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観客がいることが「緊張」から「うれしい」へ、急成長中のLe Makeupが初ワンマンでみせたライブ・パフォーマーとしての「予感」

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Le Makeup One-Man Live “予感” 2024.05.21(TUE) 渋谷WWW

※以下の本文には、ライブ内容や演奏曲の記載があります。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

今にも消え入りそうな第一声が観客の耳をそばだたせるように、5月21日(火)の東京・渋谷WWW公演は始まった。

後ろ手を組みながら、マイクスタンドの前に直立したまま歌うLe Makeupの表情は、背後から照らすほの明るいライトの影になってはっきりとは見えない。ステージにはLe Makeupと盟友シンガー、Doveの2人だけ――となれば、観客はDoveがラップトップを操作しながら鳴らすビートと、Le Makeupが切々と語り掛けるように重ねる歌声に自然と耳をじっと傾けることになる。

それが狙いだったのだと思う。そんなふうにLe Makeupは序盤から観客を自分の世界観に巧みに誘い込んでいったのだが、チルなビートにダンサブルなリズムが加わると、拍手するキッカケを逃したまま、固唾を吞んでステージを見守っていた観客達が体を揺らし始め、やがて拍手と歓声をステージの2人に贈ったのだった。

「ありがとうございます。前半はDoveと2人でやって、後半はギターとベースに入ってもらいます。ゆっくり楽しんでいってもらえたらうれしいです」

大阪出身のプロデューサーでシンガーソングライターのLe Makeup。5月15日(水)には、完全セルフプロデュースで作り上げた『Odorata』から、1年3か月ぶりとなるニューアルバム『予感』をリリースしたばかり。このタイミングで挑んだキャリア初のワンマンライブは、「これまでのキャリアの集大成と未来への挑戦」というテーマの下、訥々と語った前掲の挨拶通り2部構成となったのだが、そこにはライブのスタイルを探りながら、ライブ・パフォーマーとしてのさらなる可能性を追求するというテーマもあったように感じられた。もしかしたら、「未来への挑戦」には、それも含まれていたのかもしれない。

ともあれ、この日、Le Makeupは『予感』の収録曲のみならず、前述の『Odorata』、さらに遡って、2020年にリリースした1stアルバム『微熱』からの曲も披露。

「誰かに聴いてもらうなんてことは考えずに作った」という『微熱』の曲を、目の前で聴いている人がいる状況に対して、「感慨深い。不思議。緊張する」と漏らす。そんなLe Makeupが言葉にした「聴いてくれる人がいるってうれしい」という気持ちに繋がったことにこそ、ワンマンライブを開催した意味があるのだろう。

ピアノの音色を悲しげに響かせたビートとは裏腹に、<張り詰めた弦を 弾くたび>というキャリアの出発点を想像させる言葉が興味深かったバラード「あの話の続き」。街の喧騒も効果的に使った「Drive My Car(あなたとわたし)」では、ヒプノティックなエレキギターの単音フレーズとタンバリンの連打で、ラテン風のリズムに落とし込むユニークなビートを観客の耳に残した。大阪公演を楽しみにしている人がいることを考え、具体的な曲目を挙げることは数曲にとどめさせてもらうが、ジャンルを横断したビートで変化を付ける曲の数々は聴きどころが多数。因みにドラムやエレキ、アコギともに生の音色を意識的に使っていると思しきビートからは、いわゆるバンドサウンドに対する愛着も感じられる。自らエレキギターを弾き、ソロフレーズを加えたアンビエントでオーケストラルなインストナンバー「Sketch for Wheat Road」から繋げた「26」は、そのままエレキギターの弾き語りで披露したことも興味深かった。

音色を歪ませ、コードをブリッジミュートでガガガガと鳴らしながら、冒頭の消え入りそうな第一声は別人だったんじゃないかと思わせるくらい張りのある歌声で観客を魅了したLe Makeupにちょっとびっくり。それもライブ・パフォーマーとしてのさらなる可能性の追求の1つかもしれない。しかし、その変化は後半、さらにはっきりとしたものになる。

okadada

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セットチェンジおよび、ゲストDJのokadadaによるDJセットを挟んでからステージに戻ってきたLe Makeup。6人組のテクスチュラル・ロックバンドCluteの北浦光記(Gt)と桂健太朗(Ba)とともに、前半同様、キャリアの集大成と言える新旧のレパートリーを披露していった。自らラップトップを操作するため、イスに座ってのパフォーマンス。終始、伏し目がちだった前半とは打って変わって、表情が見えるライティングの下、観客としっかり対峙した。メランコリックなメロディに乗せ、歌を紡いでいくLe Makeupは、この短い時間の中でシンガーとして、まさに一皮剥ける姿を見せようとしているかのようだった。

跳ねるリズムがファンキーな「忘れられなくて」から、クラシカルなピアノの音色とともに繋げた「あたたかい陽、あたらしい街」では、一際力強いLe Makeupの歌声に観客が体を揺らし始める。そして、曲の終盤、美しい曲調に相反するように、自ら弾いたエレキギターでグランジな音色を加えながら、北浦と桂とインプロを思わせる演奏を繰り広げ、ライブの熱をぐっと上げてみせる。そこで思ったのは、バンドを従えたライブも全然ありなんじゃないかという可能性だが、それはまた別の話。

そこからハモンドオルガンと荘厳なハーモニーが教会音楽を思わせる「カラブリア」、バウンシーなポップソングの「予感」、北浦のカッティングと桂によるグルービーなベースプレイがファンキーに鳴ったR&Bバラード「愛のしるし」と繋げる。今一度、曲の振り幅を印象づけたタイミングでLe Makeupが言ったのが、「1か月くらい、今日のライブのことを考えてきましたけど、始まってしまったら、ほんま早いですね」。

その言葉に名残惜しいという感情が滲んだのは、彼がこの日のライブに大きな手応えを感じていたからだろう。

再びDoveをステージに迎え、彼女とデュエットを披露したあと、「がんばります」と言いながらライブならではのサプライズも楽しませると、Le Makeupは別れの挨拶の代わりにこう言った。

「今日のライブも良かったけど、次のライブはもっと良いと思うので、また会いましょう」

その言葉通り、幾つもの「予感」が観る者の胸を躍らせた東京公演の手応えをステップに、6月9日(日)の大阪LIVE SPACE CONPASS公演で、Le Makeupは、さらにライブ・パフォーマーとして一皮剥けた姿を見せてくれるはずだ。

取材・文=山口智男 撮影=船津晃一朗

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