Vaundy、7/27・28開催「one man live “HEADSHOT” at Makuhari Messe」公式ライブレポート到着

アーティスト

カメラマン:日吉“JP”純平、太田好治

Vaundyが7月27日・28日の2日間、千葉・幕張メッセにて「one man live “HEADSHOT” at Makuhari Messe」を開催した。ライブ会場となった幕張メッセ9-10ホールに足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのはホール中央に設置された四角形の360度ステージ。まるで格闘技のリングのようなそれをオールスタンディングのフロアが取り囲む。これまでのVaundyのライブとは明らかに違う雰囲気に胸を高鳴らせていると、16:30すぎ、SEが鳴り響き、ステージが青い光に包まれた。4人のサポートメンバーが演奏しだしたのは「東京フラッシュ」のイントロ。この1年半あまり一切ライブで披露されてこなかったVaundyの始まりの曲。どこからともなく〈相槌が上手くなったんだ〉と声が聞こえてくるが、ステージ上にVaundyの姿は見えない。筆者は反対側にいたのでわからなかったが、フロアを貫く通路を通り、歌いながら入場してきたらしい。そのへんも格闘技っぽい。とにかくいきなりのレア曲にオーディエンスは熱狂。いつもと一味違うVaundyのワンマンライブ「HEADSHOT」はこうして幕を開けたのだった。

その後も「灯火」に「花占い」と代表曲を畳み掛けるVaundy。イントロが鳴るたびにフロアからは大歓声が上がり、手拍子が巻き起こる。Vaundyは四方のオーディエンスに顔を向けながらパフォーマンスを繰り広げる。最近はアリーナでのライブが増え、いわゆるサービス映像を使わないVaundyのライブでは席の場所によっては彼の表情がほとんど見えなかったりするのだが、今日は距離がとても近い。サポートメンバーも含めたステージ上の5人の一挙手一投足が手に取るようにわかり、それがライブに生々しいダイナミズムを生み出していく。BOBOの重たいビートから始まりVaundyがスタンドマイクで歌った「そんなbitterな話」では、前回のアリーナツアーでも効いていたTAIKINGのギターが楽曲に色をつけ、さらに場内の温度を高めていく。

3曲を終えて「あっつい……」と声を漏らすVaundy。もちろん空調もフル稼働しているはずだが、それでもホール内にはオーディエンスの熱気が充満している。「いよぉ、元気か?」という声に対してフロアから上がった歓声に「じゃあ踊れるな?」と返し、突入したのは「常熱」。力強いリズムがオーディエンスの体を自然と揺らしていく。ハンドアクションを交えながら歌うVaundyも楽しそうで、歌いながら「あげぽよ〜!」と叫んだりしていた。そこから続けて「そのまま踊りな!」と「踊り子」を投下すると、フロアの熱狂はさらに一段上がる。Vaundyの踏むステップもどんどん大きくなっていき、序盤のハイライトといえるような盛り上がりを生み出していくのだった。

と、ここで街の雑踏の音をサンプリングしたインタールードが流れ、ライブの雰囲気はガラッと変わる。これまたライブで聴くのはかなり久しぶり(ワンマンでは2022年の武道館以来だと思う)の「世界の秘密」を経て「napori」のゆったりとしたリズムが心地よく会場を包み込むと、ここで披露されたのが「宮」。アリーナツアー「replica ZERO」でもそうだったように、Vaundyはステージ中央に置かれた椅子にもたれかかるように座って歌っている。呟くように、はたまた語りかけるように歌われる繊細な歌。その中に潜む表情のひとつひとつに、いつも以上にVaundyの人間の部分が浮かび上がるようだ。先ほどのアッパーチューンの連打も、この内省的な部分を覗かせる歌も、どちらもVaundyを構成する重要な要素。「replica」のコンセプトから離れて、この「HEADSHOT」では過去の楽曲も含めてVaundyという表現の総体がプレゼンテーションされている。「HEADSHOT」とはいわゆる「プロフィール写真」のことであり、今回のライブテーマとして掲げられたが、まさにVaundyがVaundyを自己証明するようなセットリストとパフォーマンスだ。ちなみに「HEADSHOT」という言葉自体には「撃ち抜く」という意味もある。突如シーンに現れ、数々の楽曲でリスナーを撃ち抜き続けるVaundyにとてもふさわしいタイトルだ。そういう意味では、続いて披露された「タイムパラドックス」は『映画ドラえもんのび太の地球交響楽』の主題歌としてVaundyの音楽をそれまで以上の人々に届けるきっかけとなった、まさに「鮮やかに撃ち抜いてみせた」楽曲だといえる。オーディエンスを指差したりしながら語りかけるように歌うVaundyの姿がとても印象的だった。

