Newspeak 撮影=大橋祐希
昨年10月、バンドとして初めて日本語を取り入れたシングル「State of Mind」を配信リリースすると同時に2年ぶりとなる東名阪ワンマンツアーの開催、2024年の夏にメジャー1stフルアルバムのリリースを発表したNewspeak。その後、「Be Nothing」「Before It’s Too Late」と新曲を配信リリースしながら、水面下で着々と進めてきた活動の成果をちょっとずつ明らかにしてきた彼らが、ワンマンツアーの意気込みと完成間近というメジャー1stフルアルバムの手応えを語る。デビューしたときすでにワールドスタンダードなクオリティを持つNewspeakのオルタナロック・サウンドがさらなる進化を遂げていることを、Rei(Vo.Gt.Key)、Yohey(Ba)、Steven(Dr)の発言からぜひ読み取っていただきたい。
Rei(Vo.Key.Gt)
今夏リリースとなる、1stフルアルバムの構想について
ーーアルバムはもう完成したんですか?
Rei:いえ、まだ。あともうちょっとです。今のところ8割、いや、7割ぐらいってところですね。
ーー話せる範囲で全然かまわないんですけど、今のところ どんなアルバムになりそうだという手応えがありますか?
Rei:今回は変化したところも含め、Newspeakのいいところを詰め込んだアルバムになると思います。
ーーシングルカットできる曲ばかり集めたような?
Yohey:そうですね。どの曲もシングルとしてもちゃんと響いてくれると思います。もちろん、アルバムの中で、いい味になってくれる曲も大事にしたいねっていう話もしつつですけど、1回、全曲、全力投球しちゃおうかみたいな。そんなアルバムです。
Rei:とは言え、曲のタイプにはいろいろなバリエーションがあるから、アルバムとして聴いてもけっこう楽しめるものにはなっているのかな。強いっちゃ強いんですけど、1曲ごとに違うタイプの強さがそれぞれにあるよね?
Steven:そうだね。全曲けっこう違う感じだね。
ーーもちろん話せる範囲で、全然かまわないんですけど、どんな曲が入っているんですか?
Rei:今までやったことがない、びっくりするぐらい速いテンポの曲もあるし、「Before It’s Too Late」みたいなチルだけど、フックがけっこう強めの曲もあるし、「Be Nothing」みたいなどバラードもあるし。もちろん、これまでやってきたダンサブルなインディ・ロックもあるし、エレクトロが強めのダンスチューンもあるし。
ーーアコースティックな曲もあるんですか?
Rei:ありますね。そうやって振り返ってみると、日本語で歌詞を作ることも含め、新しいトライをたくさんしたアルバムですね。もちろん、今までのNewspeakの良さも残しつつですけどね。とにかくいろいろトライしました。
ーー曲作りはいかがでしたか? それだけいろいろな曲を揃えるのは、けっこう大変だったんじゃないですか?
Rei:曲は割とスムーズにできて。それよりも歌詞のほうが大変でしたね。
Yohey:アルバムを構想し始めた段階で、Reiがものすごい数の新曲のデモを持ってきたんですけど、メジャーからの1作目だった「Leviathan」以降、リリースしてきた曲が全曲シングルだったから、どういうバランスでどれをアルバムに取り込んでいったらいいか考えながら、新曲のデモのどれから手を付けていこうか、みたいなところはちょっと悩みながらいろいろやっていきました。
ーーあぁ、強い曲が多かっただけに。ところで、配信リリースしてきた「State of Mind」「Be Nothing」「Before It’s Too Late」は、それぞれに曲調がばらけていることを考えると、アルバムのティーザーという意味合いもあったじゃないかと思うのですが、リリースする順番は何かしら考えたんですか?
