ズーカラデル 血の通ったバンド演奏と緻密なサウンドアレンジが絶妙に融合した3rdアルバム『太陽歩行』を語る

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多彩な16曲が収録されている3rdフルアルバム『太陽歩行』。血の通ったバンド演奏と緻密なサウンドアレンジが絶妙に融合した作品だ。各曲で響き渡るハーモニーが、とても心地よい。新鮮な作風も開拓している本作は、どのようにして生まれたのだろうか? リリースツアー『太陽旅行』への意気込みも含めて吉田崇展(Gt&Vo)、鷲見こうた(Ba)、山岸りょう(Dr)に語ってもらった。

――16曲が収録された盛りだくさんのアルバムですね。

鷲見:はい。ボリュームのある作品を作ろうとしたわけではなかったんですけど。

山岸:こうなっちゃいました(笑)。

鷲見:これでも曲は絞ったんです。入れたいものを選んでいく内にこうなりました。自分たちの気持ち的にも、“このタイミングでアルバムに入れないと旬が過ぎちゃうかもね?”というのがあったんですよね。今の気分で出したい曲を優先して入れました。

吉田:今の自分たちが作れる一番良いアルバムを形にした結果、これくらいのボリューム感になってしまったんです。この曲数でアルバムを構成するための試行錯誤はあったんですけど、それもすごく上手くいったと思います。

山岸:今は曲単位で聴くのが主流ですけど、アルバムとして聴いても楽しめるような曲順だったりは、すごく考えましたね。

――タイトルの『太陽歩行』に関しては、どのような意味を込めたんでしょうか? 

吉田:今の世の中がすごく嫌だと僕は感じているんです。そういう世の中で生きていると、自分のことを肯定するのも憚られる感じがするんですけど、“俺ってすごいんだぜ”と堂々と言うことに難しさを感じる人間であっても、ちゃんとお天道様の下を歩いてもいいんじゃないかなと。そうやって堂々と歩くのが、未来を切り拓いていくことにも繋がっていくのではないかと感じたことが、このタイトルになっていきました。“太陽の下を歩いていこうぜ”という気持ちでいます。

 

――サウンド面に関しては、全体的にハーモニーをかなり入念に構築している印象がしました。

吉田:“無邪気に”というか“不用意に”というか(笑)。そういう感じで声を重ねていった気はしていますね。重ねた方が良いに決まってるからやっていこう、という発想でした。

――ライブでどう表現するかは一旦置いておいて、まずは理想的な形でレコーディングするのに徹したということでしょうか?

吉田:そうです。“ライブでもやってやろうぜ!”という気持ちはあるので、それによって今、七転八倒しているんですけど(笑)。レコーディングをしているといろいろなアイディアが出てくるので、緻密に作っていくことになるんですよね。そうやって組み立てていった結果、こういう音になりました。

――1曲目の「サンバースト」もハーモニーが心地いいです。先入観ではあるんですけど、こういう透明感のあるテイストは、北海道出身のバンドならではなのかもしれないと感じています。

鷲見:自分たちではなかなかわからないですけど、“北国っぽい”みたいなことは周りから度々言われます。ずっと地下に潜って作業をしているのが、そういう北国っぽさみたいなのに繋がっているのかもしれないですね。外よりも屋内で遊ぶ機会の方が多いですし、黙々と屋内で作業している感じが、もしかしたら音に表れているのかもしれないです。

吉田:寒いと外で口を開かないから、その反動で温かい室内でコーラスを入れたくなるのかもしれない(笑)。

 

――(笑)。「筏のうた」も、ハーモニーが緻密に構築されていますね。綺麗なサウンドのベールがゆらめくようなこのテイストは、アメリカのバンドのフレーミング・リップスに通ずるものを感じました。

吉田:フレーミング・リップスが好きだという気持ちを溢れ出させた曲です(笑)。フレーミング・リップスへのリスペクトの気持ちを燃え上がらせた曲を2024年に日本のズーカラデルというバンドが出す……ということも含めて面白いんじゃないかなと。

――ドラムのカッチリしたスクエアなノリも、独特なニュアンスを醸し出していますね。

山岸:同じグルーヴをキープする感じですね。

吉田:すごく生命力があるドラムになっていると思います。

――打ち込みっぽいフレーズだからこそ醸し出される生命力、みたいなニュアンスです。

山岸:前の曲だと「シーラカンス」とかもそういうニュアンスだったと思います。こういう感じは、自分の中にインストールしようとしているところがありますね。歌に寄り添う“俺も歌うんだ”みたいなドラムとはまた別というか。“土台としてのビート”みたいなことなのかもしれないです。

