加藤和彦トリビュートコンサート東京公演ライブレポート

アーティスト

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演

2009年に亡くなった不世出の音楽家、加藤和彦のトリビュートコンサートが、7⽉15日に東京・Bunkamuraオーチャードホールで開催され、7組のアーティストが参加。120分に渡って加藤和彦作品を演奏し満員の聴衆を沸かせた。本公演は加藤の出生地である京都(7⽉10日ロームシアター京都)に続いての開催。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 ハンバートハンバート

開演前、会場には加藤和彦の作品が流れ、これから始まるコンサートの期待を煽る。「だいじょうぶマイ・フレンド(1983)」が終わると場内は暗転。「あなたの音楽は様々な世代の方によって愛され、歌い継がれています。誰よりも早く、誰もやれなかった、やろうとしなかった音楽を残してきた音楽家。あなたをリスペクトするミュージシャン、スタッフ、何よりも客席にいらっしゃるオーディエンスの方々の気持ちが少しでも伝わることを願いつつ。さぁコンサートの幕を開けようと思います」と場内ナレーションが終わるとイントロが奏でられ緞帳が上がる。舞台には坂本美雨、ハンバート ハンバート、高野寛、高田漣が横一線に並ぶ。オープニングは公開中の映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』のエンディングにも使われた、スタンダード曲「あの素晴らしい愛をもう一度」。各々のメンバーが歌い継いでいくのに合わせ、オーディエンスも大合唱で爽やかに幕を開けたこの日のコンサート、2組目は「フォークソングを独自の解釈で継承するデュオ」と場内ナレーションで紹介されたハンバート ハンバートのふたり。ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」や「もしも、もしも、もしも」などのフォークソングを美しいハーモニーで聴かせる。ギターの佐藤良成が加藤和彦作品に接したのは小学1年生(1984)の頃。「フォークソング好きの担任の先生がギターを弾いて歌ってくれた曲。今思えば小学生に聴かせる曲じゃなかったですけど(笑)」と歌ったのはフォーク・クルセダーズのデビュー曲「帰って来たヨッパライ」。高田漣の弾くバンジョーに合わせ、佐野遊穂がヨッパライ風のファニーボイスで歌い、エンディングにはカズーや木魚も登場。原曲の持つコミカル感やハチャメチャ感をステージで見事に再現し、オーディエンスから大喝采を浴びた。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 田島貴男

続いてステージに上がったのは田島貴男。1曲目に選んだのは加藤和彦がサディスティック・ミカ・バンド解散直後に発表した「シンガプーラ」。ハンドマイクで艶やかに伸びやかにソウルフルに歌う。なんだか横浜中華街辺りで聴いているようなエキゾチック・テイスト溢れる楽曲だ。この曲が収録されたアルバム「それから先のことは」は、米国のR&Bやサザンロックの名曲を生んだ名門スタジオ、マッスル・ショールズ・スタジオでレコーディングされた。田島は「加藤さんと一緒にマッスル・ショールズに行きたかった!」と叶わなかった思いを話し、続いて五木寛之が作詞を手がけた「青年は荒野をめざす」を歌う。かつてORIGINAL LOVEのアルバムでもカバーしたこともあるフォーク・クルセダーズのナンバーだ。大きなボディのギターをかき鳴らしながらパワフルに熱唱。フォーキーな原曲を、ジャンピン・ジャイブ・スタイルで鮮やかに蘇らせ、オーディエンスを熱くする。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 坂本美雨

坂本美雨は、加藤が竹内まりやに書いた「不思議なピーチパイ」でスタート。彼女の柔らかい澄んだ歌声が、客席を幸せな空気に包み込む。今回のコンサート参加に際し、坂本美雨は母・矢野顕子に思い出の曲ある?と訊ね、選んだのが次に歌う「ニューヨーク・コンフィデンシャル」。1983年発表のアルバム「あの頃、マリー・ローランサン」に収められた楽曲で、矢野顕子がレコーディングに参加、後に自身のアルバム「Piano Nightly(1995)」でもカバーしている楽曲だ。JAZZYな歌声はムーディな照明とも相俟って、夜のニューヨークを彷彿させる。自身の小学生の頃の日記を読み返すと、お母さんとお父さんの友達のコンサートに行ったと書かれていたのを見つけた。その日(1988年2月1日@中野サンプラザ)は小原礼のコンサートで加藤和彦、高橋幸宏、高中正義らがゲストで参加。期せずしてミカ・バンドの面々が集結した公演を観た坂本美雨だが、日記には「音がうるさかった」としか書かれていなかったそうで、小学生ならではのエピソードを披露すると場内からは笑いが漏れた。最後に歌ったのは「こんな曲が書けたらなぁと思う、大切な曲を見つけました!」と、サード・ソロアルバム「それから先のことは(1976)」収録の「光る詩」。高田漣の奏でる美しいアルペジオと、坂本美雨の澄んだ歌声が溶け合い、唯一無二の空間を作り上げた。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 高野寛

