the GazettE 何があろうと変わることのないバンドの想いを提示、『HETERODOXY Vol.3-IMMORTAL CREED-』レポート

アーティスト

SPICE

the GazettE

the GazettE

the GazettE LIVE2024 HERESY LIMITED 【HETERODOXY Vol.3-IMMORTAL CREED-】
2024.9.12 豊洲PIT

the GazettEのライブでボーカルのRUKIが必ず告げる「まずは、この時間を共有してくれて感謝」という言葉。それが単なるお題目ではなく、彼の心からの言葉であり、この世界の真実なのだと思い知らされた2時間だった。フロアを埋め尽くす数千人がthe GazettEと同じ空間・時間を共有することを選択し、メンバーと直に顔を見合わせて熱い一体感を作り上げる。そんな、彼らのライブとしては“当たり前”に思える光景が、どれだけ奇跡的でかけがえのないものであるのか? それを確認できたこの日の夜は、これから先のthe GazettEの歩みにとって、あまりにも大きな“証跡”になるだろう。

今年4月にベースのREITAが逝去し、5月27日の追悼公演『HERESY LIMITED 「SIX GUN’S」』を経て初のライブは、彼らのファンクラブ限定ライブ『HETERODOXY』のVol.3として行われた。ライブに先立ちボーカルのRUKIは、セットリストは約2年前に発表した同名タイトルの3枚組ベスト盤(the GazettE 20TH ANNIVERSARY BEST ALBUM HETERODOXY-DIVIDED 3 CONCEPTS-)から満遍なく選曲されること。そしてサブタイトルの「IMMORTAL CREED」には“不滅の信条”という意味合いが込められていることを公言。つまりは、これまでのthe GazettEの道のりを確かめつつ、何があろうと変わることのないバンドの想いを提示していくことこそが、彼らが定めた本公演の目的だったのだと、2時間のステージを観終えて確信することができた。

RUKI(Vo)

RUKI(Vo)

開演時刻になりSEの「HETERODOXY」が流れ、ゆっくりとせり上がったのは彼らのファンクラブである『HERESY』のロゴが描かれた5つのフラッグ。5つの魂をステージに結集し、流麗な女性コーラスで始まる「Filth in the beauty」のイントロが鳴ると、予想外のオープニング曲にオーディエンスからは歓声が湧き上がった。2006年のリリース当時、ヘヴィロックとR&Bの融合という斬新な手法で話題を呼んだシングル曲でフロアは大きく揺れ、RUKIの指示に従って跳び、頭を振りたくる。その光景に拍手を贈ったRUKIは、そのまま拍手をクラップに変えて「VENOMOUS SPIDER’S WEB」へ。硬く歪む弦楽器音にタイトル通りレーザー光線が豊洲PITの場内に蜘蛛の巣を張り巡らせると、麗(Gt)と葵(Gt)はギターで掛け合い、爽快に弾ける戒(Dr)のビートと共にthe GazettEのヘヴィネスで場を圧倒する。「東京!お前らのカッコいい姿見せてくれ!」と始まった「VORTEX」では、早くも麗がセンターのお立ち台に立ち、RUKIもステージを右へ左へと激しく動いて、客席のクラップとヘッドバンギングを煽動。サビのパワーコーラスにはREITA(Ba)の声もハッキリ聞こえ、フロアの熱狂は高まるばかりだ。いつになく早い着火は、今、彼らが“ライブ”という場を心から欲していたからであることを、続くRUKIのMCが窺わせる。

「素直な気持ち述べていい? 会えて嬉しいです。ホントにライブって場所は、どんな気持ちでも、どんな思いでも吐き出していい場所だから、自由にやっちゃってください。どんな顔でもいいんで、見せてください。心配しなくてもいいです。引っ張ってくんで」

続く、タテノリの「GABRIEL ON THE GALLOWS」にヨコノリの「FADELESS」と、文句なしのラウドロックにキャッチーな歌メロを組み合わせたナンバーでは、“羽”を失っての“堕天”という退廃的な世界観を描出。後者ではアウトロのリズム隊ソロでベースの位置にスポットが当たり、湧き上がる“REITA!”の声が彼の存在を其処に確かに刻んでいく。