――「筏のうた」は、MVもとても引き込まれるものがありました。

吉田:あのMVは、すごい偶然が重なって出来上がったんです。監督の川添さんが2015年に北海道で撮影したものの、世に出していなかった映像があって、それが使われているんです。そういう映像があることを知らずに監督の川添さんに“MVを作ってくれませんか?”というオファーをしたら、“この曲とあのフィルムはばっちり合うんじゃないか?”と仰っていただきました。我々がバンドを始めてから迎えた最初の冬くらいの時期の映像なんですよね。そこにも偶然を感じています。

――多彩な音色やフレーズで緻密に構築されている代表格とも言うべき「筏のうた」ですが、他の曲も完成形に至るまでにいろいろ試したんですか?

鷲見:はい。そういう作業は、特にここ数年すごくやっているのかもしれないです。フレーズだけではなくて、音色を突き詰めていくことにも重点を置くようになってきています。いろいろなサウンドに挑戦してきた中で、“こういう感じの音にしたい時は、機材の設定をこうすればいい”というような手法の理解も深まっているんですよね。楽器で鳴らせる音の幅が広がっている感じは、メンバーそれぞれにもあるんだと思います。使える調味料が増えたと同時に、一つの調味料で出せる風味も広がっている感じかもしれないです。

――ズーカラデルの曲は、アレンジもすごく素敵です。アレンジ力は、自信がありますよね?

吉田:はい。自信があります(笑)。メロディや歌詞の言葉に対してどういう音のアプローチをするのがベストなのか? どういう音が聴いた人の心から感情を引き出すのか? そういうことは、すごく丁寧に考えています。

鷲見:マスタリングの時、良い響きの部屋で良いスピーカーを鳴らして聴けるのは、すごく幸せなんですよ。なので、みなさんにもできる限り良い環境を整えていただきたい気持ちがあります(笑)。良い環境で鳴らすと、自分たちでも感動しますからね。

 

――「すごい愛の言葉」や「しろがね」も、気持ちいい仕上がりのサウンドですね。起伏に富んだ展開でもワクワクできる曲です。

吉田:ありがとうございます。こういうのも、いろいろ考えて丁寧に作っていきました。

――「ダンスホール・ベイビーズ」は、フェイドアウトで終わるのが印象的です。フェイドアウトは、前から好きですよね?

吉田:はい。我々は、フェイドアウトが結構好きなバンドです(笑)。

――最近の音楽でフェイドアウトは珍しいのかも。昔の歌謡曲とかでは、よくありましたけど。

吉田:“いいのかな?”と思いながらやっています(笑)。

山岸:フェイドアウトは、なんとなくオールディーズ的な感じもあるんですかね?

鷲見:“どう終わる?”という話し合いの中、なんとなくフェイドアウトすることになったりするんですけど。

吉田:ちゃんと終わりたい曲の逆が、フェイドアウトにしたい曲ということなのかな? 音楽は楽しいので、永遠に続いていた方がいいんです。だからすべての音楽はフェイドアウトするべきものなのかもしれない(笑)。

――(笑)。「ダンスホール・ベイビーズ」は、ライブでもフェイドアウトするんですか?

鷲見:ライブでフェイドアウトで終わると、なんか面白い感じになっちゃうじゃないですか(笑)。ライブでしかできないかっこいい終わらせ方をしたいですね。

 

 

――カントリー&ウエスタン、ブルーグラスみたいなテイストの曲があるのも、今回のアルバムの聴きどころだと思いました。「きれぎれ」は、本物のバンジョーを弾いているんですか?

吉田:はい。一生懸命弾きました。バンジョーの弾き方のマナーみたいなのはわからなくて、わりとギターみたいな弾き方をしたんですけど、それでも独特な感じになりましたね。エンジニアの南石さんがかっこいい音で録ってくれたので、すごく良い仕上がりです。あの気持ちいい音を普段から弾いていたら健康になるかもしれないですよ。

――カントリーっぽい曲をやりたくなった経緯は、何かあったんですか?

