韻シスト×中島ヒロト 撮影=松本いづみ
レぺゼン大阪、結成26年目のヒップホップバンド・韻シスト。各地でのライブ以外に、週6回のインスタライブをするなど積極的に情報発信する彼らが2023年、大阪梅田に新たな情報発信基地を作った。名前は「チルアウト酒場 ネバフ食堂」。お米にもお酒にも合うをモットーにした料理が提供されるだけでなく、DJブースも用意され、ライブができる仕様にもなっている。6月6日(木)に1周年を迎えるネバフ食堂に足を運んだのは、彼らをデビュー当時から知るFMJ802 DJの中島ヒロト。久しぶりの再会の喜びもそこそこにインタビューを実施。6月29日(土)に開催される、オープン1周年記念イベント『ネバフ食堂 1st Anniversary SPECIAL』や、5月5日(日)にリリースした「キッズ食堂」の話を聞くと「子供」「寺子屋」などのワードが飛び出した。韻シストの今のヒップホップとはーー。
韻シスト、中島ヒロト
●ネバフ食堂をご飯が食べれて、誰でも来れる場所にしたい
ーーコロナもあり前回のSPICEでのインタビューから6年経って、今日皆に久しぶりに会えて嬉しいです。俺はなんと5月に56歳になるんです(収録日は誕生日前)。
一同:おめでとうございます!
ーーアーティストに年取ったとか言うのもですけど、皆ももうベテランやん。
サッコン(MC):後輩は増えてますけど、ヒロトさんと会ったら僕たちは永遠に後輩なんで安心感があるんですよね。
ーー韻シストは長年やってるベテランのチームだからこそ、若いDJの子たちは「昔から聴いてました」みたいな感じになるからね。ずっと第一線で活躍しているのは素晴らしい。
サッコン:コロナを経て若い子にめっちゃ優しい子が増えましたよね。言葉を選ぶし、先輩に対しての気遣いができる子が多い。コロナ前はライブをすると、若くても中には1人くらい酔っ払ってフリースタイルで絡んでくる子もいて。だけどコロナ禍以降、尊敬している人を前に「俺のラップを聞け」と、唾を飛ばすことが失礼になってしまった。
サッコン
ーー皆いい子やねんけど、やっとコロナも明けたんで「もうちょっと肩組んでお酒を飲んでもええんちゃうかな」と思うことはありますね。
TAKU(Gt):僕も実態はどうなのかなと思って、21~22歳くらいの若い子に聞いてみたんですよ。ラッパーとDJとギターをやってる青年のまだ3人だけなんで、エビデンスは薄いけど(笑)。3人同じこと言ってたんは、「◯◯ハラになるからと、おじさんたちが(若者に)気遣うのが嫌」だと。そしてそれは人によるらしいですけど……。それやったら若い子に対して何もできへんやん! っていう。
ーーそれで言うと「韻シストがやってる飲み屋があんねんけど、行けへん?」と誘いやすいから、ネバフ食堂の存在は大きいよね。ネタがひとつあったらちょっと違うやん。年代関係なく、人が集まる場所を韻シストが作ったことがすごいなと思うわけ。
サッコン:そのために作ったくらい。最初から、情報発信基地みたいな場所にしたいなという話もしてました。
TAKU
ーーどういう経緯でネバフ食堂をやろうと思ったん?
Shyoudog(Ba):僕らが所属しているLil Farmの社長のタコライスが、店の近くでRAIN DOGSというライブも出来るレストランBarの店長をやっていたんですよ。そこで働いていたうえちゃんが20年くらい前に独立して、ここでビノシュという店をやってたんですけど、1年ちょっと前くらいに諸事情で一回空けなあかんということで社長に話が来たんです。
サッコン:皆で壁塗りながら、どういう感じにしたらええやろうと考えて。
ーー僕はこのお店に今日初めてきたけど、すごい良い雰囲気やなと思う。どんなメニューがあるんですか?
サッコン:ネバフ食堂は本気のご飯が出るんです。
TAROW-ONE(Dr):魚とかも準備してます。
ーー定食に魚、生姜天、ポテトサラダ、とろろねぎ焼き、お造り、揚げ物、焼き物、ご飯。これはいいですね。メンバーも使ってるん?
Shyoudog:打ち上げ、ミーティング、全部ここでやってます。
ーー俺も、打ち合わせもできるし打ち上げもできるし、仲間も連れて来れる基地みたいな場所に憧れるんですよ。
サッコン:ビースティ・ボーイズみたいに、ネバフ食堂を拠点としていろんな面白いことをしたいなという話をしたんですよ。
Shyoudog:グランド・ロイヤル感ね。
サッコン:俺らはあの時代の一番カッコ良いヒップホップを知ってる、最後の世代やと思うんです。ネバフ食堂をご飯が食べれて、誰でも来れる場所にしたいなと思ってます。
●シェフもマイク持ちだすネバフ食堂、やばない?
