田中彩子(C)Tadayuki Minamoto
100年にひとりとも称される美声のハイ・コロラトゥーラ田中彩子が、デビュー10周年を記念したコンサートを開催する。2024年9月16日(月・祝)長野・八ケ岳高原音楽堂を皮切りに、12月25日(水)東京・紀尾井ホールまで全国9都市(10公演)を巡る本ツアーでは、まさに「ベスト・オブ・田中彩子」といえるラインアップが揃う。10周年の節目を迎えた田中彩子に、コンサートへの意気込みや今後の目標を聞いた。
——デビュー10周年おめでとうございます。この10年はどのような10年でしたか?
私にとっては自分の次のステージを準備するための10年だったと感じています。声楽家は自分の体が楽器ですので、その成熟を待つ必要があります。自分なりの成熟を少しずつ感じながら、次のステージへの準備としてできることを積み重ねてきた時間だったと思います。
——「体の成熟を待つ」ということについて、積極的に体を作られた面もあるかと思うのですが、どのように体作りをされましたか?
水泳、ヨガ、ダンスや筋トレなど体力や体幹を鍛えるために色々してみましたが、結局歌うことでしか鍛えられない筋肉もあります。無理せず正しく歌うための筋肉を育てるためにソルフェージュはとても大切だと思っているので、今でもとても丁寧にしています。
あとは喉を使わず歌うということに注力していますね。喉でコントロールするのではなく身体の筋肉で息をコントロールし、喉はあくまでも空気の行き先を少し調整するだけ、というイメージです。
また、「無理をしない」ということ。いかに自然に無理せず声を出せるかを大切にしています。
——レパートリーについては、どのように広げてこられましたか?
コロラトゥーラ歌手のために書かれた曲を集中的に探す時もあれば、この曲は自分の声に合いそうだな、といった感覚で選ぶときもあります。コロラトゥーラという技術はまだまだ未知の領域だと思っているので、いろんな曲を試しています。
——澄んだ歌声のコロラトゥーラを維持するために、どんなことを心がけていますか?
心と体の健康の上にいい声が出ると思っていますので、よく寝てよく食べて、よく笑うことを心がけています。そしてできればいろんなものに触れて、経験して、視野をどんどん広げていくためにいろんなことに興味を持ち続けることを心がけています。
——10周年リサイタルはピアノの佐藤卓史さん、チェロの市寛也さんも参加される豪華なプログラムですね!
今回はチェロも入ってのトリオバージョンでの演奏になります。ソプラノとピアノとチェロで演奏するオリジナル曲はもちろん、今まで歌ってきた馴染みの曲も、チェロが入るとまた違った雰囲気になると思います。チェロの音色が混ざることで生まれる、いつもと違う全体の響きを楽しんでいただけたらと思います。
プログラムについては、10年の間に歌ってきたたくさんの曲をメインに、でもただ過去を振り返って終えるのではなく、半分は未来に思いを馳せた曲も入れていく予定です。いつもプログラムには一捻り、工夫することにしています。聴き馴染みのある王道曲はもちろん、現代曲も入れたりするなど、ジャンルや時代を行ったり来たりして枠にとらわれない自由なプログラムになったかと思うのでぜひ楽しんでいただけたらと思っています。
——歌手としてのご活躍はもちろん、モノオペラ『ガラシャ』の総合プロデュースや社会貢献事業にも携わってこられました。そのパワフルな行動力の源となっているものはなんでしょうか?
なんでしょう……? 私はいつも自分のエネルギーは外に向いていて、初めは身近な人に、次はいつも応援してくれるファンの方々に、そして今はもっと広くいろんなことに、という目線で動いているだけなので、”社会貢献”というような大層なことを考えて行動しているわけではないんです。ただ、水の波紋が広がるように、自分が歌を歌うことによって、何か良いエネルギーが広がればいいなと思って、色々挑戦しています。
——田中さんは興味の幅が広く、広い視野をお持ちなのではないかと思うのですが、そんな田中さんが今ハマっていることや、何か注目しているトピックスはありますか?
ある意味「変わらない芸術」を突き詰めているものとしては、逆になるべく今の時代の動きを捉えていたいなと思っています。それは流行りの曲もファッションもそうです。と、同時に、アートや古典芸術が今の時代の中でどのように変化を遂げているのかといったテーマは常に興味がありますし、自分の活動を考えるうえで参考にもしています。
——さらに活動の幅が広がりそうですね! 次の10年、20年に向けて目標や夢を教えてください。
今までの10年、自由にたくさんのことを経験させていただけたことと、そして見守ってくださったファンの方々に感謝したいです。だからこそ、これからも常に新鮮でありたいですし、いろんなことに挑戦していきたいです。私の挑戦とその結果が、これからの若い方々のより歩みやすい未来につながることを願っています。
自分自身もぬるま湯に浸からず、熱湯の中でスパイスの効いた人生を歩んだかっこいいおばあさんになるのが夢です。
取材・文=東ゆか