ReoNa VS 神崎エルザ 真剣勝負のその先に待っていた「想像以上の幸福な夜」

アーティスト

SPICE

撮影=平野タカシ

2024.10.19(SAT)『神崎エルザstarring ReoNa×ReoNa Special Live“AVATAR 2024”』 @東京ガーデンシアター

2018年の「AVATAR」と2019年の「Re:AVATAR」を体感した人は、今日のライブをどんな気持ちで見つめているだろう。2024年10月19日「神崎エルザ starring ReoNa×ReoNa Special Live“AVATAR 2024”」in 東京ガーデンシアター。あれから5年が経ち、ReoNaは武道館アーティストへと成長し、神崎エルザは10月からスタートした『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインⅡ』の世界の中で再び生き生きと躍動している。5年ぶりに二人の存在が交わる時、それが「AVATAR 2024」。

「今日は私主催のライブなんだよ。湿っぽくしないでほしいんだけど」
「先に歌うのは私なんだから。ReoNaの世界観で始めさせてよ」

静寂、暗闇、物憂げなモノローグ。冒頭から一気に展開するReoNaらしいダークな世界観に、神崎エルザの天の声が待ったをかける。「言ったでしょ。ガチで倒しに行くって」と、戦闘モード全開のReoNaと、「そうそう、そういう顔が見たかったのよ」と、受けて立つエルザ。互いの一言に観客が沸き、光と闇の戦いに巻き込まれてゆく、スリリングなオープニング。「勝負しようか」。先にカードを切るのはReoNaだ。

エルザには負けないーー。その一言をきっかけに「Weaker」に突入、さらに「for-get-me-not」とアップチューンを畳みかける。言うまでもなく、どちらも『ソードアート・オンライン』に提供されたReoNaの代表曲。客席で揺れる無数のペンライトと観客の大合唱が壮観だ。まばゆいライトを仕込んだ三段作りのセット、縦横無尽に駆け回る照明がアーティスティックでかっこいい。ReoNaを筆頭にバンドメンバーは全員黒で決めてる。気合十分だ。

「神崎エルザにお誘いいただいてたどり着いたこの日。ReoNaの歌は一対一。最後まで楽しんでいただけますように」

「Scar/let」を彩る照明は赤、ペンライトも赤。「ANIMA」は対照的にすべてが白。観客と共に一体感を生み出しながらライブは進む。1曲ごとに曲のテーマを語りながらしっかり聴かせる、初めての観客にも優しい演出が嬉しい。ReoNaは何と言うか、また一段と貫禄が増した。左右の巨大ビジョンに映し出される表情に、勝ちを確信している勝負師の余裕を感じる。もちろん歌は絶品だ。

「今日はここに来ることを選んでくれて本当にありがとうございます。またこうして顔を見て、同じ空間で歌を受け取ってもらえますように」

あっという間のラストチューンは「VITA」。これは命の物語。観客のクラップと掛け声を追い風に、疾走感みなぎる曲がさらに加速する。エアリー、パワフル、キュート、毒、様々な要素を含んだReoNaの声に、目まぐるしく変化する七色の照明がよく似合う。バンドのグルーヴも最高だ。強烈な白い光に包まれ、「じゃあな」とステージをあとにするReoNa。5曲30分、電光石火の先制攻撃。

ReoNaの去ったステージに、静かに登場した弦楽四重奏がヴィヴァルディ「春」を奏で始めた。カンのいい人はここで気づいただろう。「展覧会の絵」「新世界より」「カノン」など、神崎エルザ楽曲のモチーフになったクラシック楽曲をナマで聴ける、セットチェンジの合間も観客を楽しませる演出が冴えている。席を立つ人はほとんどいない。静かに聴き入っている。

さぁ神崎エルザの登場だ。ピンスポットの中に立つ白い服の彼女が、おもむろにアコースティックギターを抱えて歌いだす。曲は「ピルグリム」。ReoNaとは真反対の白く淡く清い世界観に会場が一気に染まる。バンドの配置も変えてる。左耳にかけた彼女の髪は編み込み…ではなくてストレートなプラチナブロンド、そして裸足。細部に至るまで、見せ方のこだわりがすごい。

「ReoNaちゃん、ぶち上げてきたな。今日は私の持ち曲全部お届けするので、最後まで楽しんでいってね」

CVはもちろん日笠陽子。MCのたびにスポットが無人のセンターマイクを照らし出し、エルザがそこにいるかのように見せる粋な演出だ。曲は「step,step」「レプリカ」「ヒカリ」。明るさの中に切なさがにじむ、メジャーコードの中にセンチメンタルなメロディが潜む、神崎エルザらしい優しい曲たち。

