(C)Animelo Summer Live 2023
今年のアニサマはヤバい。この3人の熱い語り合いを聞いて、あらためて確信した。アニサマ統括プロデューサーと総合演出・齋藤光二。「バンドリ!」が仕掛けるリアルバンド、MyGO!!!!!をプロデュースするブシロードミュージックの緒方航貴、そしてAve Mujicaをプロデュースする同じくブシロードミュージックの松本拓輝。日本のガールズバンド・コンテンツの新潮流になりつつある、アニメとシンクロしたリアルバンド・ムーヴメントをリードする二人と、アニサマが巨大フェスとして定着したにもかかわらず、そこにとどまらずに常に革命を志す齋藤Pとの対話が、面白くならないはずがない。話題は二つのバンドの成り立ちやコンセプトから、ガールズバンド・コンテンツの過去と未来、そして今年のアニサマの見どころまで縦横無尽に広がる。読もう、聴こう、見よう、そして行こう。今年のアニサマはヤバい。
■ブシロードコンテンツとの結託は“無い”!
齋藤光二:『Animelo Summer Live』の統括やっています、齋藤です。齋藤Pという俗称で知られている人です。
緒方航貴:ブシロードミュージックの緒方と申します。MyGO!!!!!の楽曲制作やライブの制作をはじめとしたバンドに関するプロデュース全般のほか、アニメの音楽制作等も担当させていただいております。
松本拓輝:ブシロードミュージックの松本です。Ave Mujicaのプロデュース全般をやらせていただいております。よろしくお願いします。
加東(SPICE編集部):まず緒方さんと松本さんに、アーティストにとってアニサマはどういう場所か? という質問から始めたいと思います。
緒方:アニメというシーンにも身を置いている以上、どうしても意識せざるを得ないものかなと思っています。フェスとして最大級で、アーティストとしての良さを出しつつ、他の出演者さんと一緒に相乗効果でもっと大きなムーヴメントを作っていけるような、それ自体が歴史になる場ですね。個人的な話ですが、学生時代に観客側で足を運んだこともあって、熱量を肌で感じていたので、その影響力は特別なものだなと思っています。ちょうど10年前の「-ONENESS-」の1日目、トップバッターがJAM Projectさんで、ステージだけでなく会場中から凄まじいエネルギーを感じて衝撃を受けた感覚を今でも覚えています。
松本:最近はコンセプトがある音楽フェスも多いですが、基本的にフェスは割とゴチャゴチャというか、お客さん同士で好きなアーティストが全く違うとか、このバンドだけ見ればいいやとか、そういうことも多いと思うんですね。でもアニサマはコンセプトがしっかりしていて、アニメという共通言語があるのが強いなと思っています。基本的に公演の最初から最後まで見てもらえますから。お客様からしても、名前しか知らないというアーティストもいると思いますが、新しい音楽に触れる・触れてもらうきっかけとしてすごくいい場所だなと感じていますね。
加東:逆に齋藤Pから、お二人が手掛けるMyGO!!!!!とAve Mujicaという二つのバンドについては、どんな印象を持っていますか。
MyGO!!!!!
