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『風雲!大阪城音泉~ワチャの湯~』打首・バクシン・ヤバT・四星球・ドリアンの”ワチャ系”バンドが一堂に集結した大祝祭

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撮影=オイケカオリ

『風雲!大阪城音泉~ワチャの湯~』2024.10.14(MON)大阪・大阪城音楽堂

2024年10月14日(祝)、大阪城音楽堂で『風雲!大阪城音泉~ワチャの湯~』が開催された。今年で10回目であり、記念すべき初回は2013年5月開催と、10年以上の歴史があるイベントである。今回の副題である「ワチャ」は「オシャ」(aka オシャレ)の反対語として、バックドロップシンデレラの豊島“ペリー来航”渉が生み出したもので、いわゆるオシャレ系のバンドがいるのであれば、ワチャワチャ系のバンドもいるのではとなったそう。

まずは今年の5月に超能力戦士ドリアンの出演が発表された段階で、かなりの枚数が売れた。そして結果は完売であり、個人的には近年、ここまで野音で立錐の余地が無いくらいの超満杯状態を観たのは久しぶりであった。ダイブ禁止と子供・体力に自信の無い方の立ち入りを禁止して、コロナ禍で制限されていた前方スタンディングエリア(今回は「踊るヤツエリア」)を設置。ライブハウスで観るとより醍醐味を感じる5バンドではあるが、色々な事情で普段なかなかライブハウスに来れない人もいる。その一環として、今回は小学生以下が無料で入場できるようにされた。

これは、7年前に亡くなったライブハウス「太陽と虎」松原裕前店長の影響もあるそう。彼が亡くなる直前に開催したイベント(※2019年3月10日『〜ハンディキャップ・療育支援イベント〜 WANT YOU TO KNOW』)というのが、身体障がい者の方々に向けたライブだったこともあり、そのイズムが本イベントにも引き継がれているのだとか。と、ここまでかなり説明文を書いたが、こちらは主催イベンターである清水音泉の男湯(という役職)による前説で話していたことである。そのうえで、決してライブハウスカルチャーを否定するものではなく、ライブハウスの大延長戦であるものの大阪城野音ならではの楽しみ方があることを丁寧に語られた。

個人的には全国各地のライブハウスで年中活動するバンドと、そこに集う観客たちが大阪城野音という大きな野外に2000人以上も集まったこと自体に夢を感じる。そして普段とルールは少し変わってもマナーを守りながら、怪我人を一切出さずに充分に最後まで楽しむことが必ずできる、と思わせてくれた約10分の前説だった。

超能力戦士ドリアン

ほら貝の音が鳴り響き、打首獄門同好会の河本あす香(Dr)が登場して、和太鼓を叩き、壱番風呂の超能力戦士ドリアンを呼び込む。やっさん(Gt.Vo)・おーちくん(Vo)・けつぷり(Gt)とドラム不在バンドながら、舞台後方にはドラムが置いてあり、そのドラムが喋り出してライブが始まるという一筋縄ではいかない幕開け。

そこから、気が付いたらおーちくんは恐竜の着ぐるみで歌い踊っている。好き勝手にワチャワチャやると見せかけて、バックドロップシンデレラの「月あかりウンザウンザを踊る」から<踊るヤツがエラいのだ>という歌詞を引用しながら、「でも、踊らないヤツはエラくない」とも言っていないと話して、好きに自由に楽しんで欲しいと語りかけるやっさん。

今日だけの新曲として「ワチャの湯」も披露されたが、ここでも丁寧にワチャを人文字で表現する振り付けがレクチャーされる。何かを確認する度に「いいですかー?」&「興味あるー!」というコール&レスポンスもそうだが、バンドと観客の信頼関係で成立するライブだということが伝わってきた。その象徴的な出来事が、SNSで大盛り上がりしている映像ばかりだと怖がってライブに来れない人もいるかもしれないから……という理屈で、どれだけバンドが盛り上げても一切観客がノラない映像を撮ろうというくだり。シュール過ぎた光景ではあったが、その場にいない人たちをも巻き込もうとするバンドの気概を感じた。様々な演出や魅せ方が満載のライブではあったが、今回ばかりは思い遣り・気遣い配慮が書きたいので、こんなライブレポートになりました。イベントの趣旨をしっかりと体現した素晴らしい壱番風呂であった。

四星球

弐番風呂は四星球。リハーサルが行われる舞台には、シンガーである北島康雄の姿が見えない。その立ち位置にはお手伝いをする後輩のアイアムアイのメンバーがいて踊りながら盛り上げる。では、康雄はどこにいたかというと、舞台袖の仕切りのカーテンの後ろに隠れてしゃがみ、カーテンの隙間から舞台を観ながら歌ってリハーサルをしていた。何故、そんなことをしていたかというと特別な衣装とメイクを施しているため。

