柳沢亮太(SUPER BEAVER)
大阪のラジオ局・FM802が実施する春恒例の『FM802×三井ショッピングパーク ららぽーと ACCESS!キャンペーン』では、局ゆかりのアーティストが多数参加しオリジナルソングを制作。その贅沢な顔ぶれのみならず楽曲自体の素晴らしさでも高く評価され、関西のシーンを彩ってきた。今年は自身のバンドにおいてもソングライティングを担うギタリスト、柳沢亮太(SUPER BEAVER)が作詞作曲とコーラスを担当。トオミヨウがアレンジを手掛け、ボーカルはアイナ・ジ・エンド、大橋卓弥(スキマスイッチ)、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、片岡健太(sumika)、サイトウタクヤ(w.o.d.)、TERU(GLAY)、TOMOO、ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)の8組によるRadio Happy Willowsが務める。FM802の各番組で絶賛オンエア中の今期のキャンペーンソング「はなむけ」は、歴代の名曲群に名を連ねるにふさわしい歌声とメッセージに心震える一曲となっている。そんな感動のミドルバラードが生まれた過程と、そこに秘められた切なる思いを、柳沢亮太が語るインタビュー。旅立ちの季節に捧ぐ、最高の「はなむけ」をここに――。
●FM802が求めてくれるなら絶対に応えたかった
――2006年にスタートと長い歴史のあるFM802の『ACCESS! キャンペーン』ですが、今回の打診の前からその存在は意識していたんですか?
そうですね。特に近年は自分たちと近い世代のアーティストが参加していたのもあったので。去年の末、ちょうどアルバム『音楽』を作っている頃ぐらいに、FM802チームがレコーディングスタジオに来てスタッフと話をしてくれました。
――ただ、柳沢くんはSUPER BEAVER本体の活動はもとより、生田絵梨花さん、WEST.への楽曲提供なども続いていて。
だから、3月いっぱいまではむちゃくちゃ忙しかったです(笑)。でも、FM802が求めてくれるなら絶対に応えたかった。ボーカリストを僕主導で選ぶのは大変だなと思っていたんですけど、その辺はFM802が当たってくれるという話だったので、であればもう僕は任せますと。
――驚いたのは、誰が歌うのか分からない状態で曲を書いたということで。SUPER BEAVERには渋谷龍太(Vo)という圧倒的なボーカリストがいることもしかり、柳沢くんにとって「誰が歌うのか」は重要なポイントで、楽曲提供にしたって誰が歌うのかは分かっている。そういう意味では、今回はチャレンジでもありますよね。
僕は常々「誰が歌うのか」が大事だと思っていますけど、今回は大前提にFM802のプロジェクトというのがあるので、いわゆるアーティストからのオファーと捉えるのに近いというか。
――なるほど、そこにはもう「人」がいるから。
結局、今回のアーティスト=FM802だと僕は思っていて。だからFM802の方々の顔が見えるし、誰が主導でなぜやりたいのか、みたいなことも聞いて知っていたので。日々ラジオから音楽を届けている方たちが、関係性のあるアーティストに力を借りて、ただただ純粋にいい歌を贈ろうとしている。そういう意味でも、作り方はいつもとほぼ一緒でしたね。
――とても柳沢くんらしいコメントだし、FM802の皆さんもきっとうれしいだろうな。
「はなむけ」には自分の気持ちを乗せているところもありますけど、FM802が今、届けたいラジオマンたちのプライドや思いを、僕が代わりに具体化させてもらった感じは強いですね。
●この話を受けたとき、一番最初に思い浮かんだ言葉が<いってらっしゃい>だった
――いざ曲作りとなったとき、事前にテーマみたいなものは提示されていたんですか?
