ODD WAVE vol.1
『ODD WAVE vol.1』2024.09.24(tue)代官山SPACE ODD
9月24日、代官山SPACE ODDで『ODD WAVE vol.1』を観た。『ODD WAVE』はサマーソニックを始めロック・フェス、国内外アーティストのライヴを企画制作するプロモーター、クリエイティブマンが運営するライブハウス・SPACE ODD主催の、新人アーティストに焦点をあてた新たなイベントだ。この地下の小さなステージは、サマーソニックの大ステージへ通じている。若いバンドの想像力と創造力が試される場だ。
Xanadoo 撮影=Mizuki Abe
Xanadoo 撮影=Mizuki Abe
先陣を切ったのはXanadoo(キサナドゥ)だ。結成2年、福岡出身の4人組。ファンクなリズムにラウドなギターを掛け合わせ、洒落たディスコ/ファンクに野蛮なロック味を絡みつかせるところが福岡らしい、というと偏見になるか。うねるグルーヴを生むベースと猛進するドラムの組み合わせが面白い。リードをばりばり弾きまくるギターと苦み走ったヴォーカルに、自然と目が行く。
「今日は僕たちのノリで盛り上げていくので。最後まで乗っていきたいと思います」
Xanadoo 撮影=Mizuki Abe
Xanadoo 撮影=Mizuki Abe
しゃべる時は一瞬笑みを見せる、無骨そうでたぶんはにかみ屋のギター&ヴォーカル、カイヤ。曲は「meander」「3号線」「shake it down」、短いMCをはさんで「sneaky」「不気味」「darling」と、曲間を開けず一気に飛ばす。リズムが途切れないことで踊りたい気持ちをキープする、たぶん根っからのダンスロックバンド。マイナーコードが主流だが、7月に出た最新曲「shake it down」のように明るい広がりを感じる曲もある。「不気味」ではドラムソロ、ベースソロ、2本のギターの絡みを聴かせるなど、演奏力にも自信あり。踏んだ場数の多さを感じる、度胸ある演奏に好感だ。
Sijima 撮影=Mizuki Abe
Sijima 撮影=Mizuki Abe
続いてはSijimaがステージに上がる。セッティングの合間に奏でた即興のジャムがフュージョンぽかったので、そういう音かと思ったらばりばりのJ-POP、いやシティポップ。オーセンティックな歌謡とポップスを感じるキャッチーなメロディと歌詞を聴かせる、まっすぐな歌ものバンド。80年代のトレンディドラマから抜け出たようなファッション、ヴォーカル・髙城の端正なルックスも目を惹く。バンドに華やかさがある。
「初めてのイベントに出させてもらって嬉しいです。最後まで楽しんでください」
Sijima 撮影=Mizuki Abe
Sijima 撮影=Mizuki Abe
キーボードはサポートで、この4人による編成は今年かららしいが、音楽性がはっきりしているので安定感がある。特筆すべきは、素材を持ち込んでスクリーンに都会の映像や歌詞を映す演出で、音楽をイメージとして丸ごと届ける姿勢にこだわりあり。曲は「永い夜」「Word Mirage」「Summer time」「yowaki」「Goodbye」「いつまでも」の6曲。シティポップ系と言えども、シュガーベイブよりもオメガトライブ的な大衆感覚を感じる、ウェルメイドな聴き心地が魅力。演奏力は確かで、しかし誰も目立とうとせずに歌を支えるチームワーク。吹き抜ける爽やかな風。
春風レコード 撮影=亜希
春風レコード 撮影=亜希
三番手、つまりトリを取ったのは春風レコードだ。東京発、今年からリリースを始めたばかりのバンドだが、音楽専門学校出身ゆえに実力に疑いはなし。ドラム、キーボード、ヴォーカルが女子、ベースとギターが男子の混成バンドで、なんたってヴォーカル・池田春の存在感が目と耳を惹く。清楚なJDふうの見掛けから、R&Bとシティポップを感じるしなやかで芯の太い声が飛び出してくる。幼さとクールさと、強さとはかなさとの、バランスが面白い。
「10月9日にセカンドシングルがリリースされます。MVも公開予定で、ぜひ見て聴いて楽しんでください」
春風レコード 撮影=亜希
春風レコード 撮影=亜希
曲は「Idler」「花鳥画」「夏風」、そして新曲の「木犀歌」は、力強く前進するリズムにスラップベースを効かせた、メロディアスなディスコ&ロック。R&B色の濃い「雨傘」からギターのカッティングがかっこいい「ブルーライト」へ、歌と演奏が良いバランスで自己主張しあう、歌ものバンドとしてはかなりアグレッシヴな演奏が印象的。特に愛想を振りまくわけでもなく、自分の世界で歌う池田のキャラと洗練されたR&B/シティポップ的サウンドとの相性がいい。体が自然に動く。
『ODD WAVE vol.1』ということは、つまりこれがはじめの一歩。たぶんそのバンドを初めて観る人もいるだろう、盛り上がるよりもじっくり聴くタイプの観客の前で、この日の3バンドはしっかりと持ち味を見せてくれた。この先の彼らに幸運を、そして次回以降に出演するバンドに祝福を。新しいウェーヴがどこまで大きくなれるか、楽しみしかない『ODD WAVE vol.1』だった。
取材・文=宮本英夫