Rei:僕らは全曲、全力で作ったから、どれを出してもよかったのですが、一番いいタイミングを模索して、アルバムを2024年の夏にリリースすると発表するタイミングで「State of Mind」を出そうとなりました。
ーーNewspeakとして初めて日本語の歌詞に挑戦した曲というところで、アルバムを含め、これからを期待させるという意味では、ドンピシャのタイミングでしたね。
Rei:そう。日本語の歌詞に挑戦して、すごくいい出来になったと思っていたんですよ。
Steven:その次が「Be Nothing」って、すごい振り幅だよね(笑)。
Rei:「State of Mind」で日本語にしましたって打ち出したのに全編英語のどバラードでドドーンと。
Yohey:あの曲は、仮に日本語だったとしてもドドーンってなるけど。「Before It’s Too Late」も含め、けっこう季節感ってところに曲を当てはめて、リリースする曲やリリースするタイミングを考えましたね。
ーーなるほど。じゃあ、3月1日に配信リリースした「Before It’s Too Late」は春をイメージしたわけですね?
Yohey:そうですね。ああいうシンセとギターの音感や軽快なビートが、新たな生活が始まる時の期待に胸が躍る感覚にもハマるとは思いました。
ーー「Before It’s Too Late」は、どんなところから作っていったんですか?
Rei:2年ぐらい前からある曲だから、どんなふうに始まったのか、はっきり憶えてないんですけど、一番考えたのはNewspeakってどうしても曲がドラマチックになりがちと言うか……曲の展開の中で最後は絶対に大きな山が来る、みたいな。もちろん、それはそれでいいんですけど、この曲はそうじゃなくて、聴きながらリラックスできる曲を作りたかったんです。最初にイントロの、あのリフがあって、そこにどんどん肉付けしていったんですけど、いつも曲のエンディングに向かって、ばーんと行きたくなっちゃうから。全員、そこはちょっと抑えて、このまま終わらせようってことを意識しながら作った曲ですね。
ーーなるほど。
Rei:それでもちょっとだけ、ばーんといきかけてますけど、それはもう僕らのキャラクターと言うかNewspeakらしさなので。
ーー構成というか、展開がおもしろい不思議な曲ですよね。もちろんサビはあるんですけど、いわゆるJ-POPによくあるヒラウタとサビではなくて、どのパートもサビと同じくらい印象に残るという。
Yohey:楽器インストのリフパートもある意味サビと捉えているんです。
ーーちょっとオリエンタルな趣もあるそのリフが耳にとても心地いい。音色も不思議で。
Rei:シンセとギターの音を重ねているんですよ。
音源を聴いてもライブが想像できる、人間らしさを軸に
Yohey(Ba)
ーー「Before It’s Too Late」も「State of Mind」に続いて、歌詞は日本語です。「State of Mind」の時は日本語の歌詞を書くのにかなり苦労されたと聞いていますが、「Before It’s Too Late」はいかがでしたか?
Rei:「State of Mind」と「Before It’s Too Late」の歌詞は、ほぼ同時に作ったんです。最初に日本語で歌詞を書いた曲があるんですけど、それを書き上げるのに2か月ぐらい掛かって。その後に「State of Mind」と「Before It’s Too Late」ともう1曲、日本語で書いたんですけど、2か月掛かっただけあって最初の曲でコツを掴めたのか、その後の3曲は最初ほど苦労せずに書けましたね。
Yohey:日本語で歌詞を書いた曲の中で、最初に持ってきた時からけっこうグッと来る言葉が並んでいたのが「Before It’s Too Late」だったんです。きっと日本語の歌詞を書きながら、どんどんブラッシュアップされていったんでしょうね。だから、他の曲よりも最初のイメージから大きく変わらずに人に届く言葉になっているんじゃないかな。
ーー最初からはっきりとしたイメージがあったんでしょうか?
Rei:たぶん、そうだったんだと思います。
Yohey:ちゃんと<Before it’s too late>という言葉が一番メインに来ると言うか、そこに対する日本語がしっかりとハマっていると言うか。
Rei:確かに。<Before it’s too late>に向かって、日本語の歌詞を作っていたと思います。<Before it’s too late>=「なんとかしなきゃ」という意味なんですけど、言葉は変わっても、そこに向かう思いは最後まで変わらなかったかもしれないですね。
ーー「なんとかしなきゃ」ということだとは思うのですが、「Before It’s Too Late」の歌詞の根底にあるのは、どんな感情なんですか?
Rei:よくある話ですよ。普通のラブソングなんですけど、はっきり愛を伝えなきゃいけないよね。じゃないと別れちゃうよねっていう、すごくシンプルなラブソングです。
Steven(Dr)
ーーシンセの音色が全体を包みこむふわっとした音像の中で、各楽器の音色はけっこうエッジがきいているように聴こえますが、この曲のアレンジのポイントはどんなところでしょうか?
