「威風堂々」ではドナルド・ダックの千両役者っぷりが楽しい。
今回、このコンサートを指揮する佐々木新平に、見どころを聞いた。
佐々木新平
『ディズニー・ファンタジア』を指揮するのは3年ぶりです。初めて『ファンタジア』を観たのは学生のころ。これで初めて知ったクラシック作品もありました。『魔法使いの弟子』もそうです。音楽と映像がここまでリンクするのか!というところにまずは感動しました。ディズニーにとっても大きな成功体験だったのではないでしょうか。それくらいリンクしていると思います。
小さい頃からよく聴いていたのは、ポップス、映画のサウンドトラック、それと童謡も好きでした。中学では吹奏楽部に所属していたので、そこで演奏した映画音楽を辿っていって、大編成のオーケストラ、そしてクラシック音楽へと親しんでいきました。
映画で使われている音楽は、ストコフスキー指揮によるフィラデルフィア管。時代のトレンドでもあったと思うけれど、この組み合わせは煌びやかで華やか、かつ切れ味するどい音をイメージする人も多い。そのようなオーケストラのサウンドの特性が『ファンタジア』ではさらに映像とぴったりと合っていて、そこにも感動しました。『ファンタジア2000』はジェームス・レヴァインが指揮しましたね。彼の表現する色彩感、清潔感というのは当時のディズニー作品によく合っていました。個人的に印象深いのは、まずは『魔法使いの弟子』。そして今回上演されるベートーヴェンの「田園」ですね。ギリシャ神話という設定がとても自然で違和感なく楽しめます。嵐のシーン…緊張感から解放された先の神々しさ。この設定は大正解だと思います。
デュカス「魔法使いの弟子」より
ベートーヴェン 交響曲第6番
僕自身、普段から絵画や旅行先の風景など、目に入ってくる景色に合わせて音楽をイメージする習慣があります。オーケストラや吹奏楽を指揮するとなると、自分のイメージを100人の演奏者たちに同じように伝えるにはまずそれを言語化しないといけなくて。このプロセスは現場でも役に立っています。
レスピーギ「ローマの松」より
エルガー「威風堂々」より
そうした見方からすると、本公演の「ローマの松」や「威風堂々」にはこう来たか! という驚きがありました。レスピーギが作曲に至った経緯やコンセプトを知っているからこそ、「ローマの松」を聴いてクジラが空を飛ぶとは誰も思わないし、「威風堂々」を“ノアの箱舟”のストーリーに仕立て上げるのか、と。全く別の視点から、違和感なく音楽が持つ新しいキャラクターや本質を損なうことなく届けてくれる。特に「ローマの松」は凄いです。
佐々木新平
ストーリーという意味では、普段からオペラのような舞台作品も指揮していますが、目の前で歌手たちが歌う舞台と比べれば、こうした映像に合わせて指揮をする公演の場合、ライブにおける制約というものはかかってきます。融通を利かせながらオーケストラと共に最適解を見つけていくという音楽づくりです。「田園」の雷が落ちるシーンや「くるみ割り人形」のポーズが決まるシーンのように合わせないといけないところはしっかり合わせますが、実は微妙にタイミングがずれても違和感がないシーンもあって、そこは逐一合わせないようにしています。オーケストラは大勢の人間が集まっているわけで、その時々の感情からくる自然な流れというのを表現したいのです。時間を逆算して、オーケストラがストレスなく進んでいける自然な道のりを構築していくということはいつも考えていますね。そう、ですからオーケストラの音だけでなく、演奏している仕草にも視線を分けてほしいです。『ファンタジア』は映像とオーケストラのアクションやテンションが見た目にも結構リンクしていると思うのです。「火の鳥」で火の鳥が襲いかかってくるシーンなども、オーケストラと指揮者も必死に身体を動かしているので、そのリンクしている感じもぜひ楽しんでいただきたいです。
チャイコフスキー「くるみ割り人形」より
ストラヴィンスキー「火の鳥」より
指揮:佐々木新平 プロフィール
秋田県出身。東京学芸大学を経て桐朋学園大学にて指揮を専攻。飯守泰次郎、秋山和慶、小泉ひろしの各氏に師事。その後ヨーロッパ各地の国際指揮マスタークラスに選抜され、J.パヌラ、H.アンドレシュク、M.ストリンガーら巨匠たちの薫陶を受ける。2013年よりミュンヘンへ留学。ドイツを中心にヨーロッパ各地でさらなる研鑽を積んだ。2012年の第9回、2017年の第10回フィテルベルク国際指揮者コンクールにおいてディプロマ、2015年ブザンソン国際指揮者コンクールにおいては本選最終の8人に選出。これまで国内の主要楽団に客演。2015-19年東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団アソシエイト・コンダクター。2021年よりヤマハ吹奏楽団常任指揮者を務める。現在オーケストラを中心に吹奏楽、合唱、オペラ、バレエ等あらゆるシーンで才能を発揮。その活躍の模様はNHK-Eテレ”クラシック音楽館”、NHK-BSプレミアム公開収録コンサート、テレビ朝日”題名のない音楽会”等で放送された。その他にも多彩なレコーディングやイベントにおける指揮を務めるなど多方面に活動の幅を広げている。
取材:小崎 紘一 写真:木下 雄介