Ave Mujica
齋藤:そうですね、まず「バンドリ!」が立ち上がったところからお話すると、最初にPoppin’Partyがアニサマに出た時は、まだそこまで大きい会場ではやっていなかった。でもいきなりさいたまスーパーアリーナということで、今でも覚えていますが、愛美さんに「3年後ぐらいの景色を見ているイメージでステージに立ってほしい」と伝えました。ギターも新品じゃなくてもあちこち剥がれているみたいな、それぐらいの感じでやってほしいと。
なぜかというと、対バンがFLOWなので、そこには喰らいついて欲しいから。大塚紗英さんにも「ギターをジャーン!と弾く時には、大きく振りかぶってからやると映えるよ」とか、キーボードの伊藤彩沙さんに「上半身だけじゃなくて、下半身も使って弾くといいよ」とか、そういうアドバイスをしたのを覚えています。
で、その次にポピパの対抗馬としてRoseliaが出て来て、ゴシックロックというスタイルを打ち出した。いいアイディアだなと思ったんですけど、聞くところによるとドラマーは初心者だというので、練習を見に行ったんですね。そしたらやっぱりアンサンブルはまだ成長途中で、「こういうふうにしたらどうか」というアドバイスをして帰ったんですが、その後、現在のTOKYO DOME CITY HALLでポピパと一緒にお披露目をしたのを見に行って、「これは来るな」と思ってRoseliaの(アニサマ)出演を決めた。こういう順番があったんです。
そしてその次にRAS(RAISE A SUILEN)が来たんですね。ナイトレンジャー(※1)みたいなベース&ボーカルで……とか言うと、彼らと僕との世代差がわかると思うんですが(笑)。ドラムもプロで、攻め攻めのガチロック。更に、Morfonica。そんなふうにいろんなタイプのバンドが出てくる中で、やっとMyGO!!!!!の話になりますけど、また新しいバンドが出ることはふんわり聞いていて。あれはどこでしたっけ? オープニングアクトで出たんですよね。
緒方:2022年のベルーナドーム(BanG Dream! Special☆LIVE Girls Band Party! 2020→2022/ブシロード15周年記念ライブin ベルーナドーム)ですね。
齋藤:顔もキャストも隠して、演奏だけ聴かせるみたいな感じでしたよね。
その時点では、面白いことを仕掛けてきたけど、「これ、刺さるのかな?」というのはまだ半信半疑だったんですよ。ベルーナドームも、遅れて着いたためほとんど見られなくて、あまり印象に残っていなかった。
で、ここからが本題なんですが、そういった展開があった上で、2023年の4月の4th LIVEで初めて顔出しをしたんですね。そして、アニサマ初出演が同じ年の8月。4月というとブッキングとしては遅いですけど、そこで最終決定しました。
アニサマでMyGO!!!!!を推すと言った時に、「ブシロードコンテンツと結託してゴリ推してるんじゃないか」と言われがちなんですけど(笑)。それは本当にないんです。ないですよね?
緒方:ないですね(笑)。オファーをいただくときは、純粋に実力やポテンシャルから判断いただいていると思います。よく枠がどうとか言われていますが、そんなものはないんですよね。
齋藤:完全に、音を聴いて「マジでかっけぇから出てください」いう流れの中の出来事なので。MyGO!!!!!を初めて見た時の感想は、「喰らった」という感じです。何に喰らったかと言うと、「無路矢」(読み:のろし)ですよ。「これはすごい!」と思いました。まずギターがかっこいい。ロックギターにはいろんなかっこよさがあるんですけど、出音がかっこいいのはギタリストで最高に大事なことだと思っているので。
緒方:4th LIVEの次の日にすぐメールをいただいたのを覚えています。すごく熱いメールを。
■MyGO!!!!!の難読タイトル誕生秘話
MyGO!!!!!
齋藤:「無路矢」という曲はね、たぶん世代で変わってくると思うんですけど、僕にとっては1970年代の日本のロック、たとえば金子マリ(※2)とか、フラワー・トラベリン・バンド(※3)の「SATORI」とか、もっと言うと60年代のアニマルズ(※4)の「朝日のあたる家」とか、レッド・ツェッペリン(※5)とか、ああいう神秘的な感じのロックを今の子がやっているの!? という驚きがあったんです。そして、「影色舞」(読み:シルエットダンス)というキャッチーチューンまで!まだアニメが放映されていなかったので、アニソンは1曲もやっていなかったんですよね。
緒方:確かにまだアニメはやっていなかったので、その時点では「アニメソング」ではなかったかもしれません。
齋藤:89秒(アニメのOPorEDの楽曲の長さ)で使うための曲というふうにも聴こえなかった。だから当時、X(旧Twitter)で「アニソンっぽくない」という褒め方をしたら、なんか叩かれちゃったんですけど、それはアニソンを否定しているわけではなくて。要するに、今まで脈々とやってきたアニソンにはリスペクトしつつも、新しいサウンドや空気感を作ろうと作家やアニソン界隈が必死になっていた中で、MyGO!!!!!は音で成功したと思ったんです。
加東:僕が最初にMyGO!!!!!を聴いた時の印象は、たぶんELLEGARDEN(※6)、04 Limited Sazabys(※7)とか、もっと言うとPIZZA OF DEATH(※8)のバンドとか、ああいうものを好きな人たちが作ったんだなと思いましたね。ギターの青木陽菜さん(要楽奈役)にインタビューさせてもらった時に、「ギター、すごくいいですね」と言って、リファレンスってあるんですか? みたいな話をしたら、the band apart(※9)の川崎亘一さんが好きで、リスペクトしていると言っていて、「そんな声優さんいるんだ!」と思ったんですけど(笑)。
齋藤:音楽はうねりなので、いろんなもののオマージュやリスペクトが重なって出てくるから。たぶん僕の言っていることも加東さんと合っているんですよ。それと、実は、ここに来る前にもう一回あの曲を聴いたんです、「春日影」(読み:はるひかげ)を。あれは3話と7話だと、全然違う曲に聴こえるんですね。語っていいですか?