韻シスト
ーー俺は韻シストを若い頃からずっと見てたから、変わらずやりたいことを突き通してるところをリスペクトしてます。ネバフ食堂は6月6日(木)に1周年を迎えて、29日(土)にBanana Hallとネバフ食堂で、サーキット『ネバフ食堂 1st Anniversary SPECIAL』を開催されますね。
サッコン:前にBanana Hallと、この店でサーキットみたいなことをしたんです。めちゃくちゃ距離が近いし、周年イベントでもやりたいなと思って。
Shyoudog:その時に、店の前の通りが「韻シストリート」と認定されたんやんな。
TAROW-ONE
ーー俺も人に紹介する時に言うようにするわ。「韻シストリートを右に曲がって」みたいな感じ。
サッコン:でもほんまに10年後、20年後にそう呼ばれたいなと思ってます。
ーー韻シストみたいな関西に根ざしたバンドの名前がつかな意味ないと思うねん。「韻シストリート」に新しい店ができたと噂になって、それが実は後輩のグループが出した店やったら最高やん。イベントには、PUSHIM含め、付き合い深い人たちが出演するわけですよね?
Shyoudog:P姉(PUSHIM)は、しゅっとしてるけど、バリバリのゴリゴリとわかってる人もいると思う。brkfstblendもシュっとしてて、マイキー(Michael Kaneko、Gt.Vo)は……。
TAROW-ONE:人間味溢れるというか。
Shyoudog:今回、声をかけさせていただいて、承諾いただいて、そこからリリックに繋がって。そしてROW HOOも人間臭さがある。
Shyoudog
ーー両会場で同じ時間にライブしてる感じ?
Shyoudog:全部観られへんのはありきで、時間は分けようと思ってます。
サッコン:多分どっちに来ても面白いようにメンツを組んでいます。ネバフ食堂に来てもらった人には、何でこのメンツなんか、分かってもらえると思うんですよ。
Shyoudog:WATT & TAKASEは最近リリースしたばっかりなんですけど、TAKASEさんはオープンの時から、ここで洋食メインのシェフとして働いてくれてます。
TAROW-ONE:前にスタッフも全員演奏しだすイベントをしたことがあって、その時TAKASEは厨房から出てきてラップで参加してました。OneMiもカウンターでお酒作ってくれてるんですけど、オープンマイクになった瞬間に仕事ほったらかしてマイク取り出すとか。
Shyoudog:そこが「ネバフ食堂のここやばない?」というところ。ミュージシャン同士で得意分野を活かしてるから、スタッフの感覚じゃないですもんね。
サッコン:TAKASEは日本のバトルで準優勝してるけど、料理も好きやからここで働いてる。しかもネバフ食堂はDJブースがあるから、アコースティックライブとかDJのライブとかができるんですよ。TAKUも毎月ライブしてて。沖縄のHERBANcliqueとか、いろんなラッパーがここでライブしてくれてるんですけど、そこにシェフとしてTAKASEがいて、韻シストも遊びに来てたから、一緒にフリースタイルしたことがあったんです。大阪やから伝わりにくいけど、ここをニューヨークやと思ったらめっちゃカッコ良ない?
