Homecomings、トクマルシューゴ、みらんが神戸ベイエリアで響かせた極上サウンドーー『SONO SONO by the seaside ’24』レポート

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『SONO SONO by the seaside ’24』2024.1.20(SAT)神戸 Harbor Studio

1月20日(土)、神戸 Harbor Studioにて『SONO SONO by the seaside ’24』が開催され、トクマルシューゴとHomecomings、オープニングアクトにみらんが出演した。本イベントは、いよいよ4月6日(土)に開催が迫った、道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢にて行われる『KOBE SONO SONO '24』のスピンオフイベント。夜には神戸クラブ月世界で『SONO SONO in the moonlight ’24』が行われ、角舘健悟(Yogee New Waves)、藤原さくらが出演した。本記事では、お昼に行われた『SONO SONO by the seaside ’24』の極上ライブの模様を振り返る。

2023年4月に初めて行われた『KOBE SONO SONO』は、北神戸の豊かな自然の中で、美しい建物や庭園、地元神戸のお店をはじめとした多数の出店を楽しみながら、音楽をたっぷり堪能できるアットホームなフェスティバル。今年で2度目の開催となるが、ラインナップの素晴らしさと開放的な居心地の良さに早くもファンが続出しており、開催が楽しみに待たれている。

この日の天気はあいにくの曇り空。冷たい1月の小雨と風に肌を撫でられて、足早に会場へ向かう。その名の通りベイエリアに建つ神戸 Harbor Studioに到着すると、コーヒーの香ばしい香りが鼻をかすめた。ステージの横では、昨年の『KOBE SONO SONO』にも出店した「YouthCoffee(スペシャルティコーヒー専門店)」のほか、「BRASSERIE L’ARDOISE(フランス料理)」のハーブソーセージと冬野菜のおでんという超魅力的なメニュー、そして「本の栞(本屋)」選りすぐりの本を手に取ることができ、来場者はゆったりと開演までの時間を過ごしていた。

みらん

オープニングアクトとして登場したのは、神戸出身のシンガーソングライター・みらん。『KOBE SONO SONO ’23』にも出演し、アコギ1本ながら集まった多くの人々を魅了する歌を聴かせてくれた彼女が、地元神戸に凱旋した。昨年11月にリリースされたアルバム『WATASHIBOSHI』に収録の「天使のキス」から柔らかくライブをスタートし、「去年『KOBE SONO SONO』に出させてもらって、今日呼んでもらってありがとうございます。嬉しいです」と感謝を述べる。お正月に東京から帰省した際、「本の栞」で弾き語りライブを行い、『SONO SONO』の関係者や出店者と過ごしていたと思い出を語った彼女。

みらん

みらん

早めの再会を無邪気に喜び、好きな人たちがつながるのは嬉しいと顔をほころばせる。そして「いつもたくさん力を与えてもらっているので、また会えるように歌います」と力強く述べ、最新アルバム『WATASHIBOSHI』から「海になる」、映画『愛なのに』の主題歌で曽我部恵一(サニーデイ・サービス)プロデュースの「低い飛行機」に続け、こちらも最新アルバムに収録の「与えられる夜」の全4曲を歌い上げた。たおやかでいじらしく、可憐で芯のあるみらんの歌声は、聴くたびに耳と心を潤わせてくれる。この日も短い時間ながら、しっかりと来場者の琴線を揺さぶっていた。

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

定刻の14時になり、本編のライブが幕を開ける。先攻はトクマルシューゴ。岸田佳也(Dr)、yunniko(Acc.Glo.Toys)、三浦千明(Tp.Pan.Toys)、新間功人(Ba)をサポートに迎えた5人編成のバンドセットで登場した。彼らは、ギター、ベース、ドラム、アコーディオン、トランペットといった楽器に加え、数々のおもちゃを演奏に使用する。ステージ上のテーブルに置かれた色とりどりの楽器たちを見ているだけで楽しくなってしまうが、スタンバイしたメンバーが音を鳴らすと、フロアの高揚感はさらに上昇。裸足のトクマルが正面を向き「トクマルシューゴ、始めます」と言うと、聴こえてきたのは「Karachi」。yunnikoが笛を吹き、新間はバイオリンの弓を使ったボウイング奏法を披露。クラップも楽器として昇華させ、オーガニックなアンサンブルを生み出してゆく。パペットやパチパチハンドなど、「こんなのも使うんだ!」と言いたくなるほどクラフト感満載のサウンドの中で、トクマルが伸びやかな歌声を響かせた「Poker」、アコーディオンとピアニカの重奏にトクマル、岸田、新間のクラップが重なり、波のようにうねりを見せた「Green Rain」を連投し、あっという間に楽しくてポップネスな空間を作り上げた。

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

MCでトクマルは「今日神戸に新幹線で来たんですよ。新幹線のチケットを5人分取ったんですけど、全員違う時間帯で来るから1人ずつ取ったんです」と話し始める。どうやら岸田の分のチケットを、日にちを間違えて取ってしまったそうで、1枚分をおじゃんにしてしまったと嘆いて、笑いに変える場面も。「Clocca」から、さらに緩急織り交ぜて、「Taxi」ではより雑味のあるサウンドをダイナミックに響かせる。楽曲が披露されるたび、驚きや躍動感、思いもよらぬ音の重なりに感化され、会場のテンションがじわじわと上がっていくのが肌で感じられた。

