『味園LAST WALTZ』2024.11.1(FRI)大阪・味園ユニバース
2024年内をもって各店舗の営業終了が決定し、解体が検討されている味園ビル。そのテナントの一つで大阪を代表するライブホール、味園ユニバースで11月1日(金)にイベント『味園LAST WALTZ』が開催された。
『味園LAST WALTZ』は、ピン芸人のナンバーワンを決めるお笑いコンテスト『R-1グランプリ2024』で優勝した街裏ぴんく、そしてミュージシャンのトリプルファイヤー、lil soft tennis、Young Yujiro、Jin Doggの計5組が共演する、お笑いと音楽をクロスオーバーさせたイベント。まさに、この日でしかまじわることがないシチュエーションとキャスティングに。
しかも、街裏ぴんくとYoung Yujiroはかつてお笑いコンビ、裏ブラウンを組んでいた“元相方同士”という間柄でもある。そんな両者が久しぶりに再会を果たすという意味でも特別な一夜になった。
●街裏ぴんくが初味園ユニバースで歌声披露
「どうもー、芸人の街裏ぴんくです。よろしくお願いします」とおなじみのピンクスーツ姿で味園ユニバースの舞台へ登場した、街裏ぴんく。
大阪を拠点に活動していた若手時代は味園ビルにある小さなライブハウスに出演していた街裏だが、「味園ユニバースは初めて。めちゃめちゃ緊張して、ガクガクと震えています。2007年から2011年くらいまで、多いときで月に7、8回は(味園ビルのライブハウス『白鯨』や『紅鶴』で)ライブをやらせてもらっていました」と振り返り、さらに「最初は(お笑い)コンビでやらせてもらっていて、そのときの相方がYoung Yujiro。そして解散してから街裏ぴんくとしてやってきました。大阪に来ると思い出がよみがえってきます」と懐かしそうに語った。
そんな街裏が披露したのはもちろんウソ漫談。街裏はかつてEXILEのボーカルオーディションを受けたことがあるそうで、履歴書による書類選考を通過し、大阪城ホールで実施されたオーディションに出席。しかし結果は現メンバーのTAKAHIROに敗れたそうで、「顔も(選考の際に)いるんやったら先に言うとけ」と怒りをあらわにした。
また街裏は、オーディションを受けた証拠として歌声を生披露。R&B調であんしんパパの「はじめてのチュウ」をしっとりと歌い上げ、喝采を浴びた。ちなみにEXILEのボーカルオーディションを受けた理由は、裏ブラウンを組んでいたとき、Young Yujiroがお笑いをおざなりにしているように感じたため「振り向かせたくて」とのこと。そのほか、ミナミの名物風俗店に通っていた思い出など、キワキワのネタで観客をドッと沸かせた。
●トリプルファイヤーの吉田靖直が街裏ぴんくに嫉妬?
「僕の方が100倍は歌っているのに」
「では、トリプルファイヤーさんです!」という街裏ぴんくによる呼び込みでステージに上がったのは、ロックバンドのトリプルファイヤー。「街裏ぴんくさん、ありがとうございます。明日休みの人多いと思うんで、お酒飲んだりして、楽しんでいきましょう」とポツリ、ポツリと話すボーカルの吉田靖直の“脱力系あいさつ”は、大声でまくしたてる街裏とは正反対。それでも瞬く間に、味園ユニバースをトリプルファイヤーのムードへ変えていった。