吉田:昔からアイディアはあったんですけど、“まだ完成に至ってないよね?”っていう感じがずっと続いていて、なかなかアウトプットに至らなかったんです。でも、“そろそろ本当にやりたいよね?”という旬の時期なのかなと。今回、本腰を入れてやってみたら、想定していたよりもスムーズでした。ようやくこういうのができるバンドになったのかもしれないです。

――インディーズ時代からある「地獄の底に行こう」も今作に収録されていますが、これもカントリー的なテイストを感じます。

吉田:カントリー、ブルーグラスって、めちゃくちゃ良いんですよね。我々と親和性が高い音楽でもあるのかなと思います。特に山岸とバンドをやり始めた頃、そういうことを思ったのをよく覚えています。彼のドラムは、“こういうのがめちゃくちゃ似合うよね?”という感覚があったので。

山岸:ブルーグラスとかをやっていたわけではなかったんですけど、僕は電子楽器を相手にするよりもアコースティックな楽器と演奏する機会の方が、もともと圧倒的に多かったんです。

――山岸さんのそういう部分を自然と活かせたのが、「きれぎれ」だと思います。

山岸:そうですね。「地獄の底に行こう」の時とはまた違うものがありつつも、同じような軸を持った曲が「きれぎれ」です。自分たちの成長も感じたし、良い機会にもなりました。

鷲見:「きれぎれ」は、我々としても満足感がある曲です。こういうのを多くの人が喜んでくれるんだったら、より開拓していくこともできるのかもしれないですよ。

吉田:みなさんに喜んでいただけるのならば、こういうのを今後こすっていくのも可能です。

――ファンのみなさんに新鮮さを感じていただけるのは、間違いないと思います。

吉田:そうだったら嬉しいです。なんにせよ、自分たちにとってもこういうのは面白いですからね。

――今後、バンジョーとさらに仲良くなったら、新しいタイプの曲がまた生まれるかもしれないですよ。

吉田:そうですね。新しい楽器は、上手になっていくと面白いですから。とはいえバンジョーの海は深くて広過ぎるので、今のところは隅っこで水遊びをしています(笑)。

――(笑)。短い尺で駆け抜ける「ボーイズオンザラン」も、どことなくカントリー感がある気がします。

吉田:これも結構歴史の古い曲です。弾き語りの曲が大もとにあって、それをバンドでやることになったんです。どうしようか? と考えた結果、そのままストレートにやるのが良いんじゃないか? ということになり、この形になりました。

――「地獄の底に行こう」も昔からある曲ですが、今作に収録されることになった理由は何かあったんですか?

鷲見:昔はライブの定番で、大体セットリストに入っていたのが「地獄の底に行こう」なんです。2019年の1stフルアルバム『ズーカラデル』のタイミングで3人でレコーディングしたことがあったんですけど。

――その時は、収録に至らなかったんですね?

鷲見:はい。他の曲と一緒に並べてみて「地獄の底に行こう」が映える場所が見つからなかったんです。お蔵入りになったんですけど、良い曲だし、どこかで出したいなという気持ちはずっとありました。今回のアルバムの曲がある程度出揃った段階で、アップテンポで小気味いいものが欲しいということになって、「地獄の底に行こう」がふさわしいのではないかと。最近のライブで一緒にやっているサポートのギターと鍵盤のお二方にも参加してもらって、改めてレコーディングしました。5人でやってみたら、すごく良い仕上がりになりましたね。

――サウンドに関しては海外の音楽から吸収したものがいろいろ反映されているズーカラデルですけど、日本的な雰囲気がどことなく漂うのも特徴だなと今作を聴いて改めて思いました。例えば《国道》《バス停》《自転車》という言葉が出てきたり、《からからと音を立てて 空っぽの缶が転がってく》という描写をしていたりする「スーパーソニックガール」は、日本的なものをとても感じる曲です。

吉田:なるほど。あんまり考えたことはなかったですけど、そういう感じはあるのかもしれないですね。自分が生活しながら目で見たこと、感じた温度とかが言葉になって出てきているんだと思います。

 

――「ブルー・サマータイム・ブルーズ」「ダダリオ」とか、夏を描写した曲が透明感を醸し出しているのも、それが理由かもしれないですね。

吉田:いわゆる“サマーチューン”っていう感じのものを書けないんです。ラテンテイストのサマーチューンとか、選ばれし者しか書けないと思っています(笑)。だから僕は逆を行くということですね。