ここからは、ファンの間でも人気の高いヨーロッパ三部作のコーナーが始まる。まず高野寛が三部作収録の「絹のシャツを着た女(うたかたのオペラ/1980)」「サン・サルヴァドール(パパ・ヘミングウェイ/1979)」を歌う。高野が高橋幸宏プロデュースでデビュー・アルバムをレコーディングした際、幸宏さんが「トノバンにギター借りよう!」と加藤和彦のスタジオに連れて行ってくれたそう。そこで加藤に薦められたのは「マーティンD45!という凄いギター。ビビりましたね。その出会いを鮮烈に覚えてまいす。ボクの加藤さんのファースト・インプレッションでした」と加藤との思い出を語り、最後に、安井かずみさんと初めて一緒に作られた曲をと「キッチン&ベッド」を歌う。目を瞑ればそこに加藤和彦さんがいるのではと思わせる歌声をじっくりと聴かせてくれた。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 奥田民生

奥田民生はヨーロッパ三部作・最終盤「ベル・エキセントリック(1981)」に収められた「浮気なGIGI」。オリジナルにあった独特の退廃感を損なわぬよう色艶やかに歌う。続いてはフォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない(1968)」。自身でも2002年にカバーしシングルとしてリリースしている。原曲のフォーク・トーンを、ディストーションの効いたレスポール・ギターを、かき鳴らしながらルーズなスタイルで歌う。奥田の「イージューライダー」をも彷彿させるフォーク・ロック調だが、アレンジががどう変わっても、この曲の良さは映える!そんな事を思い知らされた。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 小原礼

フォーク・クルセダーズ、ソロ・アルバム楽曲と続き、コンサートも終盤にさしかかる。いよいよ皆さんお待ちかねのサディスティック・ミカ・バンドのコーナーに。ミカ・バンドのメンバーでもあり最後のバンドとなったVITAMIN-Q featuring ANZAのメンバーでもあった加藤の盟友・小原礼が高野寛を伴ってステージに登場。客席から大きな歓声が上がる。先ずはミカ・バンドの1stアルバム収録の「アリエヌ共和国」を小原と高野のツインボーカルで聴かせる。次の曲は、小原が初めて加藤に会った時にニッティー・グリッティー・ダート・バンドみたいですごく好きなんですよ、この曲!と話すと「わかる?」と加藤が嬉しそうに笑ったそう。そんな小原と加藤との出会いの曲がフォーク・クルセダーズの「家をつくるなら」だ。この曲では高田漣のスティール・ギターをフィーチャーし、小原の優しげなボーカルで場内を和ませる。ここでステージに奥田民生がジョインし、3人で再びミカ・バンドの豪快なブギウギ・ロックナンバー「ダンスハスンダ」を演奏。間奏ではドラム・ソロやギター・ソロも披露され場内の空気も段々と熱を帯びてくる。

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演 GLIM SPANKY

トリビュートコンサート、最後のアーティストは90年代生まれの若い二人、GLIM SPANKY。1曲目に選んだ曲は高橋幸宏が作詞したミカバンドの3rdアルバム「HOT! MENU(1975)」収録の「BLUE」。松尾レミが歌う美しいメロディと亀本寛貴の奏でるギターを堪能できるミディアムテンポのナンバーだ。木村カエラをフィーチャーした第3期ミカ・バンドの英語表記はSADISTIC MIKAELA(ミカエラ)BAND。松尾レミは加藤さんが生きていたら第4期ミカ・バンドに加入したかったそう。そんな想いを込めて「次の曲はサディスティック・”レミ”カエラ・バンドとしてやります!」と宣言。ステージには小原礼と、かつてミカエラ・バンドのステージにゲストで参加した奥田民生も加わってSADISTIC MIKAELA BANDの「Big-Bang,Bang!(愛的相対性理論)」を豪快に叩き込む。そしてラストは日本ロック史上に燦然と輝く不朽の名曲。松尾レミからの「みんな時間を旅しましょう!」のかけ声で「タイムマシンにお願い」のギターのイントロが鳴り響くや、客席も一斉に総立ち。場内の盛り上がりも最高潮に達し、本編は終了。

