TETORA
TETORA武道館でワンマン
2024.08.12 日本武道館
まずは謝りたい。大阪スリーピースロックバンドを掲げるTETORAが2024年8月12日に日本武道館で開催した『TETORA武道館でワンマン』がソールドアウトしたと聞いて、ちょっと驚いてしまった認識不足を。
決してバンドとして見くびっていたわけではない。
そりゃサブスクやマスメディアにおける露出に頼らずにライブハウスやフェスのステージに立ち続けることで、上野羽有音(Vo, Gt)の言葉を借りるなら、中身を判断してもらうことを求める活動を続けてきたTETORAのようなバンドが、彼女たちがこだわるようにインディーズバンドのまま日本武道館をソールドアウトできたら快挙には違いない。しかし、果たしてそんなことができるのか!? それはTETORAのメンバー自身もちょっと思っていたらしい。
「インディーズで武道館に立つことを目標に、この日を組んだから。売り切れることを目標にしてなかったから、売り切れへん覚悟で、正直いてたんだけど、売り切れました。ほんまにありがとうございます!」
この日、前半戦が終わったタイミングで上野が言ったこの言葉を聞き、自分の認識不足を棚に上げ、“でしょう?”とちょっとほっとしたのだが、だからこそTETORAというバンドの実力を見事に見せつけた今回のソールドアウトは、より大きな意味を持つんじゃないかと思ったりもする。
前置きが長くてごめん。筆者はTETORAが武道館でワンマンライブをやることを、今年1月、TETORAと友人関係にある、とあるバンドのライブの最中に知った。「今まで武道館でやることに興味なかったけど、TETORAがやるなら、俺たちも武道館を目標にしてみようかな」というその時、彼らがMCで言った「TETORAがやるなら」という言葉は、今思えば、前述したようなこだわりを貫き通しながらでも武道館でできるなら!という意味だったのだろう。
「生意気にも、すごく生意気だとわかってるけど、メジャーとか(からのオファーを)断らせてもらってまでインディーズで武道館に立ちたかった。今日、観に来てくれた友達のバンドも後輩のバンドも武道館に立ちたいという気持ちが加速しちゃいますように」とこの日、上野は言ったが、今回の武道館ソールドアウトは、前掲のとあるバンドも含め、多くの仲間のバンドにとってはもちろん、TETORAのファンにとっても、今後、生きる上での希望、勇気、指針となるんじゃないか。
なんて言ったら、ちょっと大袈裟かもしれないけれど、実際、そんなところも大きな見どころだった武道館公演は、入場の際、観客全員に配られたLEDリストバンドが作り出した光の海の中、敢えて作った静寂を破るように「わざわざ」でスタートした。
「武道館でワンマン。TETORA始めます!」と上野が声を上げると、バックドロップにバンドロゴが映し出され、今度は観客が歓喜の声を上げる。
そこから「7月」「8月」「9月」と6月19日にリリースした4thアルバム『13ヶ月』からの3曲をノンストップで繋げ、いきなり観客の度肝を抜きながら、気持ちを鷲掴みにしていったところで、「今日はありのままの20代の3人の人間の姿をしっかり見ていってほしいと思います。恥ずかしくもなるし、悔しくもなるし、妬んだりもするし、うれしくもなるし、幸せにも不幸にもなるし、そんなありのままのTETORAを見ていってほしいです! いつも通りライブハウスでやってるライブみたいな感じで行くから」と上野は宣言。そこからアンコールまでの2時間30分、ステージの3人は所々にMCを挟む以外は、ほとんど曲間を空けずに全33曲を披露していった。いわゆる同期音源はもちろん、前述したLEDリストバンドが光る以外、特効を使ったアリーナならではの演出に一切頼らない3人の演奏は、まさにいつも通り。その潔さが全身全霊で武道館に挑むバンドの姿を際立たせる。
「ここに来たことを絶対に後悔させない!」と上野が言った序盤の段階で、3人の演奏は観客はもちろんのこと、武道館という会場さえも圧倒していたように感じられた。
楽曲そのものはフォーキーな魅力も内包しながら、パンクロックあるいはグランジロックなんて言えそうなサウンドを鳴らすTETORAのアンサンブルは極めてタイトであるにもかかわらず、なぜ、こんなにもダイナミックに響くのか。歪ませた音色でコードをかき鳴らす上野のギターをはじめ、3人の出音のでかさなど、その理由は幾つかあると思うのだが、単刀直入に言えば、それがTETORAの底力なのだろう。
