The Rev Saxophone Quartet、10周年の渋みと煌めき~クラシックやジャズのスタンダードナンバーから世界初演まで、未来へ続く記念ツアーをレポート

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上野耕平、宮越悠貴、都築惇、田中奏一朗によるサクソフォン四重奏団「The Rev Saxophone Quartet」が、結成10周年を記念してツアーを開催した。クラシックやジャズのナンバーから、サクソフォン四重奏曲のために書かれたオリジナル、そして委嘱された世界初演作品まで、今回も盛りだくさんなプログラムで構成し、さらに「Rev」の魅力を深掘りできるツアーとなった。公演は東京と岐阜、神戸の3都市で実施。今回は、2023年12月22日(木)に浜離宮朝日ホールで行われた東京公演の模様をレポートする。

クラシックやジャズの名曲をサクソフォン四重奏で

真面目な面持ちで現れ、トークを入れず間髪なく『いつか王子様が』(編曲:和仁将平)で幕開け。ワンダーランドへの扉が開くかのようなキャッチーな導入が、Revの世界に誘う。ジャジーな雰囲気をベースに、ワルツ風の5拍子が登場したり、息の長い旋律で音の流れを意識した場面が訪れたりと、クラシカルな作風と織り混ざりながら音楽が展開。ビートに乗せられたかと思いきや、4人の音が美しく絡み合う瞬間もあり、予想のつかない展開に心が躍る。

続いて2曲目は、公演ごとに日替わりで演奏されるクリスマスソング。東京公演では『The Christmas Song』(編曲:Dairo Miyamoto)が披露された。静かで上質なテナーサクソフォンのソロに始まり、アルトサクソフォンによるR&Bを思わせる旋律など、各々が各々の歌い方で作品の美しさを打ち出しているようだったが、特筆したいのが田中によるバリトンサクソフォン。即興性あるメロディをリズミカルに繰り広げる一方で、オリジナルならではの気高さをそのままに、優しく静かに火を灯すような演奏だった。

上野耕平

上野耕平

田中奏一朗

田中奏一朗

3曲目と4曲目はサクソフォンを生んだ地・フランスの作曲家にフォーカスし、ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』とドビュッシー『ベルガマスク組曲』を演奏。どちらも本来はピアノ独奏のために作られたものであるが、今回はオリジナルの持ち味を失わないアレンジで披露された。管弦楽の魔術師といわれたラヴェルや、色彩の豊かなドビュッシーの魅力的なハーモニーは、渋みと煌めきを兼ね備えたRevの音色にぴったりハマる。

前半にはもう一つプログラムが用意されていたのだが、こちらについては改めて後述したい。

親交の深い旭井翔一による世界初演の委嘱作品

後半は、サクソフォン・カルテットのために書かれたオリジナル作品を中心に構成。まずはカーター・パンによる、Revの結成と同年である2013年に書かれた『THE MECHANICS:Six from the Shop Floor』を演奏。古い自動車工場を舞台に、4人の整備士が演奏している……という設定の作品だ。

6つの楽章はそれぞれ副題が付されている。第1楽章は「HOIST」。ホイストとは昇降機を意味するが、その名の通り各パートで上昇音型が何度も登場し、特も言えぬボルテージがじんわりと高まるようで、ヒリヒリとした緊張感を味わう。第2楽章は「DRIVE TRAIN」、4つのパートによる同音連打と推進力のある旋律の噛み合わせが、音楽を推進する。時折クラクションのような音が聴こえるのもおもしろい。

宮越悠貴

宮越悠貴

都築惇

都築惇

4つのパートが特定の旋律を何度も繰り返しゆったりと迷宮に誘うような3楽章「BELT(to S.R.)」、「弾み車」を意味し、バリトンがリードしながらリズミカルに緩急の駆け引きに耳を奪われる第4楽章「FLYWHEEL」、静謐に品のある音色をミルフィーユのように重ね合わせる絶品の第5楽章「BALANCE」を経て、第6楽章は「TRASH」。ゆったりと刻まれるリズムの上に、揺さぶりをかけるようなブルース由来の旋律が広がるが、最後は意味深な漂いを残してあっさりと終了。「ゴミ」を意味する楽章であることもあり、タイトル名も含めて想像力の広がる演奏だった。