麗(Gt)

麗(Gt)

艶のあるボーカルと千切れそうなシャウトを放つRUKIが、水面を思わせる青の照明とスモークを浴び、おぼつかない足取りで孤独を綴る「DRIPPING INSANITY」からは静かなる哀しみの世界へ。すべてを吹き払うほどアタックの強いドラムに想いを感じる「QUIET」では、《今は、さよなら》と告げながらも《隣を空ける癖も》の先を歌わないRUKIに胸が詰まる。切ないギターの残響音が消え切るのを待ってから場内に拍手が湧き、太鼓のように重厚な戒のドラミングでRUKIのシルエットが影絵のように蠢いて、葵が狂おしく鳴らしていったのは「GODDESS」のイントロフレーズ。病んだ心を歌って真っ赤なライトのなかで締めくくれば、RUKIが《試しているのか?》の文言を繰り返して「BABYLON’S TABOO」の幕が開く。赤いライトが飴細工のようにホール内を走り、呪文のごとき《ADE DUE DAMBALLA》というRUKIの囁きと共に儀式めいた不穏な黒い空気を醸す、重厚でテクニカルかつトリッキーなプレイも見どころ十分だ。どんなにアグレッシブな楽曲で暴風を吹かせても、必ず挿し込まれるディープな楽曲群は、the GazettEの奥深い世界観の根幹を為すものでもある。

「やっぱりさ、ライブっていいよ。ここに立ってて思うんだけど、どんな感情も吐き出せる場所だと思います。だから、みんなもね、悔いのないように全部、全部、吐き出して、ここからついてきてください」(RUKI)

“全部”というワードに力を込め、以降はフィジカルなパワーでその場にいるすべての人間の感情を押し出していく。「頭、頭、頭!」とヘッドバンギングを煽る「TWO OF A KIND」では、軽快かつ重厚な音の塊のもとオーディエンスも力の限り暴れ狂いつつも、《同じ痛みを知る》《傷を分け合う度》といったリリックに身体のみならず心まで震撼。レーザー光線が飛び交う下、サビのパワーコーラスで高く跳ね上がるフロアの景色に胸が躍る「VERMIN」では、スピーカーから流れるREITAのゴリゴリのベースフレーズに、うねる麗のギターが寄り添っていく。イントロが鳴るなり《until die!》の大合唱とクラップが爆裂した「ATTITUDE」では、RUKIは「もっともっと腹から声出していけよ! 届かせろ!」と号令をかけ、ギター隊は瞬く間にポジションをチェンジして客席を熱狂の渦へ。さらに「いいね東京! まだまだやれるか!? もっともっと行けるよな? 溜まってたのはそんなもんじゃねぇよな! かかってこい!」と「ABHOR GOD」でバチバチの重低音を轟かせ、ヘッドバンギングの嵐を呼ぶ。場内のクラップを受けて並び立ち、リフをかき鳴らす麗と葵が視覚でも観る者を高揚させ、ラストは戒の猛烈なブラストビートとRUKIのデスボイスが狂乱のひと時を痛快に締めくくった。

葵(Gt)

葵(Gt)

そして「ラスト行けるか? ラスト!」とRUKIが絞り出して戒がバスドラを四つ打ちすれば、オーディエンスは即座にクラップとコールを繰り出し、以心伝心で「TOMORROW NEVER DIES」へと突入する。「お前らのために歌うぜ!」の声に拳が振り上がり、フロント陣もステージ上を自由に活き活きと駆けて音を奏でる喜びをあふれさせながら、大サビ前のブレイクで歓声が湧き上がると、RUKIは天を見上げながら何度も「聞こえるか!?」と繰り返した。その言葉に客席の声がどんどん高まっていったのは言うまでもなく、曲終わりにRUKIは思いの丈をぶつけるように咆哮をあげた。姿は見えずとも彼の音と、想いと、魂は確かに此処に在る。何故ならばthe GazettEの楽曲と、この場にいる全員の心にREITAの存在と思い出が焼きついているからだ。