緒方:制作の面でも、オケだけでなく羊宮さんのボーカルも録り直してます。語っていただけるとこちらも嬉しいです。
齋藤:3話では確実に明るみがあって、日の光が差し込んでくるような希望の曲に聴こえるんです。ストーリーもそんな感じでしたよね。でも7話の時は全然色が違っていて、フォークロックだなと思ったんですよ。雰囲気的にジョーン・バエズ(※10)、ママス&パパス(※11)とか。羊宮妃那さん(高松燈役)の声って、シネイド・オコナー(※12)みたいに微妙に震えているじゃないですか。憑依型の歌い方で、メロディをきれいに歌うというより詩人なんです。シネイドもジョーン・バエズも、男で言うとボブ・ディラン(※13)も詩人ですよね。僕にはそういう感じのオールド・フォークロックに聴こえて、特にDメロに行く前のギターのセブンスコードとか、あれは本当にやられましたね。ブリティッシュロックの、ビートルズ(※14)みたいなあの感じに。
そういう先祖帰りみたいなものは確かにあって、たとえばオーイシマサヨシさんが今アニソンでやっていることには、ルーツ・ミュージックをすごく感じるんですね。「なまらめんこいギャル」とか、ブルーノ・マーズ(※15)とか、アース・ウィンド&ファイヤー(※16)みたいなR&Bの源流ですよ。MyGO!!!!!も、そういう古典というものがあって、しっかりと音楽に足を置いた人たちが作っている音楽だなと感じました。「春日影」も、今年のアニサマのテーマソング「Stargazer」と同じ布陣(作詞:織田あすか(Elements Garden)/作曲・編曲:藤田淳平(Elements Garden))ですもんね。
緒方:そうですね。BanG Dream!シリーズではお馴染みのお二人です。
齋藤:いいメロディと歌詞だからこそ、アレンジしても生きるし、中国とかでも受けちゃう理由はすごくわかります。ユニバーサルな良さがあるから。あとバンド名の面白さとして、MyGO!!!!!=私たちは迷子である、ロストチャイルドであるという意味と、My GO=私の出番、という意味を掛けているところ。そこがすごく面白いと思っているんですが、でもね、曲名が読めない!
緒方:みなさまにご迷惑をおかけしています(笑)。
齋藤:「影色舞」をどうやって「シルエットダンス」と読むんじゃ! と。「迷星叫」(読み:まよいうた)なんて、絶対読めないですよ。でもそれが戦略としてはすごく効いていて、言ってみれば中二成分なんですよね。「いい曲だね、でもなんて読むんだろう?」って、調べるという行為をする、その時にはもう沼っているんですよ。めんどくさいんだけど、すごく面白いし、誰がこういうことを考えたのかな?と思いました。
緒方:具体的な漢字と読み方に関しては、大部分の曲を書いていただいている、作詞家の藤原優樹(SUPA LOVE)さんです。
齋藤:それは、発注者の意図なんですか。それとも、作詞家の設計ですか?
緒方:両方ありまして、最初にできたのが「迷星叫」なんですけど、当初のタイトル案ではひらがなも入っていたんです。でも、もう少しフックになる何かが欲しいということで、再校を出していただきました。その中に漢字だけのものがあって、プロジェクトでも話し合った結果、「最初はこれにしようか」と。その時はずっと漢字でいくところまでは決めていませんでしたが、「迷星叫」と書いて「まよいうた」と読む曲が生まれました。
齋藤:顔が見えないバンドで、タイトルの読み方もわからない。謎というものを大事にしているのかなと思いました。
緒方:そうですね。おっしゃっていただいた通り、見た人に「うん?」と思わせたいなというのはありました。そこから先に関しては、藤原さんも乗ってきたのか、一校目から漢字だけのタイトルが来るようになって。その流れが途中まで続いて、またひらがな混じりのタイトルが来る時もあったんですけど、「こうなったら全部漢字のスタイルでいこう!」と。
齋藤:この話、ファンの人は初めて知るんじゃないですか。面白いですね。
■プロデューサーによるAve Mujica、ヘドバン指導
Ave Mujica
加東:齋藤Pは、Ave Mujicaの音楽にはどんなことを思いますか。
齋藤:Ave Mujicaさんにも、良い意味での古さを感じます。それは何か?というと、あの「Ave Mujica」という表題曲、あれはハモンドの音ですよね?
