TOOBOEの自主企画『交遊録Ⅱ』、Chevonを迎え互いのカバーも披露したリスペクトに溢れる東京公演をレポート

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TOOBOE×Chevon

TOOBOE×Chevon

交遊録Ⅱ 
2024.6.5 Spotify O-EAST

TOOBOEが「仲がいいアーティストや尊敬する先輩を招いて刺激を受けたい」というモチベーションでスタートした自主企画『交遊録』の2回目が、東京はChevon、大阪は煮ル果実をゲストに開催。ここでは東京公演をレポートする。

Chevon

Chevon

ぎっしり埋まったフロアにはChevonのタオルを首からかけているオーディエンスも散見され、この対バンへの期待値の高さを匂わせる。そこに先攻のChevonが姿を現すと、凄まじい歓声が上がり、この対決がすでに熱く幸福な一夜だと確信する。ものすごい熱量だ。

スターターはダンサブルな「クローン」。谷絹茉優(Vo)のR&Bからメタルっぽいシャウトまで一曲に網羅するモンスターボーカリストっぷりにフロアがブチ上がる。ドスのきいたローボイスの「antlion」、Ktjm(Gt)の鋭いカッティングとシュアなオオノタツヤ(Ba)のフレージングがグルーヴを作り、谷絹のアイドルばりの声色と確かな押韻のラップ部分の緩急に圧倒される「革命的ステップ」と畳み掛けていく。ジャンルレスなだけでなく、谷絹のジェンダーレスな存在感から放たれる変幻自在のボーカルが、現実離れした驚きをブーストする。

ヘヴィでブルージー、ナイトメア感も漂う「大行侵」でのハイトーンシャウトと叫びをあげるギターにオーディエンスも抑えきれない感情が爆発している。さらにキャッチーな歌メロと鋭いラップのフロウを内蔵する「Banquet」、少しレトロな旋律を持ちつつ驚異的なボーカルの高低差を乗りこなす「只者」。お立ち台からオーディエンスをしっかり見据える谷絹の目ヂカラは2階席からでも確認できた。

Chevon

Chevon

MCになると誠実でちょっとオタクめいた早口になるのも谷絹の正直な人間性を映しているようで好感度大。johnの音楽は小学生の頃から聴いていたと言い、初めて初音ミクに個性を持たせたボカロPとして大いに尊敬している旨を語ったのだった。その想いを満身に込めてTOOBOEの「錠剤」カバーが放たれた瞬間の盛り上がりは何度も更新されるこの日の中でも一つのハイライトだった。

続いてグッとアーバンなR&B色の強いリリースされたばかりの新曲「愛の轍」も披露。センシュアルかつ大人にまだなれない二人の現実逃避を思わせるChevonの一面を窺わせた。続く「サクラループ」ではKtjmのイマジネーション溢れるオブリガートも冴え、終盤は再び加速。地声もファルセットもシャウトも駆け巡るように駆使する「ダンス・デカダンス」、そしてオーディエンスの“ジャスティス! ジャスティス!”のコールアンドレスポンスにバンドもさらに焚き付けられる「光ってろ正義」へ雪崩れ込む。鼓膜を震わせる谷絹のハイトーンシャウトに、TOOBOEとのガチな勝負への感謝とバンドの野心が燃え上がる。いや、まったくどこまでも可能性しか見えない一時間だった。

Chevon

Chevon

TOOBOE

TOOBOE

温まるどころか沸騰状態のフロアに、Chevonの勝負を受けて立つ形になったTOOBOE。背景のLEDはさまざまなカルチャーを表現したグラフィックとサンドストームが彩り、すっかりファンにもお馴染みになったバンドメンバー、飯田“MESHICO”直人(Gt)、Park(Ba)、Atsuyuk!(Dr)、TaitoFujiwara(Mp,Key)がテンション高く登場。「ミラクルジュース」のイントロに沸き、羽織のようなジャケット、裸足にサンダル姿のTOOBOEが現れると凄まじい歓声に変わった。冒頭から全力のオーディエンスはサビで大合唱し、「暴れて行けば?」と煽られるとさらに爆発。続く「天晴れ乾杯」では目まぐるしいストロボライトとテクニカルな人力ブレイクビーツがカオスに誘う。TOOBOE独特のセクシーなファルセットへ駆け上がるサビメロも鋭く響く。