そして最後は、Revと親交の深い作曲家・旭井翔一による委嘱作品『サクソフォン四重奏曲』を披露。バリトンやソプラノサクソフォンのジャズやブルース調の旋律と、アルトとテナーの二重奏やTuttiによるコラールのような調べが交互に訪れるイントロでスタート。後半は、ソプラノサクソフォンで奏でられるシックでメロディアスな旋律を起点に、アンサンブルを展開していく。

クライマックスに近づくとアルトサクソフォンが技巧的かつ即興風に変奏する場面が長尺であり、作品に異なるスパイスとハリを与える。作品を演奏する前に上野が「旭井さんは、人の痛みがわかる作曲家だと思う。旋律が心にスッと入ってくる」と話したように、洒落ているだけでなくセンチメンタルな趣も感じさせたり、心の琴線に触れるような美しいコラール風の旋律も登場したりと、根底には「歌心」があるように思う。それは人の声に似たサクソフォンの音色に馴染むし、4人の魅力を引き出すにもピッタリだ。

未来ある学生と共演する「プロデュース企画」

さて今回のツアーでは、Revの3回目となる「プロデュース企画」が実施された。オーディションを実施し、選出された演奏者がRevの各メンバーによるレッスンを受け(その様子はYouTubeの公式チャンネルでも公開されている)、最後はRevの公演で4人と共演する……という企画だ。今回は高校1年生、3年生の2名が選ばれ、東京公演と神戸公演に出演。2つの舞台の様子もレポートしたい。

東京公演には平山漣が出演し、ブートリーの「ディヴェルティメント」(編曲:宮越)を演奏。平山の瑞々しさと響きのある音が前面に打ち出た第1楽章、揺らぐような音楽と旋律をしっかりと歌い込み、カデンツァでは持ち味である伸びの良い音色を聴かせた第2楽章。最後の第3楽章では、Revが強く刻むビートの上で着実に技巧的な旋律を吹きこなし、確かな技術力を聴かせながら、勢いを増しながら作品を締めくくった。

東京公演に出演した平山漣

東京公演に出演した平山漣

2023年12月24日に行われた神戸公演には、松原徹郎が出演。リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」第3楽章「若い王子と王女」(編曲:秦麻美子)を演奏した。作品全体の中では緩徐楽章にあたり、松原による第一音目からの表現豊かな歌い込みが気持ち良い。Revの4人の奏でるハーモニーに実直かつダイレクトに応えるアンサンブル力を感じさせつつ、うねるようなシェエラザードのテーマのソロには慎重さと官能さを兼ね備える。松原の音に寄り添いつつ時にはリードし、対等に音楽づくりを行うRevの様子も印象的だった。

神戸公演に出演した松原徹郎

神戸公演に出演した松原徹郎

上野はトークで、2人の学生について「Revの4人からレッスンを受けていると、時にはまったく違う指導を受けたり、真逆のことを言われたりすることもあります。それらをいかに自ら選び、自分のものにしていくか。それもプロデュース企画ならではだと思います」と語っていた。夏にレッスンを開始して以降、今回の本番はまさに集大成となった。実力ある2人の演奏者が、ここからさらに才気を育んでいくであろうことを確信できる舞台だった。

10年間の軌跡を経て、未来へ

公演の最後に、5年ぶりとなるアルバム『for』の発売を発表し(2024年3月27日(水)リリース)、新たな未来への光を見せてくれたRev。アンコールでは彼らが10年間取り組んできた「バークリー・スクウェアのナイチンゲール」を演奏し、会場はノスタルジックな空間に。情感的にハーモニーを紡ぎ、盛りだくさんのプログラムを心地よく締めくくった。

取材・文=桒田萌 撮影=中田智章

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