広告・取材掲載

なきごと 最高を更新し続けるバンドの進境著しい姿、「素直になれたら」リリースツアー最終日レポート

アーティスト

SPICE

なきごと

なきごと

なきごと 8th Digital Single Release Tour 2024
2024.04.06 Zepp Shinjuku(TOKYO)

大阪、名古屋と回ってきた8thデジタルシングル「素直になれたら」のリリースツアーは4月6日、東京・Zepp Shinjukuでツアーファイナルを迎えた。演奏は水上えみり(Vo, Gt)が弾き語る「憧れとレモンサワー」でスタート。岡田安未(Gt, Cho)が拳を上げると、それに応えるように観客全員が拳を上げる。

「なきごと始めます!!!!」

水上のシャウトを合図にギターリフを閃かせた岡田とサポートのリズム隊が水上の弾き語りに演奏を重ねると、観客が頭の上に掲げた拳を振り始める。その光景を目の当たりにして、「最高じゃん!」と快哉を叫んだ水上に対して、歓声を返す観客。そんなふうに当たり前のように始まったバンドと観客の交歓は、「歌える人、歌ってくれる?」という水上の言葉とともに1曲目からシンガロングに結実する。

そして、「もっと行くぞ!」「やれんの!? Zepp」と観客に発破を掛けるように水上が言いながら、「連れ去って、サラブレッド」「ユーモラル討論会」の2曲をたたみかけるように繋げる頃にはスタンディングのフロアに早くも大きな盛り上がりが生まれていた。

“バンド史上最大規模となるZepp Shinjuku(TOKYO)で開催!”と謳っていた今回のツアーファイナル。昨年10月にツアー開催を発表した時には“Zepp Shinjuku(TOKYO)で開催!”の文末の“!”からはチャレンジというニュアンスが感じられたが、蓋を開けてみれば、なきごとにとってそれはもはやチャレンジなどではなく、1,500人キャパのライブハウスを完全に掌握する姿を見せつける晴れの舞台になっていたというところが重要だ。

いわゆるバズに頼らず、ライブやリリースといった、ちゃんと実体のある活動をしっかりと積み重ねてきた成果として、順々にライブをスケールアップしてきたなきごとは、同時にライブバンドとしても着実に成長を遂げてきた。この日も「D.I.D.」から「マリッジブルー」「知らない惑星」と立て続けにダンスグルーヴを持つ3曲を演奏した前半戦から早速、その印象を更新してみせる。

ギターを持たずにマイク片手にステージを動きながら、曲と曲の間はもちろん、曲の途中でも観客に語りかけ、「一番後ろも2階席もちゃんと見えてるから気を抜かないように(笑)」と巧みに観客を巻き込んでいく水上のステージングからは――どこかのタイミングで意識の変化があったに違いない。ライブパフォーマーとして一皮剥けたことがはっきりと窺えた。

その一方で、歪みに深めのリバーブを掛け、耳に残るリフやテクニカルなソロを奏でながら、バッキングにおいてもメタリックなブリッジミュートやワウを踏んで音色を波打たせるカッティングを閃かせ、水上に負けない存在感を見せつける岡田のギタープレイもさらに磨き上げられた印象があって、聴き応え満点だった。中でもバッキングに徹していると思わせ、1番、2番、3番それぞれにフレーズを変えたグランジロック調の「不幸維持法改定案」は、ギタープレイにおけるハイライトの一つだったと言ってもいいと思う。

そんなふうに演奏も含めたライブパフォーマンスが研ぎ澄まされたことで、楽曲がそれぞれに持つ魅力も際立ったことは改めて言うまでもないだろう。

この日、曲によってはサポートキーボーディストも迎え、なきごとが演奏したのは、「素直になれたら」収録の3曲に新旧の代表曲を加えた全23曲。

観客が手拍子しながら楽しんだアンセミックな「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」、なきごと初のアニメMVを映しながら演奏したニューウェーブ調のパワーポップナンバー「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」、ラテンファンキーな「Summer麺」、ドラマチックな演奏が観客を釘付けにした叙情派フォーキー「春中夢」、水上がマイクをオフって、観客のシンガロングを響き渡らせたエモーショナルなギターロックナンバー「ひとり暮らし」。1曲1曲、しっかりと印象を観客の記憶に焼き付けながら進んでいったライブの流れは、前述した「不幸維持法改定案」と、感情の奔流と化した歌と演奏が観客を圧倒した「ハレモノ」と繋げていったあたりからさらに熱を帯び始めていく。そしてボサノバパートも含む「メトロポリタン」の演奏に体を揺らす観客に「マジで最高!」と快哉を叫んだ水上はバラードの「Oyasumi Tokyo」を歌い終わったあと、「最高を更新しています」とライブの手応えを言葉にして、客席を沸かせたのだった。

