GRAPEVINE「The Decade Show : Club Circuit 2024」2024.10.17(TSU)大阪・umeda TRAD
GRAPEVINEが、ライブツアー「The Decade Show : Club Circuit 2024」の追加公演を、地元である大阪のumeda TRADで10月17日(木)に開催した。今回は、スピードスターレコーズ移籍10年を記念したアニバーサリーツアー。そして、10月31日(木)に営業終了するTRADは、GRAPEVINEが1997年12月に大阪で初めてワンマンライブを行った会場である。当時の名称は梅田バナナホールだが、ステージや内装は当時の面影を残したまま。
「The Decade Show : Trad Gala」と名付けられているが、「Decade」とは10年という意味であり、この10年で発表された楽曲が披露され、そこに「Trad」に向けて「Gala」という祝祭の意味が込められた。懐かしの場所が閉館するにあたっての特別なライブというよりは、あくまでツアーの追加公演であり、最終公演という軸からブレずに、閉館ながらも祝祭的な意味合いを持たせるのも、何ともGRAPEVINEらしい。
高野勲(Key)から順に、田中和将(Vo.Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)、金戸覚(Ba)が舞台に登場すると、自然に音が鳴らされ、1曲目「IPA」へと入っていく。青い照明に照らされて、神々しく荘厳な雰囲気。緩やかに歌われ、徐々にうねりを上げて唸り出す。いつも通りのライブに何ら変わりはない。いぶし銀や渋いという言葉を使うのも大変陳腐だが、1993年に結成・1997年にメジャーデビューしてから、GRAPEVINEはずっと何も変わらない。誤解のないように書いておくが、その変わらない良さを毎年毎年更新・進化させているからとんでもないのだ。曲終わりの<戻れないと>という歌詞に、何だか勝手にバンドの歴史に重ねてしまいグッときてしまう……。いつだって感情的になるのは聴き手の方であって、いつも通りバンドは淡々とライブを始めていく。
続く「The milk(of human kindness)」でも、ゆっくりどっしりとしたグルーヴを感じさせてくれる。GRAPEVINEの普段の規模感で言うと、数百人のライブハウスで観れることは貴重過ぎて、一睡の余地も無いほど観客は後方までみっちりと詰まっている。考えてみれば、前回の大阪のライブは大阪城音楽堂であり、やはり貴重過ぎる。全ての演奏が心地好く、高野のテルミンや金戸のマラカスといったイレギュラーな楽器も堪らなく気持ち良く合わさっていく。いつものことだが、観客たちも基本は心身委ねながら落ち着いて聴いていて、だからこそ、高揚した時に突き上げられる拳や両手に興奮のリアリティーが現れている。フロア一番後ろに設置されたPA卓の後ろにある席でライブレポートをノートに記していたが、スタッフまでもが自然に体を揺らしているのは、本当に良質の音楽である証明しているように思えた。
「昔はバナナホールと言いまして、私たちが東京出る直前に大変お世話になったライブハウスです。ここのインディーレーベルからCD出させてもらったり。ここには感慨深い想いがあります、床とか……」
などと田中は話すが、決して感傷的に湿っぽくならないのが、やはりGRAPEVINEらしい。そこからの「Big tree song」では、最初のウォータードラム的な水のバシャバシャという音のループや中盤のハンドクラップでのビートが、通常感と高揚感の両方を体感させてくれる。去年リリースされた「雀の子」では、やたけた関西弁のド迫力というか最早凄みというか、独特の重厚感に飲み込まれるしかない。「大阪のアモーレたちよ! 堂山のアモーレたちよ! 久しぶりやの!」と関西感を残してのMCからの「実はもう熟れ」の流れも凄かったのだが、この日は、ここでのMCを皮切りに大阪だけでなく、堂山という地名を言っていたのが、関西人としては土着感が伝わってきて、なんだかとても嬉しかった。