「まずはね、この時間を共有してくれて感謝。みんなね、いろんな仕事だったり日常がある中で、今日という日に自分たちのライブに来るっていうことを選んでくれて、本当にありがとうございます。本当、素直にね、めちゃくちゃ嬉しいから。どんな表情でも、みんなの顔をしっかりよく見せてください。約束した日にね、こうやってまた会えることって、本当に幸せなことだなって思います。時間ってものはさ、どうしても人間平等に過ぎていくものだけど、その1秒1秒のすべてを今日ね、忘れられない最高な時間に、俺らとお前らで作っていきましょう」

戒(Dr)

戒(Dr)

アンコールに応えて再登場し、いつもの台詞から感謝と、ライブで集えることの幸せを述べたRUKIに拍手が贈られる。続いて「思い出ってものはさ、こう……一生消えない宝物だから」と心に響く言葉を告げ、インディーズ時代から愛されている「貴女ノ為ノ此ノ命。」を、痛切な愛を込めてメロディックに歌いだした。さらに「聞かせろ!」の声に大合唱が湧き上がり、同じく初期曲「赤いワンピース」ではクラップと拳とヘドバンも誘って、一斉に振りを繰り出していくフロアの景色は壮観と言うほかない。「もっともっと暴れて帰ってくれよ! やれるか!」と「INCUBUS」を投下して重低音の中で拳の海を作り、会場を揺らしまくって「また叫ぼうな」となだれ込んだ「Hyena」では、曲頭からREITAのシャウトが場内に響き渡る。その声も続くベースラインもリアルタイムのものではないにもかかわらず、今、この瞬間に放たれるドラムとツインギター、ボーカル、オーディエンスの大合唱と重なり合って生まれる凄まじいライブ感に、人智を超えた不思議な力を感じざるを得なかった。そして「ラスト!」とRUKIが合図した「UNFINISHED」は、未だ終わりも完成形も迎えていないthe GazettEが今後も続いていくことを明確に宣言するもの。葵は麗に肩を寄せて音を重ね合わせ、RUKIはフロアから上がる拳を引く仕草で《君の手を引いて》という歌詞を視覚化する。それに応えて客席はあらん限りの声を上げ、熱い感慨のうちに忘れられないステージはフィナーレへとたどり着いた。

「最高で忘れられない1日を、みんなのおかげで作ることができました。ありがとう。そしてthe GazettEは来年、みんながついてきてくれたおかげで23年目を迎えます。ここでサプライズとして、次に会える約束を用意してきました。またこうやってね、待ってるんで。みんなの大切な時間を、また俺らと一緒に過ごしてください。今日は本当に最高の1日をくれて、支えてくれてありがとうございました。これからもthe GazettEをよろしくお願いします。また会いましょう。愛してます」

拍手に満ちるフロアを見渡し、RUKIは胸の内を真っさらな素の言葉で真っ直ぐに伝え、ステージを去り際に戒はベースアンプを抱きしめた。会場の出口で配布されたフライヤーには、来年1~3月に東名阪をめぐるツアー『the GazettE LIVE 2025 23rd ANNIVERSARY TOUR 証跡』の告知が。1月16日の名古屋・DIAMOND HALLを皮切りに、2月6日に大阪・なんばHatch、そして結成23周年の記念日となる3月10日に東京ガーデンシアターという3公演だ。“後々の証拠となるような痕跡”という意味を持つツアータイトルに滲むのは、これからも続いていくthe GazettEの道のりの中で、確かな証を残したいという切実な彼らの願い。その道に付き従って、どんな“証跡”を共に残していくかは、彼らを愛するオーディエンス次第でもあるのだ。

取材・文=清水素子
撮影=Keiko Tanabe、Kyoka Uemizo

関連タグ

関連タグはありません