不穏さをかきたてるビートが徐々に変調していく、トリプルファイヤー特有のトリッキーな曲調。それが味園ユニバースの妖艶な雰囲気も相まって、より深みを感じるものに。「お酒を飲むと楽しいね」では、まさに楽曲通り吉田が「楽しそう」に独特のテンポ感で体を揺らしながら歌唱。そのほか、軽快なリズムと吉田の浮遊感があるボーカルが溶けあう「Jimi Hendrix Experience」、ドラマーの大垣翔がスティックを口にくわえて手でドラムを叩くなど変幻自在なプレイが楽しめた「サクセス」、アダルトなメロディにのせながら<あんなに楽しいことが他にはない>と出会いのきっかけが作れる居酒屋チェーンの魅力を歌う「相席屋に行きたい」など7曲を演奏した。
MCでは、吉田が街裏の歌声について「思ったよりもうまくて。僕は街裏ぴんくさんの100倍くらいの時間、歌ってますけど、(歌は)勝手にうまくなるわけじゃないんだなと。やっぱり歌上手い人っているなって。まあ、いろんな尺度がありますから。僕が悪いわけじゃないんですけど」と自虐を絡めて絶賛。また「味園ユニバースに入ったとき、すごいパワーがあるなって思って。昭和からある場所がなくなるっていうのは嫌ですね」と味園ビルの営業終了を惜しんだ。
●街裏ぴんくのウソ漫談を信じる観客も
2度目の登場となった街裏ぴんく。「吉田さん、怒っていましたね。俺の歌、うますぎたから」と笑みを浮かべ、続いて披露したのがウソ漫談「アンパンマン」。
同ネタは、アンパンマンがバイキンマンの胸ぐらを掴むなどいつもとは違うテンションで攻撃、さらに反社会的な言い回しで恫喝するなどして、バイキンマンですら「話ができなさそうですね」と呆れるという内容。街裏は「ほんま(にこういうエピソードが)あるんですよ!」と訴えかけ、半信半疑の観客に向けて「笑え!」とまくしたてた。
明らかにウソの「アンパンマン」のエピソードだが、街裏の迫真の語り口に押されてか、一部の観客からは「ほんまに(あるエピソード)?」という声も聞こえた。
●lil soft tennis、声がかすれても押し切る“攻め”のパフォーマンス
「もっと“feel”したい」
1曲目「Tennis in the house」で「もっといけますか?」と手招きのポージングで観客を引き込むのは、ヒップホップ、ポップス、ロックの要素を柔軟に取り入れた楽曲で評価を高めている、lil soft tennisだ。
観客のテンションはどちらかと言うとスロースタート気味だった。ただ3曲目「Easy!!」での<指くわえてお前らは待っときゃそれでいいぜ>という挑発的なリリックと、スキル的なものを度外視して熱を全面に押し出し、ボーカルのボリュームを上げるlil soft tennisの迫力が、観客のリアクションを大きくしていく。「VIP」では「みんなともっと“feel”したいです。もっと近くに寄って来て」と呼びかけ、続く「 have a wing」では生々しいボーカルをぶつけていく。
それまでのアップビートな曲調からややギアをローに入れて歌う、ちょっと切実で生活感漂う楽曲「Talking」でバリエーションも感じさせつつ、ラスト「Fucked Up!!」では声がかすれてもそのまま突っ走るなど、とにかくlil soft tennisのアティチュードがつかめるパフォーマンスだった。
MCでは「今日はこんなに楽しいイベントに呼んでもらってありがとうございます。オファーがきたのが結構、近々でしたが、10秒以内で『出ます』って感じで」と振り返り、「こんなに変で、楽しそうなイベントを大阪でやってもらって、ありがとうございます」と、同イベントが地元・大阪で開かれたことを喜んだ。
●街裏ぴんくは「世界で初の人型電車」だった?