登場の前に再度、男湯が改めて怪我人を出さないで楽しむライブについて話して、いよいよ四星球を呼び込む。ワチャ系のバンドが出演のはずが、四星球だけ唯一ワチャ系ではなく、V系だという謎の紹介が! その頃、康雄は客席のトイレ裏にある楽屋エリア側に設置された脚立の上に潜んでいた。

そして、トイレの建物の上に登り、観客たちに呼びかける康雄はというと、ビジュアル系のメイクと衣装に身を包んでいる。舞台にもビジュアル系の格好をしたメンバー3人が登場する。まぁ、割れんばかりの大歓声とは、このことを言うのかという状態に! ガッチリと観客たちの心を掴んだ上で、康雄は「クラーク博士と僕」の前に自身の父が入院していたが、何とか元気に退院したことを明かす。

「何か辛いことがあっても光はあると思います」

この言葉にはつい泣きそうになってしまったし、その上で笑うこと歌うことは体に良いとも話す。上辺ではなく実体験だからこそ聴く者全ての心に響くし、四星球のライブには哀愁があると再認識させられた。が、そんな人間が段ボールの小道具を破壊したり、衣装の帽子を股間に当てて和太鼓を叩く下品なことをしたりもする。

下品・暴力・哀愁が全て詰め込まれたライブは意訳すると、「セックス・ドラッグ・ロックンロール」ではないかと、本番後に嬉しそうに話す康雄。無理やりすぎる意訳だと思いつつも、人を傷つけない楽しませ方が世の中に存在するならば、それは四星球のライブではないかと本気で思えた。ちなみに康雄のビジュアル系マニキュアは、清水音泉の番台(代表)こと清水代表自らが康雄の爪に塗ったとのこと。表方・裏方が一丸となって観客を楽しませる姿には、思わず脱帽した……。

ヤバイTシャツ屋さん

「次のワチャの湯は大阪城ホールで!」と言って康雄がライブを締めるとすぐに、バクシンの渉とドリアンのやっさん2人が、次回公演(12月10日(火)@大阪・心斎橋BIGCAT)の申し込み用のQRコードが貼られた段ボールを持って、観客席に突入し宣伝している。これぞワチャ系バンドの観客の巻き込み方であり、いつか大阪城ホールへと繋がるのだなと感銘を受けていたら、参番風呂のヤバイTシャツ屋さんがゴリゴリに本気の爆音でリハーサルをぶちかましている。

再再度の男湯による前説で、ヤバTのこやまたくや(Vo.Gt)とバクシンの渉らの熱望により「踊るヤツエリア」が設置されたと明かす。そして、バクシンの鬼ヶ島一徳(Dr)がアントニオ猪木ばりの「1、2、3、ワチャ―!」をブチ決めて、和太鼓を叩き呼び込む。こやまは自らをワチャ系バンド代表と名乗り、「ダイブ以外全部やって下さい!」と宣言する。

「ワチャの湯」スタッフ、つまりは清水音泉をベタ褒めするが、よくよく考えると、ヤバTは普段、清水音泉が担当しているバンドではないが、清水音泉イベントではお馴染みであり、音泉の本気でふざけるという姿勢と本質を心から理解して敬意を表している。

ワチャの時代が終わり、今はオシャの時代とも話して、オシャっぽいチルいナンバー「dabscription」をメンバー3人が楽器を持たずに披露するが、最後は騒がしい音を鳴らすというこれぞワチャ魂も炸裂させる。こやまはワチャの生みの親である渉が、ワチャを広げないから自分が広げてイベントにまでなったことについて話し、そして清水音泉と大阪城野音が「踊るヤツエリア」を特別に設置してくれたことへの感謝も忘れずに、こう言った。

「椅子席でダイブも禁止ですが、続きはライブハウスでやるってことでいいんじゃないですか? できる範囲のことを全力でやって欲しい。今できる最大限のワチャを!」「今日チケット即完だったらしいですね!」と一般発売後の現象にも触れて、さらにこう言い放った。

「ワチャの未来は明るいぞ!」

悲観的にならず、地に足を付けた楽観的なライブを魅せつけてくれた。

バックドロップシンデレラ

もはや数える必要も無い、何度目かの男湯の前説。「ライブハウスに行けない人もいるから、このイベントは野音で続けたい」と言った。最初からそうだが、男湯にしてもバンドマンたちにしても、みんな押しつけがましくなく、丁寧に優しく温かく語りかけるから、観客たちは誰ひとり口煩いなどと感じなかっただろう。四星球のドラムであるモリスの「1、2、3、ワチャ―!」から、いよいよバクシンのライブがスタート! 

