TENSONG
「一人一人に寄り添った楽曲を届けたい」という共通の思いで繋がり、2020年4月に大学の同級生で結成された、Vo.たか坊、DJ.アルフィ、Gt.拓まんの3人で構成される音楽ユニットTENSONG。独特の編成から生み出されるオリジナル楽曲や、たか坊のハイトーンボイス、メンバーの実体験に基づいたオリジナルソングが話題を呼び、中高生を中心に幅広い年代に注目されている。SPICE初登場となる彼らに、これまでの道のりから6月1日にリリースされた初のウエディングソング「貴方のことが好きです」について、そしてワンマンツアー追加公演大阪・東京への想いを存分に語ってもらった。
──皆さんはもともと大学の同級生からスタートしているわけですが、そこからTENSONG結成に至るきっかけを教えていただけますか?
たか坊:当時はコロナの影響もあって、特にやりたいことが見つからなくて。そんなタイミングに、本気で音楽をやってみたいと思うきっかけができたんです。
拓まん:その頃、たか坊が音楽オーディションを受けるという話があったんですけど、僕はちょうど大学の春休みを使ってアメリカに留学するタイミングだったんです。だから、その話を聞いたときは「頑張って!」と人ごとだったんですよ(笑)。で、そのオーディションでよい成績を残したことで、本人的に自分の実力が少なからず認められたというのがあったのか、本気で音楽をしたいという話になって。
たか坊:拓まんとは大学の文化祭で一緒にバンドをやったりしていたので、一緒にやってくれないかと相談して。
拓まん:「全然いいよ。じゃあ、アメリカから帰ったら始めようか」という感じでした。僕的には遊びの延長といいますか。
たか坊:拓まんが帰国してから、彼の家に行って一回合わせてみることになったんですが、そこにアルフィがいまして。彼がビートボックスをできることを知っていたので、じゃあ一緒にやってみようということで3人でスタートしたわけです。
アルフィ:僕もその時期は、本当にやることがなくて。なので、たか坊から「一緒にやろうよ」と言われて、面白そうだなと思ってやることになったんです。最初こそ軽い気持ちでしたけど、それ以降3人で一緒にいる時間がすごく心地よくて、このまま続けたいと強く思うようになりました。
拓まん(Guitar)
──結成当初は音楽を通して何を叶えたいとか、どんなことを届けたいと考えていましたか?
たか坊:最初は趣味の延長で音楽をやっていたので、単純に有名になりたいとか誰かから認められたいという承認欲求が強かったんですけど、TENSONGでオリジナル曲を作り始めてからはリスナーに寄り添いたいと心から思うようになってきて。そこからはどんどん視野が広がっていった気がします。
──結成当時の2020年はまさにコロナ禍真っ只中でしたし、活動の中心は最初からネット上にならざるを得なかったのかなと。
拓まん:そもそも、結成当時からライブという選択肢はなかったかもしれないです。
たか坊:動画を発信するにおいても、あまりにも非現実的というか。それこそコロナのせいでソーシャルディスタンスを保たなくちゃいけなくなり、人と会うこともなくなりましたけど、そのぶん動画に対するコメントでリアクションをたくさんいただいて。ただ、「これ、本当に誰かが観て聴いて、反応してくれているのかな?」という不思議な感覚がありました。
──届いているというよりも、「本当に聴いている人、いるんだ」という感覚だった。
拓まん:遊びのノリで撮影してネット上にアップしたものだったから、余計にそう感じますよね。
アルフィ:当時は僕も、遊びの延長という感じでやっていましたし。ただ、途中で大学卒業後の進路を考えるようになった時期に、3人で集まって将来のことを話すにようなって。そうやって相談しているうちに、ちゃんと音楽で食うぞっていう覚悟ができた気がします。
たか坊:それが、初めてから1年半くらい経ったタイミングだったのかな。
──学生じゃなくなるタイミングは皆さんにとって、大きなターニングポイントだったわけですね。
拓まん:そもそも就活するどうこうの前に、僕は卒業が危なかったので(笑)。なので、そこに関して悩むことはまったくなかったです。
たか坊:僕も音楽をやると決めてからは、就職を考えたことはなかったですね。でも、アルフィはそこに関してずっと悩んでいたところを、僕が「今後も一緒にやっていこう!」と引き留めて。結果として就活せずに、3人で今も音楽をやっているわけです。
TENSONG
──大学卒業後、2022年春に活動の拠点を東京に移し、コロナの状況が落ち着き始めたのを機にライブ活動を始めることになります。
拓まん:上京して半年くらい経ってから、世の中の状況も落ち着いてきたので初ライブをやりました。3人とも音楽初心者なので、結成してから2年半くらい準備期間があったことはよかったかもしれないです。
──お客さんの前で音楽を届けることは、ネットを通じて音楽と届けることとまたいろいろ変わってきますよね。それによって、音楽との向き合い方などにも変化が生じたんじゃないでしょうか?
