Photo by Kana Tarumi
■2024.3.10三月のパンタシア LIVE 2024「ブルーアワーを飛び越えて」@ EX THEATER ROPPONGI
2024年3月10日(日) EX THEATER ROPPONGIにて、三月のパンタシア LIVE 2024「ブルーアワーを飛び越えて」の東京公演が開催された。今回のライブタイトルにある”“ブルーアワー”とは日の出前と日の入り後にだけ発生する空が深い青色に染まる時間帯のことを指す言葉だ。言わば昼と夜のあいだ、昨日と今日をつなぐ架け橋は“アワー”と呼ぶが、実際には30分強で1時間にも満たない僅かな時間だ。24時間ある内のたった30分間を、三月のパンタシアは2時間弱をかけて丁寧に描き上げていくのだった。
今夜のステージも三月のパンタシアらしく、みあによる朗読と楽曲たちによる物語が繰り広げられていく。初めての東京、ライブハウスへいわゆる“遠征”をしにやってきた主人公。しかもSNSを通じて仲良くなった初めて会う人との連番でドキドキする心境を独白する。
そんな折、今宵の始まりを告げる楽曲は「薄明」、まさにブルーアワーを飛び越えるのにふさわしい1曲からライブがスタートした。続く「花に夕景」では、手拍子や合いの手も徐々に増え、段々と会場は熱を帯びていく。そこへ「ソーダアイス」「パステルレイン」とダンサブルなナンバーが続き、豪華なバックバンドの調べにみあも身体を委ねていく。
緊張の面持ちで到着したライブハウス。いよいよ連番相手とご対面……と初邂逅と思いきや、まさかの中学時代の友人に驚く2人。なんとなく疎遠になってしまった時間を埋めるような会話もつかの間、そしてライブが始まる。
Photo by Kana Tarumi
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5曲目の「アイビーダンス」はステージにMVが映し出され、アニメーションの動きにみんなで合わせてダンスをして、より一体感が増していく。続く「フェアリーテイル」のイントロが流れ、若干のどよめきが生まれると、みあも思わず「ウフフ」と笑みが溢れる。「レモンの花」「四角運命」と曲調も雰囲気も万華鏡のようにコロコロと形を変えていく。彼女らのステージではリリックビデオで大きく歌詞が映し出されるから、より三月のパンタシアの世界観に没入しやすくなっているのだが、9曲目に披露した「はじまりの速度」だけはあえて何も映像を出さずに、ステージ上のみあの一挙手一投足に注目させていたのが非常に良かった。
ここで三度、朗読へ。隣に久しぶり再開した旧友の彼女がいる。そんな事実が気恥ずかしくも嬉しい。会話は無くとも、このライブハウスの中で同じリズムの中に2人が揺れている。それだけで今の彼女たちには十分だった。
ライブ後半戦は「ユアソング」から再開すると「醒めないで、青春」では「みんな!タオル持ってますか!?」
とサビでタオルを思いっきり振り回し、「青春なんていらないわ」「ランデヴー」と続いた。ギター/バンマスの堀江晶太らバンドメンバーも前へ乗り出し、大一番の盛り上がりを見せる。サビのコール&レスポンスで旗を振りながら「みんなの声、もっと聞かせて!」とイヤモニを外し、オーディエンスの大合唱を直接感じるみあの姿が印象的だった。
Photo by Kana Tarumi
ここで最後の朗読が入る。ライブハウスを出ると外は濃紺の空が広がっていた。2人のすれ違いは単純なボタンの掛け違いで、感じていたわだかまりが嘘のように簡単に仲直りすることが出来た。駅まで向かう足取りは先ほどよりも軽やかで、今にでも走り出したい気持ちになった。
まさにそんな主人公の気持ちを表すように「マイワンダー」新曲の「春嵐」そして「街路、ライトの灯りだけ」を披露する。「君と夜を縫っていく夜の街を縫っていく」の歌詞の裏には、もしかしたらこんな物語があったのかもしれないな。そんな風に思わずにいられない。
3曲を終え「三月のパンタシアが紡ぐ春の出会いの物語、楽しんで頂けましたか?」と語りだすみあ。
「朗読の中で2人がまた出会えたように、私と君が今日こうして出会えたことも特別な事で、”“ブルーアワーを飛び越えて”というライブタイトルには一緒に苦しみも乗り越えていこうという想いを込めました。いつだって私は君の味方です。」
朗読や楽曲で語るだけではなく、みあの言葉で感謝を込めた想いが語られた。
そうして披露される「March」はライブのみで演奏されている未発表曲で、マーチングのリズムに乗せて始まる。それはまるで別れと出会いを想起させるように、重厚で軽やかだ。最後に披露したのは「ゴールデンレイ」。どんな別れの先にも必ず、出会いはある。三月は止まってはくれない。僕らは進み続けていくしかないんだと、当たり前の事に勇気を与えてくれる。進み続ける先には明るい未来が待っていると、僕らの背中を優しく押すような、そんな最後だった。
Photo by Kana Tarumi
アンコールを求める声に応じて「ピアスを飲む」でクールに登場すると「ここからはスペシャルゲストです!」とSouを呼び込み、2人で「まぼろし feat.Sou」そして「花冷列車 feat.Sou」の2曲を歌い上げた。「自分のワンマンライブにゲストボーカルの方が来てもらったのは今回が初めて」と語っていたように、みあにとっても特別な夜になったようだ。ここでお知らせを挟み、アンコールのラストに披露したのは「三月がずっと続けばいい」。三月のパンタシアのライブを三月に体感した身としては、本当にその通りで、このまま幸せな時間が続けばいいのにと思うくらいに幸福感に包まれていたのだが、「最後はみんなで飛ぶよ!せーのっ!」とエネルギッシュに勢いよくラストを駆け抜けてくれたので、どことなく気持ちも晴れやかに終われた。
みあの小説を軸に活動をしていく三月のパンタシアだからこそ、言葉の力を節々で感じるライブだったと改めて思った。朗読とリリックビデオを中心とした構成もその1つだ。彼女が紡ぐ言葉は瑞々しくも色とりどりで、それが映像や演出によってより鮮やかになって、私の中へ溶け込んでいった。
Photo by Kana Tarumi
ブルーアワーは立ち止まってはくれない。空はみるみるうちに漆黒の闇に染まり、そして太陽が顔を出してしまう。それは移ろいでいく事や常に変化していく事への受容と、何かが動き出す予感の隠喩とも捉えられるだろう。これは三月のパンタシアがこれまでに表現してきた事柄にもかなり近い。青春とは”“大人と子供のあいだ”であるし、三月も終わりと始まりのあいだの季節だと言える。
つまり「三月」も「青春」も「ブルーアワー」も、全てその過程の話で、未完成で不完全な状態の象徴なのだ。そんなブルーアワーを”“乗り越える”ということは、明日を肯定的に迎えることであり、また1つ大人への階段を昇ったという証明だ。「いつだって私は、君の味方です」と、みあが寄り添ってくれたように、三月のパンタシアは、まだ何者でもない自分に対する焦燥感や、不完全な自分を受け入れてくれる音楽を作り続けている。
Photo by Kana Tarumi
六本木のライブハウスを出ると、そこには濃紺の空が広がっていた。夜風が先ほどまでの興奮をなだめるように私の身体のほとぼりを冷ましてくれる。駅へ向かう私の足取りは、いまの心と比例するように軽くなっていた。
レポート・文:前田勇介