赤飯 11年ぶりのソロ名義、ニコニコ動画から始まった活動の軌跡と未来を示したワンマンライブで40代の青春の幕開けを宣言

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SEKITAN2024-赤飯 生誕 単独公演-
2024.08.13(tue)HOLIDAY SHINJUKU

HOLIDAY SHINJUKUで8月13日に開催された『SEKITAN2024-赤飯 生誕 単独公演-』。無期限活動休止期間に入ったオメでたい頭でなによりのボーカリスト、マキシマム ザ ホルモン2号店・コロナナモレモモでも活躍した赤飯による約11年ぶりのソロ名義でのワンマンライブは、ニコニコ動画への投稿から始まった彼の音楽活動の軌跡を辿りつつ、未来像も示していた。この公演の模様をレポートする。

ステージを覆っていた幕が勢いよく開いてライブがスタート。眩しいライトで照らされた空間の真ん中に両腕を掲げた赤飯が立っていた。ギターのディストーションに負けないくらい歪んだ歌声が早くも冴え渡っていた「理想郷へおいでませ」から「人間の蕾」へと突入するとクラウドサーフがフロアからステージへと次々押し寄せ、その次の「見習いハーデス」は観客による無我夢中のクラップの嵐。懐かしい曲の連続によってノスタルジックなムードになるのかと思いきや、フレッシュで猛烈に熱いオープニングだった。

「もう終わりでええんちゃうくらいヤバいな(笑)。今日はわしの音楽活動の頭からここまで。そして未来に繋いでいく……みたいなライブをしたいとみんなと話してたんです」と、最初のMCタイムで主旨を説明した赤飯は、バンドメンバーを紹介。EXIT TUNES ACADEMY、通称ETAの第1回イベントからバンマスを務めていた横浜利憲(G)。赤飯ロマン横丁、通称“せきろま”のメンバーだったBOH(B)。BOHの紹介で出会い、今回のライブで初めて叩いてもらうことになった原澤秀樹(Dr)。昨年から付き合いが始まり、毎月行っている配信ライブ『歌声スナック 赤まんま』でも弾いている沖野まさし(Key)――様々な時期に出会ったメンバーとの共演を喜んだ赤飯は、「ここには400人以上のヤバいやつらが集まってます。最初に言わせてくれ。めっちゃありがとう!」と観客に感謝を伝えた。

「ニコニコ動画で最初にバズり散らかした曲をやろうかなと思ってます。ご本家だとサイリウムを振る感じになると思うんですけど、大空に飛び立つような曲なので、ご本家が作らんような光景を作ってくれたらおもろいなと思って歌います」という言葉と共にスタートし、観客の大合唱が起こる中でクラウドサーフが宙を舞ったJAM Project のカバー「GONG」。雄大に高鳴るメロディを歌いながら全身に汗を滲ませる赤飯が一等星のように輝いていた。ニコニコ動画でミリオン再生の記録を樹立した名曲の3連発、赤飯が投稿したカバーも大反響を呼んだ「Mrs. Pumpkinの滑稽な夢」「古書屋敷殺人事件」「イドラのサーカス」は、既に途轍もなく盛り上がっていたフロアの興奮状態をレッドゾーンまで加速。イントロが奏でられる度に爆発的な歓喜の声が上がっていた。

「12年前に『SEKIHAN the TREASURE』というアルバムを出しました。その当時、“かっこいい曲だけど歌詞がおかしい”みたいなデッドボールPというやつがおりまして、そいつに“おい赤飯。お前の性癖はなんだ?”と問われました。“パンチラが好きだ”と答えました。そうしたらこんな曲ができちゃいました」――制作エピソードの紹介を経て歌い始めた「パンチドランカー」は、アブノーマルなひと時となった。狂おしく、切実に、時には悩まし気に歌って吐露する性癖が、観客に感染してしまったのかもしれない……。フロア内で果てしなく高まり続けた《パンチラ パンチラ パンチラは素晴らしい》という大合唱。熱唱のあまり途中で力尽きて倒れた赤飯であったが、声援を浴びてフェニックスのように復活。映画『ショーシャンクの空に』を彷彿とさせるポーズをしながらパンチラに対する情熱を再びメラメラと燃え盛らせる復活劇が、不思議と感動的だった。

「ニコニコ動画で活動しているとボーカロイドの曲のカバーは避けて通れません。だけどわしは、こっちが歌いたかった。『ニコニコ町会議』でこの曲をカラオケ音源で披露して、さんざん物議を醸しました」というエピソードに触れつつ歌い始めたマキシマム ザ ホルモンのカバー「ぶっ生き返す」。マキシマム ザ ホルモン2号店・コロナナモレモモでも異彩を放っていたこの曲は、やはり強烈だった。ダイスケはんの“キャーキャーうるさい方”、ナヲの“女声” 、マキシマムザ亮君のクリーンの歌パートを1人で完璧に歌いこなす様は超常現象に等しい。続いて披露された大塚愛のカバー「さくらんぼ」では、ラブリーな歌声とデスボイスの併せ技によってアグレッシブなモッシュサークルがフロア内に発生。キュートなブリブリ女性アイドルボイスが響き渡る中、観客がカラフルなサイリウムを掲げた「おにゃのこきねんび」では、凄まじいウォールオブデスが起こっていた。こんなにも幅広い要素が高密度で融合した風景は、他のライブの現場ではなかなか見られないだろう。