四番風呂のバックドロップシンデレラ。「スタンディングエリアにはライブハウス慣れしている人しか行かないように」とも丁寧に説明がなされているからこそ、あゆみのアクロバティックなパフォーマンスを観客たちは見事に受け止めて楽しんでいる。この関係性は、まさしくプロレスだなと思った。テレビのトーク番組などで軽く使われる「プロレス」という意味合いでは決してなくて、プロフェッショナルレスリング。つまりは受け身を完璧に取れるプロフェッショナル同士による真剣な組手。それは確固たる関係性が無いとできない、バンドマンと観客との美しき戯れでもある。スタッフが操る赤くて長い長いマイクケーブルが、あゆみが飛び跳ねる度に綺麗に跳ねる。或る意味、一種の芸の術でもあった。フェスに出れなかった想いを託した「フェス出して」がフェス以上に盛り上がっている。

「みんなでみんなのことを考えて踊ろうぜ。それだけでいいんじゃないかと思います」

渉の言葉が余計に沁みる。<踊るヤツがエラいのだ>と歌われる「月あかりウンザウンザ」は、体を躍らすということだけでなく、心を躍らすということさえも全面的に肯定してくれたように思えた。馬鹿騒ぎではなく胸騒ぎの祝祭が間違いなく野音に生まれていた。

打首獄門同好会

伍番風呂すなわち大トリは打首獄門同好会。リハーサル終わり、ボーカルの大澤敦史が「清水音泉・男湯の盛大なスピーチを聞くように!」と言って、その間にうまい棒が大量に観客たちに配布される。盛大なスピーチという言い回しも、その間にうまい棒の配布といい、いかに堅苦しい前説だと捉われないようにという配慮と手際の良さが何とも言えず心地良いし、何とも言えず粋であった。

冒頭に話された松原前店長による身体障がい者向けのライブイベントに出演していたバンドであり、今年20周年を迎える打首。何故かチアリーダーの格好をしたヤバTのドラムであるもりもとが20周年にちなんで20までカウントするバージョンでの「1、2、3、ワチャー!」スペシャル応用編で大煽りして呼び込む。

それに打首も応えるかのように各バンドの要素を入れた登場SEと小芝居というワチャワチャしたゴチャマゼのネタからブチかます。ライブが如何にナマモノであるか、そして毎回毎回のライブをここでしか観れないものへと昇華させる打首というライブバンドとしての極みとも言うべき非の打ち所がない始まり……。VJがいることでスクリーンから視覚的にも楽しめるライブは、最早その映像のユーモラスなクリエティビティも唯一無二。MCの自然な話題が全て曲名へと繋がるこごにも物語性を感じるし、ワチャという言葉の生みの親的な歴史とは無関係ながらも大トリである違和感をも笑いに変えていたが、出演バンド全組が、観客たち全員が、イベンターである清水音泉が、そこにいる全ての人々が打首の20周年を祝いたかったのだ。だから、大トリなのだ。本当、それに尽きる。

<温泉行きたい>という歌詞が出てくる「地味な生活」では、VJの映像で温泉にかけて清水音泉スタッフの顔写真も使われていた。これもここでしか観れない演出であり、表方裏方の確固たる絆も見れたし、何よりも観客誰ひとり置いてけぼりにさせず、巻き込んで楽しませているのが魅力的過ぎた。

アンコールナンバー「フローネル」では、曲中の語りから気が付くと四星球「クラーク博士と僕」の歌詞へと繋がり、その歌詞が歌われた瞬間、出演バンド全組が清水音泉と刻まれたデザインの法被を着て大登場して、大熱唱する幸せ過ぎる大展開……。

康雄がピースとピースでワチャのWを表現して盛り上げていたが、その本人の楽曲で大団円を迎えている。まるで「雨上がりの夜空に」を彷彿とさせるようなアンコールアンセムとでも言おうか……。いつのまにやら「クラーク博士と僕」は、そんなライブ讃歌へと進化を遂げていたのも嬉しすぎる気付きな訳で。

こうして約5時間にも渡る大祝祭は幕を閉じた。あくまでワチャやオシャというジャンル言葉は祭のキッカケにしか過ぎないし、兎にも角にも、音を楽しむバンドたちが音を楽しむ裏方と強力なタッグを組んで、観客を音で楽しませてくれる。そんな究極にシンプルでピースフルな理想的な祭が「ワチャの湯」であった。

取材・文=鈴木淳史 撮影=オイケカオリ

2019年3月10日(日)「〜ハンディキャップ・療育支援イベント〜 WANT YOU TO KNOW」
https://taitora.com/news/want-you-to-know

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