白い光のなか壮大に歌い上げた「しわあわせ」を終え、タオルで頭を拭きながら「昨日より気温が上がっている気がする」と口にするVaundy。「水飲んでる?」とオーディエンスを気遣いつつ、しかし「倒れるなよ、ここからなんだから」とさらなる盛り上がりを求めていく。そして「もう覚えてきたよな?」とぶちかましたのが、映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の主題歌となっている「ホムンクルス」だ。緑と白のライトがこれでもかと放射され、ハイパーなロックサウンドがけたたましく鳴り響く。乱打されるような言葉とそこに入り込んでくる伸びやかなメロディがVaundyの歴史に新たな景色を描き出していくようなこの曲を起爆剤に、ライブは怒涛の後半戦に突入していった。

オーディエンスの声の力もいかんなく発揮された「恋風邪にのせて」と「Tokimeki」で会場をひとつにすると、ここでVaundyいわく「おもしろコンテンツ」の時間。何が始まるのかと思えば、ステージ上にダンサーが現れ、「GORILLA芝居」という名の新曲のパフォーマンスがスタートした。シンバルがジャキジャキと刻まれるリズムに合わせダンサーが踊り、Vaundyが歌う。ループするサウンドはヒップホップのようでもあり、Vaundyの響かせるハイトーンはダンサーとのコラボも含めてミュージカルのようでもある。この日のパフォーマンスは事前撮影されたスタジオパートと組み合わされてミュージックビデオとして生ライブ配信された。ライブでありMV収録でもあり、かつすべてが「生」で繰り広げられるという斬新な試みがどんなふうに成功したかは、ぜひMVを観て確かめてほしい。

前代未聞の挑戦に「どんな反応か楽しみだな」と言いつつ、ライブはいよいよクライマックスに向かっていく。「不可幸力」を経てアッパーなビートが会場を突き動かす「soramimi」へ。Vaundyはステージを下り、オーディエンスのすぐ近くまで行って煽り立てる。「昨日のほうが揺れてたな。決めろ、お前ら!」。そんなドSな言葉に、フロアを埋め尽くした人波がさらに大きく揺れる。それでも足りないとばかりに「今のはウォーミングアップ」と「泣き地蔵」を投下すれば、とんでもない興奮が会場を覆い尽くした。照明がセットされたトラスがメンバーのすぐ上まで下りてきて、まばゆい光がステージを包み込む。予想外の展開に歓声が上がる。そんな「泣き地蔵」を終えて「水飲め!」とフロアに言葉をかけるVaundyだが、その言葉も優しさというより「まだまだ攻める」という合図だ。「このまま行くぞ!」という叫びとともにギターリフが鳴り響く。「CHAINSAW BLOOD」だ。オーディエンス全員での〈CHAINSAW BLOOD〉の声がホールの壁や天井に反響する。オールスタンディングだからこその熱がこの日の最高潮を鮮やかに描き出した。

「今日は楽しかったよな?さすがに疲れたぜ。今日はありがとう、またどこかで会おう」。そう最後の挨拶をすると、もちろん歌われるのは「怪獣の花唄」。割れんばかりの手拍子と大合唱が美しい光景を描き出して大団円……ではなかった。「花唄」の熱狂も冷めやらぬなか、彼が歌い出したのは「strobo」に収録された名曲「僕は今日も」だった。初のワンマンツアーだった2021年の「KATARIBE」以来のパフォーマンスにフロアからどよめきが起きる。「HEADSHOT」――「プロフィール写真」と名付けられたこのライブに、まさに彼のアイデンティティを刻んだようなこの曲は何よりもふさわしいし、これをやらなければライブを閉じることができなかったのだろう。歌い終えてVaundyがステージを下りていくが、残されたマイクにはスポットライトが当たり続ける。それはまるでVaundyという人間がアーティストとしての自分と分離して自分自身に還っていくようで、とても印象的な幕切れだった。

(文:小川智宏)

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