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反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラ、三期目にして黒字達成 2024年度は会員組織リニューアルや団員募集でより強固な組織に【活動報告会レポート】

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反田恭平

反田恭平

2021年に始動した日本初の“株式会社”の形態を持つ管弦楽団『ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)』。2024年に入って早くも2月に全国10都市でコンサートツアーを敢行。東京での最終公演(2月29日)を終えた翌日の3月1日(金)、メディア、関係者を対象に昨年度の活動に関しての実績報告会を開催した。

団員の給与アップを行いつつも、三期目にして黒字達成

川島昭彦氏(左)と反田恭平(右)

川島昭彦氏(左)と反田恭平(右)

ピアニストで指揮者の反田恭平が率いる『ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)』は、2021年の発足以来、昨年23年度の活動をもって三期目を迎えた。約1時間半にわたる報告会は前半の収支報告に続き、後半は直近のツアーで演奏された曲目から二作品を抜粋してのフルオーケストラによる生演奏付(指揮:反田恭平)という豪華版。日本のクラシック音楽業界に新風を吹き込み続けているこの若手精鋭オーケストラならではのユニークな試みだ。

代表取締役会長 川島昭彦氏による収支発表から始まった。内容は大枠として「コンサート収入と、広告収入が大きくアップし、総売り上げが約4億円。支出においては団員の約半数が海外生活を基盤にしていることもあり、円安の影響も大きく全面的な給与アップも行なわれたが、最終的な収支はわずかではあるが黒字化している」ということだ。
 

国内開催の通常コンサートにおける売上げの好調ぶりもさることながら9月に開催されたイタリア遠征でのコンサート開催(4都市)が想像していたよりも大規模であったこと、そして国内での協賛各社によるコンサートの回数が増えたことなど具体的な増収の要因にも触れた。川島氏は冒頭から「思いのほか早い黒字達成だった」という言葉も口にしていたが、良好な実績と数字の列挙によってその言葉が見事に裏付けられたかたちだ。

本拠地・奈良県での順調な活動運営、イタリアでのツアー成功も

続いて同社取締役社長の反田恭平による2023年度の活動実績と概況の報告。まずは直近2月の国内10都市縦断コンサートツアーについて「一都市の公演を除いて全公演完売。計14公演でのべ2万6000人の聴衆を動員した」と総括。昨年度の活動内容については「年間で20回のオーケストラ公演と20回の室内楽演奏会開催、そして20回のアウトリーチ活動の実施」というJNOの活動基本方針を反映した目標数値を程なく達成したことを報告。中でも団体が本拠とする奈良県内での年間活動実績に焦点を充ててプレゼンテーションは続けられた。

具体的には、奈良県内で実施された「街かどコンサート開催」、「音楽祭『ムジークフェストなら』参加」、そして「アウトリーチ活動」の三つを主たる項目として挙げ、特に二番目の『ムジークフェストなら』参加については、ベルリン・フィルの奏者を数名招いての室内楽演奏も実現し、反田自身、その喜びを万感の思いで語っていたのが印象深かった。

三番目の「アウトリーチ活動」については、奈良県内の中学高校やバスターミナルなどでの演奏も含め計20回の活動実績を達成し、ワークショップやアカデミックな場での吹奏楽指導などを通して後進の育成に注力していることにも話題が及んだ。

さらにこれらの基幹的な活動の他にも10月には奈良・東大寺における『良弁僧正1250年御遠忌慶讃奉納公演』 に際して演奏の機会がもたらされたことについて、反田は「メンバー全員にとって忘れがたい経験となった」と感慨を込めてその感動を言葉にした。

奈良県との協働については今後の展望にも触れ「奈良が誇る重要文化財を活用しての演奏会をさらに増やし、奈良の街を音楽で満たすとともに奈良の文化遺産を積極的に発信していきたい」と語った。3年前の団体発足時に反田は「活動の本拠地となる奈良を音楽があふれる県・街にしたい」と力強く所信表明を行ったが、その熱意と理念に沿って、しっかりとした活動運営がなされていることがよく伝わる内容だった。

