Sou
Sou LIVE TOUR 2024「センス・オブ・ワンダー」
2024.9.22 パシフィコ横浜 国立大ホール
蒼き宇宙で輝きを放つ星たちのように。Souによって紡がれていく歌の数々は、今宵あれもこれも実にまばゆいきらめきをたたえていた。
4thアルバム『センス・オブ・ワンダー』の発表を受け、8月より大阪・愛知・福岡・上海・広州をまわったリリースツアー『Sou LIVE TOUR 2024「センス・オブ・ワンダー」』がいよいよファイナルを迎えたこの夜、その舞台として選ばれたのはSouにとって最大キャパとなるパシフィコ横浜 国立大ホールだった。いわゆるライブハウスとは異なる大空間を活かしながらの公演はスケール感を重視したものとなっていた印象で、最新アルバムを軸としながらの選曲や、映像演出およびライティングなども含めて、終始コンセプチュアルな形で構成されていた。
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まず幕開けを飾ったのは、4thアルバム『センス・オブ・ワンダー』の通常盤にボーナストラックとして収録されていた「プラネテス」。これは主に宇宙をテーマにした楽曲づくりで話題を集めているボカロP・seizaの曲となり、Souはこのロマンティックでいて切なさも漂う世界を伸びやかに歌いあげてみせたのだ。
次いで歌われたのはSou自身がフレデリックの三原康司に「宇宙をモチーフとした楽曲を作って欲しい」と依頼して生まれたという「COSMIC BEAT」。三原の公式コメントによると「ライブでも楽しめるよう一緒に歌える部分や手拍子など一体感が生まれる要素も入っています」とのことで、この曲中ではオーディエンスがリズムに合わせて拳をあげたり、クラップしたり、はたまたSouからの「僕と歌って!」という呼びかけに応えてシンガロングする光景が生まれることに。ライブだからこその一体感をSouと集った人々が共有している光景は、とにかく尊いの一言に尽きた。
Sou
「こんばんは、Souです。みなさん今日はよろしくお願いします! 『Sou LIVE TOUR 2024「センス・オブ・ワンダー」』のファイナルということで、前回のライブからは1ヶ月くらいが経っているんですけど、あの時の熱量を思いだしながら今日をまた最高の1日にしていきましょう!」(Sou)
このMC明けに奏でられたのは、アルバム『センス・オブ・ワンダー』の冒頭を飾っていたリリカルなロックチューン「KOHAKU」で、Souが歌を介して描き出す風や雨の匂いに琥珀色の空模様はどれもメランコリックなものとして聴こえてくる。陽か陰かで大別すればSouの歌声は後者にあたり、どこか翳(かげ)りを感じさせる響きは、曲や詞の中に含まれる情感を微細なグラデーションをもって表現していくことになるのである。絵画でたとえるなら、CGでもなければ、ポスターカラーでもなく、油絵とも違っている、淡く優しい水彩画の繊細なトーン。Souの歌が持つ特徴とは、どこかそれに近いような気がしてならない。
少し大人っぽい雰囲気が漂う「ハイヒール」のような曲についてもそれは同じように言えることで、曲調にあわせてドラマティックさやある種の色気を感じさせる歌を具現化する一方、Souの歌い方が過剰にどぎつくなることは決してない。あくまでも、上品さを持った世界として聴き手に届けられていくところが至ってSouらしい。
Sou
ポルカドットスティングレイの雫いわく「彼の深淵のもっともっとカッコイイ部分を引きずり出せていたらと思います。あと曲調も尖らせときました」とのねらいを持って提供された「WHAT」や、毒気のある暗黒世界を構築することが得意な柊キライによる「ネロ」でも、Souが“無駄にソレっぽく”歌ってしまうことはありえなかった。クリエイター側の趣向と個性は存分に尊重しつつも、ことごとくSouとして歌いこなすことを実現してゆく様からはボーカリストとしての凛とした貫録も感じたほど。
2013年よりweb上での動画投稿を中心とした活動を開始したのち、Souが2015年にはアルバム『水奏レグルス』でメジャーデビューを果たした経緯を考えると、気付けば彼は来年プロとしての活動歴が10周年にも達する。つまり、そろそろ若手というよりもベテランの域に入ってきたと考えられるのかもしれない。地に足を着けながらじっくりとキャリアを積み重ねてきた成果が、確かにSouの歌そのものに反映されているのも頷ける話だ。
Sou
「あらためまして、Souです! このところは上海・広州をまわったり、いろいろあってからの今日がツアーファイナルなんですが、こんなに大きな会場で歌わせていただけて本当にありがとうございます。そして、ここまではアルバムの曲をたたみかけてきましたけれども、僕としては遂にこの場所でアルバムが完成するみたいな感じもあって凄く感慨深いです。……とはいえ、僕はずっと“歌ってみた”の活動を続けながら“歌い手”としてやってきて、今ここに立たせていただいているわけですから、ここからはちょっとカバー曲を歌ってもいいですか?」(Sou)