拓まん:曲に対する答え合わせを、ライブを通してできている感覚が強くなりました。ある曲を実際ライブで披露したときに、お客さんの反応含めて「みんなにはこういうふうに聴こえているのかな」とか。それこそ、前向きな歌詞なのにみんなは大人しく聴いていたりと、そんな驚きがあったりもして。そういう曲との答え合わせは、聴いてくれる人と一緒にしたほうがいろんな考え方を感じられるんだなと実感しました。
──ネットを通じて文字で感想を伝えられるのと、ライブ会場で表情から感想が得られるのとでは、まったく異なりますものね。
拓まん:そうですね、そこは全然違うと思います。
たか坊:僕は最初の頃は自分よがりになっていたり、緊張が勝ってお客さんの表情を読み取るところまでは行ききれなかったんですけど、それが昨年の47都道府県対バンツアーで経験を重ねたことで、ようやくお客さんの顔を見られるようになって。そこで「僕たちを応援してくれる人たちが、こうやって会場に足を運んでくれている」ということに対する感謝の気持ちが、ライブをするたびに大きくなっていって、今はその感謝をライブでしっかり返せるように心がけていて、それが自分がライブをする大きな理由になっていると思います。
アルフィ:僕は逆に、ライブを重ねるたびにいろんなことが「難しい」と感じるようになってしまって。それこそ最初の頃は「今回はこれできた!」みたいな感じで気楽にできたけど、ライブをすればするほどバリエーションだとかその場の空気感とかより繊細な部分を意識するようになりました。そういう意味では、ライブ1本1本に対する気持ちの込め方が以前よりも強くなっているのかもしれないです。
アルフィ(DJ)
──今年2月からは初のワンマンツアーも実施。昨年の対バンツアーとは会場やお客さんの雰囲気もまた違ったかと思いますが、ここまでの手応えはいかがですか?
たか坊:昨年までとちょっと違うなと思ったのは、自分たちに興味を持っていたりずっと応援してくれる方たちが会いに来てくれているので、その部分では届けるものもより一層自分たちの中で深まったり、今ここで何をすべきなのか、MCで何を話すべきなのか、そういうこともより真剣に考えられるようになったと思っています。
拓まん:自分の気持ち的には正直、対バンとワンマンとで体感はあまり変わっていないというか。「また次もライブに行きたい」と思ってもらえるようなライブを常にしたいと思っているので、僕はそこまで大きく変わったとは思わないです。
アルフィ:対バンだと言ったら3、40分という限られた時間で集中してライブに臨めたんですけど、ワンマンだと持ち時間が長いぶん、観ている人を飽きさせないようにいろんなことに挑戦したいと思って、ツアーからDJセットにLoop Stationという機材を取り入れて。トラックを流しながらボイパを重ねるというパフォーマンスをしているんですけど、公演によっては失敗することもあって、試行錯誤することが増えています。
拓まん:そういう意味では、ライブすること自体は慣れてきたものの、「TENSONGとしてどういうライブをするのか」ってことに関してはまだまだ固まらないところがあるというか。
──曲がどんどん増えていけば、見せ方のバリエーションもその分増えていくことになるでしょうし。
拓まん:もしかしたら、これはアーティストにとって永遠の課題なのかもしれませんね。だから、かつては小さなライブハウスで活動していて今は大きな会場を満員にしているようなアーティストの皆さんは、そういう部分を常に追求している人たちなんだろうなと思います。
たか坊(Vocal)
──6月1日には新曲『貴方のことが好きです』がリリース。作詞作曲はたか坊さんとプロデューサーのWEST GROUNDさんによる初の共作とのことですが。
たか坊:この曲は作り方が面白くて。WEST GROUNDさんと2人で飲んでいるとき、メロディや歌詞を「こうじゃない?」「いや、こうでしょ?」と即興で作っていったものなんです。そのときに「最愛」というテーマが挙がって、だったらウェディングソングを作ってみようということになったんです。
──楽曲を作ろうと思って2人で向き合ったわけではなく、その場のノリで始めたことだった?
拓まん:もともとはたか坊が俺とアルフィに対して、「ワンコーラスでいいから」とそれぞれ1曲ずつ提出してほしいって話だったんです。
アルフィ:ああ、そうだった。
たか坊:そうだっけ? 覚えてない(笑)。
拓まん:僕は「好きです」を連呼する歌を提出して、アルフィも別の曲を出したんです。で、その次の日にたか坊とWEST GROUNDさんが飲みに行ったんですけど、そこで僕とアルフィの音源を聴かせたそうなんです。そのときに「好きです」の連呼が話題になって、そこから曲を作ったとたか坊から聞いたんだけど……。
たか坊:本当に覚えてない(笑)。
拓まん:相当飲んだみたいだから、記憶があやふやなんだと思います(笑)。
アルフィ:それが去年の11月くらいの話だよね。
拓まん:僕やアルフィがいないところで、別のテイスト曲ができていたことにびっくりしましたよ。
たか坊:2時間くらいで原型ができたみたいで。
拓まん:それをもとに、制作に入ったんです。いつもはアコギを弾きながらメロディを作ったり、先にトラックから作ったりすることから始めるんですけど、楽器もなにもない場所で、お酒の飲みながら1曲作ったのは初めてですよ(笑)。
──なるほど。メロディの流れも気持ちいいですし、歌詞もストレートなラブソングで胸に強く響くフレーズが並んでいます。
たか坊:今の自分のライフスタイル的にはあまり描かないような歌詞ですけど、仮に自分が結婚することになったら、その事実をどう捉えてどんな言葉を相手に伝えるんだろうと考えたときにできた歌詞でもあって。「運命の人ができたら」と想像しながら書きました。自分たちの曲って「頑張れよ!」とか強く言ったり、思いワードをガツガツ前に出すようなイメージがあるんですけど、今回に関してはただ自分の気持ちを素直に言ったような感覚だったので、TENSONGの新しい一面を見せられたかなと思います。
TENSONG
──そんな歌詞を、たか坊さんは実際に歌ってみていかがでした?