「Wedding」のアコースティックな雰囲気から「Sakiyo No Furiko」へ繋げるアレンジで一気に世界を開く。<ゆれる潮風に>という歌詞が海辺のハコにぴったりだ。頻度高めに挟まれるMCでは「めちゃくちゃ考えてアルバムを作っている」と、熱っぽく制作状況を報告。来場者に真剣にアイデアを求める場面も見られた。

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

1人何役を担っているのかわからなくなるほどの手元の多忙さと、それに伴う音数の多さに惚れ惚れした「Canaria」、高速アコギのバッキングから始まり、エネルギッシュでポップなメロディーによく伸びる歌声「Parachute」、さらに「Hikageno」「The Mop」で豪快に加速。無国籍で型にはまらないが、まとまったバンドアンサンブルは見る者を虜にさせる。アニメ『ちいかわ』の音楽を担当したトクマルは、ちいかわのぬいぐるみを手にして「ちいかわも見てほしいし、僕のライブも見てほしい」とアピールして1曲演奏すると、残り時間もあとわずかに。

トクマルシューゴ

トクマルシューゴ

MCでのたっぷりのトークが影響して残り時間がタイトになったことを明かし、「アルバム出たらまた来るので、その時お話しましょう!」と「Rum Hee」を雄大かつ華やかに演奏すると、最後はアコギの弾き語りから新曲「Counting Dog」を演奏。三浦とyunnikoのコーラスワークも奥行きを広げ、最高潮に高まったアンサンブルでフィニッシュ。フロアからは大きな拍手と歓声があちこちから飛んでいた。


転換中のステージと会場をライトアートで彩ったのは、昨年の『KOBE SONO SONO』で、2つあるステージのひとつ、FRUITS STAGEでも光の演出をしてくれた「ヅカデン」。くるくると変わるネオンのアニメーションがとても可愛く、どこか懐かしい気持ちにさそわれた。

Homecomings

Homecomings

Homecomings

後攻は『KOBE SONO SONO ’24』にも出演が決定しているHomecomings。Nicoの「These Days」をSEに登場した石田成美(Dr.Cho)、福富優樹(Gt)、福田穂那美(Ba.Cho)、畳野彩加(Vo.Gt)がしばし向き合い、「Homecomingsです。よろしくお願いします」と畳野が挨拶すると「光の庭と魚の夢」が柔らかく奏でられる。澄んだ畳野の歌声、切なくて上質なメロディー、福富のギター、石田と福田のコーラスワーク。4人だから出せるアンサンブルが心地良く広がり、Homecomingsの音楽を浴びられる幸せを噛み締める。そう感じてしまうのは、石田が2月10日に京都KBSホールで行われる自主企画ライブ『Homecomings New Neighbors FOUR Won’t You Be My Neighbor? February.10, 2024 at Kyoto KBS Hall』をもって脱退することが決まっているから、ではあるのだが、10周年を迎えたバンドのキャリアに裏打ちされた4人の息の合ったサウンドがシンプルに素晴らしいから、というのももちろんある。

続けて、昼間のライブハウスゆえに感じることのできる独特の浮遊感に身体も心もふわりと連れていかれそうになった「Smoke」、ソフトな空気の中にも芯を感じるビートと、畳野の色気のある歌声が全身に染み渡った「ラプス」を披露。みるみるうちに良い時間と空気が作り上げられていく。

MCでは福富が「神戸でライブするのが久しぶり」と挨拶。朝イチで会場入りして時間があったことから周辺を散歩したと話す。大のオリックスファンの彼は「ブルーウェーブ時代のオリックスを感じることができて胸熱だったのと、きよしというトンカツ屋さんがおすすめ。ゆっくり神戸に来ることがなかったので、街を散歩できて嬉しかったし、僕はそういうのが好きだし良いなと思えた」と、この機会を喜んだ。

ここから最後まではMCを挟まず、途切れなく楽曲を披露していった。それはとても贅沢で、Homecomingsの表現力をまざまざと実感する豊穣な時間だった。ざわりとするほどの畳野の美しいハイトーンボイスが響き渡った「euphoria」ではそれぞれの奏でる音の立ち方が素晴らしく、タイトなビートに重なるギターアンサンブルと際立つボーカルの神々しさにトランスした「Here」、オルタナ感満載の「Shadow Boxer」。堂々たるサウンドメイクとステージングに圧倒される。曲の切れ目のチューニングタイム、しばし余韻に浸っていると「新曲やります」と、まだリリースされていない「Moon Shaped」をプレイ。福富と畳野が魂を込めるようにギターを鳴らし、透明感のある畳野の歌声が美しくサウンドスケープを描き出す。希望を感じさせるような歌詞と音色に、今後の彼らへと想いを馳せる。イントロアレンジが極上だった「Blue Hour」を経て、映画『愛がなんだ』の主題歌「Cakes」で優しく満たし、疾走感溢れるラストナンバー「US/アス」まで10曲を駆け抜けた。

アンコールを求める拍手に応えて、ステージにカムバックした4人。畳野は「本当に素晴らしいイベントに呼んでいただいてありがとうございます」と感謝を述べ「春にまたお会いできたら嬉しいです」と『KOBE SONO SONO』本編への期待を寄せた。アンコールは「Songbirds」。最高に美しく繊細なアンサンブルを大切に演奏し、『SONO SONO by the seaside ’24』を華麗に締め括った。

メンバーが去ったステージには「See You April 6th!」のメッセージ。4月6日(土)の『KOBE SONO SONO ’24』で会えるまで、気持ちを高めて待っていよう。

取材・文=久保田瑛理 撮影=羽場功太郎

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