松本:はい。オルガンですね。
齋藤:僕なんかはディープ・パープル(※17)、レインボー(※18)で育った人なので、様式美が素晴らしいなと思いましたね。「Stargazer」も、レインボー(と同じタイトル)の曲ですから。で、Ave Mujicaはギターがすごくヘヴィなのに、サビは歌謡曲っぽい。一つ味付けを間違えると、「コモエスタ赤坂」になっちゃう。♪ララララ~って(「Ave Mujica」のサビを歌う)、ロシア民謡や日本の昔の歌謡曲にあるような、物悲しい旋律がすごく懐かしいなと。でも演奏は7弦ギターと5弦ベースで、ゴリゴリ演っているギャップ!
加東:単刀直入に聞きますけど、Ave Mujicaって、リファレンスはどこからなんですか。
松本:タネ明かしになってしまうので直接の言及は避けさせていただきます(笑)。初期の楽曲についてはお察しの通りゴシック・メタルですね。基本的に海外アーティストをリファレンスにしつつ、日本らしい要素を入れていくパターンが多いです。
齋藤:RoseliaやMorfonicaにもエヴァネッセンス(※19)的なエッセンスは感じてましたが、「今回はそれを隠してこないな」という気がしました。
松本:それは、「メタルをやっている」という意識があるからだと思います。Ave Mujicaは「メタル×アニメ」であり、メタルを基調にアニソン要素を足す、という意識で楽曲制作をしています。
齋藤:Ave Mujicaの場合は、バンドが一つのカタマリになっていて、黒装束で、「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」ではヘドバン(ヘッドバンキング、リズムに合わせて、頭を激しく上下に振る動作)が入る。アニソンにもヘドバン曲はあるんですが、どっちかと言うと楽しい文脈でするみたいな感じがあると思うんですけど、Ave Mujicaのヘドバンはちょっと怖い。
松本:リハの時にヘドバンの指導をしました(笑)。アクションが大きく見えつつ、首を痛めないように。
齋藤:それもすごいし、佐々木李子さん(ドロリス/三角初華役)はボーカルでありつつ、リードギターでもありますよね。同時ってけっこう大変だと思うんですよ。しかも7弦でしょう。それを普通にやっているからすごいなと思います。
松本:彼女はすごい努力家です。彼女に限らず5人全員ですが。もちろん最初から簡単に演奏できるわけではなくて、リハでボロボロなところも見ています。でもみんなライブまでにはちゃんと仕上げてくるんですよ。本当にプロだなと思いますし、感謝しています。
加東:単純にAve Mujicaはメタル、しかもプログレ・メタルみたいなもので当てに行くのって、けっこう勇気が要ると思うんですね。
松本:僕も最初に話を聞いた時に、「マジでやらせるの?」と思いました(笑)。僕もメタルバンド出身なので、「楽器初心者の子にメタルをやらせるの? マジで?」みたいな。
齋藤:ブシロードって、ミュージシャン養成所みたいなところがありますよね。たとえばMyGO!!!!!のドラムの林鼓子さん(椎名立希役)は、Run.Girls Run!のメンバーとして、アニサマの外ステージに出ているんです。それがMyGO!!!!!として夢を叶えたんですよね。あと、立石凛さん(千早愛音役)、小日向美香さん(長崎そよ役)は、そんなにガチガチでミュージシャンをやってきたわけじゃないですよね?