Steven:Reiが作ってきたデモはけっこうシンセ・オリエンテッドで、もうちょっとヒップホップなイメージもあったんです。その後、ギターをいっぱい入れなきゃとか、ベースを生に変えなきゃとか、3人で考えたんですけど、最初のシンセ・オリエンテッドな感じがすごく良かったから、全然変える必要がなかったんですよ。この曲のアレンジは割と迷わなかったと思います。他の曲はもっとがんばったところがいっぱいあるんだけど、いい曲だからがんばらなくていいでしょみたいな(笑)。
Rei:確かにループ素材が多くて、そのループを楽しむ曲でもあるからね。<Before it’s too late>の言葉がボンってあって、もうチルで行こうって決まっていたから、気持ちよく始まって、気持ちよく終わろう。ループをなるべく生かしてって感じでした。
Steven:リリックもデモの時からすごく深いことを歌っているように聴こえたから。音楽をシンプルにすればするほど、リリックはすっと入るじゃないですか。だから、みんなシンプルにして。
Yohey:僕はかなり苦戦しましたけどね。元々、Reiがデモで作ってきたベースラインがすごく良くて、それを生かそうとは思っていたんですけど、ドラムも、その周りの音も打ち込みで、しかもギターもシンセのリフとずっとユニゾンしていたので、ベースはロボットみたく弾いたらいいのか、それとも人間らしいニュアンスを入れていったほうがいいのか、その落としどころが見つからず、最後までずっと悩んでいたんです。それで、迷っているままレコーディングに行ったら、エンジニアのニラジ(・カジャンチ)とStevenが話し合って、打ち込みのドラムのハイハットだけStevenが叩こうとなって。それで一気にベースも弾きやすくなりました。基本、打ち込みのドラムなんだけど、ハイハットだけ生音に入れ替えただけで雰囲気が出ると言うか、あとはやっぱりサポート・ギターのTakeのギターが加わったことも大きくて。僕ら3人だけじゃなくて、そこにもう1人、生身の人間がいて、その人が僕らを客観的に見ながら一緒にギターを弾いてくれたことで曲がまとまったんですよ。
ーー結果、Yoheyさんはベースを人間らしく弾いたんですか?
Yohey:人間らしく弾きました。ゴーストノートって音程になっていない音を入れるか入れないかでも迷っていたんですけど、最終的にそれもニラジが「こういう曲は雰囲気が大事だから、別に音が縒(よ)れていてもいいじゃん」と言ってくれて、「Before It’s Too Late」もそうですけど、アルバム通して、そういうことをやっていきましたね。
Rei:アルバムを通して、ニラジにエンジニアをやってもらったんですけど、何て言うのかな、ヒューマン感をけっこう大事にすると言うか、しっかりリズムに合わせることよりもグルーブを重視する人なんですよね。それとか、今まではギタリストじゃない僕が弾いていたから、自然にグリッドに合わせたくなっちゃうと言うか、リズムに合わせないとかっこよく聴こえないと思っていたところがあったんですけど、Takeが弾いてくれたことによって、ギタリストらしいニュアンスが入ったり。ジャッジの基準が今までと全然違うから、全体としてバンドの姿がすごく見えたり、音源を聴いてもライブが想像できる、人間らしさみたいなものが「Before It’s Too Late」も含め、アルバムとして出ていると思います。話がちょっとずれましたけど、そんなところも楽しんでもらいたいと思っていて、アルバムとして、今までの認識とはちょっと違う良さがあるという気はしますね。
ーー夏に出るアルバムは、そんなところも新しいわけですね。それにしてもグルーブも作りながら、メロディーも奏でる「Before It’s Too Late」のベース、すごくいいですね。
Yohey:ありがとうございます。
Steven:歌えるフレーズだよね。
ーーラスサビではベースの音量がちょっと上がったように聴こえるのですが。
Yohey:ニラジの細工です。
Rei:えー、気づかなかった。
Yohey:若干上がってるように聴こえるんだよ。
Steven:全然気づかなかった(笑)。
ーーボーカリストとして、「Before It’s Too Late」では、どんなアプローチをしましたか?