アンコールではGLIM SPANKY、田島貴男、小原礼、奥田民生、高野寛が登場。曲はミカバンド「黒船」収録の「塀までひとっとび」。本編の盛り上がりをそのままに、会場をこれ以上にはないほどにヒートアップさせ、2時間21曲の加藤和彦トリビュートコンサート東京公演は幕を閉じた。この夜、演奏された楽曲を振り返ってみれば、改めて加藤和彦のメロディの普遍性とエヴァーグリーンな魅力を思い知らされた。これ一回で終わらせず、是非、第2弾も開催して欲しい。

「加藤和彦トリビュートコンサート」の模様は、8月18日20:00から大阪のラジオ局「FM COCOLO」にて放送される。また、CS放送「歌謡ポップスチャンネル」で9月29日22:00からテレビ初独占放送される。

文:石角隆行
撮影:秋田夏虎

加藤和彦トリビュートコンサート東京公演セットリスト

演奏アーティスト/オリジナル初出作品(発表年度)

  • ハンバート ハンバート、坂本美雨、高野寛
    1. あの素晴らしい愛をもう一度 /加藤和彦と北山修(シングル/1971年4月5日)
  • ハンバート ハンバート
    1. 白い色は恋人の色 /ベッツィ&クリス(シングル/1969年10月1日)
    2. もしも、もしも、もしも /加藤和彦/アルバム「スーパー・ガス(1971年10月5日)」収録
    3. 帰って来たヨッパライ /ザ・フォーク・クルセダーズ(シングル/1967年12月25日)
  • 田島貴男
    1. シンガプーラ /加藤和彦(シングル/1976年11月30日)、アルバム「それから先のことは(1976年12月20日)」収録
    2. 青年は荒野をめざす /ザ・フォーク・クルセダーズ(シングル/1968年12月5日)
  • 坂本美雨
    1. 不思議なピーチパイ /竹内まりや(シングル/1980年2月5日)
    2. ニューヨーク・コンフィデンシャル /加藤和彦 アルバム「あの頃、マリー・ローランサン(1983年9月1日)」収録
    3. 光る詩 /加藤和彦 アルバム「それから先のことは(1976年12月20日)」収録
  • 高野寛
    1. 絹のシャツを着た女 /加藤和彦(シングル/1980年8月1日)、アルバム「うたかたのオペラ(1980年9月25日)」収録
    2. サン・サルヴァドール /加藤和彦 アルバム「パパ・ヘミングウェイ(1979年10月25日)」収録、シングル「おかえりなさい秋のテーマ-絹のシャツを着た女(1980年8月1日)/B面)
    3. キッチン&ベッドシングル「シンガプーラ」B面(1976年11月30日)、アルバム「それから先のことは(1976年12月20日)」収録
  • 奥田民生
    1. 浮気なGIGI /加藤和彦 アルバム「ベル・エキセントリック(1981年7月25日)」収録
    2. 悲しくてやりきれない /ザ・フォーク・クルセダーズ(シングル/1968年3月21日)
  • 小原礼+高野寛
    1. アリエヌ共和国 /サディスティック・ミカ・バンド アルバム「SADISTIC MIKA BAND(1973.05.05)」収録
    2. 家をつくるなら /加藤和彦(シングル/1973年3月20日)、アルバム「スーパー・ガス(1971年10月5日)」収録
  • 小原礼、高野寛+奥田民生
    1. ダンスハスンダ /サディスティック・ミカ・バンド アルバム「SADISTIC MIKA BAND(1973.05.05)」収録
  • GLIM SPANKY
    1. BLUE /サディスティック・ミカ・バンド アルバム「HOT! MENU(1975年11月5日)」収録
  • GLIM SPANKY+小原礼、奥田民生
    1. Big-Bang,Bang!(愛的相対性理論)/サディスティック・ミカ・バンド アルバム「NARKISSOS(2006年10月25日)」収録
    2. タイムマシンにお願い /サディスティック・ミカ・バンド アルバム「黒船(1974年11月5日)」収録ENCORE
  • GLIM SPANKY、田島貴男、小原礼、奥田民生、高野寛
    1. 塀までひとっとび /サディスティック・ミカ・バンド アルバム「黒船(1974年11月5日)」収録

バンドメンバー:高田漣(Guitar)/白根賢一(Drums)/伊賀航(Bass)/ハタヤテツヤ(Piano)
ナレーション:作 田家秀樹 声 田中乃絵

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