「今日、なきごとのワンマンで最高キャパで、今まで一番多くの人に見てもらってる日に最高を更新しています。ありがとうございます!」(水上)

そこから、もう1曲バラードの「生活」の轟音の演奏と、歌に溢れるせつなさで今一度、観客を圧倒してから本編を締めくくったのは、「深夜2時とハイボール」。

死にたくなったとき、自分が音楽に救われたように、なきごとはあなたがつらいとか悲しいとか心が晴れないとか思ったとき、横にいて背中をさすって、一緒に泣いたり笑ったり、そういう寄り添える音楽をやりたい――「全力で肯定するよ! 生きててよかったと思わせるよ!」という言葉とともに水上が演奏に込めた、なきごとの存在理由とも言えるその切なる思いは、これまで見てきたなきごとのどのライブも凌駕する凄みとして音に表れていたが、この日の「深夜2時とハイボール」の熱演および絶唱はその迫力に圧倒されながらも、演奏をしっかりと受け止め、拳を振り返した観客の姿も含め、クライマックスと言うべきなのだと思う。

今年7月に2ndフルアルバムをリリースして、8月3日からなきごと史上最大規模の対バンツアーを開催することを発表して、観客に歓喜の声を上げさせてからのアンコールに「Hangover」と「シャーデンフロイデ」というアップテンポのロックナンバーを選んだのは、水上曰く「疲れるほど気持ちを解放できる2曲を持ってきました。明日、起き上がるの辛いよ。今の疲れも抱えたまま、明日を迎えることになると思う。でも、それって楽しいと思った時間とか、好きと思った時間とかがあなたの体の中に残っているってことだと思う。それはなきごとがあなたに最高の時間を届けたって証拠」になるからという理由があったからだ。

「あなたと、あなたと、あなたと一人残らず全員で作る最後の曲!」と水上が声を上げた「シャーデンフロイデ」は、なきごとには似つかわしくないとお蔵入りしかけた曲だが、そういう異色曲がライブの最後を飾るにふさわしい曲になったのは、なきごとのライブが曲を作った頃からどんどん変わってきているということだろう。

「あなたが愛しくてたまんないんだけど! また会いましょう。いつでもライブハウスであなたを待ってます!」

水上が言い残したそんな言葉ととともにメンバーがステージを降りても、「シャーデンフロイデ」の演奏中、「かかってこいよ! え? いい子ぶってますか? もっとかかってきてくれ!」と水上に煽られ、もっともっとという気持ちになったのか、観客は帰ろうとしない。

ライブはそこで終わりの予定だったが、観客の熱意に応え、「欲しがりすぎじゃない?(笑)」(水上)とステージに戻ってきたバンドはもう1曲、「ドリー」を演奏したのだが、その直前に水上のギターが故障するというハプニングが! しかし、水上はサブのギターに持ち替えると、そのギターが高校生の時、母親に買ってもらったものであることを思い出したように語り出す。そして、そのギターには、ひきこもりだった高校時代、バンド活動に自分の居場所を見つけた水上の夢を叶えてやりたいと考えた母の決意と、バンド活動に全身全霊で打ち込むと決めた自分の覚悟が込められていると、たぶんこれまで明かしたことがなかったエピソードを披露して、ハプニングをライブの見どころの一つに変えてみせたのだった。

最後の最後にライブを締めくくったのは「ドリー」のシンガロング。

7月にリリースする2ndフルアルバムのリリースツアーのファイナルは、11月30日の渋谷Spotify O-EASTワンマンだそうだ。つまり、なきごとは再びバンド史上最大規模のライブに挑戦するわけだが、きっとそこでも今回同様に進境著しい姿を見せてくれるに違いない。この日のライブを観た誰もがそれを信じて疑わないはずだ。

取材・文=山口智男 撮影=日吉”JP”純平

>>画像をすべて見る

関連タグ

関連タグはありません