『SAKANAMON TOUR 2024 ト・モ・ダ・チ?トモダチッテウマイノカ???』2024.11.9(SAT)東京・恵比寿LIQUIDROOM
「ごちそうさま!!!!」
あらかじめ、そう言おうと考えていたのか、それともアドリブだったのか。それはさておき、ステージに立っているミュージシャンの口から発せられることはまずない、そんな言葉とともにSAKANAMONの藤森元生(Vo.Gt)がライブを締めくくったのは、今回のツアーのタイトルが『SAKANAMON TOUR 2024 ト・モ・ダ・チ?トモダチッテウマイノカ???』だったからだ。
SAKANAMONの企画による6年ぶりの対バンツアーが、2024年10月4日から大阪、福岡、名古屋、仙台と回り、各地それぞれにバウンダリー、SPRINGMAN、meiyo、鉄風東京と対バンライブを繰り広げてきた。そして、11月9日(土)、東京・恵比寿LIQUIDROOMで迎えたツアーファイナルの対バンに招いたのは、メンバー全員がSAKANAMONの3人と同い年だというcinema staffだった。
ともに90’sオルタナをバックグラウンドに持つ2組の対バン。どんな相乗効果が生まれるのか、期待しながら足を運んだ観客も少なくなかったに違いない。もちろん、筆者もその1人だった。
cinema staff
フィードバックノイズを不穏に鳴らしながら、演奏になだれこんだcinema staffは、「意味は全然わからないけど、ツアータイトルの良さに惹かれて、今日は出演させてもらいました!」と飯田瑞規(Vo.Gt)が、SAKANAMONをSAKANAMONたらしめる独特のセンスをイジり、いや、称えながら、「great escape」をはじめゴツゴツとしたバンド・サウンドとエモいメロディが入り混じる新旧の代表曲の数々をたたみかけるように繋げ、スタンディングのフロアを揺らしていく。
この日、彼らは10月に配信リリースした「バースデイズ・イヴ」「プレキシ・ハイ」も披露した。前者はメンバー全員で裏打ちのリズムを刻む演奏がじわじわと盛り上がるcinema staff流のディスコ・ナンバー。後者は辻友貴(Gt)が奏でるリフを含め、cinema staffらしいトリッキーなプレイを性急なビートが貫くロック・ナンバーだ。
「(SAKANAMONは)バンド友達でもあるけど、喋ってると、小学校からの友達のように思えてくる。さっきも『ドラゴンボール』の話をしてたけど、リハーサルを見て、こんなにかっこいいバンドをやってたんだって思い出した(笑)」
「もっと一緒にやらないと。藤森君と森野(光晴/Ba)君はすごく真面目でバンド界の良心だと思う。ずっとバンド界にいてほしい。キム(木村浩大/Dr)は記憶力がすごい。ある意味ギフテッドだと思う。あと、髪の毛がステキ(笑)」
久野洋平(Dr)と飯田がSAKANAMONの印象を語ってからの後半戦は、SAKANAMONからリクエストをもらったという「望郷」でスタート。バラードと思わせ、手数の多い演奏がテンポアップしながら、壮大なグルーブを見せつける。そして、「drama」から前述の「プレキシ・ハイ」とたたみかけ、ラストスパートをかけていったcinema staffが最後に演奏したのは、「theme of us」。
「俺達がSAKANAMONの友達! 岐阜から来たcinema staffです!」と三島想平(Ba)が誇らしげに声を上げる。
なるほど。オプティミスティックな魅力を持つこの曲はcinema staffのバンド賛歌とも言えるポップ・ナンバーだが、この日に限って言えば、タイトルの「us」は彼らとSAKANAMONのことを意味していたに違いない。そう思うと、ちょっと胸が熱くなる。
SAKANAMON
対するSAKANAMONは不意にcinema staffの「希望の残骸」を1番だけカバーして、彼らの友情に応えてみせる。それはコール&レスポンスとシンガロングがSAKANAMONのライブのお馴染みの風景になっているアンセミックなロック・ナンバーの「幼気な少女」とドラムの4つ打ちのビートがフロアを揺らすダンスロック・ナンバー「UTAGE」の2曲を序盤から繋げ、早速、フロアの温度をぐっと上げた直後のことだった。心憎いサプライズに思わずニヤリとせずにいられなかったが、ステージの3人は「シネマからリクエストをもらってます!」とさらに「鬼」をたたみかけると、和楽器の音色というギミックや2ビートも使いながら、今度はバンドが持つエキセントリックな魅力を見せつける。
そして、そこに自分達がファンにとってどんな存在であるべきか改めて言葉にしたとも言えるエモいバラード「おつかれさま」を繋げ、楽曲の振り幅を今一度印象づけながら、前半戦は終了。