緒方:ちょっとした経験はありつつも、ガチではなかったですね。
齋藤:青木陽菜さんの音楽的素養が高いというのは、コーラスですぐ分かったんですが。だからMyGO!!!!!には、最初からアンサンブルがあったと思うんですけど、Ave Mujicaでまず驚いたのは、7弦ギターを弾いている渡瀬結月さん(モーティス/若葉睦役)。彼女、リリリリ(Lyrical Lily)でアニサマに出ていたから、「え、あの子なの!?」って、そこはもう大ビックリですし、岡田夢以さん(ティモリス/八幡海鈴役)も、Merm4id(マーメイド)だったわけじゃないですか。『D4DJ』の二人がなんでAve Mujicaにいるんだ?という、ブシロードのスターシステムにも程があるぞと。
松本:そうですね(笑)。
齋藤:佐々木李子さんは、納得したんですよ。「アニー」(2009年上演の舞台)に出ていて、オペラちっくな歌唱力も存じ上げていたんで、そりゃ上手いよねというのはあったし、米澤茜さん(アモーリス/祐天寺にゃむ役)も、ずっとやっていた人でしょう。そこはわかるんですけど、渡瀬さんと岡田さんに多弦の竿を渡して「はい、やって」というのは、ちょっとそれは鬼畜だなと。
松本:僕も鬼畜だと思います(笑)。
齋藤:楽器経験のない人を、ここまで仕立て上げて、演奏もちゃんとしている。それがすごい。
松本:今まで培ってきた裏方のシステム、システマチックなところで、「いかに初心者を引き上げるか」というノウハウは、できあがっているかもしれません。でも、結局最後は本人達がしっかりやってきてくれる、という部分に尽きますね。
齋藤:高尾奏音さん(オブリビオニス/豊川祥子役)も、元々クラシック・ピアノをやっていたんですよね。アニサマに『IDOLY PRIDE』で出ていたギャップが(笑)。
■ガールズバンド・コンテンツ隆盛の今を語る
加東:齋藤Pは、その見方ができるじゃないですか。「この子はあの時あれをやった子だよな」という見方を、ずっとプロデューサーとして見ているからできるわけですけど、たぶんユーザーは、あんまりその目で見ていないと思うんですよ。アニサマに行くお客さんの8割から9割は、そのバンドやアーティストとして見ていると思います。
齋藤:今のガールズロックバンドに等しく共通しているのは、演奏と歌が一流でないとやっぱり無理だよね、ということ。昔は、声優アーティストがやっているからこうなんだろう、という先入観があったじゃないですか。
松本:中途半端が許されない時代になったなということはすごく感じていて、そうじゃないと刺さらないですよね。お客さんの耳もすごく肥えてきたし、エンタメをいくらでも選べる時代で、やっぱり本物を作らないと、土俵にすら上がれない。
加東:ガールズバンドが売れるラインとして、サイサイ(Silent Siren)とか、SCANDALみたいに、アイコンとして目を引くところから発見されるスタイル、もう1個がSHISHAMOとかチャットモンチーとか、フェスや対バンで発見されていくスタイルがあると思っていたんです。でもそこにアニメ・ガールズバンド・コンテンツという流れができたんじゃないかと。共通しているのは、「本物を作るとちゃんとピックアップしてもらえる」ということ。音楽を聴いてもかっこいいし、アニメを見ても面白いしって、最強じゃないですか。その流れで、アニメの話に主題を移すと、今のガールズバンド・コンテンツのきっかけというか、たぶんアニメでガールズバンドをきっちり描いたのは、『けいおん!』(アニメ第1期は2009年放送)あたりが最初だったと思うんですが。
齋藤:『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年放送)の「God knows…」のシーンはその前でしたっけ。
加東:前ですね。あれは文化祭で楽器やろうぜというお話で、いわゆる軽音部やガールズバンドみたいなところは、やっぱり『けいおん!』からの流れ、京アニからの流れはあると思います。先ほどからみなさんのお話を聞いていて、今と何が違うんだろう?とずっと思っていたんですけど、バンド内の確執や、技量差や、コンプレックスみたいなものを、最近はちゃんと描くようになったじゃないですか。
齋藤:そこをちゃんと描くのは、とても大事だと思っていて。花田十輝さんが脚本を手掛けた『響け!ユーフォニアム3』と『ガールズバンドクライ』も、両方ともそれをテーマにしていましたよね。MyGO!!!!!でも、立石凛さんが演じた愛音ちゃんとか、やっぱりコンプレックスがあるんですよ。「ちょっと力量が足りない」みたいな。バンド内のテクニカルな才能の歴然たる差というのは、一度感じてしまうとけっこう重たいものがありますよね。
