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Ryu Matsuyama「さよなら、また会おう」 現体制ラストワンマンにみた愛に満ちた空間と鮮やかな一体感

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Ryu(Vo&Pf)

Ryu(Vo&Pf)

Ryu Matsuyama ONE MAN LIVE“So long, so far” 2024.5.8 新代田FEVER

Ryu Matsuyamaが現体制ラストとなるワンマンライブを、5月8日(水)に東京・新代田FEVERで開催した。

本公演をもって、結成時からのメンバーであるTsuru(Ba&Cho)の脱退が決定しており、フロアの最後方までパンパンに埋まるほど、彼らの音楽を愛するたくさんのファンが詰めかけたこの日。場内には只ならぬ空気が漂っている。

さまざまな想いが交錯する中、ライブは「all at home」からスタート。観る側の心情を汲むかのような、どこかホッとできるメロディ、その美しい響きに早くも息を呑む。Ryu(Vo&Pf)の大らかな歌声を軸にした、3人のナチュラルかつ芳醇なアンサンブルによって、体のこわばりみたいなものが次第にほどけていく。

Jackson(Dr&Cho)

Jackson(Dr&Cho)

シンセベースと5弦ベースの併用で抜群の包容力を生み出した「colors」、滑らかなスライドの唸りが心地よい未発表曲「In my head」、絶妙な音符の伸ばし方や切り方で耳を惹く「Return to Dust」、Jackson(Dr&Cho)が紡ぐキレのあるビートとともにファンキーな躍動を見せた「City」と、Tsuruの多彩なプレイにも改めて感服。その姿を目に焼き付けようと、今まで以上に視線を送っていたのは、きっと自分だけではないだろう。

Tsuru(Ba&Cho)

Tsuru(Ba&Cho)

「Tsuruちゃんが脱退ということで、ちょっとエモーショナルになってるんですけども、今日はみなさんに我々3人での最後のライブを、そしてこれからがんばっていく姿を見せていけたらなと思います。とにかく楽しくやっていきますので」と、Ryuが挨拶。

「俺とTsuruちゃんが緊張するかなと思ってたんだけど、Jacksonがいちばんガチガチで(笑)」(Ryu)

「そう。なんかリハからずっと、ぜんぜん喋らないんですよ!」(Tsuru)

「(しみじみと)エモいなあ~」(Jackson)

Ryu Matsuyama

Ryu Matsuyama

そんなやりとりを経て、以降は3人のグルーヴがいっそう深みを増す。Tsuruのスラップ弾きや全員で声を重ねるハーモニーが熱い「Do it Again」、よりトリッキーなフレーズとカラフルに点滅する照明を掛け合わせた「Sane Pure Eyes」では、一瞬たりとも目が離せないスリル満点の音像に気持ちよく圧倒された。

「In this Woods」になると、辺りが緑の光に照らされ、一転して荘厳なムードへ。今度は北欧の大自然を彷彿とさせる、ひんやりとしつつも豊かな広がりを湛えたサウンドスケープを描き出す。そして、赤く染まるステージに放たれたのは「Taiyo」。“この心と声で ただ燃え尽きたい”という刹那的な歌詞が眩しい、会場を覆うかの如く波及するRyu Matsuyamaの崇高な世界観に、オーディエンスはもたれるように身を任せ、得も言われぬ陶酔を楽しむ。

Ryu(Vo&Pf)

Ryu(Vo&Pf)

「二度とやらないと言ってもいいような曲ばかりです」とTsuruが話していたとおり、セットリストにはインディーズ時代のレアな楽曲が揃い、さらに今年リリースの新曲も含む実に幅広いラインナップとなった。彼らのホームグラウンドである新代田FEVERでそれを存分に味わえたのだから、長く聴いてきたファンはなんとも格別なワンマンだったに違いない。

「ラジオみたいなほうが寂しくならなくていいかなと思ってさ」と、Ryuが今までのライブで行った印象深い場所をメンバーに尋ねる。「うわー、すっげえムチャぶりだあ!」と悩んだ末、「どこかを挙げるのは難しいんだけど、みんなで車移動をしたのがいい意味でもつらい意味でも記憶に残ってるね」と笑顔で振り返るTsuru。一方でJacksonは「沖縄がよかったな」と答えるも、「ここから見るTsuruちゃんも最後か……」と再びしんみりした感じで話す。

