紀平凱成、新アルバム『HOORAY!』を語る~デビューから6年、アルバム制作の裏側からツアーへの想いまで独占インタビュー

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本日2024年11月6日(水)にセカンド・フル・アルバム『HOORAY!』をリリースしたピアニスト/作曲家の紀平凱成。ジャズ・ポップス・クラシックを横断しながら唯一無二の「カイルワールド」を繰り広げる彼のパワーは、この最新作でさらに上昇している。リスペクトするカプースチンを感じさせるジャジーでテクニカルな曲あり、オスカー・ピーターソンを彷彿させる粋な曲あり、クラシックの編曲あり、歌がのりそうなポップソングあり、そのどれでもないハイテンションでエモーショナルな曲あり、彼にしか表現できないボーダーレスな世界観が表わされているのだ。

紀平凱成『HOORAY!』ジャケット(Illustration:mais)

紀平凱成『HOORAY!』ジャケット(Illustration:mais)

――『HOORAY!』というタイトルはどこから来たの?

「フーレイ!」(Hooray=ありえないぐらい最高のことが起こったときの感動の表現・「わーいわーい」といった意)は、大勢の人たちが拍手をしてくれて、楽しそうにしたり、歌ったりしているイメージだよ。前回のアルバムツアーはコロナでコンサートが中止になったりして悲しい気持ちになることが多かったけど、そんなときに浮かんだのが「HOORAY!」。次に作るアルバムは、そんなイメージだったんだ。

監修をしていただいた青柳誠先生、川上昌裕先生、ジャケットの絵を描いてくれたmaisさん、たくさんの方達と一緒に作ることができて嬉しかったです。皆さんありがとうございました!

――曲の半分は自宅にあるベーゼンドルファー……カイル君が「ドリー」と名付けた楽器だね、それでレコーディングして、あとの半分はヤマハのアーティストラウンジでレコーディングしたんだよね。違いはどんなところ?

ドリーは低音も良く出て、優しくて力強い。ブラームスの《間奏曲》とか、ドリーが家に来てからクラシックもたくさん弾くようになったよ。ヤマハも素晴らしいよ。どちらのレコーディングもとても楽しかったし、楽器が違うと別の弾き方になるのも面白い。違いというのは意識せずに、どちらもリラックスして弾いていたね。

――収録されている曲で一番古いのはどれかな?

これは2018年8月30日に作った曲で、6年前だから高校二年生だったね。感覚過敏がつらいこともあったけど、デビューコンサートの後に作った曲で「つらいことはもう終わり、これからは楽しいことが始まるんだ」と思えたときに曲が出来た。Tears=辛い涙や悲しい涙、優しい涙も色んな涙を経験したから。

――なるほど。カイル君は昔から自然の音や環境音にも敏感だったんだよね。一曲目《Blue Bossa Station》のかっこいいイントロだね。

未来都市のイメージだよ。この曲に詰まっているワクワク感は特別で、16ビートの曲を書きたいと思って書いたんだ。曲のインスピレーションが湧いた日も覚えていて、2021年10月7日だったね。

――三年前だね。《桜の瞬き》はメロディーがとても美しい曲で、これは映画のサントラにもなりました(『漫才協会THE MOVIE』)。アルバムに収録されているのはロング・ヴァージョン。

3月30日に砧公園の満開の桜の景色を見て即興で浮かんだよ(※ショートバーション)。その後目黒雅叙園のも見て、浜離宮恩賜庭園のも見て……花びらが舞って桜の瞬きみたいだった。ロングバージョンは桜のピンク色が濃いのから薄くなっていく感じ。映画はスクリーンで観たよ!

――自分の曲がスクリーンから流れてくるのは最高の気分だよね。このアルバムではクラシックのアレンジも素晴らしくて、リストの《愛の夢》とドビュッシーの《月の光》を弾いているけど、元々好きな曲だった?

昔からリストは好きで、ドビュッシーも大好き。ドリーさん(ベーゼンドルファー)が家に来てから、リストを良く弾くようになったかな。家族でコロナに罹ってしまったときはピアノを弾けなかったから、少し元気になって起き上がれるようになって、一気に楽譜を書いたよ。一時間半か二時間ぐらいで完成したね。

――カイル君は全部手書きの楽譜なんだよね。弾いた音譜が自動的に譜面になるマシーンもたくさんあるのに、本当に素晴らしいと思う。

(スタッフ)鍵盤に触らずに、手書きで五線譜に書き込んでいたり、パソコンのソフトで打ち込んでいく時もあります。頭の中で完成しているものを迷いなく一気にダウンロードしているイメージで仕上げていく感じです。

――なるほど。

ドビュッシーの《月の光》はト長調で弾いています。ト長調はハッピーな調だと思うよ。

――全然気づかなかった(原曲は変ニ長調)。すごい魔法だね。ところでリストは手が大きかったらしいけど、カイル君の手も大きい?

ドからファまで届く時もあるよ(笑)。届かないときもあるけど。リストの《愛の夢》を弾くときは、ショパンのエチュードop.10-11を練習しているときのことを少し思い出して弾きました。

――作曲やレコーディングしているときは、お客さんの前で弾くことを想像したりしているの?

みんなに聴いてもらうことは最高に楽しいよ。アルバムツアーはわーっとやりたい。前回のツアーはコロナだったけど、今回は「Hooray!」で「酸素oh!(紀平さんの造語)」だよ!

――カイルさんがデビューする前と、デビューから6年経った今では色んなことが変わった?

すごく変わった。そりゃあもう変わったよ!もっとやる気が出て「世界に行くぞー」っていうワクワクする気持ちになった。ピアノを聴いてもらうことで、聴覚過敏も良くなっていったし。それまではイヤマフ(防音具)も使ってたけど、今は要らなくなった。早くみんなと一緒に音楽を楽しみたいから、ツアーが待ちきれないです!

取材・文=小田島久恵 撮影=中田智章

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