「私の大切で、大事で大事で仕方ない人を思って書き上げた曲をーー」

荘厳なアカペラから始まったのは「葬送の儀」。空気がピリッと引き締まる。切々とした歌声に引きこまれる。気合十分のバンドの中で、エルザのかき鳴らすアコギがいい味出してる。音と音で繋がりあう一体感がある。

「…あー、もうめんどくさいな。今日来てくれたみんなは、私がどういう人間かわかってるんだよね?」

おっと、和やかに進んできたエルザのライブ、ここでいきなりの急転直下。おすまし顔のMCに飽きたエルザが本性むきだし、突然煽り始めたからみんな大喜びだ。座って静かに聴いていた観客に「立って!」と命令し、「行くぞおまえら!」と激を飛ばす。ギターを置いてマイクをつかみ、「Disorder」「Independence」「Dancer in the Discord」と、猛烈メロディックなハードロックでぶっ飛ばす。ド派手なレーザービームが飛び交い、客席が赤いペンライトの海になる。コブシを振り上げ、「声出して行けんのか!」と叫び、Oi!Oi!と煽りに煽るエルザ。種明かしめいたことを書くのは興ざめだが、天の声と観客の掛け声をナマで重ねるのは言うほど簡単じゃないはずだ。それを完璧にやってのけるCV日笠陽子、凄いの一言。

「もしかして、新曲聴きたかったりする?」

応える大歓声の意味は「もちろん聴きたい」。曲は1週間前に配信スタートしたばかりの「Game of Love」だ。さっきまでの狂暴モードは夢だったか?と思うほどに力強く前向きなロックチューン。それだけじゃ終わらない、なんとこの日「初出し」の最新曲「Girls Don’t Cry」も歌ってくれた。歌う前に「女の子いる?」と呼びかけると、かなりの数の女性ファンが歓声で応える。神崎エルザの女性賛歌、これまでにない広がり方をする可能性大だ。曲調もポップで明るくパワフルで親しみやすい。「威風堂々」のメロディがうまくハマってる。そして弦楽四重奏と共に奏でる「ALONE」は、いつも以上に華やかでゴージャス。さぁ、残すは1曲。

「ここに生きるリーズン、それはあなたでした」

ラストを締めくくるのは、万感のミドルロックバラード「Rea(s)on」。優しさも激しさも、孤独も愛しさも、今日のライブで見せた神崎エルザの表情のすべての包み込んで抱きしめる壮大な曲。およそ1時間でこれだけ多様な曲を歌い切っても、声のパワーがまったく下がらない。歌い終わってエルザがステージを去っても拍手が鳴りやまない。

「ReoNaちゃんのライブにはアンコールがないんだって? でもエルザのライブにはアンコールがあるから!」

ここでまさかの神崎エルザ、主催者特権を行使してReoNaにとって禁断の(?)アンコールを宣言。観客全員の熱烈アンコールに呼び戻されて、「普段はやらないけど、エルザに呼ばれたらね」と、黒い革ジャンを羽織ったReoNaも受けて立つ。曲はとっておきのこの曲、現在放送中の『ガンゲイル・オンラインⅡ』主題歌「GG」。ReoNaが弾くのは神崎エルザにプレゼントされたエレクトリックギターだ。ダークでシリアスな疾走感溢れるロックチューン。なんと後半からはCV日笠陽子もステージに登場し、煽りとコーラスでぐいぐい盛り上げる。場内はもれなく狂喜乱舞、無礼講の大騒ぎだ。

「今日ここに、神崎エルザ、いたよね?」

最後はReoNaと日笠陽子が互いを紹介しあい、がっちりハグを交わす美しいシーン。「アドリブ、どうでした?」と日笠。「最高でした」とReoNa。「こんな特別な日ってある? 想像以上だったでしょ?」と胸を張るReoNa。そして声を揃えての「じゃあな」で、2時間を超える対バンライブを締めくくる二人に贈られる、惜しみない大歓声と盛大な拍手。

異なる軌道を歩みながら近づいたり離れたり、ReoNaと神崎エルザは今何度目かの最接近を迎えている。11月20日にはニューシングル「GG」が、そして12月25日には神崎エルザstarring ReoNa 2nd Mini Album『ELZA2』のリリースも、ライブ中に発表された。互いのアーティストの個性とパワー、ステージセットや照明など緻密な演出、そしてファンの声援の三位一体で成立した「神崎エルザ starring ReoNa×ReoNa Special Live“AVATAR 2024”」in 東京ガーデンシアター。幸福な夜だった。

レポート・文=宮本英夫 撮影=平野タカシ

関連タグ

関連タグはありません