松本:MyGO!!!!!は刺さるんですよ。バンドマン的にも、見ていて苦しかったです。
齋藤:僕もキーボードだったんですけど、鍵盤は楽譜が読めて音楽的な素養が多い人がなりがちですよね。そうすると、いろんなことを指示したがっちゃう。それで年下だったりすると、「生意気だ」となる。「俺たちはただ楽しく音を出したいんだ」みたいな、対立もあるわけです。
加東:それこそ『ガルクラ』(ガールズバンドクライ)で言うと、ルパだと思うんですけど、どのバンドにもちゃんとバランサーがいる。MyGO!!!!!で言うと、力量差はありつつ、やっぱり愛音ちゃんがバランサーになっているというか、緩衝材になっていると思うんですよね。
緒方:そうですね、あの中だと彼女にしか果たせない役割だと思います。
齋藤:あの子は、乗り越えてからが強かったよね。愛音ちゃんは強がっていたけど、留学して挫折の経験がある。僕もやっぱりある程度のレベルに行くと敵わないなという、似たようなことを経験したことがあるのですごく面白かった。「バンドリ!」の歴史で言うと、Poppin’Partyが最初に出た時には、愛美ちゃんの演じる底抜けに明るいギターボーカルが引っ張ってくというお話だったんですが、アニメでは、現実にあるようなバンドのリアルをあえて描きすぎないという選択をしたと思ってるんですね。
そこはメディアミックスで、いろんな形で補完していこうということだと思うんですけど、そんなポピパには生みの苦悩はあったと思うんです。でもそういった先駆者がいたからこそ、MyGO!!!!!はテーマを絞ったんだと思うんです。内気な主人公は自己表現としての歌と出会えたけど、本当に不器用すぎて、祥子はいきなりバンドを捨てていなくなっちゃうし、捨てられた長崎そよはブレちゃうし、普通のアニメでは扱わないようなストーリーだった。もしも「バンドリ!」の初めからこれをやっていたら、その次にRoseliaやRASを生めなかったんじゃないか?と思うし、今のMyGO!!!!!とAve Mujicaもなかったんじゃないか?とは思います。
■「アニサマにある勝ち負け」とは?
加東:そろそろ今年のアニサマのお話に移ろうと思うんですが。以前(2022年)、齋藤Pとグレート-O-カーン様(プロレスラー)の対談をうちでやらせてもらった時に、すごく印象的だったのが、「正直、アニサマには勝ち負けがありますよ」と齋藤Pがおっしゃってたことで。それはまさに僕らが感じていることで、ファンとして見て、「今日はあの子がすごかった」「注目していなかったけど、あいつヤバいな」というのが絶対毎回あって。
齋藤:それが、MyGO!!!!!でしたね。
緒方:そう思わせたら勝ち、ということなんですかね。
齋藤:そう。去年(2023年)だとMyGO!!!!!、あとMADKID、Rainy。とか、特にスペシャルステージでは、それが観られました。他にもいっぱいいたんですけど。
緒方:そういう意味で、去年スペシャルステージでやらせてもらったのは、すごく意義深かったなと思っていて。MyGO!!!!!がどういうバンドなのかを、お客さんにも理解してもらえたかなと思っています。
齋藤:林(鼓子)さんがドラムを叩いているところが間近で見られるとか、バンド的にはいいプレゼンテーションだったと思うんですよ。
緒方:ガチで演奏しているよというところを、アリーナの中のステージで、隠しようがないところから見せることができたので、そこは本当に良かったです。
MyGO!!!!! (C)Animelo Summer Live 2023
齋藤:去年の話をすると、僕は最初に緒方さんと「アニサマでは、ぶん殴るセットリストで行こう」という話をしていたんです。アニサマに初めて出る時は1曲、2曲枠とか言われがちなんだけど、結局メドレーで4曲やりましたね。
緒方:本当に大抜擢だったと思います。
齋藤:しかも離れ小島みたいにぽつねんとしたステージで。衣装もアニメの感じじゃなくて、ストリートな感じでした。
緒方:1st LIVEから使っていた衣装です。
齋藤:そして、アニメのオープニングテーマ「壱雫空」(ひとしずく)を歌う時にも、普通は映像を出すところで「出さないでおこう」と。アニメと完全に切り離そうと思っていたんです。ところがアニメの評価が上がってきて、そこで僕がちょっと日和ったというか、ブレて、緒方さんに「やっぱりアニメの映像を出したほうがいいかもしれない」ということを伝えたら、それまで普通にやり取りしていたんですけど、緒方さんがすごく熱いメールを返してきた。「話が違うじゃないですか」と。