Souがこう述べてから歌いだしたのは、今春投稿されていた「ウォーターマーク」。ここから「ワーストリグレット」までの計7曲ではいずれもSouが言うところの「僕の大好きなインターネットソングたち」が続々と繰り出されていくことになり、これはこれでSouの選曲センスと各曲にあわせた多彩なボーカリゼイションを、生バンドの演奏とともに堪能することが叶った贅沢なひとときであったのではなかろうか。
Sou
「みなさん、楽しめていますか? 今日こうしてみんなが集まってくれて、自分がこの場所に立てていることはどこか嘘のようです。もしかしたら、あたりまえのように歌っているように見えることもあるかもしれませんが、僕は本気で毎回「自分のためにこれだけの人たちが集まってくれているのって凄いなぁ」と思いながら歌っています。本当に感謝しかないです。そして、どうしても自分は器用な方ではないので、うまくいかないこともたくさんありますけど、そういう時は音楽を聴いて気持ちを強く持ったりしてるんですよ。次に歌う曲は、もしみんなが道に迷ったりした時とか、つまずいたりした時、みんなの背中をそっと押せるような曲になっています。今回のアルバムの中でもとても思い入れのある曲です、聴いてください。「ことばのこり」」(Sou)
mol-74の武市和希が手掛けたこの曲は、歌詞中の〈この世界から僕は どこまで飛べるのかな〉というフレーズが印象的で、Souはそこに葛藤と願いの気持ちを同時に滲ませながら歌い綴ってみせた。夏の終わりに聴くにはうってつけのノスタルジー満載な「バブル」でも、Souならではの機微を含んだ歌がさぞかし観衆の心を大きく震わせていたに違いない。
この夜の本編最後を飾ったのは、Sou自身が作詞作曲したアルバムの表題曲でもある「センス・オブ・ワンダー」と、スペイシーなシチューエーションの中で普遍的な人間の心持ちしたためられてゆく「衛星紀行」で、ここでは再び場内に蒼き宇宙の壮大なイメージが拡がっていくことになった。Souが前述のMCにて語っていたとおり、この場面をもって4thアルバム『センス・オブ・ワンダー』は本当の意味での完成をみた、ということになるはずだ。
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「みんな、アンコールありがとう! 今日はツアーファイナルなので『センス・オブ・ワンダー』に似合いそうな懐かしい曲たちを持ってきました!」(Sou)
それこそ「センス・オブ・ワンダー」でもおおいにフィーチャーされていた、オートチューン加工の歌(通称ケロケロボイス)を前面に打ち出した「カロン」から始められたこの夜のアンコールでは、和のモードが醸し出されていた「灰カラ」でも盛り上がりつつ、さらにはSouがこう告げてからファーストアルバム『水奏レグルス』の収録曲「あやとり」が歌われる一幕も。
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「アンコールで何を歌おうかな?と考えた時に決めるのが難しかったところはあったんですが、これは自分の中で1番と言っていいくらいに思い入れのある曲です」(Sou)
おそらく、この段階でも既に受け手側からすれば神セトリと呼べるツアーファイナルになっていたと思われるが、この夜にはまだなお続きがあった。
「またみんなとこういう場所で会えるように自分もまたここから頑張っていくので、みんなも日々に負けずに次会える時まで、お互い強く生きていこう! 僕はネガティブな性格ですぐ考え込んだりするタイプなんですけど、今から歌う曲はそんな時に生まれました。僕にとっての代表作だって呼ばれたいし、僕のことをよく表した曲です。最後はこの曲で終わりましょう」(Sou)
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自虐的といえば自虐的であるし、卑屈といえば卑屈ともとれる〈常識に囚われて はみ出す勇気もなく〉〈死にきれない劣等感と 消しきれない背徳感で〉といった言葉たちの躍る「愚者のパレード」は、セカンドアルバム『深層から』においてSouが曲と詞ともに仕上げた楽曲だ。受け取りようにより、これは宇宙をモチーフとしたアルバム『センス・オブ・ワンダー』の世界観とは真逆な現実世界の過酷さを歌ったものとして聴くこともできるが、逆に言えばSouはこの“深層”を抱えた人間であるが故に、きらめく星たちや蒼く美しき宇宙といった、なかば非現実的な世界への憧憬をすこぶる素敵に歌うことができるのでは?という、ひとつのパラドクスが発生しているとの仮説を立てられないこともない。
綺麗事だけを歌わないからこそ、理想像としての綺麗なものを生みだすことができる、という優れた能力をSouが持っているのだとしたら。我々はこれからもSouによって紡がれていくかもしれないブラックホールのような深さを持った暗澹たる歌も、星のようにまばゆいきらめきをたたえた歌も、それらをあるがままに受け容れて楽しんでいけばいいだけだ。ここからのSouが体現していく宇宙は、きっと無限大の可能性に満ちている。
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文=杉江由紀
撮影=川崎龍弥
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