中盤に入り、「吹曝しのシェヴィ」からは力強く拓けた感じ、メロウながらもダンサンブル感を増していく「SHAME」、ラストにかけて低音が鳴り響き、田中のドスが効いた声が迫ってくる「MAWATA」と、音源とはまた違うライブならではのダイナミズムは堪らない……。だからこそ、一転して「UNOMI」のような真っ直ぐな田中の歌が耳に飛び込んでくる楽曲がより際立つ。ここから終盤は、どのように展開してくのだろうと期待に胸を膨らます中、ライブがスペースシャワーTVで11月27日(水)に放送されることも告げられる。そして、その情報以外は現段階で今年アナウンスされることがないとも告げられる。「良いお年を!」「スペシャで逢いましょう!」「スペシャを観てロスを埋めといて下さい!」などと冗談交じりに田中は喋るが、10月中旬という日付感覚としては年内もう観れないかもというのは残念でしかないものの、こんな特別な祝祭を年内最後に観れたことは幸運でしかない、というのも紛れもない事実。
終盤、「Ready to get started?」と終盤とは思えないスタートダッシュをぶちかまし、田中が手にした団扇の面を返すと、そこには忍者のイラストが! 今年7月にリリースされた最新曲「NINJA POP CITY」から「リヴァイアサン」と、やはり終盤とは思えない疾走や激しさが感じ取れる。で、ここからのラストスパート4曲が物凄かった。亀井作曲による珠玉のミディアムナンバー「雪解け」ときて、不穏なビートからHIPHOPな味わいもある衝撃度が高い田中作曲の「アマテラス」、同じく田中作曲で異形な言葉と音がドスンドスンと響きまくる「ねずみ浄土」。ラストナンバーは亀井作曲の珠玉のメロディー「すべてのありふれた光」。珠玉と異形が交互に心を鷲掴んでくるのが、まさにGRAPEVINE。この日の「ねずみ浄土」の威力は特筆すべきというか、ドスンドスンと馬鹿みたいな擬音を先述したが、じわじわ差し迫ってくる音と言葉……。<新たな普通>という歌詞が印象的だが、普通に見せかけて新しく仕掛けてくるのが、GRAPEVINEの醍醐味であり、真骨頂なのだろう。
「バナナホール時代から、どうもありがとうございました。無くなると寂しいですよね、無くなるんでっせ? みなさんも、さぞかしバナナ時代からたくさん思い入れ、思い出があるでしょう。色々思い出があるんですけど、これがスペシャで流れるのは面白いですね。ちゃんと残るわけですから……あのね! バナナ時代からやってた曲やりますね!」
アンコールでビール片手に出てきた田中は「あのね!」部分で甲高い声になり、つい観客たちも笑う中、ここにきて1990年代にバナナホールで演奏していた曲へと向かっていく。「TIME IS ON YOUR BACK」。1997年にプレデビューシングルとして、タワーレコード限定で100円カセットテープで売られた楽曲。大反響がありすぎて、すぐにシングルCDとしてもリリースされた楽曲だが、「そりゃ売れるわ。そりゃ東京行くわ……」としか感想が出ない程の異様なスケール感。これを20代の若者たちが大阪から鳴らしていたのは末恐ろしすぎる。当時から観ていたイベンタースタッフも「(当時の関西で)頭ひとつ抜けていた……」と振り返っていた。そして、「through time」「君を待つ間」と当時からの楽曲が鳴らされていくが、若くして貫禄ありすぎる曲を作りすぎでしょ……と唖然としてしまう。
ラストは田中作曲「覚醒」。ベタな言葉遣いで申し訳ないが、この覚醒感を20代で表現しているのは超越しすぎている。でも、よく考えたら、現在に至るまでGRAPEVINEというバンドは覚醒しっぱなしなのだ。驚異的であり圧倒的であり……。
ここで終わりのはずだった。しかし、観客たちは帰らず拍手は鳴りやまない。しばらくすると舞台上でスタッフがギターを運び出す。すると喜びに満ち溢れた拍手が鳴り響く。PA卓にいるスタッフたちも慌ただしく、小さな声で口々に「Alright」と言っている。
「めったにせんダブルアンコールやらしてもらいます! 激レア!」
観客からは「どうもありがとう!」という言葉も飛ぶ。まさしく祝祭が醸し出す空気。
「立派になって帰ってきました!」
立派になるのがわかりきっていた1997年のメジャーデビュー。2024年、本当に当たり前の如く立派になってホームに帰って来た。
「また帰って来るでー!」
かつてバナナホールと呼ばれたライブハウスは無くなってしまうが、GRAPEVINEはこれからも覚醒しまくって、また大阪に帰ってきてくれる。その上で、何よりも何よりも、この日の祝祭を目撃できたことが尋常じゃなく喜ばしい。
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供(撮影:石倉風輝)