FM802は今年で開局35周年なんですけど、そのテーマが「Be FUNKY!!」で、ファンキー・レディオ・ステーションとしての原点回帰を今一度掲げたいと。コロナ禍を経て、新しく生まれてきた価値観もたくさんあるけど、それには良い面も悪い面も両方あって。SNSが発達して、自分で選ばずともレコメンドしてもらえる場面が増えているから、「自分が好きだと思っているものも、本当に心の底から好きなのか。好きだと言っておかないと仲間外れになってしまうかもと無意識で思っていないか。そういうバイアスが最初からかかっているんじゃないだろうか」みたいなことをFM802の方から聞いて……これは僕の解釈ですけど、誰に何を言われようが自分が好きだと思うもの、そういうシンプルなところに立ち返ってもいいんじゃないかと思って。同時に、今は働き方も変わってリモートで話せるのもあるけど、直接会って話す呼吸感というか、顔色というか。
――直接会うからこそ聞けること/言えることが、やっぱりありますもんね。
そういうものがこれから先の時代に、もう一度必要になるんじゃないかと。いくら便利になったからって、人と人が直接向かい合うことに勝る解決法はないんだろうなって。「はなむけ」は、自分が何となく思っていたそういうことと、FM802の思いが重なり合ってできていきましたね。
――FM802の意思はもとより、柳沢くんが元来持っているスタンスとも通じるものがある。それはここ一年で楽曲提供してきた曲にも感じるので、そこが人間・柳沢亮太の今のムードなんでしょうね。
時代とともに経験と少しずつの蓄積はあるとは思いますけど、この一年で書いた曲たちと考えると、根っこはまぁ同じですよね。
――「はなむけ」では希望だけじゃないリアルも描かれているし、今までの話も含めて大いに納得できました。
この話を受けたとき、一番最初に思い浮かんだ言葉が<いってらっしゃい>だったんです。僕らがFM802の番組に出演させていただいた後、最後にエレベーターのところまで見送ってくれるんですよね。<またね>というあの絵が、ラジオブースの中とかよりも印象深くて。FM802って、変な言い方なんですけど、すれ違うときにハイタッチし合う関係というか(笑)、受け入れてくれるんだけど、旅立とうとする者を引き留めない。言い換えれば、「今日一日、頑張っていってらっしゃい!」という朝の番組があって、「お仕事、お疲れ様でした」という夕方の番組があり、みたいなところにも通じるから、門出とも呼べるし、一日の一コマとも言えるようなものを書けたらいいなと。
――そこを基点に書き出せば、いい曲になるのは明白ですね。
そう思っていました(笑)。あと、さっきSNSが発達して~という話をしましたけど、コロナ禍以降、「おはようございます」とポストするようになったんです。家族でも友達でも誰でもいいんですけど、<おはよう>と言うのって、端的な生存確認でもあるなと。本来の<おはよう>にそんなヘヴィな意味合いはなくてもいいんですけど、ある日それができなくなるかもしれないと考える年頃になったのもあって、気付いたときに気まぐれでも声を掛け合うあの感じが、人には必要なんじゃないかなと思って。そういう肌感も歌に入ったらいいなと。
――そんな「はなむけ」の反響は、いつも以上に大きい気がします。
それなら本当にうれしいですけど、すっごい本音を言うと、この曲はFM802が喜んでくれたらそれでいいと思っていたところもあって。「はなむけ」にはいろんなボーカリストが参加していますけど、その思いを届ける本当のスピーカーはFM802であるべきで。だから楽曲を送って、今回のプロデュースチームがいたく感激してくれたという連絡をもらったとき、そこでもう一旦ゴールだった。あとは、そこにいろんなアーティストを呼ぶことで生まれるロマンみたいなものを考えて、FM802がニヤニヤしながらパーティーを準備する、みたいな感じだったと思うので(笑)。胸を張って届けたいと思える曲ができた結果、それだけ反応があったなら良かったですね。
●「音楽をやり続けてきて本当に良かった」ってもうこっちのセリフですよね
ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)
――そのゴールの先に、素晴らしいアーティストたちが参加してくれました。
初めましての方もいらっしゃるんですけど、諸先輩に関して言えば「さすがです」しかないですし、すごいなと思いました。例えば、ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)くんは、面白さがフィーチャーされがちだけどロマンチックさも持ち合わせていて、実はカッコいいタイプのボーカリストなんじゃないかと。TOMOOさんも、素敵なシンガーソングライターだなと思って去年めちゃくちゃ聴いていたのが、ここでご一緒できたり。サイトウタクヤ(w.o.d.)くんも初めましてでしたけど、外からバンドの楽曲を聴いたイメージとは違って。すごく柔らかくて、いいヤツです(笑)。そういう出会いも含めて、やれて良かったですね。
サイトウタクヤ(w.o.d.)