Jackson(Dr&Cho)

Jackson(Dr&Cho)

和やかさはあるけれど、ともすればセンチメンタルになってしまうような、独特の雰囲気でライブは進む。ハッとさせられるテンポチェンジの数々に痺れた「The Way to Home」、ファルセットの輝きが感動的なまでに極まった「Thinking Better」と、メンバーもうまく演奏できるかどうか不安そうだった懐かしの曲を聴かせてもらえるのが嬉しい。これからの自分たちを奮い立たせるためか、Ryuは時に左手で胸を強く叩きながら歌っている。

歌に、音に、想いのすべてを込めたパフォーマンスはなおも続き、Ryu Matsuyamaのアンセムのひとつ「From the Ground」では、Jacksonの泰然自若としたトライバルなリズムに乗せ、Ryuの「みなさん、いっしょに!」という呼びかけから、フロアに温かなシンガロングが巻き起こる。すると、ここまでいちばん大丈夫そうに見えていたTsuruが、突然コーラスができなくなるほど感極まった様子に。

Tsuru(Ba&Cho)

Tsuru(Ba&Cho)

「いきなり来たなあ。びっくりした。いやー、すいません……!」と、溢れる涙をハンカチで慌てて拭うTsuru。まさかの展開を受け、「美しいじゃん」と泣き笑うRyuとJackson。お互いの良き関係性が窺えた一幕に、その素直なリアクションに、こちらも思わずもらい泣きしてしまう。

つられるようにRyuも「いろいろあったバンドなんですよ」と、これまでの軌跡を語り始める。2018年にメジャーデビューし、いいアルバムが作れて、ライブも増えて、著名なフェスにも出られたこと。“行ける!”と思っていた矢先にコロナ禍になり、タワーレコードで大々的に展開されたポスター企画を見れもしなかったこと。緊急事態宣言によってワンマンができなかったこと。トラブルがあったからこそ、このメンバーだったからこそ、「hands」や「kid feat. 優河」といった誇れる曲が書けたこと。

活動する中で募ったシリアスな胸の内が明かされ、終わってほしくない時間もいよいよエンディングが近づく。涙を堪えて届けたダイナミックな「Landscapes」、目の前の現実を優しく包み込む「tones」が尊く響きわたり、本編ラストは「Welcome back Home」を笑顔で朗らかに演奏。3人の勇姿を称えるようにオーディエンスも心から歌い、この上なく愛に満ちた空間と鮮やかな一体感が生まれた。

Ryu Matsuyama

Ryu Matsuyama

「Tsuruちゃんがいなくなっちゃうのは寂しいけど、さっき“再結成、いつにしようか?”みたいな話もしたよね」(Jackson)

「再集結ね。別に解散するわけじゃないから! Tsuruちゃんは“(日比谷)野音でRyu Matsuyamaがやるんなら弾きます”と言ってたんで(笑)」(Ryu)

「その言い方だと、すごい上から目線じゃん(笑)。でも、野音とZeppツアーはやりたかったな。どうにかがんばってくれ!」(Tsuru)

アンコールでのメンバーに暗さはなく、それぞれがもう前を向いている。Tsuruの決断を肯定しつつ、「僕らも変わらなきゃいけない。ラテン語でカルペディエムって言うんですけど、一瞬をもぎ取る気持ちでやっていきます。この3人を変わらず応援していただけたら嬉しいです!」と話すRyu。

Ryu Matsuyamaをやめずに続けていく、その上で誰もが帰ってこられる場所を作っておきたい、自分たちがホームのような存在でありたいという意志を踏まえ、セットリストには“home”と付く曲が多かったのだそう。

3人が向かい合って最後に鳴らしたのは、Tsuruと出会った頃に書いたという未発表曲「アネモイ」。“さよなら”“また会おう”と繰り返されるサビがじんわり沁みる歌を、Ryuがアコギを奏でる形でフォーキーに披露。旅立つ仲間へもう一度「12年間ありがとう!」と清々しく感謝を伝え、忘れられない節目のライブを締め括った。新たなスタートを切る彼らの未来に期待したい。
 

取材・文=田山雄士

Ryu Matsuyama

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