「俺達がシネマの友達! 大田区からやって参りましたSAKANAMONです!」と藤森が三島に応えるように言ってからのMCコーナー。
「シネマ、いいバンドですね。タメとは思えないくらい、いいお兄ちゃんです。なんかやさしい」(藤森)
「シネマとは壮絶な打ち上げをした」(木村)
「(打ち上げについては)言えないことがたくさんある(笑)。僕が顔面にけがを負ったこととか。ベロベロの高知。打ち上げの後、久野君と帰って、別れた後、暗闇でコケた(苦笑)」(森野)
「今回のツアーで唯一の友達。いや、他の人が友達じゃないってことじゃなくて、他の人は今回友達になろうってことだから。ツアーファイナルは正真正銘の友達に出てもらいました!」(藤森)
3人それぞれにcinema staffとの思い出を語ってから後半戦の口火を切ったのは10月2日に配信リリースした新曲「ただそれだけ」。
「便利な情報社会。乱れた情報が交錯する中、知りたいことも知りたくないこともたくさん目と耳に入ってきます。だったら、イヤなことは音楽で遮ればいいという曲です」(藤森)と語り、ラップ風のボーカルと、いわゆるリフものと言える曲調がSAKANAMONにしては珍しいオーセンティックな魅力もあるロック・ナンバーだ。
そこから「花色の美少女」「光の中へ」「ミュージックプランクトン」とアンセミックなロック・ナンバーをたたみかけていく。藤森がキンキーなギターリフを閃かせた「ミュージックプンラクトン」では、森野がフロアに飛び込むガッツを見せた。そしてクライマックスという言葉がふさわしい盛り上がりを作り上げたところで、藤森が語ったのは今回のツアーの成果だ。
「今回、対バンしてくれたみなさまとステキな友達になれたと思います。何を隠そう、僕は友達がいなくて、友達がいなかったことが逆に自負と言うか、友達がいない自分を好きになるしかなかった。そんな生活を送っていた藤森元生が上京し、SAKANAMONというバンドを組み、今日もたくさんの友達が来てるし、お客さんもSAKANAMONが好きという共通認識を持っている友達だと思っています。こんなに友達ができたのは、SAKANAMONのお陰です。また、対バンしたいと思ってます。いろいろなバンドと、そしてみなさまと」
この日、1曲目に演奏した「SAKNAMON THE WORLD」で音楽だけが友達という孤独の世界を歌っていた藤森がそんなふうに言えたことにこそ、今回のツアーの意味があるようだ。そこに何かを見出すなら、ここに来てSAKANAMONはますますオープンマインドになっているということかもしれない。
SAKANAMONは『UOOO!!〜THE BRTHDAY〜』と題して、2025年3月6日(木)に、東京キネマ倶楽部で、森野曰く「普通の対バンとは違う特別な対バンライブ」を開催する予定だ。
「SAKANAMONは17周年を迎えようとしています。これからどうなっていくんでしょうね? どうなるかわかりませんが、こんな感じでやっていくと思います!」
藤森が彼らしい言い方で今後の抱負を語ってから、3人はさらにオルタナ・ロックの「ハロ」、バラードの「追伸」という曲調は違えど、ともに友達に語りかけているような2曲をじっくりと聴かせ、本編を締めくくる。「ト・モ・ダ・チ?」ならではの選曲なのだろう。そう言えば、ダメ押しするように大きな盛り上がりを作ったアンコールの「PLAYER PRAYER」も持ち前の反骨精神を歌いながら、聴きようによってはファン=友達に訴えかけているようにも思えはしないか。
アンコールではプロミスのリユニオンも実現。プロミスはcinema staffとSAKANAMONが対バンした時だけ登場するプロこと三島想平とミスこと藤森元生のデュオだ。高崎の駅前で路上ライブをやっているとき、cinema staffとSAKANAMONにスカウトされたのだそう。アコギをかき鳴らしながら、ゆずの「友達の唄」と「夏色」を熱唱する2人に観客が拍手喝采を贈る。それもまたcinema staffとSAKANAMONの友情の証だろう。
「トモダチッテウマイノカ???」と疑問符を3つも重ね(!)、自らに問いかけながら、いざ食らってみたら、よっぽどウマかったのだろう。その心の叫びが冒頭に記した「ごちそうさまでした!!!!」だったのだと思う。その実感はこれからのSAKANAMONの活動にもちろん、いい意味で影響を与えるに違いないと期待している。
因みにツアーファイナルとなった東京公演も含め、今回、各公演のアンコールで録音した観客の歌声やハンドクラップを加え、完成させるという新曲「voices」は2025年1月に配信リリースされる予定だ。どんな仕上がりになっているのか、今から楽しみだ。
取材・文=山口智男 写真=オフィシャル提供