――タオルを回して開放的に盛り上がる曲とか、ズーカラデルが生み出すことは想像しにくいです。

鷲見:そういう夏を10代の頃とかで実際に過ごしていれば、自然とそういう曲を書けたりするのかもしれないですけど。僕は海から近い距離の場所で過ごしてきたんですけど、遊びに行くことはほとんどなかったです。通っていた大学の最寄り駅は海のすぐ近くで、海を見ながら20分か30分おきにくる電車をただ待っていました(笑)。今まで30回以上の夏を経験してきた中で、元気よく盛り上がる感じとはずっと無縁でしたね。スイカを割ったりしたのも、幼稚園の時だけだった気がします。

 

 

――「ダダリオ」と「ラブソング」は、昨年の3月にリリースした『ACTA』に収録されていましたが、2023年は他にもたくさんの曲を世に出しましたね。「衛星の夜」「輝き」「秘密」とかがリリースされたのも去年でしたっけ?

吉田:そうです。去年リリースした曲をアルバムで他の曲と一緒に並べてみると、新しい表情を浮かべるような気がしますね。そういうのは、アルバムを作る度に自分でも楽しみにしています。

――「トレインソング」は新曲ですが、ライブで楽しくなりそうです。

鷲見:無邪気に楽しいことを入れてみた感じですね。次のツアーでもしセットリストに入ったら、楽しいかもしれないです。

――今回のアルバムは16曲ありますから、次のツアーのセットリストは、かなり悩むことになるんじゃないですか?

鷲見:そうなんです(笑)。

吉田:16曲を全部やると、セットリストがかなり埋まっちゃうんですよね。おっしゃるとおり悩ましいところです。でも、良いアルバムを作れた感覚がすごくあるんですよ。商業的なことを超えて“ちゃんと音楽だな”と思うことができています。

 

――リリースツアー『太陽旅行』は、3月10日の名古屋DIAMOND HALL公演を皮切りに始まりますが、どのようなものになりそうですか?

鷲見:アルバムのリリースツアーなので『太陽歩行』の曲を中心にしたものにはなるんですけど、ズーカラデルを昔から聴いてくださっているみなさんにも楽しんでいただけると思います。古い曲も良いものがたくさんありますからね。

――新しい曲に関しては、「筏のうた」をぜひライブで聴きたいという声が結構あるんじゃないかなと想像しています。

吉田:「筏のうた」は、ライブでやったら良いと思いますね。先日、初めてツアーのメンバーと一緒に演奏したんですけど、すごく気持ちよかったです。表現の仕方は音源と違う形になるんですけど、良い手応えがありました。

山岸:全曲は次のツアーで演奏できないかもしれないですけど、今回のアルバムからたくさんやることにはなるはずです。ライブならではの熱も入れて表現したいので、そういう調整を上手くしてツアーに臨みたいです。それが今の僕の意気込みでもあり……不安でもあります(笑)。

鷲見:みんなで不安を徐々に減らしていっているのが現在の状況です(笑)。曲にとって大事な部分はなるべく音源を再現したいので、たくさん練習して完成度の高いものをお届けしたいですね。昔は曲を作っている段階で、“これはライブでできないじゃん” みたいなことがあったんですけど、そういうのがブレーキになるのは良くないんです。ライブでどうやるのかは後で考えるようになりました。“きっとなんとかなるでしょう”と。

山岸:そのツケが今、回ってきているところだよね?

鷲見:そうなんですけど(笑)。でも、次のツアーもライブならではの良さをたくさん出していけそうな気がしています。

――個人的な希望を申し上げますと、「きれぎれ」は、次のツアーでぜひ聴きたいです。

吉田:参考にさせていただきます。

鷲見:我々がライブで楽しくやれると判断された暁には、やることになるでしょう(笑)。

――(笑)。どうなるのかは、当日のお楽しみということですね。

吉田:はい。とにかく、いつもと変わらず良い演奏をできるように努めます。観に来てくださる方々は“音楽を聴くのが楽しみだな”という気持ちだけを持って会場にお越しください。踊れ、踊るな、歌って、歌わないで、とか、こちらから要求することはないですし、ライブの中で自分を上手に表現して、自由に楽しんでいただけたらなと思っています。

取材・文=田中大

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