また奈良以外の活動報告について反田は特にイタリアツアーの成果について触れ、「世界一流の演奏家が集う音楽祭のプログラムの一環としてJNOを入れてもらえたのが嬉しかった。結果的にも大きな軌跡を残せた」と語り、「すでに来年以降のオファーも打診されている」という嬉しい発言もあった。

「まずは国内のファンを大切に」会員組織のリニューアルを実施

続いても反田による「2024年の活動予定と展望について」だ。まずは、既存の組織のバージョンアップを目指し具体的な計画案が語られた。新たな施策として「5月から(JNOのファン会員組織である)『ソリスティアーデ』の年会費を下げ、完全に新組織としてリニューアル。コンサート配信の機会も増やし、既存の会員対象には特別なイベントへの招待企画なども積極的に打ち出していきたい」とのこと。

他にも「出版社との協働で書籍等の出版も予定しており、先に述べた音源発信とコミュニティ交流の二本の柱も加え、あらゆる面でファンの期待に応えていきたい」という。これらの施策については、ベルリン・フィルが近年新規ファン層獲得を目指し、ますます充実させている数々のデジタル戦略からもヒントを得ているようだ。

「“ジャパン・ナショナル”という名を冠していることからも一同が目指す将来像としては『国際的なアンサンブルであり、ゆくゆくは多国籍オケを目指したい』という夢が一同の中にある」としながらも、「まずは国内のファンを大切にしたい」という思いを優先したいと述べていたのも印象的だった。

8月には団員募集・選考会を実施 スカラシップ色濃くフレッシュなメンバーを迎え新たな風を

バイオリニストの岡本誠司(左)と反田恭平(右)

バイオリニストの岡本誠司(左)と反田恭平(右)

またもう一つ、24年の活動予定における注目点として強調されたのが、8月に予定している「団員募集・選考会実施」についてだ。今までは大規模編成の作品演奏の場合、メンバー各自のコネクションでエキストラを募っていたが、今後はインターンシップやアカデミー的な要素を組み入れたかたちでの新たなメンバー増強を考えているという。

詳細は4月中旬頃にJNOの公式HPで発表されるということだが、団員募集についてはコンサートマスターを務めるバイオリニストの岡本誠司も加わり、「終身雇用的なメンバー増強というよりもスカラシップ生的な立場でフレッシュなメンバーを迎えることでオケの新陳代謝を高め、さらなる新しい風を吹き込んでもらえたら嬉しい」と抱負を語った。

加えて、反田からはJNOの給与体系が一人ひとりの活動・生活状況を踏まえてのきめ細かい査定制度を導入していること、演奏家集団としての自主性や自立(律)性を第一義とすることなど、組織全体の風通しの良さもさることながら、雇用条件においても束縛のない自由な働き方が可能であることがこのオーケストラの最大の特徴であることを改めて強調。「JNOからの給与を自らのキャリアアップのための学びに活用するとともに、『奈良を音楽の都としたい』という熱意にあふれた演奏家たちが集って欲しい」と力強く述べた。

最後に「これからも音楽の喜びをともに分かち合えるチームを作っていきたいという意味では、団員というよりも一人の人間としての良い出会いがあればと心から願っています」という力強い言葉で反田はこの活動報告会を締めくくった。


活動報告だけでもかなりのボリュームだったが、この後、休憩をはさむことなく、数十名のメディア陣と関係者を前にして演奏が繰り広げられた。一曲目は ラヴェル 組曲「クープランの墓」全曲。二曲目は反田が弾き振りを務める モーツァルト「ピアノ協奏曲 第20番」第2・3楽章だ。

「クープランの墓」では洗練された色彩感、そして時折、聴かせる官能的な響きや“霊的”ともいえる和声感覚の鋭さに、改めてのこの精鋭オーケストラの個々のメンバーの実力の高さが顕著に感じられた(特に三曲目のメヌエット!)。そしてモーツァルトでは、美しい旋律に込められたメンバー一人ひとりの音楽への深い愛情とともに、意欲的な音楽づくりとその喜びがそよ風のように伝わってきたのも印象的だった。反田を求心力としてメンバー一人ひとりの熱い思いと個々の人間力が良いかたちで収斂され、自由な気風に包まれたこの類まれなオーケストラが目指すベクトルが大いに感じられる秀逸な演奏だった。

取材・文=朝岡久美子

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