●韻シストの今のヒップホップは「寺子屋」
ーーそんなネバフ食堂が1周年を迎える前に、5月5日(日)に「キッズ食堂」がリリースされました。とてもハッピーな曲やね。
TAROW-ONE:TAKUが某アーティストに提供するためのデモトラックを視聴させてもらった時に、Shyouが気に入ったのが始まりでした。
Shyoudog:他の人に表現してもらうんじゃなくて、韻シストとしても考えたかったんですよ。トラックが自分にリンクしたなんて、初めてかもしれへん。そこからインスピレーションを受けて、フックの歌詞ができたんですけど。
TAROW-ONE:「韻シストのストックとして持っとかへん?」みたいな話が1年以上くらい前にあったね。
サッコン:「キッズ食堂」に関しては、自分にとってのメッセージや、今のヒップホップにとってのメッセージは何だろうなと考えていて。若い時に好きだったアウトキャストのアンドレ3000が、今フルート吹いてるんですよ。「俺が好きなことやって、一番カッコ良いと思ってるから笛吹いてんねや」とインタビューで言ってたんです。それ見てこれやなと。日本のヒップホップも独自に進化してきて、SNSを通じてどんどん新しいアイデンティティが出てくる中で、これが自分が望んでた系譜だと。元々ビースティ・ボーイズとかパブリック・エナミーとか、メッセージ性の強い、社会性の強いヒップホップが好きなのもあって、日本人としてのメッセージを考えてたんです。そしたらShyouが歌ってたフックの部分が引っ掛かったんですよ。日本では子供が一番少ないことにフォーカスして、自分自身も親となってメッセージを残していくにはどうすれば良いかなと。
ーーメンバーの繋がりがあるからこそ良い曲になったと思う。今サッコンが言った子供への思いとか、子供を持つ人への思いをポップなトラックに乗せて伝えるのは、韻シストにしかできへんのちゃうかなと感じられたし、ミュージックビデオも含めていろんな人に見てもらいたいな。曲をラジオで掛けて、Xで「ハッピーや!」みたいなポストを見た時に、皆感じてるなと思った。昔からのファンとして、良い曲を作ってくれてありがとう。
サッコン:5月5日(日)にネバフ食堂でリリースパーティーをしたんですよ。タコライス師匠と相談して、子ども食堂にしようと。
TAROW-ONE:親御さんももちろん食べれるんですけど、子供達はランチプレートがフリーのおもてなしさせてもらいました。
サッコン:前日から全部手作りで子供用のお弁当を作ったんですよ。アメリカのヒップホップのアイデンティティは基本的に貧困とか差別とかに戦っていくので、ちょっと遠いもののように感じるじゃないですか。でもこの曲のリリックもそうなんですけど、いやいや今ここにフォーカスカルチャーがあるよと。
TAROW-ONE:僕らの楽器も置いてたら、子供らが「ドラム叩きたい」と群がってすごい良い空間やったんです。後日、来られていた親御さんからDMで「こういうレッスンみたいなのはあるんですか」と問い合わせがあって。これは今後、寺小屋スタイルで「今日はドラムの日です」みたいなのを作りますと。
Shyoudog:This is Hiphopや。
TAKU、TAROW-ONE:今言おうと思ったのに。
ーー全員共通してるんやな。
TAROW-ONE:一個の理想の形があの日に生まれました。
TAKU:いろんな形のヒップホップがあるけど、僕らのヒップホップやね。僕らの場合は楽器であったり寺子屋を開いたり、そういうことが自分たちのリアルやと思いますね。
サッコン:歳を取ればとるほど、何のために音楽をやるかと言う考え方がどんどん変わってくると思うんですよ。ワールドフェイマスになって売れることも素晴らしいんですけど、若い頃からヒップホップが好きで、文化を知ってしまったら結局はレペゼン何かが大切になってくる。梅田は僕の地元でもなんでもないんですけど、知ってる子がここに集まって、どないしたら皆が笑えるんだろうと考えていた時に思ったのが、子供。次の世代なんですよ。「韻シストがネバフ食堂という安心できる場所を作ってるんだ」と知ってもらえたら、遠いところからも来てくれるかもしれない。ここに来い、なんぼでもお前の居場所があるぞと。そういう場所を作るのがローカル、ヒップホップのやることです。
ーー僕は熊本から出てきた時はいつか帰んのかな、ひょっとしたら東京行くんかなと思ってたけど、今年で802のDJになって30年たったわけですよ。
サッコン:バッテン恋しいでしょ。
中島ヒロト
ーーたまにね。でも大阪が好きで、もう多分死ぬまで大阪にいるんだろうなと思うわけ。そうなるとせっかくやから大阪に住んでる人のためにDJもMCもできたらと思う。ヒップホップはスピリッツの話やから共感できるし、俺もそういうところはヒップホップでいたいなと思う。次は5年後になるから俺も60歳……。
TAKU:5年空けなあかんみたいなことないですから!
ーーそれまでも会うけどインタビューは5年後で、「去年還暦迎えたんやけど」みたいな話できたらおもろいやん。
TAKU:5年経つと僕が47歳で。
TAROW-ONE:TAKU以外が50代。
Shyoudog:俺、まだTAKUは20代前半やと思ってるところある。
ーーその感覚もいいやん。
TAROW-ONE:ヒロトさんと会ったら後輩の気持ちになるし。
ーーその時はまたSPICEでやるとして。引き続き仲良くさせていただければと思います。6月29日(土)の『ネバフ食堂 1st Anniversary SPECIAL』も楽しみにしてます!
韻シスト
取材=中島ヒロト 撮影協力=ネバフ食堂
文=川井美波 撮影=松本いづみ