――アイナ・ジ・エンドさんは、初めてデモを聴いたときに鳥肌が立ったとXでポストしてくれて、TERU(GLAY)さんも、FM802の番組内で「仮歌が個性的過ぎて誰が歌っているのか聞いたほど、歌心がある人だな」と言っていて。デモの段階でインパクトがあったんでしょうね。
SUPER BEAVERのメンバー及びチームは慣れているんですけど、僕の仮歌が割と特徴的だそうで(笑)。今回は本当に「歌い方」というよりも「歌声」、それぞれのアーティストのキャラクターが伝わる歌になっているなと思えたし、僕はコーラスもさせてもらったので、歌うときの間みたいなものも感じさせてもらいました。当たり前ですけど、いつも合わせているぶーやん(=渋谷龍太)とは違いますし、作っていて純粋に面白かったですね。
アイナ・ジ・エンド
――大橋卓弥(スキマスイッチ)さんとは最近も、20thアニバーサリートリビュートアルバム『みんなのスキマスイッチ』にSUPER BEAVERが参加したり、主催イベントに呼んだり呼ばれたりという仲で。こういう場で相まみえるのもうれしいですね。
本当に。自分が直撃世代なのもありますけど、大橋さんも一発で分かる歌声ですよね。TERUさんも岡野昭仁(ポルノグラフィティ)さんも当然そうですし、ずっと歌い続けている先輩方のすごさを何より実感しましたね。
大橋卓弥(スキマスイッチ)
――TERUさんは「はなむけ」に参加したことに対して、「音楽をやり続けてきて本当に良かった」とXでポストしてくれて……柳沢くんが音楽を始めるキッカケになった憧れのアーティストからの、それこそ最高の「はなむけ」の言葉ですね。
TERUさんに初めてご挨拶したときは緊張していて、僕はただの棒になっていたと思うんですけど(笑)、こうやってお仕事ができたのはその何十倍もすごいことだと思うので……それは大橋さんや岡野さんもそうで、去年、岡野さんに「指針」という曲を楽曲提供することになるとは思いもしなかったですし、先日お会いしたときも「今回もいい歌だったね」みたいなことをおっしゃってくださって。ポルノグラフィティだって僕、小学生の頃にリアルタイムで「アゲハ蝶」を聴いている世代ですから! だから、「音楽をやり続けてきて本当に良かった」ってもうこっちのセリフですよね。それも先輩たちが音楽をやめていたら成り立たないことだし、今でもシーンの前線を走っているというのが全てで。
岡野昭仁(ポルノグラフィティ)
―――そうじゃなければ、この場に呼ばれていないですもんね。同様に柳沢くんも、SUPER BEAVERも、音楽をやめていたらこうはなっていないわけで。誰が歌うか決まっていない状態で<好きなことを好きでいてね>という歌詞を書いた後に、こんな人生の伏線回収があるとは。
片岡健太(sumika)が自分の書いた曲を歌うとも思わなかったですしね(笑)。
――これもXでエモいやり取りがありましたね(笑)。最初の対バンから17年経って、「やなぎが作った曲を歌えるなんて思わなかった」と。SNSやYouTubeのコメントを見ていても、片岡くんの歌う最後の<伝えたい ただあなたの前途を祝して>というフレーズが刺さりまくっていて。
あれはもうプロデュースチームが確信的に割り振ったと思います。あと、これはめっちゃ裏話なんですけど、「このワードは僕に任せてくれ」と健太くんが言っていたらしいですよ(笑)。
片岡健太(sumika)
――<伝えたい>のプロフェッショナルが(笑)。いい話ですね。その直前の<またね またね>のリフレインが<またね 頑張れ>に変わるところも、SUPER BEAVERの楽曲「ロマン」にも通じるものを感じます。そこに他意はなく、ここまで楽曲の物語やメッセージを丁寧に伝えてきた後に、素直に<頑張れ>と伝えたいという。
この曲がはらんでる気持ちも、そういうことだと思うんですよね。「はなむけ」=旅立ちのときに何を送ろうかと考えて、もう心は、覚悟は決まっている人の背中を最後にポンと叩いてあげられるような歌になればと思ったんですよね。重たくその人の進路を変えるような歌ではなく、その道すがらで口ずさみたくなるような、ちょっと足取りが軽くなるような歌。道を選んだのは自分で、「きっとこれでいいんだ」と思えるような歌になればいいなって。
●再会を意識する言葉って大事だなと思う
TOMOO