TOOBOE

TOOBOE

「楽しく行きましょう。よろしくお願いしやす」と、バンカラな口調で挨拶すると、少し懐かしいTOOBOEのシンガーソングライターとしての側面が際立つ「もののけ」を披露。和風のナイトメア感とでも言うべき空間に満たされた。

ハイペースで3曲披露したあと、早速Chevonをゲストに迎えた経緯を語り出すTOOBOE。曰く先日の『JAPAN JAM』での彼らのライブを見て圧倒されたと言い、大方の新人バンドは分析できる範囲内であるのに対し、Chevonのライブ後、バンドメンバーに「johnさん、頭抱えてましたよ」と指摘されるほどだったとか。しかも彼らがボカロPである自分の音楽に影響を受けながらバンドをやっていることも嬉しいのだという。そして「僕、最近のライブには自信を持ってるんですけど、去年の『交遊録Ⅰ』で秋山黄色には負けたと思った、今日も敗北だ……」と話したところで歓声が上がる。「でも敗北からしか生まれないものもある」と、命と命がせめぎ合うような刹那のラブソング「敗北」へ。おもちゃ箱をひっくり返したようなSEが、どこかダークファンタジーのようなイメージも作り出す。さらにエレクトロスウィング色の濃い「ダーウィン」ではハンドマイクでステージ前方を身軽に動き、パフォーマンス。そして「皆さん、一緒に晩餐会しましょうか?」という振りから、背景には“Banquet”の文字が。悲鳴にも似た歓声の中、Chevonへの返礼のようにカバーを披露し、谷絹のボーカルスタイルを踏襲したハイトーンシャウトも決めてくれたのだった。

TOOBOE

TOOBOE

そのままシームレスに代表曲「錠剤」へ。LEDに投影される歌詞のフォントはちょっとおどろおどろしく、GS風味もあるメロディやビート感にTOOBOEらしい歌謡のテイストを実感する。個性や曲調は違えどヨーロッパ調のメロディを持つ「fish」にも接続されていた。

TOOBOE

TOOBOE

「新曲やります」と、さらりと披露されたのはこの日デジタルリリースされた「痛いの痛いの飛んでいけ」で、ブランコに揺られるハイヒールのアニメーションを背景に女性目線の心情が歌われる。怪しいトイピアノのサウンドの調律が外れていくアレンジに狂気を感じ、ウォール・オブ・サウンドよろしく厚くなるアンサンブルでピークを迎えた。さらに強烈なスラップベースが曲を牽引し、おびただしい言葉数で畳み掛ける「咆哮」、ラテンをハイパーに昇華したような「往生際の意味を知れ!」と、怒涛のキラーチューンを連投していく。モダンヘヴィロックもブラックミュージックも、J-ポップマナーで噛み砕ける辣腕ミュージシャン揃いのTOOBOEバンドのタフさと小気味良さが、生身の人間のアウトプットを凌駕するマルチクリエーターTOOBOEの欲求をブーストするのだろう。どんな異形のナンバーでも痛快に具現化する演奏の上で、ギリギリの綱渡りを楽しんでいるように見えるのだ。

TOOBOE

TOOBOE

物語とリアルな本音を交差させた世界観を走り続けた本編ラストは、これまた代表曲の「心臓」で、三三七拍子のクラップというTOOBOEならではのコール・アンド・レスポンスを交えていく。「もっと大きくないと聴こえねえな!」と煽りまくるTOOBOEに応えて、乾いたクラップが鳴り響き、一旦“お開き”に。

なんとアンコールの拍手も三三七拍子という徹底ぶり。エフェクトをかませたり、生でもダブルで聴かせることも多いTOOBOEのボーカルだが、アンコール1曲目の「ブルーマンデー」では彼のゲインの効いた生声の魅力が伝わり、正真正銘のラストは「千秋楽」。ポップミュージックの世界で存在価値を問われ続ける中、時代や他者の視点からこぼれ落ちていく怖さも抗う覚悟も感じるこの曲で締め括ったことに、対バンイベントの意味も改めて感じることになった。

TOOBOE

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リスペクトがあるからこそ容赦なく殴り合える存在の貴重さ、そして対バンという形でしか体感できない新たな出会い。オーディエンスの興奮した表情がこの夜の充実を物語っていた。

取材・文=石角友香 撮影=ゆうと。(@musicmagic3923)

 

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