緒方:いやいや(汗)。ちょっと、僕のほうから補足させていただくと、先ほどちらっとお話ししたように、4月の4th LIVEを見ていただいた後に、齋藤Pからすごく熱いメールをいただいたんです。それが実際にアニサマで演奏された「無路矢」から始まるセットリストで、ストリート然としたバンド感を見せて「アニサマに殴り込みをかけましょう」みたいな、逆に良いんですか?ってくらいの斬新な提案をいただいて。狙いも一貫性があって、「これなら勝てる!」と僕も思ったので、「ぜひお願いします!」いう話をしたんです。
そこでは「アニメの映像は出さずにいこう」という話だったんですけど、アニメが始まってから「やっぱりOPも他の曲もアニメーションのMV映像を入れたらどうか」というご提案をいただいて。僕は当初の、「演奏と楽曲の世界観で身一つの勝負をする」という齋藤Pのプランに心から納得していたので、純粋に「なんでだろう?」というか、「すみません、理由だけ教えてください」という感じのメールをお返しして。それがけっこう夜遅くだったんですけど、翌朝すぐにショートメールで「電話で話しましょう」というお返事が返ってきて、「うわーやっちまった、怒られるかな…」と。
齋藤:あははは。
緒方:「いつでもいけます」とお返事したら即電話がかかってきて、「ヤバい…」と思っていたら、なぜか開口一番に謝られてしまいまして。
齋藤:「日和ってしまった自分が恥ずかしい。申し訳ない」と。緒方さんに言われて、目が覚めたんです。自分の方が年上だけど、「躊躇せずに言ってくれたことをものすごく感謝します」とお伝えしました。
緒方:という言葉をいただいて、アニサマのプロデューサーともあろう方に謝られてしまって、ちょっと困惑しました(笑)。
齋藤:本当に嬉しかったんですよ。それがあったからこそ「絶対に俺たちはこれで行く」という覚悟ができた。後で聞いたんですけど、私が最初に「こういうのはどうでしょう」と提案した時に、メンバーたちも同じような方向性を考えていたんですよね。
緒方:そうですね。アニサマの2週間前にKT Zepp Yokohamaでやった5th LIVEが、アニメの放送中で、それも#9の直後というとんでもないタイミングだったので、「アニメがこういう状況なのにお客さんはどう思うかな?」という葛藤みたいなものがあったんです。ライブの方向性は一度決まっていたんですけど、いざアニメが始まると、齋藤Pと同じだったかもしれませんが、メンバーもちょっとざわざわし始めて。
齋藤:迷うことを迷わない(笑)
緒方:そうなんですよ。でもたくさん話し合った結果、最終的に、アニメはMyGO!!!!!の中においてはすごく重要な文脈だけど、ライブはライブとして今まで繋いできた世界があるから、シンクロはするけど「別物として考えよう」というところでメンバーもスタッフも全員が改めて同じマインドを持つことができて。結果的にそれはアニサマの方で齋藤Pから最初にいただいていたスタイルとも一致していて、本当に答え合わせできたって感じです。
齋藤:アーティストさんと僕は直接話すわけではないので、間に入っている人の熱量で全然変わってくるんですよね。緒方さんと最初に話した時には、たぶん僕に対してちょっと遠慮していたところもあったと思うんですが、あの「一緒に決めたのに、今になってそういうふうにする理由を説明してください」というメールを読んで、ちゃんと説明しなきゃいけないと思ったし、「いや、俺が間違っていた。ブレていた」と思ったんです。だから本番は晴ればれとした気持ちで、イメージした風景が見えましたよね。
MyGO!!!!! (C)Animelo Summer Live 2023
緒方:そうですね。当日のステージは私も本当に素晴らしいものだったと思います。なんですけど…あの時は生意気申し上げてしまって、すみませんでした。
齋藤:僕は全然、生意気だと思わないです。まさにバンドもそうで、年が離れていてもやっぱりうまい奴が絶対だし熱い奴が絶対だから、そういうコミュニケーションは普通にあっていいじゃないですか。「そのフレーズいいね」「ここをもっとこうしよう」という中で、一緒に作っていくものじゃないですか。クリエイティブの世界はそうであれと思っているし、ブシロードの現場はみんな優秀なんだなとすごく思いましたね。だからMyGO!!!!!は当たったんだなというふうに僕は思いました。
松本:勝ち負けの話で言うと、今年はAve Mujicaも勝ちたいと思っていますし、けっこう自信があります。メンバーも、殴り合いのつもりで行くので。