「今日のイベントのタイトルはなんや? 『SEKITAN(せきたん)』や。石炭になって火力をぶち上げてどんどん火力を上げていくんや! そんでもって炊き上がるのが俺っていうわけ。炊き上がる準備は、できてるか?」――煽りの言葉を合図に雪崩れ込んだ「ジャンクヒンズダンサー」を皮切りに、フロアはますますの熱気で包まれた。モッシュの嵐が吹き荒れた「ぬりかべ」。クラウドサーフが集中砲火のようにステージに襲いかかった「食事」。そして「骸Attack!!」は、壮絶だった。「俺の代名詞じゃ!」と叫んでから歌い始めた直後、フロア内の気温が上昇するのを肌で感じた。目玉をひん剥きながら歌い終えた直後の赤飯は、「楽しすぎるやろ! お前らが“一緒に騒ぎたい”と思って来てくれるから、この光景が作れてる。最高の41歳のバースデー、ありがとう!」と言い、興奮冷めやらぬ様子だった。

本編ラストの曲を歌い始める前に想いを語った赤飯。「12年前に『SEKIHAN the TREASURE』というアルバムを出したという話をしました。丁度その時期に中学、高校の同窓会があって、昔の仲間に会った時の気持ちがすごく……上手く言語化できないけど “この先もまだ生きていけるな”と思わせてくれて。そんな話をボカロPのKEIくんに話したら曲を作ってくれました。人生は何が起こるか全然わからない。オメでたが活休になるなんて知らんかったし(笑)。でも、終わりだなんて1回も思ったことないね。いろんな点と点があって、それが線になって、それがぶっとい何かの塊になるかもしれん。そんな瞬間を夢見て40代の青春を走りだそうとしています」という言葉が添えられた「plot」は、今の彼の心情とまさしくシンクロするものがあったのだと思う。歌い続けながら様々な人と出会い、喜びの輪を広げていくことへの情熱を真っ直ぐに伝えてくれた。

本編が終了してからステージを後にした赤飯とバンドメンバーにアンコールを求めた声は、《パンチラ パンチラ パンチラは素晴らしい》という聖歌のような大合唱。清らかな歌声に応えて再開された演奏は、シックなジャズテイストだった。ジャケットに着替えた赤飯もジェントリーでスタイリッシュな雰囲気を漂わせていたので、大人っぽい空間が作り上げられるのかと思いきや……彼は手にした刷毛で顔の左側を黒く塗って観客を驚かせた。「NEW赤飯の誕生の瞬間にようこそいらっしゃいました! 俺はこれからも変えたくないものは変えたくない。でも、新しく始めたいこともある」――意表を突くパフォーマンスを経て披露された新曲「無双華(仮)」。ジャズと爆音の重低音が絡み合うサウンドに刺激されてフロア内でウォールオブデスが発生し、サークルモッシュのスピードがグングンと上昇した。続いて披露された「垂乳根マチネ(仮)」もジャズの要素を含む新曲。メロウなメロディと爆音の間をダイナミックに行き来する展開が斬新だった。「今日、ここで観たこと、試食だと思ってる。美味しかったら、またぜひ遊びにいらっしゃい。変えたくないもの、新しく始めたいこと、全部置いていく。ソロ時代にできなかったこと、オメでたでできなかったこと、ここで今一度作り上げる! お前らと新しく作るNEW 赤飯の世界。一緒に炊き上がろうぜ!」という言葉と共にクライマックスに突入すると、一体となった観客のヘッドバンギングがフロアを激しく震わせた。

新たな作風を示す2曲の初披露で幕を閉じた『SEKITAN2024-赤飯 生誕 単独公演-』。2007年12月23日に「もってけ!セーラーふく」をニコニコ動画に投稿したところからスタートした赤飯の音楽人生が、約17年間を経た今も進化の過程であることを強烈に実感した。モンスター級の歌唱力でニコニコ動画の視聴者の度胆を抜いて一躍脚光を浴びた彼の歌声がパワーアップし続けているのに驚かされる。彼はこの先、どのような境地に辿り着くのか? ふざけたアブノーマルな作風も熟成しつつ唯一無二の歌声で人々の心を打つ日々には、たくさんの可能性が広がっていることを示したライブだった。

取材・文=田中大 撮影=新倉映見(えみだむ)

 

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