たか坊:ストレートな歌詞だからこそ語尾を気にしたりと、繊細に歌わないといけないと思うところもあって。僕はその場の感情任せて、気持ちで歌うタイプなんですけど、今回はそれだけでは通用しない部分も多くて、いろんな技術が求められるレコーディングでした。
──今年1月に発売された初CD『普通なんていらないよ』では、いろいろなタイプの楽曲に挑戦することで歌うことの難しさにも直面したと、以前のインタビューでおっしゃっていましたが。
たか坊:それによって体が「歌うことが難しい曲」に慣れてしまったんでしょうね。だから、今回みたいにシンプルでストレートなバラードを歌うことは、逆に難しくて。『普通なんていらないよ』ってタイトルの作品を出していながら、普通っていうのが一番難しいんだなってことを改めて感じました。
──アルフィさんはたか坊さんの歌を聴いて、どう感じましたか?
アルフィ:たか坊ってど直球というか、前にガッと言葉を置いてくるタイプのシンガーなので、デモの段階から彼の良さを存分に引き出せる曲になるだろうなと最初から思っていました。あと、個人的にはすごく昭和っぽいなという印象もあって。
たか坊:この曲を作っていた時期は、自分たちの親世代が聴いていたような80〜90年代のポップスとか歌謡曲ばかり聴いていたので、そのへんの影響も少なからず出ているのかもしれません。
──ギターに関してはアコギが中心となるアレンジですが、拓まんさんはこの曲とどのように向き合いましたか?
拓まん:実は今回、ギターのチューニングが440Hzじゃなくて441Hzになっていて。細かな変化ですけど、そこでも今までとは違う感じを出せているのかな。とはいえ、この曲はピアノ中心なので、アコギはあくまで華を添える役割といいますか。2番からはクリーントーンのエレキも加わるんですけど、今回は歌を盛り上げるために少ない音数でどう演出するかを意識しました。それこそ、アコギは8拍子だったり16拍子だったりと、リズムの取り方もパートによって変化を付けていますし、そういう部分で感情を表現できたのはよかったと思います。
──この曲を携えて、6月8日(土)には大阪・心斎橋BIGCAT、29日(土)には東京・Veats Shibuyaでワンマンツアーの追加公演を実施します。
拓まん:ちょうどこの取材の数日前に、大阪公演と東京公演のセットリストをみんなで考えていたんですけど、決定するまでにどれくらいかかったっけ?
たか坊:「この曲は入れるべき?」ということを1時間くらい議論したり。結果、数日かけて話し合ったよね。いろいろ悩んだ結果、新しいことに挑戦できるのかなと思っていて。今までやったことない、それこそ『普通なんていらないよ』というツアータイトルなので、自分らしくいるためにはどうしたらいいのかを模索したときに、このセトリであれば自分たちらしさを見せられるだろうと思っています。と同時に、初挑戦が含まれているぶん、不安というのも多少はあるんですけど、この3人で一緒に音楽を奏でられる喜びのほうが勝っているので、ライブに来てくれた人たちを楽しませる自信はしっかりあります。
アルフィ:僕はどちらかというと「今までにやったことあるようなことをやろう」派だったんですけど、それだと面白みがないし、追加公演なんだからという点でも新しいことをしないと意味がないと言われて、そこでようやく火が着いたというか。DJでのパフォーマンスはもちろんですけど、この3人だからこその空気感も大事にしながら頑張ります!
拓まん:このツアーの中でも、特に大阪と東京はキャパが大きいので、シンプルにどんな景色が見えるのかすごく楽しみです。特に僕は関西人なので、大阪でワンマンができることは感慨深さもありますし。とにかく、自分たちがやるべきことは、お客さんにまたライブに来たいと思ってもらえるようなライブをすることだと思っているので、みんなに笑顔で帰ってもらうことが目標です。
──この追加公演を成功させることで、新たに得られるものもあるはずですし。この先につなげるという意味でも、重要な2公演になりそうですね。
たか坊:確かにそうですね。『普通なんていらないよ』というテーマを超えた先に何が待っているのか、僕たちも楽しみにしています。
取材・文=西廣智一 撮影=大塚秀美
「貴方のことが好きです」