齋藤:それが言えるのはすごく嬉しい。
松本:フェスに出るって、やっぱり勝たないと意味ないんですよ。
齋藤:ミュージシャンはそうであるべきですよ。ジャムプロがアニサマを一回卒業して、また戻ってくる時に、福山芳樹さんがガチで「目に物を見せてやる」と。「対バンだから若い奴には負けない」と言ってくれた時は、やっぱりライブハウスの人だなと思って、すごく嬉しかったですね。
■「全部ぶっ壊す」気持ちで挑む
加東:その思想をAve Mujicaも持っているのが面白いです。そういうこと、言いそうにない雰囲気じゃないですか。
齋藤:僕がAve Mujicaに感じるのは、「私怨」なんですね。Ave Mujicaが、MyGO!!!!!のアニメの最後にバン!と来た時に、異質なキャラが来たなと。Poppin’PartyとRoseliaも、ちゃんと対抗になるように作ってあると思うんですけど、Ave Mujicaはそこに個人的な復讐があるのかなと。それはロックの世界にもわりとあって、ディープ・パープルを辞めたリッチー・ブラックモア(※20)がレインボーをやったり、デヴィッド・カヴァーデイル(※21)がホワイトスネイク(※22)を作ったり、あれって明らかに確執じゃないですか。メタリカ(※23)とメガデス(※24)もそう。だからAve Mujicaがヤバい感じでブチ上がったら、MyGO!!!!!もプレッシャーに感じてほしいし、同じ日に出演するトゲトゲ(トゲナシトゲアリ)とAve Mujicaも戦い方が全然違う。これもまた面白いなと思っています。
加東:それはアニサマだからこそできるというか、格闘技じゃないけれど、満員の観客の前で試合をするんだぜみたいな、そういう場所になっているのは、長年やってきたからこそのアニサマの面白さだと思います。最後にお二人から、「アニサマ」への意気込みと、その先へ向けての展望について、聞かせていただけますか。
松本:はい。「全部ぶっ壊す」というつもりです。
全員:おおっ!
松本:これはメンバーにもいつも言っていて(笑)、実際やれているなと思います。フェスは戦いだなと思っているので。楽しくやって手を振ってワーって終わる、そういう出方ももちろんありだとは思うんですけど、Ave Mujicaはそうじゃない。アニサマには本気の殴り合いをしに行きます。来年、2025年1月にはTVアニメの放送も控えているので、そこでも脳天をぶん殴られるような衝撃的な体験ができると思います。その先も、まだまだ色々と面白いことを仕込んでいるので、楽しみにお待ちいただけたらと思います。
Ave Mujica
緒方:MyGO!!!!!に関しては、去年の経験があるので、正直ハードルは上がっていると思います。でも去年見た人たちはもう一回衝撃を受けることができると思いますし、今年初めて見るという方は、何も構えずに来ていただいて、素のままで受けてほしいなと思います。ありのまま今のMyGO!!!!!として、ソリッドな感じで行くので、そのまま受け止めてほしいですね。2回目ですが、まだまだ挑戦者の気持ちで臨むつもりです。アニサマだから、という側面もありつつ、アニサマだからこそ飾りすぎたりはしないので、純粋に同じ熱になりにきてもらえればと思います。来年のTVアニメについてはAve Mujicaを軸に話が動いていきますが、もちろんMyGO!!!!!も変わらず登場しますので引き続き注目してほしいですね。そして先日MyGO!!!!! 6th LIVEで発表された来年4月のMyGO!!!!!とAve Mujicaによる合同ライブ、全てはここにつながっているといっても過言ではないので、ご期待いただければと思います。
MyGO!!!!!
加東:今のお話を受けて、齋藤Pはどうですか。
齋藤:今年のテーマは、去年の大トリを飾ってくれたオーイシマサヨシさんが言った「アニサマでしか見られない景色」という言葉を引き継いで、「Stargazer」(星を見つめる者)にしているんですが、今日お二人と話してみて、より鮮明なイメージが見えました。こうしてみんなと演出やセトリについて話して、「これで勝てる」と言う時には、やっぱりその景色が広がっているんですよ。その中で、去年MyGO!!!!!を見た人が今年はどう思うか、今年Ave Mujicaを初めて見た人がどういうカルチャーショックを受けるか。たぶん、違和感が残れば大成功ですよね。
松本:そうですね。気持ち悪くなってほしいです(笑)。
齋藤:いいですねぇ(笑)。それぞれの勝ち方を見せていただければ、大成功だと思います。
取材・文:宮本英夫