街裏ぴんくのこの日、最後のステージは、“元相方いじり”で笑わせた。
街裏は、自分は「世界で初の人型電車」だという大ボラを吹き、「16歳のときに『お前、電車やってみいひんか』と誘って来たのがYoung Yujiroなんです。あいつは9歳のときから電車やった。だから、あいつが歌ってきたのは電車の歌ばっかり。<つかんどけ 吊り革 下がっとけ 白線の内側>って」とYoung Yujiroを虚構の物語へとに巻き込んでいく。
さらに「俺は(大阪メトロの)四つ橋線に似てる。でもYoung Yujiroは公式の千日前線なんです。信じてもらうために、走ってみせる」とフロアにおりて観客の間を暴走した。
そして街裏が「次はYoung Yujiroです!」と紹介し、イントロが鳴り響く。
●Young Yujiroが街裏ぴんくにツッコミんで裏ブラウン“再結成”
低音を効かせ、力強くもピースフルなステージングに
街裏ぴんくが舞台袖に下がり、入れ替わりでラッパーのYoung Yujiroが「初代電車です、千日前線です。そんなわけあるかい!」と言いながら登場。街裏のボケに、Young Yujiroがツッコミをいれる。二人がセンターマイクを前に並び立つことはなかったが、それでも裏ブラウンの“漫才”がよみがえった瞬間だった。
「102号室」含め3曲を演奏後、「1秒」の冒頭で「声出してもらってエエですか? 俺が『ヤン!』って言ったら、『ユー!』って言ってもらっていいですか」と自分の名前の略称でコールアンドレスポンスをリクエスト。ところが、合間にYoung Yujiroが「街裏?」と叫ぶと観客は反応できず、一度曲を止めて「『街裏!』『ぴんく!』っていう時間やってんけど、難しいか」と苦笑いを浮かべる一幕も。
「この辺(日本橋)の公園とかでネタ合わせをしてたんで、こうやって(味園ユニバースの)最後に彼と共演できて嬉しい。まだまだ話したいことがあるけど、時間足りへんから1秒で…」とMCをまじえながら、あらためて「1秒」の演奏を再開。次は「ヤン!」「ユー!」、「街裏?」「ぴんく!」のコールアンドレスポンスを完成させた。
さらに「あいつ(街裏)の家には猫部屋があって、めっちゃリッチなんですよ。俺たちもこれから“シノギ”をかけていきますわ」と『R-1』王者に負けじと大成功を誓って「Shinogi」を聴かせ、以降も、低音を効かせた攻撃的なサウンドで観客を俄然盛り上がらせる「Mission Impossible」、自分と街裏にとって特別な一夜になったことへの気持ちを表したかのような「Good Time」など全9曲をパフォーマンス。力強くもピースフルなステージングとなった。
●Jin Doggのパフォーマンスは音楽という名の宣戦布告
「チーム友達」で圧巻のエンディングに
けたたましいサイレン音と爆撃音。空間を歪めるような野太い低音。これは音楽という名の脅迫か。その音を前にすると、観客の体は無条件にアクションを起こしてしまうだろう。そんな強制力のあるライブをやってみせたのがラッパーのJin Doggだ。
Jin Doggは大きな体をすこし丸めて前傾姿勢になり<ぶち抜く お前の心臓>(「WTYT」)とリリックを突き立て、つづいて<見渡しても馬鹿だらけ><相手ならへん歯が立たねえ>(「Put In Work」)とメロディの抑揚など関係なく強烈なフロウを叩きつけ、さらにMCで「もっと前に来て、もっと前に来て。久しぶりに大阪でライブするわ。味園ユニバース、呼んでいただいて光栄です。このステージに立った以上、ただじゃおかへんで」と宣戦布告。
<口だけ達者で出来ない喧嘩 ラップで勝負も出来ないやからのどこがラッパー>(「OMG」)とまくしたてるJin Dogg。そうやって歌いながら、太い腕の筋肉がさらに隆起していくのが目視できる。そのたたずまいはもはやラッパーを超えて、アスリート的である。「味園で遊べるのも、あと少しやもんね。ここでライブができるのはアーティスト人生でもめちゃくちゃ貴重。だからめちゃくちゃにして帰りたい」と言い、「On My Mama」などを演奏。
そして最後は、先日おこなった上海でのライブでいろんな出会いがあったと前フリをして、千葉雄喜との「チーム友達」を披露。2024年の音楽シーンを象徴する1曲ということで、盛り上がりが加速。曲中のJin Doggの<俺たち何?え?>の問いかけに、観客は<チーム友達>と応えるなどし、喧騒のまま、圧巻のエンディングを迎えた。
街裏ぴんくとYoung Yujiroは中学からの仲間で、元漫才コンビである経歴。そして大阪を拠点に活動するYoung Yujiroがライブ中に発した「今日は出演者から客席まで、友だちばっかりで最高やわ」という言葉。そしてJin Doggが最後に歌った「チーム友達」。この日の夜は、それぞれの絆が一つのイベントを成功へと導いた。
取材・文=田辺ユウキ 写真=オフィシャル提供
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