Rei:歌も他の曲に比べて、基本的に下のほうにいると言うか、あんまり高いところに行かないから、囁くと言うか、包み込むようなボーカルを最初から最後まで意識しつつ、サビの頭の<I’ll be your mistake>だけバンって行くんですけど、それ以外はずっとリラックスしていると言うか。ブリッジだけ、そこはもう出しちゃっていいかなみたいな感じです。
Steven:「Before It’s Too Late」は、Reiのナチュラル・ボイスで録ることが1個のゴールだったね。テンション上げるためにがんばったり、エモーションで伝えようとして、ちょっとかっこつけたりすることってあるじゃないですか。でも、この曲は声を作って伝えるんじゃなくて、本当にReiのそのままの声で録ろうってことも話し合った記憶があります。
もっとNewspeakを見たくなる、聴きたくなるようなライブに
ーーさて、3月16日(土)の名古屋公演から始まる2年ぶりのワンマンツアーでは、どんなセットリストを作って、どんなライブにしようと考えていますか?
Yohey:ワンマンをやるのも、自主興行を打つのもめちゃくちゃ久しぶりなので、1個大きなテーマが欲しいと思って、『Leviathan』以降のNewspeakっていうのを振り返ってみたとき、日本語を取り入れたことも含め、進化を求めて、いろいろなチャレンジをしてきたのでどうしても変わった部分っていうのはあって。もちろん、その一方では変わっていない部分も絶対にあるから、その変わった部分と変わってない部分がいいコントラストで、なおかつ1本のライブとしてすんなり見てもらえるような構成にできたらと考えました。もう長いことやっていない曲も選曲しながら、そこに新しい曲をどう配置していこうかって考えたので、久しぶりに見にくる人も、最近Newspeakを知って、見にくる人もどちらも「Newspeakってこういうバンドなんだ」ってちゃんと腑に落ちてもらえるようなセットリストになると思うので、ぜひ楽しみにしてほしいです。もっとNewspeakを見たくなる、聴きたくなるようなライブになるはずです。
ーー「State of Mind」「Be Nothing」「Before It’s Too Late」に加え、夏に出るアルバムから未発表の新曲もやるんですか?
Rei:やるかもしれないし、やらないかもしれないし(笑)。
ーーそこは当日のお楽しみですね。さて、アルバムがまだ完成していない状況で聞かせてもらうのは気が早いとは思うのですが、アルバムの制作を通して、バンドとしてどんなふうに成長できたと感じていますか?
Rei:今までで一番実験的だったと思うんですけど、自分達の内側から出てきたものプラスαで外からも意見をもらって、どこまで境界線を攻められるかみたいなことを繰り返してきた気がしています。僕らみたいなタイプの音楽でめちゃめちゃ成功したバンドって今までいないと思っているんですけど、こういう音楽をもっとポピュラーなものにしたいと、この小さいバンドなりに思っているから、英語だけにこだわらず日本語もやってみたんです。ちっちゃいシーンの端っこで、のそのそとずっと同じことをやっていてもしかたない。せっかくロック・バンドやっているんだから、新しいことをやらないと……って言うか、新しいことをやらずに、「こうじゃないといけない」みたいなことを言ってることこそロック・バンドとしてダメだと思うから……そこから1回、もう一歩攻めてみるってことを繰り返していったので、できることの幅はかなり広がったと思います。
別に内向きな音楽も大好きだし、そういうことをやり続けることもできるけど、ここでいったん、ばっと広げてみようという取り組みをバンドとしてやったという手応えはあります。ただ、成長したかどうかはわからないです(笑)。これからですね。ライブをやらないとわからないと言うか、たとえば「State of Mind」も、ぶっちゃけリリースするまでは日本語の歌詞が不安だったんですよ。いい歌詞はできたけど、お客さんはどう思うんだろうかって。けど、ライブでやってみたらすごく新しい気持ちになったと言うか、「これ、しっかりと伝わってる」と思えたんです。「State of Mind」はそういうものでしたけど、アルバムがどんなことを思わせてくれるかは、リリースして、ライブしてみてからわかるのかなと思います。
取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希