3月20日に渋谷PLEASURE PLEASUREで開催された杉本恭一の還暦を記念した『KYO1KYO60』のオフィシャルレポートが到着した。
杉本恭一は日本のミクスチャーロックの創始であるLÄ-PPISCH(レピッシュ)のリーダーかつギタリストとして1984年にそのキャリアをスタートさせ、1987年にメジャーデビューし、日本にミクスチャー旋風を巻き起こした。その活動と並行する形で1996年に初のソロアルバム『ピクチャーミュージック』を発表、そして8年後の2004年、セカンドアルバム『PENNY ARCADE』の発表を機に本格的なソロ活動をスタートし、現在までに10枚もの単独アルバムをリリースしている。
そして元々ジャンルに捕らわれないアプローチを持っていたため、彼の作る音楽は極めて多岐にわたる。アグレッシヴで攻撃的なサウンド、ユーモラスでコミカルなサウンド、抒情的かつロマンティックなサウンドなど、変幻自在。だが、そこには常に1本の芯が存在する。それは「嘘偽りのない杉本恭一の分身」が常に存在するということ。どの曲も、まさに杉本恭一なのだ。では杉本恭一とは一体どんな男なのか?
まず、豪快でパワフル、それが極まって時々破壊神的な怪獣感を発揮するので往々にして怖がられたりもするが、同時に彼は周りの人間を笑わせることがとても好きで、周りが笑うと自分も大笑いして喜ぶ。彼の一番大きな魅力は、人を惹きつけてやまない、この破天荒な愉しさ。
次に、たとえ自分が困ったことになりそうな時でも人を助けようとし始める義理人情の異様なまでの厚さ。私自身も含め、彼に感謝している人間はとても多いと思う。しかもそれでいてたまに彼はポロリと気弱な部分を見せやがる。これでもう男も女もイチコロだ!って、私は何を書いてたんでしたっけ? とにかく彼の楽曲にはこうした彼の人間性がそのまま現れていると思っていただきたい。その上で、元グラフィックデザイナーであり、現在もイラストレーターとして誰にも真似できない独自の世界観を発揮することでも知られる彼の、絵や色彩に対するこだわりも楽曲に反映されている。彼の性格・人生・キャリアの全てがこれまでの楽曲に詰め込まれているのだ。つまり杉本恭一の楽曲はそのまま杉本恭一であると。どんなにかけ離れたジャンルの音楽を鳴らしても違和感がまるでないのは、これが理由であると私は強く思っている。
その杉本恭一の還暦を記念した『KYO1KYO60』が、2024年3月20日渋谷PLEASURE PLEASUREで行われた。奇妙な音階が心地よい「時間」のSEと共にさながらタイムトンネルのような映像が流れ(レピッシュ初期の杉本の衣装である赤いスーツを着た御父上の還暦時写真も挿入!)、登場するのは、杉本恭一(Vo&Gt)とthree days agoの奥村大(Gt&Cho)、有江嘉典(Ba&Cho)、中畑大樹(Dr&Cho)。お馴染みのメンバーだ。
奥村大
有江嘉典
中畑大樹
そして1曲目はファーストアルバムから「MaMa」、伸びやかで美しいメロディーを持つお誕生日に相応しい誕生のナンバーだ。そこから「Marking Point」「電撃」「Red monkey」と超絶アッパーなパワーナンバーが炸裂する。まさに杉本恭一である。ちなみに還暦のお衣装は、赤というか臙脂色のユニオンジャック柄が入った小粋なスーツにぴしっとネクタイ。ネクタイ姿で登場したのは人生初だとMCで披露し、満員の観客の笑いを誘うなどして「ズル休み」「moon」と、情景が目の前に浮かんでくるような染みわたるナンバーが響く。
硬軟、動静の引き出しの多さがまた痛快だ。そんな中、11曲目「Panmanブギ」で最初のゲストにして華恭でコンビを組む盟友・水戸華之介が登場し、〇なせ〇かし巨匠からのクレームを心配しつつ笑いながら聴きつつ、軽快なおしゃべりというか漫才?を挟んで「ゆらぎ」「無敵のボヘミアン」と、のべ3曲を披露。
ここからまたチームthree days agoに戻って「rain song」「監獄オーケストラ」を豪快かつアグレッシブに掻き鳴らしたと思ったら「ブラブラ」「月食」「APPLE」と、様々な景色と色彩が奔流するかのようなめくるめく杉本ワールドを披露。余りにも時間があっという間に過ぎてゆくため、杉本が“終わりたくない”的なことを言い出してハッとなる。気が付いたらもう、私が勝手に杉本の最高傑作と思っている、恐らく世界唯一であろう湯河原の温泉のカランが小さいことを歌った大名(迷)曲「ダミーリリック」、19曲目だ。そして20曲目「天国ロックショー」でヨーイチの名を叫び、本編が終了。
MAGUMI
tatsu
これだけ焚きつけておいて観客が許すわけがないので、もちろんアンコールである。そして驚いたのが、いやLÄ-PPISCHのMAGUMI(Vo&Tp)とtatsu(Ba)が登場すること自体に驚きは全くなかったのだが、問題はその役割分担だ。なんとメインボーカルは全て杉本恭一が担当し、MAGUMIはTp演奏をメインに歌はコーラスにまわっての「KARAKURI」「爆裂レインコート」「ガーリックマン」「イージンサン」を披露である。こんなの初めて見た。ほぼ40年見てきて初めて見た。まだまだやっていないことがあったのだということに大きな驚きと感動とヤラレタ感を覚えつつ。オーラスのダブルアンコールは「ラオラウ」そしてファーストアルバムから連綿と続く大人気曲にして暴虐の限りを尽くす沸騰曲「TACO」。正直に申しましょう、60歳のライブじゃないぜ。
人を愉しませたい男・杉本恭一の今日60歳の宴は、まさに笑顔と熱気に溢れた特別な一日となった。そしてこれからも、いつまでも、70でも80でも、私たちを笑顔にさせ続け欲しいと強要したい。あと奥村氏も言っていたが、足を高く上げ続けて欲しい。頼みます。
文=中込智子 撮影=@h_omi