アップテンポのロックナンバーでも、バラードでも、声を振り絞るように歌いながら、慟哭しているようにも見えるほど、感情を剥き出しにする上野に、ともすれば注目してしまいがちだが、ことダイナミックな演奏という意味では、指弾きでグルーブを作るいのり(Ba, Cho)、たたみかけるようにフィルを加え、演奏の熱度を上げるミユキ(Dr)の貢献も見逃すことはできない。ロックナンバーとバラードを、セットリストの中で行き来しながら、8ビートを軸にしたリズムアプローチに変化をつけた「憧れ」のシャッフル、「バカ」のスウィンギーなビートも心憎い聴きどころだ。
「後半戦もっと! もっと!」と上野が声を上げたその後半戦は、前半戦同様、ほとんど曲間を空けずに曲を繋げていきながら、アジテーションを思わせる歌と爆裂したサウンドに頭をぶん殴られた「6月」をはじめ、3人の演奏はロックバンドの矜持を見せつけるようにどんどん凄みを帯びていき、同時に歌いながら、いろいろな感情が溢れ出てくるのか、観客に訴えかける上野の言葉数も増えていく。
「かっこいいものをロックバンドって言うんだ。だから、TETORAはロックバンドをやりに来ました!」
「TETORAは負けたくない。いつだってそう。勝ちたい。音楽に勝ち負けはない……けど、勝たせてほしいと思っちゃう。勝ち負けを気にしないワンマンでもかっこいいところを見せたい。でも、それが武道館に立つ理由じゃない。ここに立つ理由は、これからもかっこよくなるため!」
「目を離すな。今のうち見とくバンドがTETORAであるように!」
そんなところもまた、ありのままのTETORAの姿なのだろう。
そして、「“今見とかないと”ってわかってくれるみんなのことを思いっきり守るから!」と繋げた「素直」では、「歌って!」という上野に応え、観客のシンガロングが武道館に響きわたった。
そして、その手応えを上野が言葉にする。
「いろいろな職業があったし、いろいろな歌い方があったし、いろいろな選択肢があったけど、これでよかったと思う。本気でこれがよかったんだと改めて思った。誰かに否定されても壊れへんような歌をこれからも歌い続けます」
そこからさらに「覚悟のありか」「レイリー」「Loser for the future」とバラード~スローナンバーの3曲を轟音の演奏で繋げ、ダメ押しするように観客の目と耳を釘付けにする。そして、本編最後を飾ったのは、やはりバラードの「2月」。演奏しながら、自然とミユキを中心に向かい合った3人は、特大の達成感を分かち合っていたのかもしれない。さっき「誰かに否定されても」と上野が言ったのは、これまで否定されたことがあったからだ。それでもTETORAは挫けずにバンドを続け、ついにこの日を迎えた。達成感の前に特大と加えたのは、この日、上野の言葉から筆者は、これまでのTETORAの臥薪嘗胆の歩みを想像できたからだ。
「何も決まってないけど、もしもいつか、また武道館でライブやるってなった時は、こんなにもヤバかった日を越えようと思って、このステージに立つと思う。そういう日が来るまでこれからもライブハウスでかっこよくなって、また武道館に帰ってきます」という上野による新たな宣言もまた、今回の武道館公演の成果と言えそうだが、「ワンダーランド」と「もう立派な大人」をアンコールで演奏する際、上野が言った言葉がいかにもTETORAらしくて、振るっていた。
「これがツアー初日なんで、いろいろなライブハウスで待ってるから好きに来てください。こういう時によく重大発表あるけど、うちらはただ続けていくだけ。だから、TETORAの重大発表は、インディーズでTETORAやっていきます! これからもよろしくお願いします」
「もう立派な大人」を、上野は「人生で初めて作った曲」と紹介したが、その時は、まさか武道館のステージに立つ日が来るなんて想像もしていなかっただろう。そう考えると、シンプルなパンクロック・ナンバーは、がぜん味わい深いものになる。
上野も言ったように、この武道館公演を皮切りに『13ヶ月』のリリースツアーである『経験が盲点にならないようにツアー』が始まるのだが、武道館公演がツアーファイナルではなくて、初日というところにもTETORAらしい向こう意気が感じられる。ぜひ、この日、上野が最後に言った「最新版で本物のTETORA」を、その目で確かめにツアーに足を運んでいただきたい。
取材・文=山口智男 撮影=西槇太一
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