――歌詞に触れていくと、<人と違う だって 人が違う>は最強のパンチラインだと思いました。一瞬で人生について気付かされ、自由になれる。
結果論ですけど、この歌詞とTOMOOさんの歌声も合っていましたよね。彼女の曲にも、同じようなことを思っているんじゃないかなと思う歌詞があるからかもしれないですけど。
――<いってらっしゃいには またね 気をつけてねって加えたい>も、柳沢くんの人柄を感じるラインです。実際、<気をつけてね>と言われるのと言われないのでは生還率が違うと聞いたこともありますし。
昔、見た映画に「GoodbyeじゃなくてSee youって言いたい」みたいなセリフがあったんですけど、「さようなら」と「またね」では響き方が全然違って。その頃から、別れの言葉はバリエーションと使う意図を考えるようになったんです。下校のときに毎日「さようなら」って言っていたけど、今ってほぼ使わなくないですか? 何ならもう二度と言わないかもしれない。そう考えると「またね」って、また明日でも、また来年でも、またいつかでも何でもいいんだけど、再会を意識する言葉って大事だなと思うし。<気をつけてね>=なぜならまた会いたいからって。
――サビ頭が<おはよう いってらっしゃい またね またね>というのも、老若男女誰もが歌える言葉で、それはこの曲の一つの良さだなと。
自分が思っていた以上にラジオ的でもあったというか、そういうところはマッチして良かったなと思いますね。
――「はなむけ」はFM802にキッカケをもらって生まれた楽曲ですが、作曲家としてもミュージシャンとしてもいい経験になりましたね。
レコーディングではトオミヨウさんがアレンジ&鍵盤も弾いてくださって、他は各々プレイヤーの方が演奏してくださったんですけど、その中にギタリストとして自分も飛び込んで、プロの仕事をさせてもらえたのは楽しかったですし、バンドは基本的にメンバーがコントロールしていくものですけど、さまざまな人が介入する現場は、また別の緊張感があって。そういう貴重な経験ができたのは、音楽家としてもうれしいことでしたね。
●好きなものをただ好きでいればいい。それは別にいつの時代でも変わらない
TERU(GLAY)
――これは贅沢な望みですけど、「はなむけ」を渋谷龍太の歌声でも聴いてみたいなと思っちゃいました。
僕はこれはこれで良かったなと思っていて。というのは、楽曲提供させてもらう理由もそうなんですけど、そこで何かを感じてくれた人がSUPER BEAVERの曲を聴いてくれたらとずっと思っているからで。渋谷龍太は黙っていてもバンドの顔になる。だからこそ、逆に渋谷龍太がいないことで、その武器が露呈していくことにもなるんじゃないかと。どっちにしたってSUPER BEAVERにとってポジティブな風が吹くと思っていたので。
――確かに、いないことでむしろその存在を感じるという。「はなむけ」にまつわる一連の話を聞かせてもらいましたが、思ったより敬愛するTERUさんの話ばかりにはならなかったですね(笑)。
もちろん自分史に残る出来事の一つではありましたけど、それが今回の主軸ではなかったし、他にもうれしい出来事はいっぱいあったので。
――とは言え正直なところ、TERUさんが参加すると聞いたときは内心どう思ったんですか?
自分の子どもの頃を考えてあえて言うなら、「マジですか!? あのTERUが俺の作った曲を歌うんですよ? すごくないですか!!」という感じで(笑)。
――いや~皆さんに改めて、<好きなことを好きでいてね>と伝えたいですね(笑)。結果ありきじゃなくとも、それは人生を豊かにする推進力になると思うので。
本当ですよね。「はなむけ」の歌詞を書いたときも思っていたのは、生きていれば嫌なこともあるし嫌な人もいるからこそ、好きなものを好きでい続けた方がいいということで。それは無理にどうこうするという意味じゃなくて、「せめて大好きなアイスだけは食べよう」とか(笑)、そんなレベルでもいいと思うんですよ。いつだって大声を上げなきゃいけないわけでもないし、認めてもらおうがもらわなかろうが、好きなものをただ好きでいればいい。それは別にいつの時代でも変わらないと思うんですよね。
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=FM802提供